34日目 美織の誘い
5月12日、修平は美織と練習していた。美織はチキータと呼ばれているバックハンドの技術を練習していた。習得すればレシーブでも主導権を握れる強力な戦法だが、そう簡単には習得できず、威力が中途半端で修平でも返せてしまう。
「やっぱり、ダメかな?すぐには難しいね。」
美織は修平に打球が返されたことで、残念な表情をみせた。
「いや返せたけど、余裕はなかったよ。たぶん、女子のレベルなら通用すると思う。もう少しボールの右側に立って構えて打った方が、打ちやすくなると思うよ。」
「大森君のサーブもだいぶん上手くなってきたね。毎日見てるからわかるけど、初見だと回転どっちかわからないよ。」
美織が修平が練習している回転がわかりずらくなる巻き込みサーブを褒めてくれた。上達を褒められるとやる気になってくる。
美織からの告白を受けて以来、付き合うと返事したわけではないが、美織は距離感が近めになり、毎日のように一緒に練習するようになった。モチベーションを保つため、お互いに褒めあうのがいつの間にか習慣になってしまった。
他の部員は二人は付き合っていると思っているのか、冷やかしもなくなった。
練習がおわり、卓球台を美織と一緒にかたづけていると、
「大森君、来週のテスト大丈夫?赤点だと補習があるから、大会前でも部活できなくなるよ。」
「小島のおかげで、英語はできるようになってきたし、歴史と生物は覚えればどうにかなるから、あと問題は古文と数学かな?」
「古文は私も苦手だけど、数学は得意だから教えてあげようか?」
修平はヒロのことが頭に浮かんだが、いつもヒロに甘えてばかりではヒロに悪いと思い、ここは美織の好意に甘えることにした。
「じゃ、土曜日練習終わってから、勉強しよう。」
美織は嬉しそうな表情をみせた。
修平はヒロと一緒に帰るために校門前で待っていると、ヒロが吹奏楽部の部員と一緒に来るのがみえた。
「修ちゃんが待ってる。じゃ、みんなお疲れ。」
「待っててくれるなんて、ヒロちゃん愛されてる~」
ヒロと他の吹奏楽部員の話し声がここまで聞こえてくる。ヒロが速足で修平のもとへとやってきた。
「お待たせ。待っててくれてありがとう。」
ヒロが女の子になってから、「ありがとう」と言われる回数が増えた気がする。考えてみれば男同士だと、照れくさくて改めてお礼を言うことは少ないが、女子は頻繁に「ありがとう」と言っている気がする。
ヒロは見た目だけでなく、そんなところも女の子っぽくなってる気がする。
「どうしたの?何かあった?」
「ヒロが女の子っぽいなと思って。ヒロも女の子になって、1か月が経つけど慣れた?」
「ありがとう。だいぶん慣れたかな。慣れると女の子って楽しいね。」
「ヒロって、私服もスカートなの?」
「そうだよ。お母さんに女の子になりたいって言ったら、男の時の服は全部捨てられた。中途半端はよくないって。だから、女物しかもってないよ。修ちゃん、私服も見たいの?いいよ、今度デートしよ。」
「だから、ちがうって。」
そうは言いながらもヒロの私服姿が気になってしまった。
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