146話 ヴァルカス邸と最古の魔王



------(テンタ視点)------☆





 馬車で揺られること……約20分、後40分ほどで王都


に入るようだ。


俺達が普段乗る冒険者用の馬車と違い、車輪にはゴムが


使われ、サスペンションが備わった馬車なので、思った


ほど振動はない。


 むしろ、心地よい振動が伝わって来る。


 俺の膝に三毛猫オトアを乗せ、俺の隣には、親父の


ようにドカッと座るかりゅう


俺の向かいにはヴァルカス(スレンダー)さんが座っていた。


 馬車に揺られながら、ヴァルカス(スレンダー)さんと


たわいもない話をしていた。


「ヴァルカスさんはなぜ貴族を辞められたのですか?」


と俺の膝の上に乗る三毛猫オトアが、ヴァルカス(スレンダー)


さんに尋ねる。


すると、ヴァルカス(スレンダー)さんが少し考え、


「うん、まぁ、4年前だっけかな、キャスバル(サー)が


王位を妹のアルテイシアに譲って、平民になると言いだしたん


でな、それを聞いて俺やルーク(アロム)にゲルト(ダンバ)も


一緒に平民になったんだよ」


その言葉に三毛猫オトアが、


「へー、みんな仲がいいんですね♪」


と返すと、”うん”って顔で、


「んっ――つーか、元々転生前、同じクラスで、同じサークル


だったからなぁ~」


と答える。


その言葉に三毛猫オトアと俺は、”同じクラス”と言う言葉に


疑問を持ち、


「えっ、同じクラスって……」


「おんなじ学年だったんですか?皆さん年が微妙に違うと思うんで


すが?」


そう聞くと、”ああ”って顔でヴァルカス(スレンダー)さんは、


「確かに俺が20歳で、ルーク(アロム)が18歳、キャスバル


(サー)が22歳でゲルト(ダンバ)23歳とこっち来てから


の年齢はバラバラだが、元々は同い年何だよ……俺達が死んだ


のも恐らく修学旅行先のバス移動での事故のはずだから、本来


なら、こっちに転生してからも同い年のはずなんだけど……」


と答えると俺の膝の上の三毛猫オトアが、


「亡くなった順番とかじゃないですか?」


とヴァルカス(スレンダー)さんに聞くと、首を横に傾け


”いやー”ってしぐさで、


「うーんどうだろう、こっちに来てからあいつらと話をした時、


全員の記憶としては、ものすごい衝撃と共にすぐに意識を失く


しているからなぁ……多分同時だと思うぞ」


その言葉に、俺の膝の上の三毛猫オトアが、


「じゃぁ、同時ですかねぇ」


と首を傾げ言う。


 そんな話をしていたら、王都の検問所へと着いたようだ。











 コラクル国の王都は、強固な城壁で囲まれていて、そこに


入るには検問所を通らないと入れない。


その検問所は王都の南北に2か所で、俺達は南の検問所を


通ることになっていて、その南の検問所には入り口が2つ。


 一つは、平民(一般用)で、もう一つは、貴族用だ。


当然俺達は貴族用の検問所へと向かった。


 検問所には4人の騎士らしき人達が長机に並んで座っている。


その前に馬車が停まると、それまで、外をぼーと眺めていた


ヴァルカス(スレンダー)さんが、急に馬車の窓のハンドルを


回し窓を開けると、その並んだ騎士の一番左の騎士に、


「おう、アストナージ!元気だったか」


と大声で手を振り声を掛けると、声を掛けられたアストナージ


と呼ばれる騎士が、馬車の中に居るヴァルカス(スレンダー)さん


に気づいたかと思ったら、急に立ち上がり一礼してきた。


それを見た他の3人の騎士も慌ててそれに倣い、立ち上がり俺達


の馬車に一礼する。


そして、ヴァルカス(スレンダー)さんにアストナージと呼ばれた


騎士は、手振りで”どうぞそのまま行ってください”って感じで


ジェスチャーをすると、


「悪いな、また今度飲もうぜアストナージ」


とヴァルカス(スレンダー)さんが言うと、そのまま馬車を操る


御者に向かって、


「そのまま進んでくれ」


と声を掛ける。


御者はヴァルカス(スレンダー)さんに言われるまま馬車をゆっくり


発進させるのだった。


(ホント、この人どこでも顔パス何だね)













 王都も町中に入って来た。


異国上智溢れる中世の街並みを馬車の窓から眺める俺と三毛猫オトア


(やっと、異世界に来たって感じだな)


と俺がふと心に思うと、


「ここにエッフェル塔や凱旋門が在ったら、フランスのパリ


みたいだねぇ、テンタ君」


と俺の膝の上の三毛猫オトアが言う。


「えっ、オトアってパリに行ってことあるの!?」


と俺が驚き聞くと、三毛猫オトアは、


「ううん、行ったことないよ、動画で見たパリっぽいからそう


言っただけ」


と屈託のない笑顔で俺の膝の上で、俺を見上げながら言う三毛猫オトア


に、


「そっか」


と子供に言うように俺は笑顔で返した。


すると、突然三毛猫が馬車の窓に前足をおいて、何かを見て興奮


気味に言う。


「テンタ君、テンタ君、あれってお城なのかな?」


興奮気味に食い入るように三毛猫オトアが見て、前足を指し、


言う姿に俺は視線をそこに移すと、そこは町の中心の少し小高い


丘にある……お城と言うより、きらびやかな作りの宮殿のよう


建物だった。


すると俺の向かいに座るヴァルカス(スレンダー)さんが、


「ああ、あれか?あれは王が住んでいるバルサイユ宮殿だよ」


と教えてくれた。


(やっぱ、宮殿なのね)


それから、20分ほどで馬車は王都の貴族街にあるお屋敷に着いた。


 塀に囲まれた2階建ての洋館作りの建物。


門は鉄の格子状の両開きの門で、その門の前に馬車が近づくと……。


門はひとりでに開く。


(えっ、え、自動扉か!?)


俺の心の叫びをそのままに馬車は屋敷内に入ると、屋敷の前に大きな


噴水があり、馬車はその噴水を時計回りで進み、そして屋敷正面の


玄関の前で停止した。


屋敷の玄関前にはすでに4人のメイドが並んで出迎えてくれた。


馬車の御者が扉を開けてくれ、ヴァルカス(スレンダー)さんに


続いて、三毛猫オトアを肩に載せ俺が降り、その後にかりゅう


続く。


「おかえりなさいませ、おぼっちゃま」


と4人のメイドの内の1人がヴァルカス(スレンダー)さんに


深々と頭を下げ言うと、ヴァルカス(スレンダー)さんは、


「おいおい、おぼっちゃまはもうよしてくれよソフィア」


とその40歳くらいのメイドさんに言い、続けて、


「俺はもう20歳のおっさんだぞ、それにもう俺はヴァルカス家


から外に出た人間だ、フレヂーと呼んでくれソフィア」


と告げると、再びソフィアと呼ばれるメイドさんが、


「失礼いたしましたフレヂー様」


と深々と頭を下げると、再びヴァルカス(スレンダー)さんが、


メイドのソフィアさんに向かって改めて、


「親父殿から聞いていると思うが、この人……達が今回の


ゲストのバルバンだ、よろしく頼むソフィア」


と俺達を紹介すると、メイドのソフィアさんが俺達の所に来て、


改めて深々とお辞儀をしてから、


「バルバン様、ようこそこのヴァルカス邸にお越しください


ました、わたくしこのヴァルカス邸でメイド長を務めさせて


いただいております、ソフィア・ルノーと申します、ご滞在


中は何なりとお申し付け下さいませ」


と俺達にも深々と頭を下げてくれた。


「ああ、どうもバルバンです、よ・よろしくお願いします」


あまりの丁寧なあいさつに俺は緊張して少ししどろもどろ


になりながら答える。


すると俺が挨拶するので、俺の肩に載る三毛猫オトア


ソフィアに向かい挨拶をした。


「今回はお世話になりますオトアですw」


突然、俺の肩に載る三毛猫の挨拶に、メイド長のソフィアさん


は、一瞬、”ギョ”と目を剥いたが、すぐさま冷静な態度で、


「よろしくお願いいたします」


三毛猫オトアにも頭を下げ挨拶するソフィアさんだった。


(さすが、メイド長だね、肝が座ってる)













 玄関を入るとそこは広いエントランス。


正面奥には何やら扉が……。


そして左右には曲線を描くように2階へ上がる階段がある。


(す・すごい)


と思いながら俺がその場を眺めていると、


「バルバン様は2階の右側のお部屋をお使いください」


と言って側に居たメイドに案内するよう目配せするメイド長


のソフィアさんに、ヴァルカス(スレンダー)さんが、


「俺もテンタ達の隣の部屋にするわ」


とメイドに案内され俺達が右の階段を上がろうとするのに、


ついてこようとするヴァルカス(スレンダー)さんを見て、


「お待ちくださいフレヂー様、フレヂー様には以前お使いの


お部屋をご用意しておりますが……」


とメイド長のソフィアさんが俺達に付いてこようとするヴァ


ルカス(スレンダー)さんを呼び止める。


すると、ヴァルカス(スレンダー)さんが、呼び止めようと


するソフィアさんの方に振り向き言う。


「いや、テンタ達はここに慣れてないから、俺はテンタ達の


隣の部屋を使った方が何かと便利だろうし……」


その言葉に、一瞬、左の眉を”ぴくぴく”させたソフィアさん


が、


「さようですか……」


と少し考えたような感じで、


「では、少々お待ちください」


とヴァルカス(スレンダー)さんに言うと、すぐさま3人の


メイド達に目配せをする。


ソフィアさんに目配せされた3人のメイドさん達は、すぐさま


2階に猛ダッシュして駆け上がる。


 俺達はその場で待つこと約5分。


 さっき2階へ駆け上がって行った3人のメイドが戻って来ると、


ソフィアさんは頷き、落ち着いた姿勢で俺達に、


「お待たせいたしました、ではご案内いたします」


と一礼すると、メイドの1人が、俺達の側まで戻って来て、


「どうぞこちらへ」


と案内してくれるのだった。


(急に言われたのに5分で用意するってメイドさんスゲー)













 2階に上がり右側の通路を進むと通路右に部屋の扉が2つあった。


2つある扉の内、手前が俺達の部屋で、奥がヴァルカス(スレンダー)


さんの部屋のようだ。


俺達が部屋に入る前にヴァルカス(スレンダー)さんが、


「何かわからないことがあったら、俺は隣に居るからすぐ尋ねてこい


よw」


と声を掛けてもらい。


「はい」×2


俺と三毛猫オトアはそう返事をし、自身にあてがわれた部屋へと


入る。


 部屋に入るなり俺と三毛猫オトアは、


「で・でかい」


「広い……広すぎる」


と驚きの声をあげた。


 数々の調度品が飾られた大きな部屋……部屋の中央には3人掛けの


ソファーが向かい合わせに並びその前には、きらびやかに飾られた


ガラステーブル。


その近くには暖炉があり、部屋の左奥にはカーテンで仕切られたで


あろう部屋があった。


覗いてみると、そこには天蓋つきベッドがある。


そして部屋の入り口側の右側に2つの扉。


1つは、シャワールームで、1つはトイレ……。


(ト・トイレも広いな)


俺の推定では、おおよそ学校の教室2つ分はあろうかと言う広さ。


 取り合えず、部屋の探検を済ませ、真ん中のソファーで寛ごうと


した時だった。


\コンコン/


と部屋のドアをノックする音がする。


「どうぞ~」×2


俺と三毛猫オトアがそう返事をすると、


\ガチャ/


とドアが開き、メイドさんが入って来て俺達に一礼をすると、


「失礼いたします、お昼のご用意が出来ておりますので1階の


食堂までお越しくださいませ」


と言って来た、その言葉に真っ先に反応したのはかりゅう


メイドさんの言葉に尻尾を”ブンブン振って、俺達にすぐに行こう


と猛アピールしてくる。


それを俺と三毛猫オトアは、ため息交じりで見つめ、


禍龍かりゅう、じゃ食べに行こうかw」


と声を掛ける俺。


その言葉を待つか待たないかってタイミングで、部屋を飛び出して


行くかりゅう


「おいおい、食堂の場所わかってんのか!」


と俺が声を掛けるがそれに振り向きもせず、1階へと向かう


かりゅう(かりゅう)だった。














-----(第三者視点)------☆




 一方、テンタ達が居る大陸とは別の大陸の南端にある


周りは岩だらけの荒野が広がる場所の地下にダリウス率いる


悪魔軍団が拠点にしている場所がある。


そこから数キロ離れた場所に、岩だらけの丘があり、その丘


の洞窟の一番深淵部にそれは居た。


 高さ100mに及ぶ黒い球体……。


その球体には、まりものような黒い毛で全体が覆われており。


 また、その毛は渦を巻くように体全体に生えていた。


その黒い球体を縛るように、無数のバインド……バラの


茎のように棘が生えたツタは、その球体に絡むように


生えていた。


その傍らには、悪魔公爵ヤブー配下のベビルデーモン


メフィレス(黒い梟の顔で体が狼の毛で覆われ尻尾が


蛇の男)が居た。


 メフィレス(黒い梟の顔で体が狼の毛で覆われ尻尾が


蛇の男)は、その黒い球体に話しかける。


「ですから、ダリウス様にご協力していただければ、


すぐにでも、このバインドを解いて外に出して差し上げ


ようと先ほどから申しておりますのに」


その言葉に黒い球体は念話で答える。


≪協力……あのダリウスにか≫


”ふん”っとメフィレス(黒い梟の顔で体が狼の毛で


覆われ尻尾が蛇の男)の申し出を鼻で笑い。


≪こんな目に合せたダリウスにこの儂が協力だと……


笑わせるでないわ≫


と強がる黒い球体にメフィレス(黒い梟の顔で体が狼


の毛で覆われ尻尾が蛇の男)が言う。


「確かにこのバインドに絡めとられ身動きが取れないと


は言え、日に日にその魔力をバインドに吸収されている


にもかかわらず、それを数千年耐えておられるあなた様の


お力には感服いたします……いたしますが、とは言え


後千年も経てばその御身も消えてなくなりますぞ、それで


も良いのですかな」


その言葉に、またもや”ふん”っと鼻で笑い黒い球体は


言う。


≪協力……とはいいようだが、要は儂にダリウスの配下に


成れと言うことではないか、バカも休み休みにせい≫


その言葉にメフィレス(黒い梟の顔で体が狼の毛で覆わ


れ尻尾が蛇の男)が、首を横に振りながら、


「いえいえ、配下になれとなど申しておりませぬ、あくまで


ダリウス様と対等の関係で……」


と言いかけるとそれを遮るように黒い球体は言う。


≪奴と手を組むぐらいなら儂はこのまま野垂れ死にを選ぶわい≫


その間髪言わせぬ言葉にメフィレス(黒い梟の顔で体が狼の毛で


覆われ尻尾が蛇の男)は、やれやれと言う顔をして、


「致し方ありませんな……」


と言うと、配下のレッサーデーモン達を数体呼び寄せ、


何やら大きな装置を黒い球体の前に置かせた。


そして、今までのような低姿勢から急に態度が変わり、


「いい加減にしろ太古の魔王アザトホース!、こちらが下手に


出ていればずいぶんないいようだな、従わぬと言うなら


従わせるまでよ!」


とその黒い球体に向かって言うと、球体の前に置いた大きな


装置を配下のレッサーデーモンに命じて装置を起動させた。


((((((((ウイーン))))))))


((((クワンクワンクワン))))


すると、黒い球体が急に苦しみだす。


≪うぅっ…、っあ、なっグァァァ―――――――ッ!!!≫

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