第7話 誘い

柚菜視点


「花鈴ちゃん、人に話しかける時ってどんな風に話しかければいいの?」


「普通に話しかければいいんだよ」


「普通に?」


「そうだよ」

「話したいことを話せばいいんだよ」

「もちろん相手にもよるけどさ」


「話したいこと?」


「そうそう」

「最近ハマってるものとか面白かったこととか」


「とにかくなんでもいいんだよ」




 なんでも……

どんな話がいいんだろう……


たぶん、君島くんのことだから何でも聞いてくれるし、それに今の状況を気にしていない。


でも、私は気になったままだった。

苦しいままだ。


君島くんが平気でも。


だから、花鈴ちゃんに聞いてみた。




君島くんとの関係を自然消滅させないように。


繋いでいられるように。








君島視点


 桜葉とは相変わらず登校は一緒にしていた。

だけどほんの少しずつ何かが違うように感じていった。

きっと些細な違いだと思う。

俺から見ても、桜葉から見ても。


でも、なぜこんなにも心に残っているんだろう。


ただ家が近いというだけの関係になったのに。

何にも感じてないと思ってたのに。



 帰りのHRが終わって、荷物をまとめる。

会話で賑やかな教室を出て、昇降口に向かう

廊下も相変わらず様々な会話が飛び交っている。


そんな中で声が聞こえて、立ち止まる。

桜葉の声がしたと思ったが気のせいだった。


廊下でいろんな声が聞こえるからだろうか。

俺もどうかしたのだろうか。

今日は散歩にでも行こうと考える。


さっき聞こえた声が今も聞こえる。

勘違いと結論づけて無視する。




 聞こえたまま、昇降口に来たあたりで誰かに制服の背中部分がつままれているのか後ろに引っ張られた。


後ろを振り向くと、桜葉がいた。

「どう、した」


急いで後をつけてきたからか下を向いていて、目線が合わない。

呼吸を少し乱したみたいで背中が揺れている。


似た声は聞こえていたが、自分を呼んでいるとは思わなかった。

俺は桜葉の声も分からなくなっていたのか。


「落ち着いて」


横に並び、背中に手を伸ばしてさすっていると、落ち着いてきた桜葉が顔を上げた。


「やっと……気づいて、くれた……」

「ご、ごめん」

困惑が言葉としても出てきた。


「……うちに来てほしいなって」

「その、チーズケーキ作ろうと思ってて」


桜葉は俺を呼ぶなんてことはほとんどなかった。

あったとしても連絡帳を届けて欲しいとかそれくらいだった。


誘うなんて珍しい。

やっぱり桜葉も違和感を感じていたんだ。


「じゃあ、行こっか」


昇降口を出て、桜葉の隣を歩く。

けど、いつもより俺も様子が違っていた。








「お邪魔します」


「荷物を置いてくるから、あっちでちょっと待ってね」


桜葉の背中を見送って、ダイニングに行く。


荷物を床に置いて、座って待つ。

いつもと違って、緊張している。


家が変わっている訳でもないのに。




階段をゆっくりと降りてきた。

服は制服のままだった。


「今から作るんだけど、暇だと思うから飲み物」


「水、貰っていい?」


「あ、分かった」


「手伝うよ」


「あっ、いや味見してくれれば」


「混ぜたり、分量量ったりくらい出来るよ」


「じゃあ、お願いします」


「うん」




 キッチンに入り、軽い会話をして、二人のチーズケーキ作りが始まった。

なのに口数は少ないままだった。

お菓子作りだから和やかな雰囲気になるかと思ったが、変わらなかった。


オーブンに入れて、ケーキを作る工程は無事終わった。


「あとは片付けだけだから」


「最後までやるよ」


「ありがとう」


片付けも黙々とやっていた。




片付けまで終えたのにお菓子作りを終えた空気とは思えないくらいに重たかった。

それくらい気まずいはずなのに、向かい合わせで座っているだけだった。

スマホを触ることもなく、勉強するわけでもなく。


お互いに視線が合わないようにするだけで。


オーブンから出る音しか聞こえない。




沈黙がいくら経ったかすら分からない。

けど耐えきれなくてなって、桜葉から言葉がこぼれる。




「君島くんも私から離れるの?」




ピーピッ、ピーピッ


重い空気に区切りをつけるようにオーブンが鳴った。


















あとがき

お待たせたしました、第七話です。


最終話はあと1話挟んで、となります。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。













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