26日目 部内選考会

 5月4日、修平はいつになく気合いを入れて表情で、卓球台の前に立っていた。5月下旬に行われるインターハイ予選の団体戦、最後のダブルス枠を決めるために、3年生ペアとの試合に臨んでいた。

 シングル枠4つは、3年生3人と、2年生で一番強い山下にすんなり決まったが、ダブルス枠については、3年生ペアと修平と山下の2年生ペア二つのペアの実力が拮抗しているので、今日試合をして決めることになった。


 3ゲーム先取で、2ゲームをとり4ゲーム目も10対8とリードしている状況で修平のサーブとなった。長いサーブか?短いサーブか?回転は?などさまざまな選択肢から、ミスなくできることを優先して選び、サーブを打つ。

 サーブさえミスしなければ、あとは山下がどうにかしてくれる。その思惑通り、山下が相手のレシーブを厳しいコースへと返してくれた。3年生も必死に食らいつき、ボールを返すがネットに引っ掛かり、修平ペアにポイントが入った。

 これで大森・山下ペアの団体戦出場が決まった。

「本番もこの調子で勝てよ。」

 敗れた3年生が修平に声をかける。

「勝って、県大会いけたらダブルス枠譲りますね。」

「そんな情けはいらないし、県大会で強いところとあたってボコボコにされたくないから、最後まで出てボコボコにされろ。」

 あまり上下関係に厳しい部活ではないので、3年の先輩とも軽口をたたきあう。


 いつもなら午前中だけの練習も、もうすぐ大会ということで午後も練習があるため、修平は5月の陽気で熱がこもる体育館からでて、日陰のところで同級生たちと昼ご飯を食べ始めた。

「団体戦出場おめでとう。」

 美織が修平の団体戦出場を祝ってくれた。

「ありがとう。ほとんど山下のおかげだけど。」

 2年生で一番強い山下がダブルスを組む相手に修平を選んでくれたので、団体戦に出ることができた。修平が選んだ理由を山下に聞いたところ、「感情的にならず、素直だから。」と実力よりも性格で選んだみたいだ。

「午後からの練習、また付き合ってもらっていい?」

 美織はまた修平を練習に誘ってきた。断る理由もないので、一緒に練習することにした。


 美織との練習は「3球目攻撃」といわれる、厳しいサーブで相手の返球を甘くして、3球目に強烈なスマッシュを打つという攻撃パターンの練習を繰り返した。

「やっぱり、3球目の攻撃力が弱いのかな?筋トレした方がいいかな?」

 練習を終え、一息ついたところで美織がぼやいた。3球目のスマッシュで決めるつもりが、修平が半分くらい返したのが、全部決めるつもりだったらしく不満な様子だ。

「まあ男子に比べたら、スピードが劣るから何とかなっただけだよ。それより美織のサーブ、上手いな。時々、返すだけで精いっぱいだった。」

「回転とか長さとか組み合わせ変えて、読まれにくいようにしてるからね。」

「今度教えてもらってもいい?」

 修平はいままで男子のプライドで女子に教えてもらうのに抵抗はあり、美織に教えてもらうことはなかった。そんなことにこだわるよりも、素直に教えてもらった方がいいと思えた。

「いいよ。」

 美織は嬉しそうな笑顔で返事をした。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る