147話 エスカルゴとシャンソン




------(テンタ視点)------☆





 玄関エントランスの奥の大きな扉の向こうに食堂はあった。


 中はかなり広い……そんな広い食堂の真ん中には20人は座


れるだろうテーブルが一つあり、俺達はそのテーブルの一番奥側、


部屋の暖炉側に座らされた。


俺、三毛猫オトアかりゅう


俺の向かい側には、ヴァルカス(スレンダー)さんが座る。


そして各人の前に昼食が置かれる。


出てきた料理は……クロックムッシュ。


 これは、俺達の世界のフランス料理の一種と同じ料理。


ヴァルカス(スレンダー)さんの話によると、100年に


このイディアの世界に転生した転生者によってここコラク


ル国にこの『クロックムッシュ』と言う料理だけでなく、


その転生者が作るフランス料理をその時の国王がすごく気に


入りこの国に広まったそうで、今ではコラクル料理として


広く一般にも食べられるようになったらしい。


『クロックムッシュ』とは、ハムとチーズをはさんだパンを


フライパンで焼いたもので、ベシャメルソースなどのホワイ


トソースをかけて食べる軽食料理だ。


こんがりとしたトーストの表面にクリーミーなホワイトソース


がとてもおいしく、トースト内でとろけたチーズが絶妙って感じ。


「う~んおいしいw」


「うん、イケますねw」


三毛猫オトアと俺がそう満面の笑みを浮かべながら言葉口に


すると、向かに座るヴァルカス(スレンダー)さんも同じように


頬張りながら、


「だろw」


とほほ笑んでくる。


それを見て、給仕に付いてくれたメイドさん達も笑顔になった。


それをそっと見守るメイド長のソフィアさんだった。













 昼食が終わったころ、ヴァルカス邸の玄関には馬車が横付けされた。


いまから、コラクルの王都の街へ出かけるためだ。


 季節はもう11月なので、外は冷えると言うことで、馬車に乗る前


に俺は、ミリー(トム妻)さんからもらったマフラーを首に巻き、


三毛猫オトアには、同じくミリー(トム妻)さんからもらった手編みの


頭からすっぽりかぶれるフード付きの白い服を着せ、ヴァルカス(スレンダー)


さん共々馬車に乗り出かける。


 目的地は、ここ貴族のお屋敷街から馬車で10分程度離れた王都の


中心部の街である。


 馬車を降りた俺達は、ヴァルカス(スレンダー)さんの案内で、


街の中を散策する。


 中世の建物が並ぶ中、時折見かける飲食店では、店の前にテーブル


や椅子を置き、三毛猫オトアが言うような”パリ”の街並みっぽい


印象を俺も持った。


 雑貨屋や、洋服屋などを外から眺めながら歩いていると、不意に


かりゅうの背中に載る三毛猫オトアが俺に話しかける。


「ねぇ、ねぇ、テンタ君w」


「どうしたオトア?」


「あのさ、ガンブレイブのみんなに何かお土産を買わない?」


その三毛猫オトアの提案に俺が、


「あ…あ、そうだな……」


と返すと、


「何か、この国の名物とかはないんですかヴァルカスさん?」


と一緒に歩くヴァルカス(スレンダー)さんに三毛猫オトアが聞く。


すると、ヴァルカス(スレンダー)さんが、少し考えて


「…うーんそうだな、この国は良質のブドウが取れるから、ワインなんか


いいんじゃないか?」


答えてくれた。


「ワインですか……確かにトムさんやガイゼルさんは喜びそうだけど


……」


と俺が言うと、ヴァルカス(スレンダー)さんが


「そうだな、後はスイーツが有名かな」


と言われるが、俺が


「でも、スイーツだとあまり日持ちがしないんじゃ……」


と言いかえすと、ヴァルカス(スレンダー)さんが、”うん”っと


言う顔で、


「何言ってるんだ、テンタお前小鎚持ってるんだろう」


と聞き返すので、俺が”うん”と首をひねっていると三毛猫オトアが言う。


「そうよ、小槌の中に仕舞えば、傷むことはないじゃないテンタ君」


そこまで言われ、俺も”ああ”って顔で、


「そうでしたw」


と返す。


そんな訳で、ヴァルカス(スレンダー)さんの案内で、トムさん、


ガイゼルさんそれにケンタウロスのレツさんダイさん用にワイン


を買い、女性陣用にスイーツを買うことにした。


お酒のことは全く知識がない俺と三毛猫オトアに変わり、


ヴァルカス(スレンダー)さんにワインを選んでもらった。


そして、ヴァルカス(スレンダー)さんの案内で今度は


スイーツのお店に向かう。


 ヴァルカス(スレンダー)さんのお勧めのお店『ゴンチャゾフ』


ここはスイーツを買うだけでなく店内でも食べれるそうなので、


俺達もお土産用だけでなく自分達も食べることにした。


 店の外にあるオープンカフェでそれぞれ選んだスイーツと


飲み物を楽しむことに……。


 全員飲み物は……『カフェオレ』。


異世界では、珍しくここコラクル国の人達はコーヒーを飲む。


っと言っても当然コーヒー豆は輸入品で、主に南晋王国からだが、


最近ではネシア王国からも輸入が始まったらしい。


で、各人が選んだスイーツは……


 ヴァルカス(スレンダー)さんが選んだのは『マカロン』……。


(ちょっと意外!?)


俺は、『クレーム・ブリュレ』。


表面の砂糖を焦がした、パリパリのカラメルで、中はプルプルの


カスタード。


三毛猫オトアは、『 シュー・ア・ラ・クレーム』って、


要はシュークリーム。


そんで生意気にもかりゅうが選んだのは……『エクレール』


これも要はエクレアなんだけどね。


オープンカフェで、街の人達を眺めながらみんなで楽しく会話をし


頂いた。


そして、俺達が食べた同様のスイーツは、お土産用にも購入し、


ワインと共に俺の小槌の中に仕舞った。













 まったりとした時間を過ごした後、もう少し街の散策をして、


夕方になり、俺達はそのままここの近くにある劇場側の高級レス


トランへと向かった。


 お店の名前は『コテ・シャトー』城の側って意味らしいが……。


 ヴァルカス(スレンダー)さんがあらかじめ予約を入れてくれて


いたお店で、ヴァルカス(スレンダー)さんに続いて俺達も店の


中へと入って行った。


(なんか高そうなお店)


 やはり貴族の御用達のお店だけあって、高級感あふれるお店。


「いらっしゃいませ」


支配人らしき人がお店に入って来た俺達を見て言う。


「予約していたヴァルカスだ」


その支配人にヴァルカス(スレンダー)さんがそう告げると、支配人


らしき人が予約表らしきものに目を通し、


「ヴァルカス(スレンダー)様、お伺いしております」


と言い、側に居たボーイの人に目配せすると、そのボーイさんが


俺達に頭を下げて、


「どうぞこちらへ」


と案内してくれた。


ボーイさんについて行くと、店の奥にある個室に案内された。


「えっ、個室……」


と驚きながら言うと、ヴァルカス(スレンダー)さんが俺にウインク


して、


「個室なら誰も見ていないから、マナーを他人にとやかくいわれ


ねーだろ?」


と言って来た。


(確かに、俺もそうだけど、三毛猫のオトアや、犬のかりゅうが


真面なマナーなんて無理だものな)


 俺達が席に着くとボーイさんが、ヴァルカス(スレンダー)さん


に飲み物のメニューを見せ聞く。


「お飲み物はどういたしましょう」


「そーだな……」


と言いながら俺と三毛猫オトアをちらっと見て、


「テンタ達は飲めねーんだったな」


と聞いてくるので俺と三毛猫オトアが、


「「はい」」


と答えると、ヴァルカス(スレンダー)さんがボーイさんに


メニューを指さしながら、


「これと……あとは葡萄ジュース3つ」


と言うと、ボーイさんが、


「かしこまりました」


と頭を下げ、飲み物のメニューを下げ、部屋を出て行った。


そして、待つこと……10分。


飲み物と共に前菜オードブルが運ばれてくる。


「お待たせしました」


 俺達のテーブル前には葡萄ジュースが置かれ、ヴァルカス


(スレンダー)さんには、注文したワインらしき瓶の銘柄を


見せワインの確認をヴァルカス(スレンダー)さんしてもらうと、


次いで、ヴァルカス(スレンダー)さんの前に置かれたグラスに


少しだけワインを入れ、それをヴァルカス(スレンダー)さんが、


テイスティングをする。


「うん」


ヴァルカス(スレンダー)さんが頷くのを見て、さらにグラスに


ワインを注ぎ、次いでみんなの前に前菜オードブルをおいて、


ボーイさん達は部屋を出て行った。


それを見たヴァルカス(スレンダー)さんが、


「さぁ~、たべよう食べようw」


と言うので、俺は目の前の料理を見るが……。


俺と三毛猫オトアは、目の前の料理に固まった。


「「えっ、!」」


目の前にあったのは、カタツムリ……もとい、エスカルゴ。


固まる俺と三毛猫オトアにヴァルカス(スレンダー)さんが、


笑いながら、


「まぁ、食べてみろw」


と促すので、俺は専用のトングでカタツムリの殻を掴み、ホークで


中身を出し、恐る恐る口にする。


(んっ……あー、まぁ……)


食べれないことはない。


エスカルゴ事態に味はなく、つけているソースがガーリク味。


エスカルゴバターと呼ばれるバターソースと言うらしいが、


ヴァルカス(スレンダー)さんによると、パセリとニンニクの


みじん切りをバターに練りこんだものだそうだ。


俺の様子を”ジー”と不安げに見つめる三毛猫オトアに、


「うん、不味くはないよサザエみたいな食感だよ」


と言うと、三毛猫オトアも俺が殻から取り出したエスカルゴに


鼻を近づけ”クンクン”匂いを確認してから恐る恐る口を付ける。


「うーん、サザエと言うより、シイタケの軸!?」


と首を傾げ言う三毛猫オトアのその横で、


\\バリバリ、ボリボリ//と殻ごと食べるかりゅうだった。













 コース料理は続く。


 前菜オードブルに続いて、スープ。


トリュフ風味のコンソメスープ。


続いて、サラダ。


ヤギチーズのサラダ……。


サラダ菜の他に、リンゴの千切り、ミニトマト、クルミの実をあえて、


その上に、オーブンで焼いたヤギのチーズ(シェーヴル・ショ)と薄切


りのパン(パン・ドゥ・ミ)の上に、さらっと蜂蜜が載ってるやつ。


(うーん少し山羊のチーズの臭みが……)


と思いつつ、何とか完食する俺と三毛猫オトア


で、続いてが魚料理ポワソン


これは、舌平目のムニエルで難なく俺も三毛猫オトアもクリアする。


そしてメインの肉料理ソルべ


カモのフィレ肉とカシスソース添え、付け合わせのジャガイモのピューレ


ってやつで、これは俺も三毛猫オトアも美味しく頂いた。


そして、デザート。


フォンダン ショコラ……外がチョコレートケ-キで中を割ると、美味し


そうなチョコレートソースが出てくる。


(これは絶品!)


最後はコーヒーで締める。


 まぁ、ちょっと苦手なものもあったけど、おおむね美味しかった。


 夕食が終わり、この後近くの劇場に向かう。













 劇場に入ると、そこは半円形の劇場だった。


俺達は、前の方の席と言っても、舞台前にはオケボックス(オーケストラ


の演奏をする場所)があるので、前の席と言っても舞台前から少し離れた


席だった。


 今日鑑賞するのは、演劇ではなく”歌”だ。


なんの歌かと思ったら、『シャンソン』だった。


ここコラクル国では、シャンソンが流行ってるらしい。


ここでは、マイクも持たずにシャンソンを歌う歌手の声量に驚いた


ものの、歌自体は、俺にはちょっと合わないって感じかな。


俺の隣に座る三毛猫オトアもそうみたいで、時折、船をこぎ聞いて


いる感じだった。


もっとも、その隣のかりゅうは、興味ないのか始まってそうそう


椅子の上で丸くなりそのまま寝ている始末。


(まぁ、しょうがないけどね)


2時間の『シャンソン』シヨーを堪能!?っし、劇場前に迎えに来た


馬車に乗り、ヴァルカス邸へと帰り、自室で三毛猫オトアと俺は


パジャマに着替えそのまま就寝する。


(いや~フロッグコートって肩こるんだよなぁ~)














 朝、食堂で朝ごはんを食べる。


今日のメニューは、フレンチトーストとサラダにコーヒー。


 朝食を食べ終わると、ヴァルカス(スレンダー)さんが、


唐突に、俺と三毛猫オトアに言う。


「ああ、テンタにオトア、俺はこれからちょっくら用事が


あるからホワイトキャッスルに戻るわw」


その言葉に、俺が


「えっ、ああ、はい」


と返事をすると、


「後のことは、ソフィアに頼んでいるから、お前らは安心して


この後も楽しめw」


と俺に言うが……。


テーブルの上に載る三毛猫オトアが、ヴァルカス(スレンダー)


さんに聞く。


「用事って何ですか?」


その言葉にヴァルカス(スレンダー)さんが、”ああ”って顔で、


「うん、これから起きるかもしれない悪魔との戦いのためにな、


ガイゼルの親戚んとこの工房に頼んでいた、ホワイトキャッスル


の追加武装が完成したらしくその取り付けにな」


と答えると、三毛猫オトアは納得したのか、


「わかりました、お気をつけてw」


と返す。


 俺達はヴァルカス(スレンダー)さんを見送るため、ヴァルカス


(スレンダー)さんと庭に出た。


すると早速ヴァルカス(スレンダー)さんが変身する。


「スレンダーBファイター出る!」


との掛け声と同時に、ヴァルカス(スレンダー)さんは巨大な重爆撃機


へと姿を変えた。


それを見た俺の口から、


「デ・デカイ!」


思わずそう言葉が出た。


(でも、いくら広い庭だと言え、こんなに大きな飛行機が飛び立つだけの


……)


と俺が密かに思っていると、


「テンタ、早くそこをどけ、ぶっ飛ばされるぞ!」


と言われたので、俺は慌ててBファイター(スレンダー)さんから離れると、


((((ゴー)))))


と言うエンジン音と共に……とび……。


「へっ?」


まっすぐ滑走して飛び立ちと思いきや、垂直にそのまま上昇し、ある程度の


高さまで上昇すると、後部ロケットエンジンを点火させ、


\\バビュン//


とものすごい爆発音と共にBファイター(スレンダー)さんは空のかなたに


消えて行った。


(BファイターってVTOL機(垂直離着陸機)だったんだね)


と空を見上げ心にそう思う俺だった。


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