第8話 不安といつかの話
「ごめんね、急にこんなこと言って」
「前に私が一人になる時もこんな空気だったから不安で……」
いつもの顔を作って、一度こちらに向けたら、下にうつむいた。
桜葉の心には『仲間はずれにされたとき』に感じたものが今でも鮮明に残っているのだろう。
いつもと違った状況で耐えられなく、不安定になっている俺はそんな桜葉にありうる未来を伝える。
ストレートに。
「たぶん、いつか離れるよ」
こんなこと桜葉だって言わなくても分かっているはずだ。
でも、そんな未来が無いように願っていたなら、改めて気づくだろうと思って伝えた。
「桜葉は友達ともっといる時間は増えるだろうし、分からないけど進学する場所も違うと思う」
「なんで花鈴ちゃんのこと……」
「たまたま桜葉が誰かと話しているのを見かけて」
教室に様子を見に行ったときはさすがに気持ち悪いから黙っておこう。
「だけどいつかの話」
「俺はどっちが変わってもいいと思う」
「会いたければ会いに行けばいいと思うし」
話していて、いつもの俺が少しずつ戻ってきた。
今の俺は今までどおり桜葉を迎えに行く。
とくに変えるつもりない。
「そう、だね……」
いつもは俺から話さないのに急に話し始めたという驚き(であってほしい)があったのだろう。
心に落ち着きを取り戻そうとするなか、言葉を絞り出している。
「ごめんね」
「謝らなくていいよ、不安に思うことは誰にでもある」
「正直に言ってくれてありがとう」
俺は大事なことを遠回しに聞くのは苦手だから。
「ケーキ、できたみたい」
「出そっか」
言葉をかけた方がいいというのは分かるけど、なんてかけたらいいか分からなかった。
気まずくなってケーキのことを言って、その場をにごした。
箸をさして、火の通りを確認する。
大丈夫だったみたいで冷蔵庫に入れて、冷ますことにした。
沈黙の時間がまた訪れたがいたたまれなくて、課題をやりはじめた。
あとがき
お待たせしました、第8話でした。
次回、最終話です。
二人は変わるのか、変わらないのか。
近づくのか、離れるのか。
どうぞお楽しみに。
最後までお読み頂きありごとうございました。
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