38日目 ヒロと勉強
5月16日、昼休みになり、修平は月曜日恒例のお弁当をみんなで食べ始めた。
「おっ、いなり寿司。今日も美味しそう。」
「みんなの分も作ってきたよ。」
ヒロはもうひとつお弁当箱を取り出すと、いなり寿司を片桐さんと村上さんに一つずつ配った。
「美味しい~。ヒロちゃん、料理上手。うちのとは違う味だね。」
片桐さんがいなり寿司の感想を言うと、
「砂糖に黒糖を使っているから、違うように感じるのかな?片桐さんも、村上さんも料理する?」
修平も気になっていたことだが、今の時代女子に気軽に「料理するの
」とか聞けないので、ヒロが聞いてくれて助かった。
「しないよ。包丁なんて持ったことがないな。」
村上さんは照れ笑いしながら言った。
「私はするけど、ヒロちゃんには負けそう。」
それを聞いて修平は、片桐さんからお弁当を作ってもらえる妄想をした。妄想の世界を楽しんでいた時、
「修ちゃん。」
ヒロが自分を呼ぶ声が聞こえ隣にいるヒロの方を振り向くと、目の前にはヒロが差し出したウインナーがあった。思わず口に入れたしまった。ウインナーを租借しながら、
「なんだよ、ヒロ。美味しいけど。」
「彼女からの『あ~ん』は定番でしょ。」
ヒロはしたり顔になっている。
「彼女じゃないし。」
そう言いながらも修平は悪い気はせず、むしろ嬉しかった。
6時間目の授業が終わり普通は部活があるが、テスト前は部活が休みとなっているため、修平も帰ろうとしていたらヒロから話しかけられた。
「修ちゃん、学校に残って勉強しない?」
修平はこのまま家に帰っても、漫画やテレビの誘惑に負けて勉強はしなさそうと思い、ヒロと一緒に学校に残って勉強することにした。
「修ちゃん、教えてもらいたいところある?」
「じゃ、古文教えてもらっていい?」
修平は古文の教科書を取り出りだした。
「修ちゃん、ここは出るから絶対覚えておいた方がいいよ。」
ヒロはそういって、古文の係り結びについて教えてくれた。
「パターンは少ないから、覚えちゃって。修ちゃん覚えるの得意でしょ。ほら、一覧表にしておいたから、覚えちゃって。」
「この表って、ヒロが作ってくれたのか?ありがとう。」
「修ちゃんが、赤点とって留年しちゃうと嫌だから作っておいたよ。」
修平はありがたく一覧表を受け取った。
勉強もひと段落したので、ヒロと一緒に帰ることにした。いつもどおり漫画やゲームの話をしていると、急にヒロが真面目な表情になった。
「ねぇ、修ちゃん。土曜日自習室で一緒に勉強していた子って誰。」
「同じ卓球部の坂下さんだよ。数学が苦手だから教えてもらってただけだよ。」
なぜか浮気がバレたようなやましい気持ちになってしまった。美織から告白されたことは黙っておくことにした。
「彼女なの?やっぱり私みたいな偽物の女の子より本物の女の子の方がいいよね。」
ヒロは泣き出しそうな表情になった。
「いや違うよ。ただの部活友達だよ。それにヒロの事、好きだよ。今日もお弁当美味しかったし、勉強も教えてもらって嬉しかったし。」
「じゃ、デートしよ。友達以上なんでしょ。デートぐらいしてくれるよね。」
美織にも同じようなことを言われた修平は、デジャブを感じていた。そして美織の時と同様に、勉強を教えてもらった手前断りづらく、
「わかった、今度の日曜日部活終わってからならいいよ。」
ようやくヒロがいつもの笑顔にもどった。
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