57日目 個人戦
6月4日、インターハイ予選の個人戦が先週と同じ市民体育館で行われた。修平は1回戦であっさり負けて、スタンドの待機場所に戻った。何も良いところなしに一方的に負けたので、ヒロの応援を断っておいてよかった。
スタンドにもどりドリンクを飲んでいると、試合を終えた美織が戻ってきた。笑顔を見せているところを見ると勝ったみたいだ。それでも一応聞いてみる。
「美織、どうだった?」
「勝ったよ。これであと2回勝てば県大会。大森君は?」
美織は嬉しそうな表情で答えた。
「いいところなく、ストレート負けだよ。」
「じゃ、2回戦からは応援よろしく。」
2回戦が始まり負けてしまった修平は、やることもないのでスタンドから美織の試合を見ることにした。
美織は練習してきたバックハンドが効果的に決まり、試合の主導権をにぎっているみたいだ。途中、修平が試合を見ていることに気づいたのか、手を振ることはないが、得点を取った時に修平の方を向いてガッツポーズしていた。
試合の方はそのまま主導権を渡すことなく、美織がストレート勝ちしたみたいだ。
数分後、試合を終えた美織がスタンドに戻ってきた。
「大森君、見てた。大森君と練習したバックハンド、上手くなったでしょ。」
無邪気にはしゃぐ美織を見て、思わずかわいいと思ってしまった。
「あと、一つ勝てば県大会だからね。約束覚えてる?」
県大会に行ったら美織と一日デートとすると約束を、美織は楽しみにしているみたいだ。
「覚えてるよ。でも、次の相手、強そうだよ。」
修平はトーナメント表を指差していった。先週の女子団体で準優勝している高校の選手と当たるみたいだ。
「メンバー表見たけど、団体戦メンバーには入れていないから、ワンチャン狙えると思う。頑張ってくるから見ててね。」
県大会出場をかけた3回戦が始まった。待機場所のところからは見づらいため、修平は美織の試合が見られるところに移動して試合を見守ことにした。見やすい場所には、他の女子部員が勢ぞろいしていた。
「大森君、美織のことが気になるんだ。」
「美織、大森君とデートするんだって張り切ってたよ。」
他の女子部員から冷やかされたので、修平は来なければよかったと思ってしまった。でも、いまさら移動するわけにもいかずみんなと一緒に、美織の試合を見守ることにした。
美織のサーブから試合が始まった。美織のサーブを強烈なレシーブで返された。やはり相手は強いようだ。その後も美織は必死にプレーしたが、1ゲーム目を落としてしまった。
2ゲーム目が始まる前、美織がスタンドにいる修平たちの方をみた。相手のサーブを、修平と練習してきた「チキータ」と呼ばれるレシーブで奇襲をしかけた。上手く決まり、2ゲーム目の先制点をとることができた。
その後一進一退の展開が続き、最終ゲーム、10対8で美織のマッチポイントをむかえた。
相手のサーブを、美織が再びチキータで返す。相手も、チキータの弱点であるバック側にボールを送る。美織が必死にボールに食らいつき、返すだけで精いっぱいで返球したボールに威力はなく、次に相手のスマッシュが決まる。
と思ったら、運よく美織の返球が卓球台の角にあたり軌道がかわった。エッジボールと呼ばれ、相手は対応がとれず美織の得点となった。
卓球のマナーで、エッジボールによるラッキーな得点は相手に謝罪することになっており、美織が謝りながらの試合終了という変な感じで終わってしまった。
素直に勝利を喜べなかったこともあり、試合が終わりスタンドに戻ってきた美織は県大会出場の喜びを爆発させていた。
みんなも美織の県大会出場を祝福して、盛り上がっている中、
「僕も県大会出場決めたんだけど・・・」
山下も控えめな声で県大会出場をアピールしたが、誰も聞いていなかった。寂しそうにしている山下を、修平だけが励ますことにした。
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