24日目 漢字テスト

 5月2日、世間ではゴールデンウイークで最大10連休となっているが、祝日以外は普通に学校のある高校生にとっては関係のない話で、修平は学校に向かっていた。

 以前は授業についていけず、部活以外何も楽しみのなかった高校生活だが、最近はちがう。授業にもついていけるようになったし、憧れの片桐さんとも話せるようになったし、なにより毎朝駅で修平を待ってくれているヒロがいる。

 今日も修平を見つけて手を振ってくれる様がかわいい。ヒロが男であることを除けば申し分ない充実した高校生活だ。


 駅から学校に向かいながら、ヒロが話しかけてくる。

「昨日のモンバト楽しかったね。」

「片桐さん強いね。至近距離で相手の攻撃をよけつつ攻撃するなんて、めっちゃ上手いよね。」

「ところで、今日漢字テストがあるけど、修ちゃんそれは大丈夫なの?」

「暗記系は得意だから、大丈夫だよ。」

 国語は古文や漢文は苦手だが、覚えるだけの漢字テストは得意な方だ。漢字テストで高得点を取って、定期テストが赤点でも救済措置をうけるつもりでいる。

「今日もお弁当作ってきたから、お昼一緒に食べようね。」

 ヒロが満面の笑みで話している。かわいい女の子からお弁当を作ってもらえる。男子にしてみれば理想的な状況だが、ヒロは男だ。


 お昼休みになり、ヒロが弁当箱を渡してくれた。

「いつも悪いね。」

「この前、学食奢ってくれたからいいよ。それに、修ちゃんのためにお弁当作れるのが嬉しくて、作ってるから気にしないで。」

「大森君、愛されてるね。」

 いつの間にか近くにいた片桐さんがひやかしてきた。

「こんな献身的な彼女なかなかいないよ。付き合っちゃえば?」

 隣のクラスからやってきた村上さんも、きて早々にひやかしてきた。

「いや、まだ心の整理がついていないというか、軽々しく付き合うのも失礼というか…」

 片桐さんの目の前で、ヒロとの交際宣言するわけにもいかず、修平は必死に誤魔化した。

「修ちゃん、いいよすぐに決めなくても。私は今まで通り、修ちゃんと話して遊ぶだけでも幸せだから。」

「ちょうど漢字テストにも出ていた『慕情』だね。」

「そうそう、私も修ちゃんのことを思い出しながら書いたよ。」

 片桐さんとヒロが漢字テストの話題で盛り上がっている。

 修平も漢字テストで「がりょうてんせい」を漢字で書く問題で、「睛」の字は「晴」ではないことに注意しながら「画竜点睛」と書いたあと、ヒロのことを思い出してしまった。ヒロが男でなければ完璧なのに。


 ヒロから受け取ったお弁当箱を開けると、今日は肉巻きおにぎりだった。

「さすが、ヒロ。男子高校生の好みわかってるね。」

 修平は肉巻きおにぎりにかぶりつき、美味しそうに食べている様子を見て、

「ありがとう。そうやって素直に喜んでくれるから、作り甲斐があるよ。」

 ヒロが嬉しそうに言った。そんな二人をみながら、

「男子は好きだよね。そんな感じのがっつり系。」

「そうそう、弟もそんな感じ。マヨネーズと焼肉のたれがあれば何でもOKって感じで、いつもご飯をもりもり食べてる。」

 片桐さんと村上さんがあきれた感じで修平たちを見ている。もしヒロが普通の女の子だったら、お弁当に肉巻きおにぎりは作ってこないだろう。やっぱりヒロが男でよかった。

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