27日目 意外な告白
「もうちょっとラケットの角度を付けた方がいいね。」
「こんな感じ?」
5月5日、修平は美織からサーブを教えてもらっていた。女子に教えてもらうなんて、他の男子から冷やかされるかと思ったが、
「大森もついにやる気になったか。」
3年生も含めて好意的に見てくれている。こんなことなら、男子のプライドとか気にせず、男女問わず上手い人に最初から素直に教えを乞うべきだった。
美織に教えてもらっているのは、「巻き込みサーブ」と呼ばれるサーブで、コンパクトな同じフォームから様々な回転をかけることができ、相手にとって回転の判断が難しくなるサーブだ。
「もうちょっと肘を引いたほうがいいね。」
美織はそういうと、修平のところまで移動してきて修平の腕をつかんだ。1年ちょっと一緒に部活をしているが、初めて体が触れ合ったことで心臓の鼓動が速くなった。
美織の手取り足取りのコーチングで、なんとなく感覚はつかめてきた。あとは練習を繰り返していけばいい。
「坂下さん、ありがとう。大会まで間に合うように頑張るよ。」
「私に負けないように頑張ってね。」
夕方ようやく練習が終わり、練習による疲労感と新しい技術を身に付き始めた充実感をえながら、帰ろうとして校門を出た時、
「大森君、ちょっと待って。」
美織があわてて駆け寄ってきて、呼び止められた。
「何か用?」
「ラバー買いに行きたいから、ちょっと付き合ってよ。いつもと違うメーカーも試してみたいから、大森君の使ったことあるメーカーの使い心地教えてよ。」
修平は練習で疲れていたものの、今日一日サーブ練習に付き合ってもらったので、頼みごとを断りづらく一緒に買いに行くことにした。
「そっちのメーカーの方がスピンはかかりやすいよ。」
スポーツ用品店に入り、ラバーを美織と一緒に見始めた。
「多少スピンは落ちてもスピードが速い方がいいかな?」
「だったらこっちかな?」
お互い今までに使ったことのあるメーカーの感想を言いあい、納得したところでラバーを選び終え、会計に向かった。
お店を出たところで、美織と一緒に駅に向かって歩き始めた。
「今日はありがとうね。」
「こっちこそサーブ教えてもらってありがとう。おかげで攻撃に幅ができそう。」
そのあと急に美織は黙り込んでしまい、しばらく無言のまま駅に向かって歩き続けた。その無言の雰囲気に耐え切れず、
「坂下さんは、調子どう?」
修平はどうでもいい話題で沈黙を破ろうとした。美織は突然立ち止まり、
「大森君のこと、好き。よかったら付き合って。」
美織はいつもの元気いっぱいな声とはちがい、照れくさそうに小さい声で告白した。いままで恋愛対象として見ていなかっただけに、修平は突然の告白に戸惑った。
ヒロのこともあるし、片桐さんともようやく仲良くなれてきたし、このタイミングでの告白は悩んでしまう。
「気持ちは嬉しいけど、大会もあるし、中間テストもあるから、大会が終わるまで待っててもらっていい?」
修平はひとまず時間を稼ぐことにした。
「そうだよね。突然言われても困るよね。待ってるから、ゆっくり考えて。」
美織の残念そうで寂しい表情をみて修平は、何か悪いことをした気分になってしまった。
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