59日目 見られていた

 6月6日の朝、いつも通りヒロと駅で待ち合わせして学校に向かっていた。ヒロと待ち合わせするようになって、寝坊することもなくなり快適な朝を迎えることができている。

「修ちゃんおはよ。個人戦どうだった?」

「1回戦負けだよ。」

 そんなことを話しながら学校へと向かう。眠気が残る頭で一人で学校に向かっていた今までと違って楽しい。


「修ちゃん、ラ行変格活用覚えた?」

「覚えたよ、『ありをりはべりいまそがり』だろ。」

「変格活用の特徴は?」

「終止形接続の助動詞が、ラ変では連体形接続になる。」

「すごい、修ちゃん、土日部活だったのに覚えてきたの?」

「まあね。」

 朝の勉強するようになって、1週間。ヒロはよく褒めてくれる。努力の結果を誰かに褒めてもらうのは気持ちいい。なので、頑張って勉強するようになって好循環が生まれつつある。


 勉強しているところに片桐さんが教室に入ってきた。

「大森君、勉強中悪いけどちょっといい?」

 入ってきて早々に修平に声をかけた。どこか不機嫌な感じだ。片桐さんに連れられるままに人気のない非常階段まで行くと、片桐さんが話し始めた。

「昨日、一緒にいた人って誰?ヒロちゃんと付き合っていながら、他の女の子とデートするのはよくないと思うよ。」

 昨日、美織と一緒にいるところをみたいだ。娯楽の少ない地方都市の宿命で、何をするにもショッピングモールに行かざるを得ないため、行けば誰かしら知り合いによく遭遇する。

「仲良くご飯も食べて、ポテトも食べさせてもらっていたよね。」

 一番見られたくないところを、見られていたようだ。単なる部活友達で切り抜けるのは難しいようだ。修平は、美織に告白されて付き合ってはいないものの、仲良くしており、そのことはヒロも知っていることを片桐さんに話した。

「そうなの、ヒロちゃんも知っているならいいけど。でも、ヒロちゃんを悲しませるようなことしたら許さないからね。」

 そう言い残して、片桐さんは先に教室に戻ってしまった。


 部活の休憩中、休んでいる修平に美織が近づいてきた。

「今度どこに行こうか?海に行くには早いかな?」

 嬉しそうに今度のデートの計画を話している。

「美織、そのことなんだけど。」

 修平は朝、片桐さんに言われたことを美織に伝えた。美織は少し悩んだ後、

「大森君の好きな片桐さんに言われたら、仕方ないよね。じゃ、小島さんも誘って3人で遊びに行こ。そしたら、小島さんも悲しまないでしょ。」

「えっ、それで美織はいいの?」

「小島さん、かわいいし、素直だし好きよ。やっぱり同じ人を好きになるだけあって、趣味はあうみたい。」

 

 修平はその日の帰り、片桐さんのことは伏せて、ヒロに今度美織と3人で遊びに行こうと誘ったところ、

「えっ、いいの。私、邪魔じゃない?」

「美織もヒロの事気に入ったみたいで、一緒に行きたいって。」

「この前少ししか坂下さんと話せなかったから、一度ゆっくり話したいと思ってたところなの。」

「美織もヒロと気が合いそうって言っていたけど、ヒロもなの?」

「ちょっと話しただけだけど、気が合いそう。」

 漫画みたいに修平をめぐって二人の女性が対立する展開になるかと思っていたら、意外と仲良くなってしまった。まあ、仲悪いよりはいいだろうと思う修平であった。


 

 

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