68話 禍龍





『あれ~これなんだろう』


とヘルメット内の右モニターのオトアが言う。


『何だいオトア?』


と俺がオトアに尋ねると、


『テンタ君後ろ振り向いて見て』


と言うので、俺がゆっくり振り向いて見ると、そこには石を積んで


出来たであろう大きなドーム状のものがある。


『なんだこれ!?』


驚く俺に再びヘルメット内の右モニターのオトアが言う。


『お墓じゃない?』


『お墓!?どうしてそう思うんだい』


俺がそう聞くと、


『ほら、歴史で習った円墳って言うのに似てない?』


と。


オトアの言葉に俺は改めてドーム状のそれを見る。


『まぁ、それっぽいっちゃ、それっぽいが……』


そんな会話をオトアとしていたら、今度はヘルメット内の左モニター


のエードラム様が言う。


『あそこに入り口があるみたいよ』


『えっ、はぁ…』


エードラム様の言葉に気のない返事をする俺に、ヘルメット内の


右モニターのオトアが言う。


『宝物があるかもしれないよ、テンタ君、行ってみようよ』


とヘルメット内の右モニターのオトアがノリノリで言う。


『うっ、うん』


あまり俺はのる気ではないが、オトアがそこまで言うのならと、


その円墳ぽいドームの入り口まで、マリンバリアンで静かに


入り口に向かうのだった。













 高さ2mで、幅1.7mの金属の両開きの扉。


『んっ、封印魔法が掛かってるようね』


とヘルメット内の左モニターのエードラム様が言う。


『テンタ君、右掌を扉にかざして』


とさらにエードラム様が言うので、俺はエードラム様の言う通り、


右掌を扉にかざすと……。


『ソーラーフラッシャー』


とエードラム様が叫ぶ。


\パシュッ/


眩いばかりの光のフラッシュが俺の右掌から放たれる。


『これで良し、テンタ君扉を開けてみて』


『あっ、はい』


そうエードラム様に言われ、ゆっくりと、左右の扉を開く。


(((ギーィ)))


 扉の中も海水が満たされているようで、そのままマリン


バリアンでゆっくりと進む。


『ナイト・スコープ!』


あたりは暗いので、視界モードを切り替える。


 そのまま、通路をゆっくりとマリンバリアンで進むと、


明かりがさしているのが見えた。


(んっ?なんだろう)


と思いマリンバリアンで先に見える明かりを目指す。


しばらく、進むと光源の元にたどり着いた。


 丸い円形のその場所は、感覚としては、ドーム球場くらいの


広さは、あるだろうか……いや、もっと広いかも。


そこに、通路側からここへ入る入り口付近の真上から光が射して


いるようだ。


 視界モードを通常に戻して見てみると、どうやらここの天井が


崩れたらしく、その上の階から光が漏れていた。


 高さ3mほどの天井部分に俺はマリンバリアンを浮上させる。













\\ザッバーン//


浮上すると、そこには何もない……。


 ただ、そこには上に昇る階段があるだけだった。


 俺は慎重に足場を確認しながら、マリンバリアンから降り、今にも


崩れそうな床に降り立った。


 降り立つと同時に小槌を出して、マリンバリアンを仕舞う。


間近にある俺から見て右側の階段を見上げる。


『行ってみましょうよw』


とヘルメット内の右モニターのオトアが言うので、慎重に俺は階段を


昇ると、そこにはまた金属でできた扉があった。


『んっ、ここも封印魔法が掛かってるようね』


とヘルメット内の左モニターのエードラム様が言う。


俺は、先ほどの扉同様、右掌を扉にかざすと……。


『ソーラーフラッシャー』


とエードラム様が叫ぶ。


\パシュッ/


眩いばかりの光のフラッシュが俺の右掌から放たれる。


『テンタ君、封印はリセットしたわよ』


とヘルメット内の左モニターのエードラム様の言葉を受け、


俺は慎重に扉に手を掛け左に引く。


(((ギーィ)))


『なっ・なんだこれは』


俺は目の前の光景に驚いた。













 驚く俺に、ヘルメット内の右モニターのオトアが言う。


『中国にある始皇帝陵の兵馬俑みたいだねテンタ君』


俺は、オトアの言葉に、


(確かに……それっぽいな)


と思った。


 おそらく、陶器ぽい材質で作られた兵隊さんの人形が、


ざっと千体ほどあるように見える。


 ただ、不思議なのは、みんな俺がいる扉側でなく、正面に


ある大きな扉の方を向いていた。


(なんで、内側にある扉の方を向いているんだろう?)


と思いながら、入り口から1歩、この階のフロアに足を


踏み込むと……。


\\\ザッ///


と突然それら千体の兵隊さんの人形が、俺の方に


振り返る。


『えっ!』


しかも、みんな目が赤く光っていた。


(これ…やばいんじゃないの)


 俺は、慌てて、階段の入り口の方に戻った。


すると、


赤く光った目の光が消え、


\\\ザッ///


と突然それら千体の兵隊さんの人形が、もとの正面に振り


返る。


『えっ!?』


その状況に俺が驚くと、


『どうやら、この子達にも術式が掛かっているみたい』


ヘルメット内左モニターのエードラム様が言う。


『術式!?……どういう?』


エードラム様の言葉に俺が聞き返すと、


『ちょっと待ってね、テンタ君』


と言い、しばらく無言になるエードラム様。


そして、しゃべりだした。


『あ~ん、この子たちは基本、あの正面の扉の中に居る何かに


対して、攻撃対象にしているようで、それとその正面の扉を開


けようとする者も攻撃対象になっているようよ』


と言うエードラム様の言葉を聞き、


『えっ、でも俺、扉を開けるも何も、そこのフロアに一歩入っ


ただけですよ』


と俺が反論すると、ヘルメット内左モニターのエードラム様が、


『でも、その時正面の扉を開けようと思ってなかった?』


って言われ、俺は少し考えた。


(確かに、ここに来る前にオトアに宝物あるかもって言われ、


あの扉の中にあるかも……って思っていたような)


『何も考えずに入ってごらんなさい』


とエードラム様に言われ、


『わかりました、やってみます』


そうエードラム様に答え、


(何も考えない、何も考えない)


と心で思いながら、人形たちがいるフロアに足を1歩踏み入


れた……ら。


\\\ザッ///


と、またもや千体の兵隊さんの人形が、俺の方に


振り返る。


(あれ~?)













 兵隊さんの人形が、一斉に俺の方に振り返るったので、俺は


また、慌てて階段の入り口の方に戻った。


すると、またもや赤く光った目の光が消え、


\\\ザッ///


と千体の兵隊さんの人形が、もとの正面に振り


返る。


『はぁ~駄目ね、テンタ君、雑念が消えてないわ』


とヘルメット内左モニターのエードラム様が、ため息交じりに


俺に言うと、


『仕方ない、テンタ君体のコントロールを私に渡して』


その言葉に俺は素直に、


『はい』


と答え、自身の体のコントロールを手放した。


エードラム様は、俺の体のコントロールをして、階段の入り口


の方から、人形たちがいるフロアに足を1歩踏み入れる。


 何も起こらない。


(んーっ、俺には雑念があるのか?)


そして、千体の兵隊さんの人形の間を丁寧に周り、


両掌を兵隊さんの人形へとかざし、


『ソーラーフラッシャー』


とエードラム様が叫ぶ。


\パシュッ/


眩いばかりの光のフラッシュが俺の両掌から放たれる。


 これを繰り返すこと10数回。


『これで良し、すべての人形の術式は初期化できたわ』


『テンタ君、体のコントロールを返すわねw』


ヘルメット内左モニターのエードラム様が、そう言うと


同時に俺のコントロールが元に戻った。














『んーっ、これは複雑すぎてソーラーフラッシャーでは、


初期化できないねぇ~』


と俺のヘルメット内左モニターのエードラム様が言う。


 今、俺達は兵隊人形が警戒していた扉の前に居る。


『じゃ、ダメって事ですか?』


と俺が聞くと、人差し指を顎に当てて少し考えるエー


ドラム様が、


『いいえ、少し時間かかるけど』


と言い、さらに


『テンタ君、この扉の鍵穴に人差し指をかざしてみて』


っておっしゃるんで、扉の鍵穴に人差し指をかざすと、


”にゅ~”っと光の紐が伸びて扉の鍵穴へと入って行


った。


 しばらくすると……。


\カチャン/


って音がして、


『よし、開いたw』


てヘルメット内左モニターのエードラム様が自信気に


言った。


『テンタ君、扉を開けてみて』


とエードラム様に言われ、俺は両開きの扉の取っ手をもって


思い切り引き開ける。


(((ギーィ)))


『んっ!?』


扉の向こうに広がるのは……。


上下とか左右とか奥とかって言う感覚がない世界。


俺がそこに1歩踏み入れようとして、


『えっ!、あ~あぁ!』


とその空間内へと落ちて行く……感覚。


『テンタ君!』


と俺のヘルメット内左モニターのエードラム様の言葉に、


俺は、素早く体のコントロールを手放し、エードラム様


にゆだねると……。


俺の体が赤い光に包まれ、ふわりと浮いた。


その時だった。


≪誰だ!≫


と声!?なのか念話なのか、頭の中に響く低い声。


 すると突然目の前に……。


全長30mの巨大なドラゴンではなく……龍!?緑色の龍が現れた。


『うっわぁ!』


『きゃぁ~』


俺と俺のヘルメット内右モニターのオトアが驚き声を


あげるが……。


『んっ!?なぁ~んだ禍龍かりゅうじゃないの』


と俺のヘルメット内左モニターのエードラム様がおっしゃる。


(えーと、お知合いなのかなエードラム様の……)


と言う俺の思いをよそに、


『あなた、7千年もの間、どこに行ったかと思っていたら、


こんなとこに隠れていたなんて……』


とエードラム様の言葉に、禍龍かりゅうは、憤慨したような態度


で言う。


≪我は、隠れていたわけではないわ≫


そんな禍龍かりゅうの言葉にニヤリと笑ったエードラム様が言う。


『は・はぁ~ん、やっぱりあの噂は本当だったのねぇ』


その言葉に、少し焦ったように禍龍かりゅうは言う。


≪な・何のことだ≫


その禍龍かりゅうの様子にエードラム様は”ジト”目で、


『7千年前、あなたがチョーラ帝国の人間にちょっかい掛けて


、封印されたって、う・わ・さw』


その言葉に慌てて禍龍かりゅうが、


≪な・何を言う、我はちょっかいなどかけておらん!≫


≪ただ、あの者たちが、祭りと言うものを楽しんでおったので


、少し我も仲間に入れてもらおうと思っただけじゃい≫


その態度と言葉を聞いたエードラム様はさらに禍龍かりゅうに言う。


『どうせ、そのままの姿で人間の祭りに乱入したんでしょw』


と言うエードラム様の言葉に、禍龍かりゅうは、絶句し、


≪なぜ、そ・れを……≫


と恐る恐るエードラム様に聞く禍龍かりゅう


それを見て、


『あなたの、そのおっちょこちょいの性格は昔からじゃない』


『何で、人間に擬態しなかったのよ、そんなバカでかい図体で、


人間の前に現れたら、普通の人間なら驚くでしょ』


と言われ、”その手があったか”と言う表情で、


≪あっ、そうすればよかったのか≫


と言う禍龍かりゅうの言葉に、呆れるエードラム様だった。













≪ところで、エードラム、なぜ光の精霊のお前が、人間……


いや猫の体に居るのだ?≫


と唐突に禍龍かりゅうが、エードラム様に聞く。


聞かれたエードラム様は、ニッコリ笑って


『それは、ひ・み・.つよw』


とウインクしながらエードラム様が言う。


そして、”そんなことより”って顔で、


『そんなことより、あなた、ここから出たい?』


って唐突に禍龍かりゅうに言うと、


≪えっ、出れるのかエードラム≫


と聞き返してくるので、


『出してあげてもいいけどw』


微笑みながら禍龍かりゅうに言うと、禍龍かりゅうは、身を乗り出して、


≪出来るのか!≫


ってエードラム様に聞くと、


『当たり前でしょ、光の精霊をなめないでよね』


と言い返し、


『ただ、条件があるの』


と言うと、禍龍かりゅうは、少し”疑わしい”って顔でエードラム様に


聞く。


≪条件とは?≫


その言葉に、エードラム様は、


≪私達のしもべになりなさい≫


と高圧的に言った。


エードラム様のその言葉と態度に禍龍かりゅうは、憮然として


≪な・なんで、我がお前の……しかも、お前だけでなく、この小僧と


弱っちー猫のしもべにならんといかんのだ≫


≪いやしくも、我は龍ぞ、精霊であるお前達と同等の力を持つ我が


、貴様のしもべになると言うのも我慢ならんと言うのに、


弱っち―人間と、その弱っちー人間よりさらに弱っちー猫なんぞの


しもべだと、バカも休み休み言え!≫


と急に怒り出した。


その態度を見た、エードラム様は、


『あっ、そう、じゃ、私達は帰るわね』


と言い放ち、俺とオトアに言う。


『テンタ君、オトアちゃん、帰りましょ』


その言葉を聞いて俺は、エードラム様の考えを察し、クルリと後ろを


向き禍龍かりゅうから、遠ざかろうしたその時だった。


≪ま・待て、待ってくれエードラム≫


と懇願するような声で、俺達を呼び止める。


俺はくるりと禍龍かりゅう方に向きを変え、


『どうするの、禍龍かりゅう、私達のしもべになるの、ならないの!』


と、エードラム様が、禍龍かりゅうに詰め寄ると、


≪わ・わーた、なる・なります、ならせてください≫


と半ばやけくそで言う禍龍かりゅうにエードラム様が勝ち誇ったように笑顔で、


『わかったは、じゃ~』


て言った瞬間、禍龍かりゅうは、眩い光に包まれた。


そして、俺に向け言う。


『テンタ君、この光を小槌に仕舞って』


俺は、そういわれ、”えっ”っては思ったが、素直にエードラム


様が、言う通り、小槌を出して、その光に包まれた禍龍かりゅうを小槌に収納


するのだった。














 禍龍かりゅうの居た円墳らしき海底のドームから出た俺は、


マリンバリアンで、全速力で美魚メイリーユー村の漁港を目指した。


 しばらくして、美魚メイリーユー村の漁港の浜に到着すると、俺を心配


したシェリーさんとタミーさんがすぐ駆け寄って来て、


「遅かったじゃない、テンタ君、オトアちゃん!」


「念話も通じないし、心配したんだからね!」


開口一番、2人に怒られた。


「ごめんなさい」


『ごめんなさい』


 さんざん、シェリーさんとタミーさんに怒られた後、


シェリーさんが言う。


「ところで、あれ回収した?」


その言葉に、俺は精一杯の笑顔で、


「はい」


と答える。


(これ以上、怒られたくないんで)


「村の人達に見せたあげて」


とタミーさんの言葉に、俺は頷き、砂浜の広く開いている所を見つけ、


小槌を振って……。


\\\ドーン///


と、海坊主の遺骸をだした。


 そこに、恐る恐る集まる村人。


始めは、遠巻きにおっかなびっくりで見たいた村人も、徐々に近づい


てきて、ある男は持っていた銛で突き、ある少女は持っていた木の棒


で、叩いたり、あるおばあさんは、持っていた中華包丁でしこたま、


海坊主の遺骸に切りつける。


 おそらく、夫や父親、息子を海坊主に殺されたんだろう。


(まぁ、村の人達がそれで気が済むんなら)


と思いながら、俺達はその光景を眺めていた。














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