11話 囮(おとり)





「あなた達、悪魔皇帝ダリウスをおびき出す”えさ”に


なってくれないw」



「え――――っ!」


≪え――――っ!≫


突然の言葉に俺と三毛猫オトアは驚き叫ぶ。


 驚く俺達に、悪特隊キャップ(隊長)のドルフさんが、


「まぁまぁ、落ち着いてテンタ君、オトアちゃん」


と、なだめる様なしぐさで言う。


「悪魔皇帝ダリウスは、おそらくオトアちゃんを……


と言うより、正確にはオトアちゃんの魂を狙ってくるわ」


と、真剣な表情で言うディア教授。


「どうしてですか?」


と言う俺の問いに、


「悪魔は、むくろだけでは力を発揮できないのよ、


悪魔が憑依するのは生きている人間……つまり、体と


魂がある状態」


「でも、それなら他の魂を代わりに使えばいいのでは?」


ディア教授の言葉に反論する俺。


「ええ、確かに悪魔は憑依した人の魂以外にも、人の魂を


喰らい自身のエネルギーに変えることはするんだけどね」


と俺に言い返し、さらに続ける。


「でもね、憑依した人の魂がベースにあってのこそなのよ


元々悪魔は実態のない体だけだと、この人間界と言うか物質


界に干渉しにくいのよ」


「どういうことですか?」


再び疑問を俺はディア教授にぶつける。


「悪魔ってね、アストラルボディ(精神体)でしょ、


だから、人の魂(アストラル体)と融合しないと、


物質界に干渉できないって言うことよ」


「う―ん」


説明が今一わからない俺に、


「悪魔が憑依するとは、まず人の魂と融合し、その人の体を


支配する……と言うことでは?」


と悪特隊キャップ(隊長)のドルフさんが言う。


「まぁ、少し乱暴だけど、外れではないわね」


「はぁ、で、オトアが狙われると言うのはわかりますが、


俺もと言うのは?」


悪特隊キャップ(隊長)のドルフさんの言葉を、肯定するディア


教授に、俺はさらに自分が疑問に思うことを聞く。


「それはね……オトアちゃんの魂と、オトアちゃんの体


(悪魔皇帝ダリウス)の回廊が繋がったままなのよ」


「繋がったまま?」


と聞き返す俺に、ディア教授が説明する。


「そう、ほら、テンタ君がダリウスに襲われそうになった時、


急にダリウスが、動かなくなったのよね」


「はい」


同意する俺。


「その時、オトアちゃんはどうしたの?」


とディア教授が、三毛猫オトアに聞いた。


≪えっ……えーとっ、襲わないでぇ~って必死に念じました≫


その答えを聞いて、”ほら”って感じの表情で、ディア教授


は言う。


「で、ダリウスは動かなくなった……と言うより動けなかっ


たのねぇ」


と言うとニッコリ笑い続ける。


「つまり、オトアちゃんの魂と体は、今だつながったまま


って事なの」


「はい……」


 しかし、これでは俺が聞いた質問の答えにはなってない、


って顔をしていたんだろうか、ディア教授は話を続けた。


「で、問題はオトアちゃんの魂と体の回廊が繋がったまま


だと、ダリウスには都合が悪い……」


と、ここまでの言葉を聞いて、俺が口を挟む。


「それは、オトア(魂)に体をコントロールされるから……


ですか?」


「うん、それもある、それもあるけど、何よりその状態で、


ダリウスの体にオトアちゃんの魂を戻しても、逆にオトア


ちゃんにダリウスが乗っ取られるって事なの」


「えっ!」


その言葉に驚く俺をしり目に、ディア教授は、話を続ける。


「で、おそらくダリウス達はこう考える」


「本来、悪魔が人に憑依するときは、その人間に恐怖と絶望を与


え、”死”を意識させ、魂を揺さぶり憑依するのよ、支配すると


言う意味でもね」


「だ・か・ら、テンタ君!君を狙うという訳」


「はい!?」


(意味が全く分からん)


と考える俺をよそに、ディア教授は再び三毛猫オトア


質問する。


「オトアちゃんは、テンタ君を愛しているのよねw」


って、唐突に こっぱづかしい質問を投げかける。


≪えっ……はいw……あ・い・し・てましゅ≫


三毛猫オトアの返事に、三毛猫オトアだけでなく、俺までもが


顔を赤くして俯く。


「その愛してる人が、あなたの目の前で、散々いたぶられた挙句、


殺されたるとしたら?」


≪え――っ!、駄目です、だめです、そんなの絶対駄目です!≫


と強く否定する三毛猫オトア


「絶望よね……」


「……」


≪……≫


ディア教授の言葉に絶句して何も言えない俺と三毛猫オトアだった。











 しばらくの沈黙の後、トム(バルジャン)さんが言う。


「そこでだ、お前達に確認だが」


「はい」


≪はい≫


トム(バルジャン)さんの言葉に俺と三毛猫オトアが返事を


する。


「ここの、教会本部に居れば、恐らく悪魔達はお前たちに手を


出せないと思う」


「はい」


≪はい≫


再び返事を返す、俺と三毛猫オトア


「と言うことは、オトアちゃんは一生猫のままって事だ」


その言葉に俺は、


「駄目です!だめです」


強く反論する俺。


それを見て、トム(バルジャン)さんがニッコリ笑って、


「なら、オトリに、ならないとw」


「そうねw、ダリウスを引きずり出さないと、オトアちゃん


の体は手に入らないわよね」


とディア教授もダメ押しで言ってくる。


「やります!やりますとも」


俺は2人に強く言う。


≪駄目だよ、テンタ君を危険な目に合わせるぐらいなら、


私一生この体でもいい!≫


その言葉を聞いて、俺は一瞬、良からぬ考えが頭をよぎる。


(このままだと、オトアと あんなこと、こんなこと出来


ねーじゃないか)


≪んっ?≫


俺の良からぬ考えに、三毛猫オトアが反応しかけたので、


≪何でもない、何でもないからな!≫


と必死で訴える俺。


「じゃれあいは、そのくらいにして、どうするテンタ」


俺と三毛猫オトアの会話を聞いていたとでも言う態度で、


笑いながら聞いてくるトム(バルジャン)さんに、


「やります!やらせていただきます!」


と、急に立ち上がり、思いっきり、頭を下る俺だった。













「では、ここで……」


トム(バルジャン)さんが、テーブルの上で小槌を振る。


\ドスン/


テーブルの上に出てきたものは、シェリーさんとタミーさん


も着用していたバトルスーツぽい物。



「じゃ~んw『宇宙シェリフ バルバン』のコンバット


スーツだ!」


と少々自慢げの様子。


 

 トム(バルジャン)さんの説明によると、これは、特撮


ヒーロー宇宙シェリフ シリーズ第2弾『宇宙シェリフ 


バルバン』のコンバットスーツなんだそうだ。


『宇宙シェリフ バルバン』は、トム(バルジャン)さん


が、スーツで演じた『宇宙シェリフ バルジャン』の次回


作だそうだ。


 それはさて置き、実はこのスーツ、自分にもし男の子が


授かったら、その子用にと、現在の西支部ギルドマスター


を務める『バンダムチーム』のコードネーム「アロム」


さんと共同開発したスーツだそうだ。


 しかし、生まれたのは女の子(シェリーさんと、タミーさん)


なので、これをそのまま使う訳に行かず、このスーツの


設計を基に、シェリーさんと、タミーさん用に作り直した


のが、俺が見た紫と黄のスーツだそうだ。


 なので、基本設計はシェリーさんと、タミーさん用と


同じなのだが……。


「これをテンタに使ってもらおうと思う……」


「が!ここで問題がある」


とトム(バルジャン)さんが言う。


「問題!?とは」


と、悪特隊キャップ(隊長)のドルフさんが聞く。


「このスーツには、これを着る人の筋力、体力、魔力などを


増幅する装置が埋め込まれているのだが……、あくまで、


増幅!」


語尾を強め言うトム(バルジャン)さんに


「?と言いますと」


悪特隊キャップ(隊長)のドルフさんが聞くと、トム


(バルジャン)さんの代わりにディア教授が答えた。


「つ・ま・り、テンタ君の筋力、体力、魔力などの数値が


あまりにも低すぎるって、こ・と・よ」


「ああ!」


と納得する悪特隊キャップ(隊長)のドルフさん。


「で、俺が多少テンタを鍛えるにしろ、そんなに短期間


に数値が、跳ね上がることはなぁ~い!」


「はぁ、まぁそうでしょうな」


とトム(バルジャン)さんの話に淡々と答える悪特隊


キャップ(隊長)のドルフさん。


「そこで、ディア教授と悪特隊にお願いがあるんだが


……」


とトム(バルジャン)さんが言いかけると、


「良いわよw」


話の続きを聞かず、即答するディア教授。


「いやいや、教授……バルジャンさんのお話を聞いてない


ではないですか」


即答する教授に、悪特隊キャップ(隊長)のドルフさんが


呆れて言う。


「テンタ君の戦闘力を上げられないなら、このスーツの


性能を上げてくれ……って事でしょw」


「そうだ、ここ悪特隊の設備とディア教授の技術があれば


可能だろう?」


と聞き返すトム(バルジャン)さんに、悪特隊キャップ


(隊長)のドルフさんが、


「ああ、そういうことでしたら」


納得したように言った。














 今俺達が居るのは、聖クリスタル教会本部の地下2階。

 

 この教会本部の構造は、こうなっている。

 

 地上の建物は、通常の教会とそれに伴う施設になっていて、


地下には、いろいろな秘密の施設がある。


 『地下1階』は、教会の警備をしている警備兵の施設。


 中でも、教会警備をしている警備兵を統括している


CG(クリスタルガード)隊の指令室がある。


 なんでも、すべての警備兵を統括する警備兵のエリート


集団。


 これがCG《クリスタルガード》隊なんだとか。

 

 現在、隊長以下6名在籍。


 『地下2階』は、俺達が居る悪特隊あとくたい本部と


その関連施設。


 『地下3階』は、元老院議会室。


 ここは、聖クリスタル教会本部の大司教1人と、各支部に居


る司教4人に加え、冒険者ギルド協会本部のグランドマスター


を入れた6人が、聖クリスタル国の方針を決める場所。


 『地下4階』は、御前会議室。


 ここでは、聖クリスタル教の神(柱)5人に元老院議会室で決ま


ったことの報告や、また元老院で結論が出ないことについて、聖ク


リスタル教の神(柱)5人の裁定を受ける場所。



『地下5階』は、トップシークレット


 たぶん、神(柱)5人のプライベート空間であろうと言われて


いる。


 トム(バルジャン)さんが言う。


「ここの、教会本部に居れば、恐らく悪魔達はお前達に手を出


せないと思う」


と言うのは、まんざら嘘ではないようだ。


 警備兵の精鋭であるCG警備隊やら、悪特隊あとくたい


加え、前回、悪魔達を滅ぼした神(柱)が5人もいるんだからね。










「では、スーツの件頼みましたよ」


とトム(バルジャン)さんが、ディア教授と悪特隊あとくたいキャップ(隊長)


のドルフさんに告げると、2人とも、


「ええ」


「はい、わかりました」


と答え、それを聞いて、


「テンタ、オトア帰るぞ!」


と俺達に言い、部屋を出ようとすると、悪特隊あとくたいキャップ(隊長)


のドルフさんが、


「ちょっと、待ってください、お送りいたしますから」


と、トム(バルジャン)さん声を掛ける。


それを聞いて、


「おお、そうか、それは助かる」


とトム(バルジャン)さん答えるので、俺達はしばらくこの場で、


待つことになった。


 しばらく部屋で待っていると、悪特隊あとくたい女性隊員の


オーブ隊員が現れ、


「では参りましょう~」


と言うので、オーブ隊員と共に部屋を出た。












 部屋を出て通路を進み、先ほどのエレベーターホールに着くと、


「少々お待ちくださいね」


とオーブ隊員に声を掛けられる。


 オーブ隊員は、エレベーターホールの床にある魔法円の外側を


回し、ある文字を時計の12時の所に合わせ、


「どうぞ」


その言葉を聞いて、トム(バルジャン)さんと俺達はその床の


魔法円の中心に立つ。


 床の魔法円が光り、次の瞬間、俺達は教会の建物の屋上に居た。


屋上に着くとすぐに、オーブ隊員は被っていた尖がり帽子を脱ぎ


……カーペットを出した。


(なに、このカーペット?)


と疑問に思う俺に三毛猫オトアは言う。


≪魔法の絨毯じゃない?≫


 幅80Cmぐらい、長さ340Cmぐらいの細長いカーペット。


「どうぞ~」


とカーペットの先の方に立ったオーブ隊員が言う。


「おお」


トム(バルジャン)さんは、オーブ隊員の後ろに座るので、俺も


トム(バルジャン)さんの後ろに座り、肩に乗せた三毛猫オトア


を膝の上に乗せた。


それを確認すると、オーブ隊員はそのままカーペットの先端に座り、


後ろを振り向き、


「では、参りますw」


と声を掛けた後、


「ウォラーレ~」


と言葉を発すると、俺達の乗ったカーペットは、ふわりと空中に舞う。


「おー!」


≪わー≫


俺と三毛猫(オトア)は思わず声を上げるが、トム(バルジャン)さん


は冷静だった。


「うふふ」


その様子を見たオーブ隊員は俺達を見て笑うと、


「ウエーローキタース」


と叫ぶ。


”ビユーン”


ものすごい速さで、カーペットが飛ぶ。


「わぁー!」


≪キャー!≫


カーペットの速さに驚き、俺と三毛猫オトアだけが、


叫ぶのだった。













------(第三者視点)------☆





「クックック」


悪魔男爵バンバの配下デケム(執事風の姿の男)。


自分の目としてカラスを飛ばし、ずっとテンタ達を監視し


ていたのだ。


 テンタ達がこの世界に飛ばされた地で、水晶を覗きながら


笑っている。


「出てきましたねwこれは好機です。仕掛けるとしましょうか」


そう言うと、\バサッ/と、背中の羽を広げ、マントのように


自身を包むと、\ボワ/と消え去るのだった。


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