第2話 幸せを掴んだヴァンパイア
初めて俺が彼女と出会ったのは、山々が綺麗に色づき、街中の街路樹も鮮やかに色を変える、紅葉の美しい季節だった。
それまでの俺といえば平日は出勤してせっせと働き、休日は溜め込んだテレビ番組の録画や漫画などを消化しながら、ダラダラと家から出る事なく過ごす日々。
休日の外出といえば食糧の買い出しくらいのもので、それ以外はずっと家で過ごしていた。
なぜなら、俺の中で「休み」とは、家の中でゴロゴロしながらのんびり過ごす事を指すからだ。だから、俺の中で「誰かと遊びに行く事」も「買い物に行く事」も「休み」では無く、「遊びに行く」、「買い物に行く」という予定になる。
遊びに行くこと自体はとても楽しい。美味しいご飯を食べたら幸せだし、ぶらぶら歩いて気になった所を覗いてみたり、身体を動かしたりすると、己の年齢を忘れるくらいはしゃぐ事だってある。
買い物だってそう。欲しい漫画や新しい服を買う時はワクワクする。けど、それは俺にとってとても体力を使う事で、頻度を考えないと全く体が休まらないのだ。
フットワークは決して軽くない、インドア派な事が透けて見えるのだろうか。故に、俺には知り合いは沢山いても、友だちは片手で数えられる人数しか居なかった。
もちろん誘われれば行くけれど、自分から誘うなんてことは滅多に無い上に、そもそも俺を誘う人も俺が誘う人も滅多にいない。が、別に寂しくも悲しくも無い。狭く深い関係で充分だと思っている。
だから、それを知ってもなお俺と仲良くしてくれる友人と幼馴染たちには感謝しかない。
彼らは時々ふらっと俺の家に訪ねて来ては、ひたすら喋って帰って行ったり、その時見ていた録画を一緒に見始めたり、勝手に漫画を借りて読み始めたりする自由人ばっかりだ。
だが、俺にはそれくらいがちょうど良い。それに、彼らは俺が困っていたら必ず力になってくれる。もちろん、逆も然り。
そう、なぜ俺が今までの休日のことを語ったのかと言うと、彼女と出会った日はたまたま、その「俺が力になる」パターンの偶然が生んだ出会いだったからだ。
とある十月、俺は貴重な友人の一人から頼まれ、その友人の店の手伝いに駆り出されていた。
その友人の実家はケーキ屋なのだが、彼によると実家で今年から始めたという「ハロウィンイベント」の人手が足りないのだと言う。
それは、彼の実家の周りにここ数年で一気に新しく家が建ち、子供が増えたことによる試みだった。
どうやら、住人は増えても、その住人たちが近くの全国チェーンのケーキ屋に流れてしまい、その実家のケーキ屋のお客が減っているのだそうだ。
特にテレビで定期的にその全国に展開するケーキ屋が取り上げられるようになってから、客の減少がより顕著になってしまったらしい。
だから、ここ数年で増えた住民たちに「このケーキ屋にまた来たい」と感じてもらうにはどうしたら良いかを考えた結果、まず、店を訪れてもらうきっかけとしてたどり着いたものが「ハロウィンイベント」だったらしいのだ。
そのケーキ屋は子どもたちの通学路に面しているから、低学年の子どもでも分かるような中身のブラックボードを店先に飾り、近所のおうちにはチラシを投函して回ることで、十月最後の五日間だけイベントを行うことを伝える。
もちろん、チラシでハロウィン限定のカボチャを使ったケーキや焼き菓子、ハロウィンらしくおばけやジャックオランタン、ミイラをイメージしたケーキの宣伝も抜かりなく。
そして、イベント自体は日本でもよく行われるハロウィンそのままで、家族と一緒にケーキを買いに来た子どもが「トリックオアトリート!」と仮装した店員に言えば、無料で焼き菓子を数個詰め合わせたものをプレゼントしてくれるというものだった。
その焼き菓子は、ハロウィンの為にケーキ屋総出で用意したものらしい。味をカボチャにしたフィナンシェやマドレーヌ、お化けや魔女の帽子の形をしたクッキーなど、普段ケーキ屋でも売っている焼き菓子たちをアレンジしたものだ。
そうしたらそれらがハロウィン用のケーキと同じくらい人気が出て、土曜日だった初日から当初の予定よりも来店が多く、すぐに今の人数では手が回らなくなったそうだ。
だから、友人は俺に焼き菓子のラッピングと、「トリックオアトリート」を言えた子どもたちにお菓子を渡す仕事の手伝いを頼みたいと言う。
直前にチラシ投函のお手伝いもしていたから、イベントの内容も把握しているし、そもそも力にならないという選択肢も無かったから、俺はすぐに手伝いに行った。
友人から「可能なら白シャツに黒のスラックス、できれば暗めの色のベストで来てくれると嬉しい」と言われていたので何かと思ったら、店ですぐにヴァンパイアのマントを着せられたので、すぐにああと思い至る。
なるほど、確かに白シャツに黒のスラックスの上からマントを羽織れば、それなりにヴァンパイアらしくなるものである。それに、ハロウィンイベントに仮装は必須だろう。
ベストは無かったし、胸元にゴージャスなフリルのあるシャツでも無かったが、寂しかった首元でマントの紐をリボン結びにしてみれば、さながらシンプルなリボンタイの様で、さらに「らしく」なった。
友人の彼のお母さんに確認で見せてみたら、「似合ってるじゃない!」と背中をバシバシと応援をしてもらえたので、きっと仮装は合格ということだろう。
実に店に到着してから十五分後、ようやく俺は本来の頼まれた仕事に取り掛かった。
まずはせっせと個包装された焼き菓子を透明なラッピング袋に入れ、「ハッピーハロウィン」と書かれたタグを通したワイヤー入りカラータイで止めていく。
その時に、きちんとケーキ屋の名前や電話番号、今回詰めたお菓子の種類や味の説明の乗ったカードを入れることも忘れずに(何度か入れ忘れたまま袋を閉じてしまったので、その度にやり直したのだ)。
量産しやすいクッキーは全ての袋に入れ、そこにマドレーヌなどを足していくのだが、時々、「これが入っていたらレアよ」と友人のお母さんが笑っていた、美味しそうなパウンドケーキもランダムに詰めていった。
そうしてひと通り詰め終わったお菓子をレジ横に配置して俺もスタンバイする。
隣でレジを打っている友人と俺に「トリックオアトリート」と声をかける子どもたちに対し、しゃがんで目線を合わせてからお菓子を手渡す、と言うところまでが仕事だ。この「しゃがんで目線を合わせる」事が大事だからと念を押されたので、しっかり言われた通りに対応した。
テレビでよく見るような行列がある訳ではないが、客はひっきりなしに訪れる。そしてその大半が親子連れであった。
小さな子どもたちはみな、ショーケースの中に並ぶ限定のジャックオランタンの顔の描かれたケーキや、ミイラモチーフのケーキにキラキラと顔を輝かせる。
いつも売っているショートケーキやチョコレートケーキ、プリンにも、今日はオレンジや黒のハロウィンらしいケーキピックが刺さっているし、店員も仮装をしているから、子どもたちはより楽しそうだった。
「トリックオアトリート!」
元気にそう告げるわんぱく少年も、期待に目を輝かせて俺を見つめて来る少女も、お母さんの後ろに隠れて恥ずかしがる子も、みんな満足気にお菓子を受け取って帰って行った。
手の空いた時に、新しく焼き上がったお菓子たちを袋に詰め、在庫を増やしながら、子供たちが来たらまた対応をする。
その時に博識な子から、
「なんで吸血鬼なのに昼間に動けるの?」
と尋ねられた時には流石に困った。下手なことは言えないから、とりあえず「ハロウィンだから特別なんだよ」と返したのだが、これで大丈夫だっただろうか。
また、少しませた女の子から、
「お兄さん、大好き!」
と言われた時にも大慌てした。明らかにその女の子のお父様から「娘大好きオーラ」が溢れていらっしゃった所に、その愛娘による突然の告白である。
俺はその時、お父様の周りの空気が凍ったのをこの目で見た。ただでさえ、このセリフの少し前に、女の子が俺を「かっこいいね」と褒めてくれただけで「娘はやらんぞ」と言う顔をしていたお父様だ。思わず己の身の安全を心配したのは、きっと間違ってはいない。
「お兄さんいつもこのお店にいるの?」
「名前教えて」
と、ぐいぐい来る女の子に俺はすっかりタジタジで、お父様の方をチラチラと確認しながら、必死に彼女のことを傷つけず、かつ当たり障り無いように答えたあの時の俺は、我ながらとても偉かったと思う。
結局、まだ未練のありそうな女の子をお父様が必死に連れ出そうとし、その様子を笑いながら見守る女の子のお母様を俺は見送った。ちなみにその間、隣でレジ打ちをしていた友人や、様子を見に来ていた友人のお母さんに「モテモテねぇ」と、散々笑われた事をここに記しておく。
そんなこんなでなんとか無事に一日を終えようとしていた時。
俺に(自分で言うのは恥ずかしいが)運命の出会いがあったのだ。
その時、俺以外はみんな厨房の方の片付けに行ってしまい、ひとりでほぼ空っぽになったショーケースを掃除していた。「あと10分くらいしたら閉店の看板出してもらえるかしら」と友人のお母さんに言われていたので、時々時計を確認することも忘れずに。
そろそろ『closed』の看板を出しに行こうかとしていたところで響くドアベルの音。
カランカランと軽やかな音に顔を上げつつ、「すみません、今日はもう、ほとんど残っていないんです」と言おうとして、パッと視界に飛び込む彼女の姿に目を奪われた。
シンプルなライトグレーのワンピースに、まっすぐ伸びた背筋。肩にかけられた小さめのバッグと、ゆるく巻かれたボブヘアーが風でふわりと揺れる。
そして、彼女の楽しそうな様子が伝わってくる、緩んだ口元。
――か、かわいい……!
思わず見惚れてしまい、ついまじまじと見つめてしまう。
そう、俺は彼女に一目惚れしたのだ。
自分でもまさか、一目惚れをするとは思わなかった。特に、俺の中で「一目惚れ」は物語の中の話だったから、自分でもそれはそれは驚いた。
俺の視線を感じたのだろう彼女とばっちり目が合ってしまい、慌てて本来言おうとしていたセリフを言う。
そうしたら彼女は少しガッカリした顔になって、ガラガラのショーケースを見つめた。
「私、実は最近ここに引っ越してきて……そこでこのお店のチラシがポストに入っていたから、気になって見に来たんです。ハロウィン限定のケーキの写真、すごく美味しそうで、来てみたいなって」
「そうなんですね。ありがとうございます! 実はそのハロウィンイベントがこちらが想定していたよりもご好評いただきまして、おかげさまでケーキはご覧の通り全て出てしまい、今はシュークリームや焼き菓子が少数残っているのみでございます」
ここのお店の事を語る彼女の顔はとても楽しそうで、きっと本当にケーキを楽しみに来店してくれたのだろう。ケーキを買いたいのなら、きっと日を改めてもらった方が良いに違いない。
しかし、彼女はショーケースに一つだけ残っていたシュークリームを指差し、「それならシュークリームをひとつ下さい」と言った。
そして焼き菓子コーナーから、これまたラスト一個だったパウンドケーキを持ってくると、彼女は「これもお願いします」とレジに差し出す。
その時に見えた彼女の指先で、店内の照明を浴びたワインのような深い紅色のネイルがきらりと光った。
今、表には俺以外誰もいないから、箱詰めの作業もレジ打ちも俺がやらなければならない。一応ひと通り教わってはいるが、綺麗にできる自信など全く無かった。だがしかし、ここは俺がやるしかないのだ。
「お客様、お持ち帰りのお時間はどれくらいでしょうか?」
「五分くらいです」
右手で五を作って見せてくれる彼女に、ますます好感を持つ。バッグから財布を取り出す所作も、立ち姿も真っ直ぐで綺麗だ。
とにかく頑張ろうと気合を入れ、保冷剤とケーキを入れる箱を取り出し、その横にトレイに載せたシュークリームを置く。
そうして緊張と己の不器用さと格闘すること少々。
目の前に完成した箱は、「我ながら綺麗にできたのでは」と納得できるような出来だった。
そもそも、俺にとってはシュークリームを緊張でひっくり返さないように箱に入れるところから難関だったのだが、その後も必死に箱詰めの手順やルールを頭に浮かべながら、緊張で冷たくなった手で必死に頑張った。
まず、シュークリームよりも箱の方が大きいから、余ったところにスペースペーパーで輪っかを作って入れる。
続いて、スペースペーパーの中に保冷剤を入れるのだが、緊張しすぎてひとつ取り落として床に落としてしまったのは失敗だった(ちゃんと新しいものを持ってきてそれを入れた)。
それから、ケーキの箱を組み立てるときに何度もこれで合っているのか心配になったり、おまけに箱を止めるシールをくしゃっとして一枚ダメにしてしまったり。
失敗はあったものの、なんとか完成したケーキの箱を店のロゴ入りの袋に入れ、パウンドケーキも焼き菓子用の袋に入れてからケーキ用の大きな袋にまとめて入れる。
それをレジカウンターまで運び、「大変お待たせしました……」と頭を下げる。明らかに本来の店員に比べると時間がかかって遅かったことだろう。
と、そこでふふふと笑う声が聞こえてきて、つい驚いて顔を上げたままの姿勢で俺はピタッと固まる。
そこには、先程までのかしこまった雰囲気が無くなって、大人の女性にこういうと失礼かもしれないが、少女のように楽しげに笑う彼女がいたのだ。
「すみません、あなたがすごく真剣にしてくださったのが嬉しくて」
「そんな……! お待たせして本当に申し訳ないです……」
お会計の間、俺はとても恥ずかしかったし、内心落ち込んでいた。
この時はてっきり、「一目惚れした方に笑われてしまった……!」と思っていたのだから。
余談だが、後々「初めはてっきり笑われたと思って、失敗したって落ち込んでたんだぞ」と彼女に言ってみたところ、予想外の答えが返って来た。
「真剣に箱詰めしてた顔が、完成した途端に『よし!』って感じで誇らしげな顔になっていたのがなんだか可愛くて……思わず可愛いなって笑っちゃったのを言う訳にはいかないから、ああ言って必死に誤魔化してたの。ごめんね?」
あの時は本当に可愛くてときめいちゃった〜なんて言われてしまったら、俺は黙って真っ赤になった顔を覆うしかない。
俺はいつも、彼女には決して勝てないのだ。
会計も済んでしまい、後は見送るだけになったところで、俺の頭の中で積極的な俺が「引き止めなくていいのか!?」と慌て始める。
それに勇気の出ない俺が「そもそも今はお手伝いとはいえ仕事中なんだぞ」と言い始めるのに対し、積極的な俺が「このチャンスを逃したら、もう二度と会えないかもしれないんだぞ!! 行かないとダメだろう!」と喝を入れて来る。
どちらもまったくその通りだ。
しかし、この気を逃したら、俺の恋は一日で叶わぬ恋となってしまう。その事実が、俺の背中を押した。お手伝い中にアタックした事は後で謝ろうと決めてから、俺はとても頑張った。
ここ数年で一番緊張したし、一番勇気が必要だったと思う。
彼女が店を出てしまう前に、早く、早く声をかけなければ。
――行け、俺!! 行くんだ!!
「あの!」
気合を入れた勢いのままに声をかけてしまったせいで、次になんと言ったらいいのか全く考えていなかった。こちらを振り向いてくれた彼女を前にして内心「やってしまった」と焦りながら、それでも必死に言葉を探した。
「れ、連絡先、交換してくれませんか……!!」
彼女のポカンとした顔に、居た堪れなさと恥ずかしさが限界を超え、思わず俯いてしまう。穴があったら埋まりたいし、もうそこからもう出て来たく無い気分だった。
「す、すみません」
やっぱり、気にしないで下さいと言いかけた時。
「えっと……いいですよ」
かすかな声だったけれど、確かにそう聞こえた気がして、俺はガバッと顔を上げた。
彼女は真っ赤になって、もう一度「いいですよ、連絡先」と小さく言う。
「……! ありがとうございます!」
今思えば、その時お客さんも友人も、その家族も来なくて本当によかった。その時はまだ、店先に『closed』の看板を出す前だったから、人が来る可能性も十分にあったのだ。
「あっ、俺、携帯向こうだ……」
そこでようやく今、自分の手元にスマートフォンがない事に気が付いて項垂れる俺に、彼女はくすくすと笑って「紙とペン、ありますか?」と尋ねた。
すぐにケーキの電話注文などのメモを取る紙とペンを拝借して彼女に渡せば、彼女はサラサラとペンを走らせた。
「これで検索かけてもらうと私が出てくるはずなので……あ、ヴァンパイさん、念のためにお名前とアプリに登録してるお名前を聞いてもいいですか?」
『ヴァンパイさん』って呼んでくれるのか……! 可愛いな!!
そう内心ときめきながら、バクバクとうるさい心臓の音を感じながら俺は彼女の質問に答えるべく、口を開く。
「はい、俺は羽賀楓真です。アプリの方も、漢字で『楓真』って登録してあります。あっ、えっと、漢字は楓に真実の真で楓真です」
「はが、ふうまさん……ありがとうございます。私は坂本なつです。アプリも海のアイコンにひらがなで『なつ』って登録してあるので、それを目印にしてもらえると助かります」
そうして手渡された紙には、きれいな文字で有名なチャットアプリのIDが書かれている。俺は再び感謝を述べた。
「連絡、待ってますね」
彼女は頬を赤く染めてそう言い残し、店を去っていったのだった。
それから俺は友人が戻ってくるまで、その場にずっと立ち尽くしていた。
恥ずかしさと嬉しさと、きっと不審だったであろう俺に対する後悔や不安、仕事中に思い切り私情で動いてしまった申し訳なさが入り混じって、自分ではどうにもできなかったのだ。
その後、友人に「ごめん、一目惚れして連絡先交換してしまった……」と謝れば、それまで何があったんだと不安げにしていた友人はパッと顔を輝かせ「おめでとう!!」と一緒に喜んでくれた。本当に俺は良い友人に恵まれた。彼には感謝しかない。
彼に沢山祝われて帰宅したその夜、俺はすぐにアプリで彼女のIDを検索をした。
すると、確かに海のアイコンで『なつ』と書かれたアカウントが出てくる。
本当に良いのかと追加ボタンを押すのをためらったが、俺は「悩んでいても仕方ない、えいや!」と覚悟を決めて彼女の連絡先を追加し、すぐにお礼と自己紹介のメッセージを送った。
それから何度かメッセージでのやり取りを重ねてお互いを少しずつ知り、勇気を出して誘ったデートに出かけたりもした。
以前までは、どうしても積極的にアプローチできなかった俺だったが、あの時はこのチャンスを逃すまいと必死に頑張ったのだ。
そして彼女と出会ってから年が明けてしばらくした後。
俺は勇気を出して告白し、無事、彼女と付き合うことができたのだった。
必死にアタックした俺はそれからもデートを重ね、なつと順調に交際続けていった。
初めはなるべく彼女の楽しめるデートを、と、出かけていたばかりの俺だったが、本来の俺は「お出かけ」では休みではなく「お出かけという用事だ」という人間である。
当然、すぐに俺に限界が来てしまい、外出は本当に楽しいのだがとても疲れてしまう事、元々は超インドア派だった事を打ち明ければ、彼女はあっさりと受け入れてくれ、家でゴロゴロするだけのデートと、外に出かけるデートを俺の無理のない範囲でプランニングしてくれたのだ。
本当に彼女がなつでよかった。
そして、あの出会いから早数年。
先日、覚悟を決めた俺は彼女にプロポーズをした。
緊張し過ぎて指輪を落としかけるハプニングはあったものの、プロポーズ自体は無事に成功。
俺は、今日も側に居てくれる彼女の笑顔に以前よりも大きな幸せを噛み締める。
もうすぐ俺たちは家族になるのだ、と。
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