第18話 リーダーの務め
前回のあらすじ。鳥取県知事の佐原知事に模擬戦で敗れ荒れまくった一城は出水と静流に連れられて広島県にやってきた。そこで出水から遠征試合の提案が・・・・・・
出水「それでは、早速ですが・・・・・・今から、遠征試合をしませんか?」
一城「遠征試合!?病室で。」
出水「2対2の遠征試合、広島対私たち混合チームで行います。」
一城「ちょっと待ってください!俺たちそんな話聞いてないですよ!」
出水「あなたに拒否権はないわよ。だってそういうルールだったでしょ。」
一城「くっ・・・・・・」
八丁「いいでしょう。わしらもその提案受けましょう。」
紙屋「親父、いいのか!?」
八丁「この試合でお前たちに教えてやらないといけないからな。」
江波「何をだ?」
八丁「紙屋、江波。肩貸してくれ。今から広島県庁に向かおう。」
出水「いえいえ、ここでもできますよ。机やトランプなどは私たちで準備しますので。一條知事、準備をおねがい。」
一城「俺ですか!?手伝ってくださいよ。」
出水「命令よ。」
一城「はい、すぐ準備します・・・・・・」
一城と静流は机とトランプを用意した。
一城「用意できました・・・・・・」
紙屋「準備ありがとう。ですが、勝負となれば話は別ですよ。全力であなたたちを叩き潰します。」
一城「ええ、望むところです!」
こうして一城たち混合チーム対広島チームで遠征試合を行うことに。
出水「ゲームはポーカー。今回はチップ無しの3本先取といきましょう。」
一城「では、俺から行います。」
一城は全員に5枚ずつカードを配った。
一城「(俺の手札は・・・・・・何もそろってないな・・・・・・まあ最初だし、しょうがないな。)」
出水「一條知事、今の手札なら勝負します?」
いきなりの出水の質問に戸惑った。
一城「へ?それって手札を明かすみたいなものじゃないですか?」
出水「私たちのプレイスタイルはそういう風にしているの。」
一城「わざわざ声に出さなくてもいいじゃないですか!?」
出水「はぁ・・・・・・じゃあ命令。今は何の役ができているの?」
一城「・・・・・・ワンペアです。」
出水「そう、ありがとう。」
この状況を紙屋と江波はスーツの襟にある紅葉の形のピンバッジ型の通信機を使って互いの手札の情報交換していた。(デスサイズゲームではCランクから通信機を使っての味方の情報交換が可能とされている。)
紙屋と出水は2枚交換した。一城はスリーカード狙いで3枚チェンジをした。江波は1枚チェンジをした。
一城「(げっ・・・・・・全部バラバラだった・・・・・・)」
出水「一條知事はあまりいい手が出ていないみたいかな?」
不意に出水からの指摘を受けて思わず表情を崩してしまった。
一城「そっ、そんな訳ないじゃないですか!?」
紙屋「一條知事、声が裏返っておるぞ。」
一城「(しまった!)」
出水「じゃあフォールドで大丈夫?」
一城「・・・・・・はい。」
紙屋「俺は勝負で行こうかのう。」
出水「私も勝負します。」
江波「同じく」
3人は手札を見せ合った。
・紙屋{♦5・❤5・♠5・♠A・♦・9}スリーカード
・出水{❤8・♣9・❤10・❤J・♦Q}ストレート
・江波{❤2・♠2・♣K・♦K・♠10}ツーペア
八丁「阿波美知事の勝ちじゃの。」
出水「一條知事やりましたね♪」
出水は喜んでいるものの一城はイマイチ納得できていない様子。
一城「いくらなんでも、役をバラされたらどうしようもないじゃないですか!」
出水「でもこれは実力勝負よ。今回は賭けるチップもないし手札の役が勝敗を握る。」
一城「それはそうですけど!」
出水「それに、この試合はあなたの考え方を崩すために提案したのだから。」
一城「俺の考えを崩す?」
出水「それにはあなたよりレベルが高い相手が必要。それで紅さんたちの力を借りたわけなの。」
紙屋「どういう事じゃ?確かに相手をしておるが一応「遠征試合」になるわけじゃろ。」
一城「じゃあ、資金が発生しますよね!?どれぐらいの金額が?」
八丁「2億じゃ。ワシはそういう風にきいたぞ。」
出水「えぇ、そのように契約したから。」
一城・静流・紙屋・江波「に、2億円!!!!」
一城「何てこと契約してんですか!!負けたら2県合わせても破産ですよ。」
出水「そうよ、ドキドキするでしょう❤」
一城「狂ってやがる!!俺の考えを崩すためにこんな無謀な賭けに出るなんて・・・・・・」
出水「あら、私は無謀な賭けはしないのよ。この勝負、もちろん勝ちに来たの。」
一城「勝つ・・・・・・相手はAクラスの強敵ですよ。勝てるわけがない・・・・・・」
出水「佐原知事に何されたかは知らないけど、かなりメンタルを壊されたのね。まあアレも計算通りだったけど。」
一城「アレも、阿波美知事の戦略だってことですか!?」
出水「だけど私は勝負を止めた。あなたはその命令に背いた。本来なら約束破棄の大罪者よ。」
一城「そんな・・・・・・はじめから俺たちを利用しようとしていたのか・・・・・・」
出水「話は終わってからにしましょう。種明かしはそれから。まだ1勝目だから油断は禁物よ。」
一城「(なにが種明かしだ。やっぱり阿波美知事は俺のことを騙したんだ。この勝負で共に落ちて仲良く破産するわけにはいくか!!)」
その勝負をパイプ椅子に座っていた静流は鬼の形相を浮かべた一城に恐怖心を覚えた。
静流「(あの表情、引きこもっていた時の初日の顔に似ている。)」
十日「一條知事は怯えている様子ですね。」
静流「え、あの顔は怒っているようにしか見えませんが?」
十日「恐怖を怒りに変えているように見えますね。」
八丁「ワシも十日と同じように見える。」
静流「紅知事まで!?」
八丁「一條知事は今いろいろな葛藤と戦っている。裏切り、破産、敗北、焦り・・・・・・まだあるじゃろうけど、あの調子でどこまでいけるか。」
第2ラウンド一城はすでに2と6のフルハウスの手札が揃っていた。
一城「(よし、役が揃っている。これなら勝てるぞ!)」
出水「どうです、勝てそうです?」
出水が一城の手札についてさりげなく聞いてみた。
一城「(またか、もう信じないぞ。俺は自分だけを信じる!)僕はいつでもいけますよ・・・・・・」
出水「分かった。じゃあ私はおりるわ。」
一城「は!?」
紙屋「いきなりフォールドか?」
手札を交換せずに出水がおりてしまった。
江波「私は、勝負するぞ。」
一城「(何考えているんだ。交換もせずにフォールドとか。やっぱり勝つ気がないじゃないか!)」
出水「今、勝つ気ないからおりたと思ったでしょう?」
一城「(ギクッ!)」
出水「フフッ、今日は表情筋ゆるゆるだね。」
一城「(ダメだ、こんなことで表情を崩していることがばれている。ポーカーフェイスを心掛けないと・・・・・・)」
紙屋もコールを行い、3人でカードの交換を行った。
一城「(ここで素直にノーチェンジでいくか・・・・・・いや、ここは2のフォーカードを目指して2枚チェンジだ!)」
一城は2枚のカードを場に伏せて新しいカードを2枚手札に加えた。
一城「(・・・・・・やってしまった。単なるスリーカードになってしまった。)」
一城の作戦は失敗。江波はこのターンで降りた。そして紙屋はベットを宣言。
一城「(さすがにスリーカードだし勝てるだろう。)勝負します。コール!」
同時にカードをオープン。紙屋の手は2・3・4・5・6のストレートだった。
紙屋「よし、ワシらの勝ちじゃ!」
出水「あ~あ、せっかくフルハウスできていたのになんでチェンジしたのかな?」
紙屋「は、フルハウス!?」
一城「適当なこと言わないでください!元々スリーカードでした。」
出水「たしか一條知事が捨てたカードがココに・・・・・・」
出水は捨てた山札から6のペアカードを見せた。
江波「これ出されていたら私たち負けていた。」
一城「余計な事しないでください!」
出水「私は怒っているのよ。せっかくの勝ち試合をわざと捨てたあなたの行為にね。」
一城はそっぽを向いた。
出水「理由はわかるわ。私の筋書き通りにしたくないんでしょう。でも、いつまでも自己中なプレーをしていたら勝てる勝負も勝てないわ。」
一城「自己中なのはどっちなんだよ。こっちはいくら命令でもあなたのやり方で勝ってもなんにもならないんだよ!」
出水は深呼吸をした。そして一城の席に向かった。
一城「なんすか。いきな・・・・・・!」
一城はいきなり出水に胸ぐらを掴まれて驚きのあまり声を失った。
出水「いい加減、自分の殻にこもってんじゃねえぞ・・・・・・」
今まで聞いたことのない出水の怒りの声。普段怒らない人が怒ると怖いというのを今、一城は実感しているのだろう。
紙屋「阿波美知事、こんなところで喧嘩はよくない。少し落ち着くのじゃ・・・・・・」
出水「すみません。でも、この話はどうしても大事なことなので。」
出水は一城の胸ぐらを離した。一城はきょとんとしていたままだった。
出水「・・・・・・本当は自分で答えを見つけてほしかったけど私から答えを言うわ。今の一條知事からは信頼が無い。」
一城「信頼・・・・・・」
出水「じゃあ代わりに質問するけど今回の試合、どうやって勝とうとしたの?」
一城「それは・・・・・・今まで通り勝負に勝つと・・・・・・」
出水「1人で勝とうとしていなかった?」
一城「・・・・・・そうですね。」
出水「だよね、だからせっかくのフルハウスのチャンスを自分で潰した。私に見透かされたというプライドが邪魔をしたから。」
一城「グっ・・・・・・」
出水「私は、味方になった以上あなたのことを信用している。だから今回はあなたに勝負を委ねたの。」
一城「そんなの、分からないじゃないですか!もし俺がブタだったらどうするんですか?」
出水「それは心配いらないわ。今の一條知事は手に取るように分かるから。一応、こう見えて数年間県知事としてやってきたのよ。」
一城「お見通しって、ことですか・・・・・・」
出水「今のところ、一條知事は自分で何とかしようと考えている。自分の実力が足りないって佐原知事に思い知らされたから。」
一城はその通りの意見を言われ、反論できなかった。
一城「確かに・・・・・・自分が弱いせいでDクラスを抜け出せないってことを知らしめられて・・・・・・」
出水「それは違うわ。県知事の使命は自分で何でも溜め込むものじゃないの。時にはメンバーに助けてもらうのも大事なことよ。プライドを捨ててでもね。」
一城「それは、そうですけど・・・・・・」
出水「1人だけでは私も弱いわ。でも、今のメンバーは私のことを信用している。だから私もみんなのことを信用しているわ。」
一城「1人ではどうにでもできないことでも、チームで分担すればどんな困難でも乗り越えられるってことですか?」
出水「やっと、答えにたどり着いたわね。」
その話を聞いていた紅八丁知事もその言葉に同感している。
八丁「阿波美知事の言う通りじゃ。ワシも子どもたちのことを信じて今までやってきた。」
紙屋「親父。」
八丁「知っておる、ワシの次の知事を決めているので困っておるのだろう。確かに重圧を感じるのは経験しているからよく分かる。でもな、ワシは誰でも知事になってもいいと思っている。長男だからならなくてはならないとは考えないほうがいい。」
紙屋「でも、やっぱり俺には負担がでかすぎる・・・・・・」
八丁「男ならしゃきっとせんかい!!」
紙屋はその一言で背筋を伸ばした。
江波「・・・・・・じゃあ、私が広島県知事になろうかな?」
紙屋「江波!?今まで散々嫌がっておったじゃろ!」
江波「確かに、私も重圧が嫌がって知事になることを拒んでいたのかもしれない。でも、親父や阿波美知事の言葉でそんなちっぽけなことで悩んでいてもしょうがないと思ってね。」
一城「1人で抱えなくてもいい・・・・・・」
静流「そうよ、一城!」
そう叫んだのは静流だった。
静流「1人で背負い込むなんて水臭いじゃない!もっと私たちを信じてよ。きっと私だけじゃない、恵も葵も綾乃も赤奈さんも同じと思うわ。」
一城「・・・・・・あれ、なんか心にあるつっかえがなくなったような気がする。」
静流「よかった。」
十日「あの、いい話をしているところ水を差すようで申し訳ないのですが、ここは病院内ですので静かにしていただけると・・・・・・」
静流「あ、ごめんなさい・・・・・・」
紙屋「よし、少し止まったけど遠征試合の続きをしよう。互いに考えが変わったところでな。」
一城「そうっスね。これからはあなたの指示にも従いますよ。阿波美知事、行きますよ!」
出水「もう、調子いいんだから・・・・・・でも、これで心置きなくプレーできるわ。」
こうして遠征試合の続きが始まった。第3ラウンド目・・・・・・
一城「(この手札は・・・・・・阿波美知事に任せるか。)」
一城は手札を交換したが揃ったのが7のワンペアだった。
一城「俺はおります。阿波美知事、勝負を任せてもいいですか?」
出水「分かった、私はこのまま勝負します。」
紙屋「俺は、おりる。」
江波「私は勝負します。」
出水の手札はAのスリーカード。江波はQのワンペアとジョーカーでQのスリーカード。これで一城たちが王手となった。
江波「私は負けないわ!次の試合で勝てばイーブン!」
紙屋「そうだ、ワシたちはまだ諦めない!」
出水「このまま勝ちに行くわよ!一條知事!」
一城「えぇ、一気に勝負を決めます!」
第4ラウンド目・・・・・・
3人はカードを3枚ずつ変えた。一城は手札を見て少し微笑んだ。
一城「切り札は、この手の中にある!」
一城はカードをノーチェンジにした。
一城「俺は勝負をします。」
出水「・・・・・・私はおりるわ。きみに勝負を任せるわ。」
一城が勝負を仕掛けた瞬間、紙屋と江波の動きが止まった。2人の額から脂汗が垂れた。
一城「動かない、なんでだ?」
出水「いい手札がなかったかな?」
紙屋「くっ・・・・・・このままだと負けが確定してしまう・・・・・・」
江波「私は・・・・・・おりる。」
紙屋は考え込んだ。手札は2のワンペアと最弱の手だった。しかも、この勝負に挑まなければ負けが確定してしまう。勝負しなければならないのに口からその言葉が出ない。紙屋は手札を静かに置いた。
紙屋「ワシたちの負けじゃ・・・・・・降参する。」
静流「勝った・・・・・・あの広島相手に・・・・・・」
一城は机に突っ伏した。
一城「よかった・・・・・・勝てた・・・・・・」
一城は最後の手札を見せた。手札はブタだった。
江波「ブタ!?私と同じ?」
出水「私は4と8のツーペア。素での勝負だと私の勝ちだったわね。」
一城「綾乃にはあんなことを言ったけど嘘を付くってすっごい体力使うんだな・・・・・・」
紙屋「最後の最後で日和ってしもうた。ワシらの負けじゃ・・・・・・」
一城「せめてツーペアなら勝負してもよかったじゃないですか・・・・・・」
出水「だってあなたのほうが強い手札かと思ったのだから。」
一城「ここまでやる必要ないんじゃないですか。」
出水「だってその方がおもっしょいでしょう。」
一城「好きですね、そのセリフ。」
出水「私はこういうのが大好きなの。」
そんな話をしていた時、拍手する音が響いた。
八丁「素晴らしい、君たちの勝負、とても楽しかった。」
一城「紅知事!?」
八丁「これで、心置きなくあの世に行けるのう。」
一城・静流・紙屋・江波「え!?」
紙屋「どういうことだよ、親父!!」
八丁「余命3ヵ月と言われてのう。あと、数日の命なんじゃ。でもこのままでは死ねない。ワシの後を継ぐやつをはっきりしておかないと成仏できないからのう。」
紙屋「それでこの試合をたてたってことか。もう時間がないから・・・・・・」
八丁「そうじゃ、気づいてくれてよかった。」
紙屋「・・・・・・ワシ、親父の後継ぐよ。江波が言ったけど、この責任は俺が・・・・・・ってその考えはよくないな。みんなで勝利をつかむんだよな。」
江波「そうか、そんなに言うなら譲るよ。」
こうして、次の広島県知事が決まった。
一城「さて、俺たちは戻るか。」
八丁「一條知事、今日はもう遅い。今からジェット機に乗ったら暗くて危ない。近くのビジネスホテルにでも泊まっていったらよい。ワシが手配しておこう。」
一城「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。」
八丁「ぜひ、Aランクまで上がってきてください。ワシの子どもたちがリベンジを待っていると思うので。」
一城「はい、次も負けません。」
こうして、一城の失っていた人に頼るという気持ちを取り戻した。5人はビジネスホテルに泊まり、出水と海斗はジェット機で、一城と静流と赤奈は新幹線で地元に戻った。それから数日後。八丁知事は亡くなり、代わりに長男の紅紙屋(くれないかみや)氏が新たな知事となった。
第18話(完)
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