8話 聖クリスタル教会本部
宴もたけなわになったころ、俺にトムさんが近づき、
そっと、耳元で言う。
(何言われるんだろう)
と一瞬”ビクッ”としたが、
「明日朝、休みのところ悪いがオトアを連れて、俺と
聖クリスタル教会本部まで一緒に来てくれ」
とささやいた。
「はい」
と俺も小声で返事する。
(よかった~)
◇
俺と
お開きとなった。
1階で、部屋の明かり用のランタンを、ヴィクセンさんから
受け取り2階にある自室に向かう。
”ガチャ”
部屋の扉を開け、中に入る。
\バタン/
手に持ったランタンの明かりを頼りにベッドまで進み、ベッドの
頭付近にある小さなテーブルにランタンを置き、ベッドに潜り込む。
ちょこんと出す。
(猫のオトアも、かわいいな)
と俺が考えると、
≪テンタ君おやすみ≫
とオトアが俺に言う。
「おやすみ、オトア」
と俺も
そして、目を閉じ……寝る……ね、る?
胸に
寝れない。
(なんか、今日はオトアの存在を胸に感じ、”ドキドキ”
してきた)
そんな俺とは対照的に、
俺の胸で寝てるのだった。
◇
生暖かい……ザラとしたものが頬をつたう。
何度も何度も。
「んっ!」
(い・い痛い!)
ハッとして目が覚める。
”ニャー”
目の前に猫……三毛猫。
≪テンタ君おはよう~≫
「あっ、あ・おはようオトア」
寝ぼけた頭が、ようやく動き出した俺。
ベッドから起き上がる。
昨日は、寝れない寝れないと思っていたんだが……。
いつの間にか寝ていたようだ。
部屋を後にした。
◇
「おはようございます」
≪おはようございます≫
1階の喫茶店フロアーに行くと、ヴィクセンさんが、
居たので挨拶する。
「おはよう~、テンタ君、オトアちゃん」
カウンター越しに、返事を返してくれるヴィクセン
さん。
「テンタ君カウンターに座りな」
「えっ」
唐突に言うヴィクセンに俺は驚き、聞き返す。
「いいから、いいから」
と言うので、
「はい」
と言いながらカウンター席に座る俺。
「はいw」
と出されたものは……2人前の、バターたっぷり厚切り
トーストと、ゆで卵にミニサラダ。
(ああ、モーニングサービスね)
俺はコーヒーで、
それを、”ペロペロ”舐めるように飲む
(そこは猫なのね)
◇
≪先に食べて≫
と
ヴィクセンさんにナイフとホークを借りて、
の分を食べやすく切ってあげる。
「ボス達は、まだ、もう少し立たないと来ないから」
「ああ、そうですか」
とヴィクセンさんに生返事の俺。
思い、俺が代わりに食べようとすると……。
≪サラダ、食べれるよw≫
「あっ、そうか」
と言ってサラダを
(そこは、猫じゃないんだ)
◇
\ガチャ/
”カランコロンカラン”
「テンタ!」
店に入るなり、開口一番、大声で俺を呼ぶトムさん。
その声に”ビック”としながらも、トムさんの方に
振り向き、
「はい」
と答えるのを見て、トムさんが、
「ああ、悪い悪い、別に脅かすつもりはないんだ」
と笑いながら言う。
「これな」
とトムさんから手渡されたのは、昨日ミリーさんに
渡した、俺の制服のブレザー。
ちゃんと、解れた肩の部分が直っている。
「あ、ありがとうございます」
とお礼を言うと、俺の姿をまじまじ見て、
「ん―っ、その恰好より……こっちを着て行った方
が良いか」
先ほど受け取ったブレザーを指さし言う。
「あっ、はい」
と俺が返事をすると、
「急いで着替えてきてくれ」
と言うので、ヴィクセンさんに、
預け、2階に上がろうとしたところで、トムさんに
再び声を掛けられた。
「テンタ!スマ……何とかも忘れずにな」
「はい」
トムさんにそう返事をして、急いで自室に着替えに戻る
俺だった。
◇
服を着替え(元々の制服姿)店に戻り、
肩に乗せ、トムさんと共に、店を出ると……。
目の前に2台の……人力車!?
後で聞いたら、『犬力車』って言うらしい。
要は引くのが人間でなく、犬人だからってことらしい。
前の車(『犬力車』)にトムさんが、後ろの車(『犬力車』)
に俺……が乗り、
なので、俺の膝の上に乗せた。
それを確認したトムさんが、車屋(『犬力車』)さんに
言う。
「車屋さん出しとくれ」
「へい」
と車屋(『犬力車』)さんが答えると同時に、2台の『犬力車』
が、動き出した。
◇
冒険者施設が集まる北区から、教会関係施設と商業施設からなる中央
区に向かう。
冒険者用の馬車と違い乗り心地は良い。
それは、冒険者用の馬車は金属の車輪だが、この『犬力車』の車輪がゴム
だから。
この世界でも20年前に、空気の入っていないゴム製のソリッドタイヤ
が生まれた。
そして、3、4年前にようやく空気入りタイヤが開発され、最近普及し始め
たらしい。
最も、普及したとは言え、主に聖クリスタル国中心部で、商業用の物が
多いが、犬力車だけでなく馬車などにも普及し始めたらしい。
ただ、冒険者やホブゴブリンの村への補給物資を運ぶ馬車などは、
不整地走行だったり、魔物の攻撃で車輪が壊されやすいと言う理由で、
いまだに金属製の物を使っているそうだ。
◇
中央区の北にそれはある。
イギリスにあるストーンヘンジのように、石でできた丸い
ストーンサークル。
そのサークルの中央には、高さ5mほどの柱(神)の像が
立っている。
透明なクリスタルで出来た像
宝石のエメラルドで出来た像
宝石のトパーズで出来た像
宝石のサファイアで出来た像
宝石のルビーで出来た像
それらの像が、聖クリスタル教の信者たちが崇拝する神(柱)
である。
サークルの南側には祭壇と……なぜか、お賽銭箱が置いて
あった。
このストーンサークルから、南区まで伸びる道。
これを人々はクリスタル街道と言うらしく、街道を挟んで東西に、
教会関係の建物や、商業施設、ホテルなどが、各ブロックごとに軒
を連ねている。
ストーンサークルのすぐ側、クリスタル街道東側にある建物
の前で、犬力車が止まる。
「着きやしたぜ」
そう車屋(犬力車)さんに言われ、俺は、
上から肩に乗せ直し、トムさん同様、車(犬力車)を降りた。
そこにあった建物は……大きなレンガ作りで、俺達の世界で言う
教会に似た建物があった。
「テンンタ行くぞ!」
「はい」
トムさんに声を掛けられ、建物に入る。
建物の中は、外観を裏切ることのない、俺の知る教会って感じの
建物だった。
入り口を入って左手に受付のような所があり、そこのシスター風の
衣装を着た女性に、トムさんが声を掛ける。
「冒険者、コードネーム バルジャン、例の少年と猫を連れてきたと、
と言いながら、例の小槌をシスター風の女性に渡す。
「はい、少々お待ちください」
と、スター風の女性は、トム(バルジャン)さんから受け取った小槌
を何か機械のようなものに置く。
\ピー/
「冒険者 バルジャン様、確認いたしました」
と言いながら、小槌をトム(バルジャン)さんに返し、
「少々ここでお待ちくださいと言って、受付の後ろの廊下に向かう。
(
しばらく、待っていると……奥から何やら歌声が聞こえてきた。
「この歌は?……」
と俺がトム(バルジャン)さんに聞くと、
「ああ、あれか、あれは、奥のチャペルで、信者達が歌ってる
聖クリスタル教の聖歌だよ」
と少し薄笑いを浮かべ言う。
「聖歌!?ですか……、なんか僕のイメージの聖歌では
ないような気がしますが」
「だろうな」
と俺の問いに、またまたニンマリ笑うトム(バルジャン)さん。
さらに、トム(バルジャン)さんが言う。
「なんか、前の世界で聞いたことないか……テンタ」
トム(バルジャン)さんに言われ、
(確かに、なんか昭和の匂いがする歌だよな)
と心で思っていると、トム(バルジャン)さんが言う。
「あれは、昭和のころの特撮巨大ヒーロー、クリスタルマンの
主題歌だよ~w」
と、言いながら再びニヤッとする。
(ああ、道理で……)
と納得する俺だった。
◇
------(第三者視点)------☆
「いけませんねぇ~」
と呟く、執事風の男デケム。
悪魔男爵バンバのNo10。
テンタ達がこの世界に飛ばされた地で、水晶を覗きながら
呟いていた。
自分の目としてカラスを飛ばし、ずっとテンタ達を監視し
ていたのだが、テンタ達が聖クリスタル教会に入ったのを
見て、まずいと思ったようだ。
「あそこから出てさえくれればいいのですが……」
少し考えて、
「もう少し監視して、出てこないようなら、出てくる
ようにいたしましょう」
と1人納得するデケムだった。
◇
------(テンタ視点)------☆
受付の女性が戻って来た。
「お待たせいたしました、どうぞこちらへw」
と受付をすり抜け、受付の後ろの廊下へと案内される。
通路の突き当りに来た時、案内の受付の女性が、
「どうぞこちらへ」
と通路右側の扉を開け、部屋へと招き入れた。
トム(バルジャン)さんとその部屋へ入ると、
その部屋の床には、転移魔法円が刻まれている。
「どうぞこちらへw」
と転移魔法円の真ん中に俺とトム(バルジャン)さん
へ来るように促した。
支持されるまま、俺とトム(バルジャン)さんが、
転移魔法円の真ん中に進むと、案内の受付の女性が、
魔法円の一番外側のタイルを回し、12時の方向に、
とある文字の刻まれたタイルを合わせと、床の魔法
円が光だし……。
次の瞬間、どこかのエレベーターホールのような
場所に着いていた。
エレベーターホールから伸びるまっすぐな廊下を
進み、またもや、通路突き当りの右側の扉の前で止
まる。
(あれ、ドアに取っ手がないや)
と思ったら、
「バルジャン様ご一行お連れしました」
と案内の受付の女性が言うと、ドアが”スー”と
開いた。
(ああ、自動ドアね)
◇
俺とトム(バルジャン)さんが、部屋に入ると同時に、
案内の受付の女性が、
「失礼します」
と言って部屋を出て行った。
部屋の中には、エルフのような人達が居た。
何やら部屋の正面にある、ランプが\ピカピカ/光る
大層な機械の前で、マイクのような物を持って、何処かと
交信している人が1人で、その横で地図を広げて見てる
人が1人。
そして、中央のテーブルに座り書物をしている人が
2人。
全員オレンジのおそろいの服を着ていて、胸には五芒星の
バッチをつけている。
左の壁には、これまたお揃いの尖がり帽子(魔女が被っ
てる帽子)と、マントが5つ掛けてあった。
(魔法使いの団体か?)
そう思った時、不意に左側から声を掛けられた。
「バルジャンさんに、テンタ君……それにこのかわいら
しい子猫がオトアちゃんねw」
同じくオレンジ色の服を着た女性のエルフ。
「おお」
「はい」
”ニャー”
俺達が返事を返すと、
「ごめんなさい、ちょっと立て込んでるので、しばらく
お待ちくださいね」
と優しく言ってくれた。
\\\こちら悪特隊西支部、本部応答願います///
「悪特隊本部のキャップ、ドルフだ、どうした」
\\\ハオスの森にてマーブル・チームが行方不明///
「何っ!西でもか!」
\\\現在、ギルド支部長チームが捜索中とのこと///
「よし分かった、ギルドだけでなく悪特隊西支部も捜索
に加わってくれ」
\\\了解!///
「北支部方面で2件、東支部方面で1件、南支部方面で
1件……西支部方面で1件か……何か繋がりがあるのだ
ろうか」
と地図を広げ見つめながら、隣の先ほど無線でしゃべっ
ていたここの”キャップ”と言う人に話しかける。
「わからんな」
と”キャップ”が答えるが、そこへ机で書物をしていた
1人が、その2人に向かって言う。
「何も冒険者がダンジョンで姿を消すのは珍しくない
でしょう、単に魔物に襲われ全滅したのではないです
か?キャップ」
その言葉に、その向かい側で書物をしていたもう1人の
人が口を挟む。
「いや、グラン隊員、行方不明になったのは揃いも揃って
レベル10(Bクラス)の冒険者ですよ、そのレベル10
(Bクラス)の冒険者チーム5つもが、揃いも揃っていっ
ぺんに倒されますかねぇ」
「う~ん」×4人
そこに、先ほどの女性隊員が声を掛ける。
「あのキャップ、バルジャンさん達が……」
「ああ、スマン、スマン」
女性隊員に言われ、”キャップ”と呼ばれる人は慌てて
俺達の方に来て、まず、トム(バルジャン)さんに
握手をしながら、自身の自己紹介をする。
「初めまして、私がこの悪特隊本部のキャップ
キーファー・ドルフです」
「ああ、バルジャンだ、よろしく……
で、こっちがテンタで、こっちがオトアだ」
トム(バルジャン)さんの紹介に、
「キーファー・ドルフです」
「
と俺とも握手を交わし、
「この猫が
と俺の紹介に
「ドルフでちゅ、初めましてでちゅ、オトアちゃん」
と
で話しかけるドルフさん。
”ニャー”
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