56日目 一緒にいる時間

 6月3日の朝、いつもどおり駅でヒロと待ち合わせして学校に向かう。朝の勉強がはじまって1週間となり、早起きにも慣れてきた。

 慣れてくると早く学校にきたほうが、電車もすいているし、朝の清々しい感じもあるので、意外と快適だと思い始めてきた。

「おはよ。今日は坂下さんの数学だね。ちゃんと解いてきた。」

「解いてきたよ。解いてこないと、怖いから。」

「修ちゃんもまじめになったね。誘ってこないけど、最近はゲームはあまりしてないの?」

「してるよ。昨日も片桐さんと『ベストイレブン』で対戦したよ。3対0で負けたよ。めっちゃ強かった。」

 修平は、サッカーゲームで片桐さんと対戦した話をした。

「片桐さん、ゲームになると性格が変わるね。普段おとなしそうなのに、ゲームでは攻撃的。部活でもそうなの?」

「部活では後輩の面倒見もいいし、先輩とも上手くやってるよ。私が修ちゃんの事好きだけど、振り向いてくれないって相談した時も親身になってくれたよ。それで、片桐さんが、修ちゃんが男に興味がないなら、女の子になっちゃえばって勧めてくれた。」

 ヒロが女の子になった経緯を、修平は初めて知った。自分から進んで女の子になったと思っていたが、片桐さんに勧められてなったとは思ってもいなかった。


 修平が美織との勉強を終え教室に戻ると、片桐さんもきていた。ヒロはトイレに行っているのかいなかった。

「おはよう。」

 修平が片桐さんに挨拶をした。

「大森君、おはよう。昨日は楽しかったね。」

「片桐さん、強いね。手も足もでなかったよ。」

「まぐれだよ。また遊ぼうね。」

 昨日の攻撃的なサッカーをしたとは思えない、いつもの優しい片桐さんだった。

「あっ、そうだ。大森君。来週ヒロのちゃんの誕生日って知ってる?」

「そういえば、6月生まれだったな。」

「来週の10日よ。やっぱり、ヒロちゃんが心配してたけど、自分から言うのもなんだかなって言ってたから、ちゃんとお祝いしてあげてよ。」

「わかったよ。」

 まだ付き合っているわけではないが、弁当や勉強でいろいろお世話になっているので、何かプレゼントあげるべきだろう。でも、何をプレゼントしたらいいんだ。


 授業が終わり部活に行くと、練習開始とともに早速、美織が練習相手に指名してきた。

「朝も一緒にいたのに、部活でも一緒かよ。」

「『単純接触効果』って知ってる?一緒にいる時間が長い人を好きになるってこと。そろそろ、私の事好きになってきた?」

 その話をきいて、修平はヒロのことを思い出してしまった。最初は女の子になったヒロに抵抗があったが、最近は抵抗なくヒロを受け入れており、むしろちょっとかわいいと思ってきている自分がいる。

「大森君、聞いてる。憧れを追い求めずに、私で手を打っておきなよ。」

 そう言って美織はサーブを打ってきた。修平がレシーブするが、回転を読み間違えたのかネットにかかってしまった。


 部活終わりに片づけをしているときに、美織が近づいてきた。

「明日の大会で、県大会いけたらまたデートして。今度は日曜日1日まるごとで。」

「いいけど。」

 楽しみにしてそうな美織の顔を見ると断り切れずに、受け入れてしまった。

「約束だからね。」

 そう言い残し、美織は去っていた。


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