50日目 団体戦

 5月28日、修平はインターハイ予選の団体戦のため、市民体育館にきていた。体育館の入り口付近で、みんなと待ち合わせしたのち、1年生は会場設営の手伝いに、大森たち2年生は待機場所の確保のため、分かれて向かった。

 スタンドの数列を待機場所として確保した後、3年生の到着をまつことにした。団体戦初出場の修平は、少し緊張していた。

「大森、大丈夫だって。1回戦は多分勝てるし、負けてもシングルで勝てるから気楽に行こう。一度試合すれば、緊張も解ける。」

 緊張しているのが伝わったのか、ダブルスでペアを組む山下が修平を気遣った言葉をかけてくれる。


「おはよ。」

 試合開始を待っているところに、修平は美織の声が聞こえたので振り返った。

「女子は、試合午後からなのにもうきたの?」

「家で待っているのも、落ち着かないからきちゃいました。」

 美織が3年生と話している声が聞こえる。3年生と話し終えると、修平のところに寄ってきた。

「大森君、おはよ。応援に来たよ。団体戦初めてだから緊張してる?」

 美織は、緊張している修平をからかってきた。

「緊張してないって。1回戦多分勝てるし。」

 美織と話しているうちに、緊張もいい感じにほぐれてきた。


 予想どおり1回戦を勝ってスタンドに戻ると、美織と同じように応援のため早く会場入りした女子部員も数名きており、賞賛の拍手で迎えられた。

「楽勝だったね。サーブ教えた効果があったみたいね。」

 修平も試合をみていた美織から褒められた。美織に教えてもらった「巻き込みサーブ」が功を制し、ポイントをあげることができた。

「美織も頑張ってね。」

 得意げな表情の美織に、修平は素直にお礼を言う気になれず、別の言葉を返した。


 2回戦も勝って、県大会出場をかけた3回戦を前に待機場所で、修平がエナジーバーを食べているとき、

「修ちゃん、お待たせ。応援に来たよ。」

 ヒロの声がした。片桐さんも一緒にきてくれるかなと期待していたが、ヒロ一人だけだった。もし負けた時の無様な姿を片桐さんに見られなくて済むから、ヒロ一人だけの方が気楽と言えば気楽だ。

「きてくれて、ありがとう。1,2回戦は無事に勝って、次3回戦。」

「これ、差し入れ。レモンの蜂蜜漬け。疲労回復にいいかなと思って作ってきたよ。」

「ありがとう。」

 修平は早速レモンを一切れ口に入れた。さわやかな酸味と蜂蜜の甘さが口の中に広がる。

「これ、美味しいな。」

 ヒロと話していると視線を感じ、振り返ると美織がこちらをみていた。美織がいるところで、ヒロと仲良くするのも気が引けて、

「来てくれてすぐで悪いけど、もうすぐ試合だから先にトイレ済ませてくるね。」

 修平は逃げるようにして、その場を離れた。


 3回戦が始まり、修平が出場する3試合目のダブルスを待っている間、試合コートからスタンドを見るとヒロと美織が隣り合って座っていた。

 なにやら二人で会話しているようだ。遠くて会話の内容までは聞こえないが、険悪な雰囲気でないようで安心する。

 1勝1敗で3試合目のダブルスが始まり、修平の出番がやってきた。ヒロや美織が見ている中で、無様な姿は見せたくない一心でボールに食らいつた。

 無我夢中でプレーした結果、ゲームカウント3-1で勝つことができた。スタンドに視線を送ると、ヒロと美織が拍手していた。

 4試合目は落としたものの、5試合目を獲り、3勝2敗で県大会出場を決めることができた。


 スタンドの待機場所にもどると、目標としていた県大会出場が決定しただけにお祭り騒ぎの祝福を受けた。応援に来てくれていたヒロにもお礼を言おうと探したが見つからず、隣にいたはずの美織に聞いた。

「小島さんなら、『部外者がいると、みんなが気を遣うでしょ。』って言って、もう帰ったよ。」

「そうなんだ。隣にいたみたいだけど、何か話した?」

「大森君の成績が悪いと困るよねって話をして、数学と化学は私担当で、国語と英語は小島さん担当で、みっちり教えようねってことになったから、今度から勉強も頑張ろうね。」

 ヒロと美織、変なところで意気投合したみたいだ。


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