4話 ホブゴブリンの村







 トムさん達が言っていたホブゴブリンの村に着いた。


村には約2,000人程度のホブゴブリンと、ゴブリン退治に来る


冒険者、並びにその関係者30人ほどがここに滞在している。


”ホブゴブリン”って魔物じゃねぇ?って思ったが、馬車の中での


ミュラーさん改めカイゼルさんの話によると、魔物と人の間の間的


存在らしく、もともとは、小人族と言われていた種族がこの地方の


高濃度の魔粒子(魔力の素)を長年浴びて、変化?進化したもので


はないかと言われている。


 人間ほどではないが、約2,000人程度の集団を形成維持出来


るほどの知識はあるそうだ。


 村の前で、馬車をいったん止め、全員馬車の外にでる。


見ると、木製の大きな門に、村の周りを木製の高さ2mの塀が囲ん


でいる。


 槍を持ったホブゴブリン、身長は1.5mぐらい、体色は緑色で、


腰蓑だけを着けた、簡素な身なり……。


おそらく門番だろう。


にトムさんが自分の持っている小槌を渡す。


 それを、持っていた金属の板状で、小槌をはめ込めるようになっ


ている板にはめ込む。


\ピッ/板の上の方に青い光がともる。


「いいあるよ」


門番がそう言って大きな門を開ける。


(なんか、しゃべり方変だけど……翻訳機の故障かな?)


後で、ガイゼルさんに聞いたら、翻訳機の故障ではなく、


「ああ言うしゃべり方だ」と言って笑われた。










 俺達は馬車に乗らず、そのまま並走して村の中に入った。


 村の中の建物は、所謂、高床式住居で屋根と床があるものの、


壁が無く、当然、窓や扉もない簡素な作りの建物ばかりだった。


 村の中心部に進むと、二階建ての立派な木造の建物が2つ見えた。


右にある建物の1階部分が、冒険者ギルドの受付業務をする


ところで、2階が関係者の宿舎になっている。


「ここで、少し待っていてくれ」


と、トムさんがみんなに言うと、そのまま右の建物の1階に入って行く。


 待つこと10分くらい。


再びトムさんが戻ってきて、


「じゃ、行こうか」


と言う言葉を聞いて、みんなで左側の建物に向かう。


 左側の建物の前の広場に馬車を止め、カイゼルさんが馬車と引手の


レツさん、ダイさんとをつなぐ器具を外した。


 左の建物は右に比べ、1階部分がかなり天井高、右に比べると同じ


2階建ての建物なのにかなり高い建物……おそらく高さは3階建てに


相当するのではないかと思う。


「じゃ、ちょっと行ってくる」


再びトムさんが、左の建物の1階の右側扉に入って行った。


 またまた、待つこと10分。


手にカギらしきものを持って、再び出てきたトムさん。


「一番左の部屋、『カエデ』だ」


と言って、レツさんにカギを渡した。


 どうやら、1階部分はケンタウロス専用の部屋のようだ。


「じゃ、俺達も行くぞ」


トムさんの言葉にみんな1階の右側扉に向かう。


俺も肩に三毛猫オトアをのせ、みんなの後をついて行った。


 扉を入ると、そこはホテルのフロント。


その横をすり抜け、2階に上がる階段を上る。


「俺と、カイゼルとテンタ君は『ヒイラギ』の部屋、


シェリー、タミーにオトアちゃんは『モミジ』の部屋なぁ」


と言いながらシェリーさんに部屋の鍵を渡した。


(ああ、男女で部屋分けしたのねぇ……オトアは猫だけど)


と心に思う俺だった。













\ガチャ/


トムさんが部屋の鍵を開け中に入る。


続いて、カイゼルさん、俺が部屋に入った。


三毛猫オトアは、部屋に入る前、俺の肩からタミーさんの肩に


飛び移ってる。


 部屋に入ると、部屋の両脇に2段ベッドが2つ。


正面の窓には、小さな机と椅子があるだけの8畳くらいの小さい部屋。

 

トムさんは、窓際のテーブルへと進み、椅子に座って、小槌から紙とペン


を出し、何か書物をしだした。


 ガイゼルさんにどちらでもいいから、上のベッドを使えと言われたので、


俺は、とりあえず右のベッドによじ登り、とりあえず座る。


「ふぅ~」


とため息をつく。


すると、トムさんが書物をしながら俺に声をかける。


「なぁ、テンタ」


急に声をかけられ、ビクっとする俺。


「あっ、はい」


トムさんは、そんな俺を気に掛ける様子はなく、黙々とペンを走らせ


ながら言う。


「オトアちゃんの写真持ってないか?」


「えっ、あっ、はい……あのう~持ってはいるんですが……」


俺がそう言いかけると、


「持ってるなら早く出せ」


とペンを止めずに俺に手で早く出せのポーズ。


「あっ、はい、あるんですが……充電が……電池がねぇ」


俺の返答に俺の方に振り返り、


「あ~ん!?」


と何でだ!って顔をする。


すると下のベッドに居たガイゼルさんがトムさんに向かって言う。


「携帯電話に入ってるからじゃないか?」


「ああ、そうか」


ガイゼルさんの言葉に納得したように言うトムさん。


そんな2人に俺は恐る恐る言う。


「いやぁ~、今は携帯でなくてスマホですけど」


その言葉に、ガイゼルさんとトムさんが目を見開いてそろって言う。


「「なんじゃそりゃ!!」」











 俺はベッドから降りると、ガイゼルさんが懐から小槌を出し、


小さな作業台と椅子それに……何か金属製の円盤を出して、


作業台に置く。


「ほれ、スマなんとか貸してみぃ」


と手を俺の方に出すので、俺はブレザーのポケットから


スマホを出し、


「はい」


と渡す。


 作業台に置いた金属の円盤の中心には、クリスタルが埋


まっていて、そこに俺から受け取ったスマホを置いた……。


瞬間!


 円盤に彫り込まれた文字が光だした。


それを確認したガイゼルさんが、俺の方を向き、


「充電はしばらく掛かりそうだから、テンタ、今のうちに


シャワーでも浴びてこい」


と言いながら、ガイゼルさんがは小槌からフェイスタオル


とバスタオル……と、何やら粉が入った小袋を俺に渡す。


俺が、受け取った小袋を見て”キョトン”としてると、


「ああ、それ、粉せっけん、頭と体洗うやつな」


と説明してくれた。


(なるぅ~)


説明を聞いて、納得の俺である。











\ガチャ/


「只今もどいました」


シャワーを浴びて部屋に戻り、トムさんとガイゼルさんに


言うと、ガイゼルさんが俺に言う。


「充電終わってるぞ」


(はやっ)


 トムさんが急げって顔で俺を見るので、慌ててスマホを手に


取り起動させた。


で、


アルバムのフォルダーからオトアの写真をだし、スマホ画面を


トムさんに見せると、


「それをガイゼルに渡せ」


とおっしゃるので、オトアの写真を画面に出したまま、


ガイゼルさんに渡す。


 俺からスマホを受け取ったガイゼルさんは、小槌から


A4サイズのパラフィン紙のような薄い紙を出し、スマホ画面


にあて……。


「トランスクリプション」


と唱えると、”バシュン”ってフラッシュのように紙が光


った。


スマホ画面にあてていた紙をそーとはがし見る。


「よし」


そう言って、そのままトムさんに紙を渡した。


 トムさんは、ガイゼルさんから紙を受け取りそこに映る


オトアの写真を見て、


「なるほどな……なかなかのべっぴんさんじゃないか」


と言うが……。


(べっぴんさん……てなに?)


俺がトムさんの言葉に疑問を浮かべ固まっていると、


「美人だってことだよ、テンタ」


ガイゼルさんにそう言われ、


「ああ、!」


と言った後、俺は少し照れたような表情で、


「はいw」


と言うと、トムさんが、


「お前が照れてどうする」


と突っ込みを入れられた。


(おっしゃるとおり)














「テンタ、俺とガイゼルは今からシャワー浴びるから、


悪いがこれをギルドの受付に持って行ってくれ」


とトムさんが、先ほどの書物をしていた紙と、オトアの写真


を転写した紙を封筒に入れ俺に手渡してきた。


「あ、はい」


と俺が答え封筒を受け取る。


「わかるかテンタ、この建物の反対側の1階だぞ」


とガイゼルさんが言う。


「ああ、はい、わかります」


と俺が頷きながらガイゼルに言うとトムさんが1枚のコインを


出し、


「これで料金を払え」


と言いながらコインを俺に手渡した。


宝石のエメラルドに似た色のコイン。


俺がまじまじとそのコインを眺めていると、


「それは1,000クリスタル硬貨だ、たぶん郵便代が600


クリスタルだから、おつりが黄色いコイン4枚になると思う」


とガイゼルさんが、補足説明してくれた。


「わかりました」


そう言って、俺は部屋を出た。










 俺が部屋を出ると、向かいの部屋の扉が開き、三毛猫オトアが、


出てきた。


≪お手紙出しに行くんでしょ≫


≪ああ、≫


≪私もいっしょに行くw≫


と言うなり、俺の背中によじ登り、定位置の肩に乗る。


(何で俺が出て来るのわかったんだろう?……まぁ、いいか)


 三毛猫オトアを肩に乗せたまま、向かいの建物を目指した。










 宿泊所の向かいの建物。


 冒険者ギルド協会の出張所。


 扉を開け中に入る。


\ガチャ/


”カランコロンカラン”


昭和の喫茶店のドアベルのような音が鳴る。


 カウンターのお姉さんの所に行き、


「えーこれをお願いします」


とトムさんから受け取った封筒を渡した。


それを受け取ったカウンターのお姉さんが、封筒の宛名を


確認すると、


「今からですと鷹便は使えませんから、梟便になります」


と優しく言われるが……。


(いや、鷹便って何?梟便って何?)


俺が少し困っていると、


「料金は600クリスタルになります」


と続けて言われたのを聞き、


(ああ、金額はあってるな)


「じゃ、それでお願いします」


と言いながら、俺はトムさんから受け取ったエメラルド色の硬貨


をお姉さんに渡した。


「はい、1,000クリスタルお預かりします少々お持ちください」


と言って、その場を離れた。


 席を離れたお姉さんは、自分の真後ろにいる人にお金を渡し、


次いでその隣の人に封筒を渡した。


そして、お姉さんは真後ろの人からおつりであるコインを受け取り、


再び俺のところに戻って来て、


「おつりの400クリスタルです」


と言って黄色いクリスタルでできたコインを4枚返してくれた。


俺がそれを受け取り、立ち去ろうとすると、


≪ねぇ、見てみて梟だよテンタ君≫


三毛猫オトアが右前足を突き出し俺に言うので、その方向を


見ると、先ほどの封筒を受け取った人が、奥から梟を連れてくる。


(本当に梟なんだ)


と俺が思っていると、その人が自分の席に梟を置き、梟の首にぶら


下げているポシェットに封筒を入れようとしている。


が、


(それどう考えても入らないぞ)


俺がそう思い見ていると、ポシェットに封筒の端が触れたとたん、


ポシェットに吸い込まれるように封筒が消えた。


「おお!」


≪おお!≫


思わず声を上げる俺と三毛猫オトアだが、オトアは念話なので


他人には声は聞こえないんだけど、俺の声は部屋に響いたみたいで、


出張所で働く人全員に”ジロッ”てみられた。


(恥ずかしい)


顔が赤くなる俺だった。









 俺と三毛猫オトアが冒険者ギルド協会の出張所から出ると、


トムさん、ガイゼルさん、シェリーさん、タミーさんらが、出張


所の入り口付近で、俺と三毛猫オトアが出てくるのを、


待っていてくれたようだ。


「ちょうどよかった今から飯食べに行こう」


とトムさんに声をかけられた。


「ああっ、はい、その前に」


と俺は言いながら、おつりの黄色いクリスタルでできた


コインを5枚トムさんに返した。


それを黙って受け取るトムさん。


 ここで、ケンタウロスのレツさんダイさんが居ないことを尋


ねると、トムさんが、


「単に、このホブゴブリン村には、ケンタウロスの入れる


店がない」


と教えてくれた。


レツさんダイさんには、宿舎から食事が提供されているそうだ。











 ホブゴブリン村一番のレストランって、トムさんが言っていたが……。


 やはりと言うか、この村の他の建物と同様の高床式住居。


 屋根と床があるものの、壁が無い簡素な作りの建物だった。


(これではレツさんダイさんを誘えないよねぇ)


 席について、 女性?の店員ホブゴブリンに注文する。


 ちなみに女性のホブゴブリンは、ココナッツブラと腰蓑と言うスタイル。


魔物っぽいが、やはり隠すところは隠す……ってとこが、人間ぽいのかも


知れない。


4人掛けのテーブルに、トムさんガイゼルさんその向かいにシェリーさん


とタミーさんが座り、その隣のテーブルに俺と三毛猫オトアが……


座るのではなく、三毛猫オトアは俺の膝の上に座った。


 ここには、メニューが1つしかないので、トムさんもただ、追加で


ワインを2つと言うだけだった。


 これは、当然トムさんとガイゼルさんが飲む分だが、本来この世界


での成人は15歳とされているので、異世界から来た俺はともかく、


本来ならシェリーさん(18歳)、タミーさん(16歳)もアルコール


を飲んでもいいお年頃だが、トムさんが決めた『ガーフィールド家家訓』


では、『お酒は20歳から』だそうで、2人は今だアルコールを飲んだ


ことがないそうだ。


「「「「「「いただきますw」」」」」」


≪いただきますw≫


みんなで手を合わせ言ってから食べ始める。


 運ばれてきた料理は……。


ワンプレートの皿に、何かの肉(多分鹿肉)のステーキに緑豆の塩茹


でしたものと、緑豆のスープにハード系の丸いパン。


 ガイゼルさんの話だと、この緑豆ってのは、ホブゴブリンの主食らしい。


彼らはそれを塩ゆでし、時にはペースト状にしたものを食べるらしい。


 元の世界のメキシコ料理で「フリホレス」と似ているそうだが、メキシコ


料理では、インゲン豆、時には他の豆を塩茹でしたものに対して、ホブゴブ


リンの料理は、このグリーンピースに似た緑豆一種類なんだそうだ。


 

≪テンタ君先に食べて≫


「うん」


そう三毛猫オトアに言われ、俺は先に自分の食事をさっさと済ませ、


三毛猫オトアの食事の補助をする。


 細かく切ったステーキをフォークに指し、念のため”ふーふ”してから


三毛猫オトアの口元に運ぶ。


”パク……モグモグモグ”


おいしそうに食べる三毛猫オトアを見ながらなぜか俺の顔がほころぶ。


 時間はかかったが、三毛猫オトアも1人前をぺろりと食べた。


「「「「「「ごちそうさまでしたw」」」」」


≪ごちそうさまでしたw≫


 みんなで手を合わせ食事を終えた。


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