5話 冒険者チームハウス




------(第三者視点)------☆



 闇の夜空を羽音も立てず、飛ぶ1羽の梟。


森を抜け、赤茶けた大地の上を飛んでいたその梟に、


”シュッ”


 突然何かが当たり、赤茶けた大地に向け急降下する。


 梟が大地に落ちようかとしたその瞬間、黒いがげのような者


が現れ、梟を受け止める。


それは、蝙蝠の羽が生えた黒服の執事風の男だった。


 その名をデケム。


悪魔男爵バンバの幹部ナンバーズ10。


ダリウスの命を受け、テンタ達の動向を探る悪魔だった。


 デケムは、梟が下げているポシェットから封筒をを取り出し、


封筒を開けずに中身を透視する。


「なるほど……やはり私の推論は、あたりの様です」


と言うと、そのまま封筒を梟のポシェットに戻し、梟に刺さって


いた針を抜く。


 先ほどまで、気を失っていた梟は、起き上がり、何が起こった


のか周りをキョロキョロ見るが、目の前のデケムに気づき、慌てて


その場を飛び去った。


「クククッ」


それを静かに見守ったデケムは、


「行先もわかりましたし、まずは、ダリウス様にご報告せねば」


と言い残し、\ぼわっ/と黒い煙と共にその場から消えた。













------(テンタ視点)------☆






 ホブゴブリンの村を出発して、馬車で揺られること数時間。


 お昼過ぎには、目的地である『聖クリスタル国』に着いた。


 馬車の中は窓がないので、実際は見えないが、ガイゼルさんの


説明によると、ここは、所謂テーブルマウンテン状の山だそうで、


切り立った崖で、山頂が平らで筒状という、まるでテーブルのよ


うな景観だそうだ。


 山頂の平らな部分の面積は約23.65平方キロメートル。


 総人口4万4,600人


 約100年ほど前に、転生者とクリスタル教信者により、建国


された国だそうだ。


 聖クリスタル国は、5つの行政区にわかれている。


 北区   冒険者ギルド本部がある地区


 南区   トランスポート港と、倉庫、工場地帯がある地区


 東区   農業地帯がある地区


 西区   住宅地域がある地区


 中央区  商業、教会関係施設がある地区


だそうだ。


 馬車が一旦停止する。


 これも景色が見えないので、ガイゼルさんの説明によるが、


テーブルマウンテンの南部分の崖に、高さ5mあまり、幅は


馬車が2台すれ違えるほどの幅の金属製の門があるそうだ。


「ちょっと行ってくる」


そう言って、トムさんが馬車を降りる。


 しばらくすると、\ギー/って金属の扉が開くような音がする。


 これも、ガイゼルさんの説明によると、扉の右脇に例の『小槌』


をはめるところがあり、そこに『小槌』をはめ、認証されれば、


扉が開くシステムらしい。


 つまり、『小槌』は身分証も兼ねているらしい。


 トムさんが、馬車に戻り出発する。


 馬車が通路に入ったのか、\ギー/って金属の扉が動く音に


続き、”ガシャン”と閉まる音がした。


 通路には、馬車の天井に付いているものより大きな、光石が天井


に埋め込まれていて、通路を照らしているそうだ。


 そして、この通路をしばらく進むと二股に分かれているそうで、


右の通路は、ホブゴブリン村などに物資を運んだりする馬車が通り、


左の通路は冒険者達が通るとのこと。


 どちらもこの先に、転移魔法円があり、上の街に転移するのだが、


着く先が少々異なるそうだ。


 右の方は、街の南区にあるトランスポート港……。


トランスポート港は、それ以外にも各支部や他国からの物資や人も


転送される場所で、左は冒険者専用と言うことで、冒険者ギルド本


部がある北区に転送されるらしい。


 しばらくして、馬車が止まる。


と、同時に下から、やわらかい風が吹いたと思ったら、急に体が軽く


なり、その後、ズシンと自分の体重を感じた。


「着いたぞ、テンタ」


ガイゼルさんニッコリ微笑み言う。












 転移したかと思ったら、馬車はすぐに動き出し数分後に止まった。


「着きましたぜ」


馬車の前方の窓ごしに、レツさんの声がした。


「よし、降りるぞ!」


とトムさんは言うと、馬車の後部扉を開ける。


トムさん、タミーさん、シェリーさんと順におり、ガイゼルさんが、


「ほれ」


顔で、先に行けと合図するので、俺は三毛猫オトアを肩に乗せ


先に降りた。


 目の前には、木造の明治、もしくは大正時代の洋館。


 ただ、1階部分は天井が高く……高さは3階建てとは行かないまでも、


2.5階くらいの高さがある。


 向かって、建物の1階左側の端が、ケンタウロスのレツさん、ダイさん


の部屋だとか。


 ガイゼルさんが、馬車とレツさん、ダイさんをつなぐ器具を外すと、


レツさん、ダイさんは、建物に横付けしている馬車を2人で、手で押し


て自分達の部屋の入口をふさがないように馬車を縦に留めなおした。


 そして、そのまま


「「お疲れっした」」


とみんなに声をかけ、自分達の部屋に向かう。


みんなレツさん、ダイさんに


「「「「お疲れ~w」」」」


と声をかけるので、俺と三毛猫オトアも慌てて声をかける。


「お疲れ様でした」


≪お疲れ様でした≫


それに手を挙げて答えてくれるレツさんだった。













\ガチャ/


”カランコロンカラン”


向かって、建物の1階右側の端の扉が開いた。


 そこから、3人の女性……らしき人が出てくる。


 一人は、紫の髪の毛の30代の白人女性。


 一人は、ピンクの髪の毛のどう見ても小学生の女の子。


 一人は、狐色の髪、狐耳で、狐の尻尾が生えた若い女性。


3人の女性の


「「「おかえりなさい~」」」


に対し、トムさん、タミーさん、シェリーさんそれにガイゼルさん


が、


「「「「ただいまぁ~w」」」」


と答える。


「でも、意外と早かったじゃない?」


と紫の髪の毛の白人女性の言葉に、トムさんが、


「ああ、ちょっと、イレギュラーがあってな」


と俺を見る。


「あら、どちら様?」


と俺を見て言うので、


「初めまして、日向天太ヒムカイテンタと申します


で、この子が涼風響スズカゼオトアです」


と、肩に乗る三毛猫オトアを俺が紹介すると、


「あら、この猫ちゃんにもお名前があるのねぇ~」


とほほ笑む白人女性。


そして、


「私は、ガーフィールドの妻のミリーよ」


と自己紹介してくれた。


 そこにピンク髪の小学生女子が、


「珍しい色の猫だぁねぇ~」


と話しかけてくる。


「それは、三毛猫って言うタイプの猫だアナ」


とガイゼルさんが説明する。


(ガイゼルさんの娘さんかな?)


「ミケ……」


と首をかしげるアナちゃんに、


「この世界にはいないタイプの猫だよ」


と言うガイゼルさんに


「じゃ~、あんたが居た元の世界の猫かい?」


と聞き返すアナちゃんに


「まぁ、後で説明する……それより」


と俺の方を見て、ガイゼルさんが言う。


「紹介が遅れたな、俺の妻のアナだ」


それを聞いて俺と三毛猫オトアは、思わず叫んだ。


「えっ、えぇ—―—――!!」


≪えっ、えぇ—―—――!!≫









「何でだねぇ、何で驚くだねぇ!」


 俺の態度に少しご立腹のアナさん。


「すみません」


≪すみません≫


俺と俺の肩に乗る三毛猫オトアが頭を下げる。


(まぁ、オトアの言葉はアナさんに届いてないと思うけど)


そこに、狐耳の女性が、


「まぁ、まぁ、アナさん、それだけアナさんが”若い”って


ことですよぉ~」


アナさんの肩をもみ宥めながら、俺達に向かって、


「はじめまして、私はチームマネージャーのヴィクセンですw」


「テンタです……これが……」


「オトアちゃんね、かわいいねw」


 因みに、ヴィクセンさんは、狐人と言う人種で、顔は人間だが、


狐色の髪に狐も耳が付き、狐の尻尾が生えている。


 一通りのやり取りを見ていたトムさんが、もういいか?って顔で、


「ミリー、悪いが店の軽食まだ残ってるか?」


と聞く。


「あっ、今日はまだ、一通り残ってるけど」


とミリーさんが答える。


「なら、今日の昼飯はみんなそれにしよう~」


とみんなに向かって言うトムさん。


「「やったw」」


それを聞いて、はしゃぐタミーさん、シェリーさん。


「特に、この坊主と猫には、たらふく食わせてやってくれ」


とミリーさんとアナさんに言うと、2人ともびっくりした


顔で言う。


「「猫にぃ~!!」」











\ガチャ/


”カランコロンカラン”


 向かって、建物の1階右側の端の扉から入ると、


そこはウエスタン調のお店。


 入り口付近にレジ(キャッシャー)があり、店の右側に


4人掛けの丸テーブルが5つ、椅子は小型の樽を利用して


いるようだ。


 店の左側には、カウンターがあり、席が4つある。


 カウンター奥は、調理場の様だった。


そして、その左側億に通路があり、そこにトイレが設置してある。


その通路の突き当りには、隣に続く扉があった。


 ふと、天井を見上げると、照明用の光石に……。


(ナニ、このデカイ扇風機は!?)


 デカイ、扇風機が天井に3つ。


≪たぶん、シーリングファンだと思うよ、テンタ君≫


驚く俺に、冷静に答える三毛猫オトア


 みんなが店に入ったところで、ミリーさんが、店の扉に


準備中の札を出し、扉を閉めた。


ここは、冒険者チーム『ガンブレイブ』のチームハウス内にある


お店。


 その名を喫茶『ゴン』。


 みんな、テーブル席に着く。


トムさん、シェリーさんとタミーさんは、同じテーブル。


その隣のテーブルにヴィクセンさん、ガイゼルさん、それに俺と


三毛猫オトアが座り……って言っても、三毛猫オトアは俺の膝の上


だけどね。


 扉を閉めたミリーさんは、そのままカウンター奥の厨房に


入り、カウンターに入ったアナさんが言う。


「みんな、何にするかねぇ~」


それを聞いて真っ先に手を上げ、


「はい、カレーライスw」


言うタミーさん。


それを聞いて、


「じゃ、私は……ミートソース(ボンゴレ)スパゲッティーw」


とシェリーさん。


「どうする?」


とトムさんがガイゼルさんに聞くと、


「俺は、いつもので良いぜ」


と答える。


それを聞いて、トムさんが言う。


「じゃ、俺とガイゼルはナポリタン(スパゲッティー)」


「あいよw」


とアナさんが返事した後、俺とヴィクセンさんに聞く。


「あんたらは?どうするねぇ」


それを聞いたヴィクセンさんが言う。


「私……ピラフw」


「……」


俺が答えようとしないのを見て、ガイゼルさんが気づく。


「ああ、そうだったな」


俺と三毛猫オトアに、ここの軽食メニューを教えてくれた。



〇ナポリタン・スパゲッティー


〇ミートソース・スパゲティー


〇ミックスサンド


〇カツサンド


〇ピラフ


〇オムライス


〇カレーライス




≪オトアどうする?≫


≪じゃ、私ミックスサンド≫


≪わかった≫


三毛猫オトアと念話後、


三毛猫オトアがミックスサンドで、俺、オムライス


お願いしますw」


と俺が言うと。


「あいよw」


とアナさんが答えてくれた。


 しかし、そこで、ガイゼルさんがアナさんに付け加える


「ミックスサンドなぁ~少し小さくカットしてやってくれ」


その言葉にアナさん一瞬顔を上げ、こっちを見たが、手で


OKのサインを送る。


と、


奥の厨房から、ミリーさんが出てきて、


「ヴィクセン~、レツ君とダイ君のも聞いてあげて」


と大声で言う。


「あっ、はい」


ミリーさんに言われ、慌てて念話の数珠に手を当て、念話する


ヴィクセンさん。


しばらくの沈黙の後。


「えーと、レツさんもダイさんも、カレーライスの大盛ですって」


それを聞いて、奥の厨房に引っ込むミリーさんだった。











「「「「「「「ごちそうさまでしたw」」」」」」


≪ごちそうさまでしたw≫


久しぶりの元の世界の食事をおいしくいただいた。


気のせいか、三毛猫オトアの顔も満足そうだ。


「ミリー、アナ、ヴィクセン、話がある俺の部屋へ来てくれ」


とトムさんが、3人に声をかける。


「ええ、」


「あいよ」


「あっ、はい」


ミリーさん、アナさん、ヴィクセンさんが返事すると同時に、


「シェリー、タミー、テンタ、オトア!すまんが、ここで


店番頼む」


と言いながらガイゼルさんも立ち上がった。


「「はぁ~い」」


「わかりました」


≪わかりました≫


と、俺達4人の返事を聞いてトムさん達大人組は、隣に


通じる扉を開け、店を出て行った。
















 喫茶店、左側億の通路は、隣のエントランスに通じている。


 もちろん、この喫茶店に入らなくても、隣の入り口から入


れる。


 エントランス正面には、2階へ上がる階段があり、その前を


通り、まっすぐ進み突き当りの扉を開けると、レツさん、ダイ


さん(ケンタウロス)の部屋へと通じている。


 トムさん達大人組は、その階段から2階にあるトムさんの


部屋(リーダー執務室)へと向かったのだが、2階はトム


さんの部屋だけではなく、階段を上がって、右側通路を進む


と、トムさんの部屋と、本来ならガイゼルさんの部屋なのだ


が、そこは今、空き部屋になっていて、ガイゼルさんの部屋


は、別にあるそうな。


 階段をはさんで、通路左側に進むと、シェリーさん、タミー


さん、ヴィクセンさんの部屋……と言っても、実際この建物に


住んでいるのは、ケンタウロスのレツさん、ダイさんと、


マネージャーのヴィクセンさんだけなのだそうだ。


 なぜなら、トムさん一家、ガイゼルさん一家は、西区に家が


あり、普段はそこで過ごしているとのこと。


 この喫茶店には、ミリーさん、アナさんは通いでお店をやっ


ている(経営)とのことだ。


 トムさん達『ガンブレイブ』チームはいったん解散している


ため、チームハウスを一度手放していたんだそうだ。

 

 その時のチームハウスは、ここではなく、別のところにあり、


今は『アメヒロ』チームが使っているそうで、ここの建物は、


元々『ゴライジャー』チームの持ち物だったんだけど、


『ゴライジャー』チームが、チームごと冒険者ギルド協会の


東支部マスター(支部長)になり、ここを引き払うに際して


譲り受けたそうで、この建物にある喫茶店もその時受け継いだ


ものだそうだ。













 シェリーさんが、店の扉の鍵を開け、準備中の札を


取る。


「僕もお手伝いしましょうか」


俺が、シェリーさんに声をかけるが、


「大丈夫よw」


と言いながら、カウンターに入るシェリーさん。


「もう少しで、閉店だし、この時間だとお客さん


少ないしねw」


とタミーさんもそう言いながら、レジ(キャッシャー)


に着く。


その時、シェリーさんがカウンター越しに言う。


「テンタ君、オトアちゃん何か飲む?」


「えっ、あー……」


≪オトアなんか飲む?≫


念話で三毛猫オトアに聞く。


≪何があるんだろう?≫


≪そうだね≫


三毛猫オトアとの念話の会話中に、タミーさんが


俺達の前にメニューをそっと出してくれたのだが……。


それを見て俺と三毛猫オトアが目が点で言う。


「読めません」


≪読めません≫


を聞いて、”えっ”って顔で俺達を見るタミーさん。


その様子に、カウンターのシェリーさんが、笑いながら言う。


「そりゃそうねw」


で、シェリーさんが口頭でメニューを教えてくれた。


「コーヒー、紅茶、牛乳、レモネード、レモネードソーダ、


ソーダ、ミカンジュース」


それを聞いて俺と三毛猫オトアがあるメニューに驚く。


「ミカンジュース!?」≪ミカンジュース!?≫


「オ・オレンジでなくて……ミカンですか」


聞き返す俺にシェリーさんが言う。


「オ・オランジって何?」








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