第17話 一城の苛立ち

一城が佐原知事に負けて一日が経った。茨城県庁に出勤した静流は一城に挨拶するために知事室に向かった。


静流「一城、おはよう。昨日はお休みをいただいてありがとう。」


一城は「おぅ・・・・・・」と返事をするだけでパソコンとにらめっこをしていた。机の上にはたくさんの空の栄養ドリンクの瓶が散らかっていた。


静流「一城、その目のくまは何?それにさっきからパソコンで何をしているの?」


一城はなにも返事をしないままパソコンに向かっていた。


静流「ねえ、何か返事しなさいよ。」


一城は一瞬静流に目を通した。


一城「悪いけど今お前らに構っている時間はないんだ。出て行ってくれ。」


一城は静流を突き放すような口調で出ていくよう指示した。


静流「・・・・・・分かった。」


静流は知事室を出た。


静流「何よ、機嫌悪くなっちゃって。挨拶くらいしてもいいじゃない・・・・・・」


静流はぶつぶつ文句を言いながら廊下を歩いていた。


ギャンブル課に戻った静流は自分の席に戻った。その様子を見ていた恵は


恵「静流さん。朝から機嫌悪そうですね。何か嫌なことでもありましたか?」


静流「もう最悪。一城がさっきからムスッとしているのよ。」


葵「一條知事がですか?顔に出ないことで有名なあの人が?」


静流「今日は一城に会わない方がいいと思うわ。会うと八つ当たりに遭いそうだから。」


ノックの音が鳴り、赤奈がギャンブル課に入ってきた。


赤奈「皆様、おはようございます。」


綾乃「赤奈さんおはようございます。そうだ、秘書なら分かるかもしれない。

今、一條知事が荒れているって静流さんから聞きましたけど昨日何かあったのですか?」


赤奈「そうですか、やっぱり・・・・・・」


葵「荒れた原因を知っているみたいな口ぶりですね。」


赤奈「昨日、鳥取県知事の佐原知事と遠征試合を行ったのです。」


静流「遠征試合!?」


赤奈「その試合で、知事がコテンパンにやられてしまいまして。恐らく今、パソコンでポーカーの練習をしているところでしょう。」


静流「何よ、私たちに内緒で勝手なことを・・・・・・」


赤奈「しばらく放っておいた方がよさそうだと思います。」


しかし3日経っても状況は全然変わらなかった。


赤奈「さすがに、そろそろ終わらせないと・・・・・・会議もたまっています・・・・・・」


葵「あれ、恵はどこへ?」


そのころ恵は給湯室でお茶を沸かしていた。


恵「リラックス効果のあるダージリンティーとお菓子にラングドシャ。これだけあれば十分かな。」


恵はおぼんにお茶とお菓子を置いて知事室前に持って行った。知事室のドアをノックした。返事はなかったがドアを開けた。


恵「一條知事、今大丈夫で・・・・・・」


一城「くそっ、また負けた!!」


恵「ひっ!」


一城「なんだ愛原、勝手に入って来るな!」


恵「えっと・・・・・・お茶を用意しました。3日間飲まず食わずだと赤奈さんから聞きまして。」


一城「いらん。」


恵「でも、ひどい顔ですよ。何か口に入れないと体調を崩しますよ。」


一城「いらない。さっさと持って出て行ってくれ。」


恵「いいえ、食べてもらうまで出ていきません!」


恵は知事の机にお盆を置いた。


一城「邪魔するな!」


一城はお盆をひっくり返した。ダージリンが恵のスーツにかかった。


恵「熱っ!」


一城はパソコンに視線を戻した。


恵は怒りのあまりお盆を一城に投げつけた。一城の体に当たり、ステンレス製のお盆がパウンと間抜けな音が響いた。


一城「痛てぇな!何すんだよ!」


恵の両目から大粒の涙がこぼれた。そのまま恵は知事室を飛び出した。


ギャンブル課に戻った恵。静流たちは涙とダージリンでボロボロになった恵の姿を見て漠然とした。


綾乃「恵!!」


静流「そのシミ、匂いからして紅茶・・・・・・やけどしているかもしれないから早くスーツとシャツ脱いで!」


葵「でも、この場面を他の人に見られたら問題に・・・・・・」


静流「赤奈さん!ドアの前で見張っていて。」


赤奈「承知しました。」


恵はダージリンのシミがついたスーツとシャツを脱いだ。シャツは静流の変えのシャツを着た。


綾乃「あっはっは・・・・・・ダボダボね。」


恵「みなさ・・・・・・ヒック・・・・・・ありが・・・・・・ヒック・・・・・・ござい・・・・・・ヒック。」


葵「ハイハンカチ。」


恵は涙をハンカチで拭いた。


綾乃「でも一條知事もひどいわね!せっかく恵ちゃんが用意した紅茶を・・・・・・私文句言ってきます!」


葵「行くだけ無駄ですよ。」


綾乃「そんなことないかもしれないじゃないですか!」


葵「無駄ですよ、無駄。」


綾乃「ムキ~!!」


静流「(はあ・・・・・・あっちもこっちもギスギスしている・・・・・・)」


静流はスマホを取り出し電話をした。


静流「あ、お世話になります。茨城県ギャンブル課の剣城です。はい、実は一條知事について相談したいことが・・・・・・」


次の日の朝。・・・・・・4日間家にも帰らず一城はずっとパソコンでポーカーをしていた。


一城「あ~また負けた!」


一城はマウスを投げ捨てた。


一城「なんかイライラしたら腹減ったな・・・・・・コンビニで飯でも買いに行くか。」


一城はコンビニに行こうとしたが、席の前のカーペットには紅茶のシミと恵に踏まれて粉々になったラングドシャが散乱していた。


一城「恵が用意した物か・・・・・・あの時俺なにしたっけ?」


4日間寝ていない頭で考えていたが恵に当たった記憶を思い出せなかった。一城は後で掃除するかと思いながら知事室を出て行こうとしたが、その時、勢いよく扉が開いた。


一城「何だ!?」


そこに現れたのは2人の女性だった。


紫髪の女「なんだかんだと聞かれたら」


水色髪の女「答えてあげるが世の情け」


一城「・・・・・・どこかで聞いたことのあるセリフだな!」


静流「静流!」


出水「出水!」


静流・出水「我ら、一城くん救い隊!!」


一城「・・・・・・何しに来た。俺、今からコンビニ行きたいんだけど。」


出水「あらあら、私は一応先輩よ。敬語は基本でしょ。」


一城「すんません、今日は帰ってもらえないですか。」


出水「悪いわね。こっちだってわざわざ徳島から来たのよ。今回は無理やりにでも連れて行くわよ。」


一城「は?」


出水「あなた、せっかく愛原さんが入れてくれた紅茶をぶちまけたらしいじゃない。」


一城「え、俺がそんなことしたのですか?」


出水「・・・・・・覚えていないとは、一番質が悪いわね。」


静流「まあ、今回の目的は一城の目を覚まさせてもらうためだから。」


静流と出水は一城の腕を片方ずつ捕まえられた。


一城「放せ!俺をどこへ連れて行く気だ!」


静流「それは秘密。」


一城「何だその悪魔の笑みは!」


静流「恵の恩を仇で返すようなクズに教える情報なんてないわよ。」


一城「それは悪かったから放してくれ!」


一城はその場で暴れて、逃げようとした。


出水「フフフッ、これだけは使いたくなかったけどね。」


出水がスーツから取り出したのはスプレー缶。


一城「その缶は・・・・・・」


静流と出水は一城の腕を放すと


出水「さ・い・み・ん・ガ・ス・よ❤」


出水はガスを噴射した。一城はガスをもろに受けてその場で倒れてしまった。


静流「阿波美知事、いきなりガスを噴射させないでくださいよ。ハンカチで口を押さえなかったら私も倒れていましたよ。」


出水「いいじゃない、そんな細かいことは。」


静流「では、協力してこの人を連れて行きましょう。」


2人は一城を抱えて出水の乗ってきたジェット機に乗せて行った。数時間後、眠りから覚めた一城は


一城「・・・・・・んっ。どこだここ?」


静流「・・・・・・おはよう。」


一城「静流・・・・・・ここは・・・・・・」


静流「徳島県所有のジェット機の中よ。あのね、そろそろどいてくれないかしら。」


一城「ん?」


一城は静流の膝枕で眠っていたのだった。


一城「わっ!」


一城は慌てて起きた。


出水「よく眠っていたわね。何日間寝ていなかったのかしら。」


一城「えっと、いつからでしたっけ?」


一城は血相を変えた。


一城「で、今このジェット機はどこに向かっているのですか!」


出水「まあまあ落ち着きたまえ、少年。」


一城「今まで少年って呼んだこと無いっスよね。」


出水「しょうがないわね。教えてあげるわよ。今どこに向かっているのか。」


一城「どこなんです?」


出水「・・・・・・広島。」


一城は開いた口が塞がらなくなった。


一城「たしか広島って・・・・・・序列19位。Aランクの県ですよね?」


出水「あなたの考えを正すために行くのよ。」


一城「考えを正すってどういう?」


出水「お話はこれまで、後は現地で話すわ。」


一方そのころ、茨城県庁では・・・・・・


綾乃「恵ちゃん。やけどは大丈夫?」


恵「皆様の対応のおかげで後も無くて安心でした。」


葵「静流さんが話した昨日の電話の相手、阿波美知事だったみたいですね。」


恵「広島に行ったらしいけど何で行ったのでしょうか?」


綾乃「私、聞いたことある。今、広島の県知事が重い病気にかかって業務を休んでいるらしいよ。」


葵「そのような情報をどこで手に・・・・・・」


綾乃「赤奈さんに教えてもらったんです。」


葵「・・・・・・納得しました。」


そのころ、一城たちは広島県庁の屋上のヘリポートに止めた。


小松「阿波美知事、到着しました。」


出水「小松くん、運転ありがとう。」


3人はジェット機から降りた。


出水「広島は先祖代々「紅組(くれないぐみ)」がギャンブル課を仕切っているの。でも、今の知事である「紅 八丁(くれない はっちょう)」知事が数カ月前にガンが見つかってね。それで今、資金戦もお休みして次の知事の候補を決めている最中らしいよ。」


一城「組って・・・・・・もしかして暴力団とかそういうたぐいのチームなのか!?」


出水「昔は裏社会を牛耳っていたらしいわよ。でも、ギャンブルの実力はAクラスでもトップクラスだと思うわ。」


一城「俺ら・・・・・・指を詰められるのか・・・・・・」


出水「いつの時代の話よ・・・・・・」


出水は広島県庁の中に入った。そこに現れたのは一人のグレースーツ姿のイケメンダンディのおじさんがいた。


?「これはこれは。徳島県知事の阿波美知事ではありませんか。」


出水「こんにちは。」


十日「秘書の「紅 十日(くれない とうかい)」と申します。」


一城「茨城県知事の一條一城です。本日はお招きいただきありがとうございます。」


静流「茨城県ギャンブル課の剣城静流です。」


一城と静流はその場で頭を下げた。


十日「これはご丁寧に。では、ギャンブル課にご案内いたします。」


3人は十日に連れられギャンブル課に案内された。扉の前に到着すると奥から騒ぎ声が聞こえた。


十日「今丁度、会議中でして。」


十日が扉を開けた。そこでは同じグレースーツ姿の男女4人が言い争っていた。


男子A「俺に親父の跡を継げる訳ないじゃろ!」


男子B「僕もごめんだよ。」


女性A「早く決めないとどんどん順位落ちていくわよ!」


女子B「Zzzzz・・・・・・」


一城「何の話し合いをしているのですか?」


十日「次の知事を誰にするかで揉めているんです。デスサイズゲームでは知事の出場は絶対条件ですから。」


静流「もしかして夏に資金戦には一回も出ていないと?」


十日「はい、なので順位も15位から19位にまで落ちてしまいました。」


一城「一シーズン資金戦を休むだけで4つ順位を落とすとはAクラスってシビアですね。」


十日「皆様、お客様がお見えになりました。」


しかし、言い争いは終わらなかった。


十日「あの・・・・・・お客様が・・・・・・」


まだ言い争いは終わらない。


十日「・・・・・・・・・・・・。」


我慢の限界が解かれた十日が口を開いた。


十日「お客様が来たって言っとるじゃろが!!さっさとお招きせんかい!!」


一城・静流・出水「!!」


男子A「すいません・・・・・・バカッ、十日さん怒らせるなよ!」


女子A「それはおにぃのせいじゃろ!」


女子B「{目をこすりながら}ん・・・・・・なに?」


十日「コホン・・・・・・申し訳ございません。見苦しいところを見せてしまいまして・・・・・・」


一城「いえ・・・・・・(怖かった・・・・・・)」


男子A「十日さん。こちらの方々は?」


十日「茨城県知事の一條知事とギャンブル課の剣城さん。そして徳島県知事の阿波美知事です。」


男子A「この人たちが・・・・・・」


男子B「今、Dランクでも話題になっている2県の知事に会えるとは・・・・・・」


男子Aが頭を下げた。


紙屋「ワシが広島県ギャンブル課の「紅 紙屋(くれない かみや)じゃ。4人の中では一番上の32歳だ。」


次に女子Aがあいさつをした。


江波「同じくギャンブル課、長女の「紅 江波(くれない えば)」よ。年齢は今年で30歳になるわ。」


出水「私と同い年だ~」


紙屋「次は土橋(どばし)だが・・・・・・あいつどこ行った?」


土橋という男子は静流の手を取り、手の甲にキスをした。


静流「!!」


土橋「やあ、かわいい子猫ちゃん。僕はギャンブル課の「紅土橋」。よければ、仕事終わりに僕とデートしない?」


静流は即答で


静流「お断りします。私、軽い男は嫌いなの。」


静流はキスされた手を自分のハンカチで拭った。


土橋「やれやれ、関東の子はガードが堅いね~」


江波「そして、そこにいる眠たそうにしている子がうちの末っ子の白島(はくしま)。」


白島「よろ・・・・・・しく・・・・・・です。」


白島は今すぐにでも寝そうな様子だった。


一城「どうも、一條一城です。」


紙屋「今、年いくつだ?」


一城「今年で23になります。」


紙屋「若いのう・・・・・・白島が25だから俺らよりも下だ。」


江波「私らも次の知事決めないとな。」


一城「なぜいつまでも次の知事が決められないんですか?」


紙屋「それがのう・・・・・・俺たち、親父の後について行っていただけなんじゃ。」


江波「広島は代々私たち紅家が仕切っていたから、後は親父の指示に従うだけだったんだよ。」


静流「広島県知事である「紅 八丁(くれない はっちょう)」知事は全国でもトップクラスの実力を誇るギャンブラーですからね。」


土橋「ま、というわけで親父がいない今。僕らじゃどうすることもできないってわけ。」


一城「やっぱりトップがしっかりしないとダメなんだな。」


静流「一城・・・・・・」


暗いムードが漂う中、出水が口を動かした。


出水「あの、お父様の入院している病院ってどこなのか教えてくれないでしょうか?」


紙屋「え、親父の病院!?」


出水「十日さん。教えていただけます?」


十日「いいですが、どうして・・・・・・」


出水「私の言葉ではなく、紅知事の言葉を聞いてほしいの。」


一城「阿波美知事の狙いって一体なんだ?」


静流「さあ?」


しかし、静流は出水の行動を知っていた。


一城と静流と出水。広島からは紙屋と江波が十日に教えてもらった病院に行くことに。


紙屋「ここが親父の病室だ。」


一城「すごいですね・・・・・・個室にしては一番広い病室ですよねここ。」


紙屋「まあ、腐っても知事だからな。」


紙屋はドアをノックした。


紙屋「親父、入るぜ。」


紙屋たちは病室に入った。そこにはベッドで横になっていた現広島県知事。「紅八丁」知事が眠っていた。


江波「親父、眠っているのか?」


八丁「わしゃあ起きとるわい。」


八丁は一城たちの方を向いた。


紙屋「なんだ起きてんのかよ。」


八丁「こんなただの病気で簡単に死ねる訳ないじゃろう。」


出水「元気そうですね。紅知事。」


八丁「阿波美知事かい。久しぶりじゃのう。」


出水「そんな久しぶりではないですよ~先週電話したばかりじゃないですか。」


八丁「はて、そうだったかのう?  ところで、そこにいる2人は阿波美知事のお知り合いかい?」


出水「はい、彼は茨城県知事の一條一城知事とギャンブル課の剣城静流さんです。」


八丁「彼が今噂の最年少知事の一條知事か。Dランクは資金戦の記録が残らないからどんな人かと思ったがなかなか凛々しい顔をしているのう。」


一城・静流「よろしくお願いします。」


一城と静流はその場で頭を下げた。


出水「それでは、早速ですが・・・・・・」


出水がある計画を提案した。


出水「今から、遠征試合をしませんか?」


第17話(完)

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