12日目 やきもち
4月20日の朝、修平はまだ眠気の残る頭で、ヒロと一緒に教室に入った。以前は、「同伴出勤」「朝から暑いね」などと冷やかされていたが、毎日のことになると当然のこととして、誰も関心を示さなくなった。
修平は教室に入った後は、まだ眠かったので自分の机でぼーっとしていた。ヒロは気を使って修平には話しかけずに、片桐さんをはじめとした女子グループの中で仲良くおしゃべりしている。
男子にしては低いヒロの身長も、女子に混じると普通になっている。完全に女子の中に溶け込んでいて、あらかじめヒロが男と知っていなければ、あの女子グループに男子が混じっているなんて思いもしないだろう。
「大森はいいよな。あんなかわいい彼女がいて。」
前の席の牛島康太が話しかけてきた。
「彼女じゃないよ。男子だし、まだ付き合っているわけではないし。」
「告白されたんだろ?付き合っちゃえばいいじゃん。男子でもあれだけかわいければ、キスぐらい余裕だよ。俺が付き合おうかな?」
「それはダメだ。」
「冗談だよ。」
冗談とは言っていたが、目は本気だった。今まで考えてなかったが、ヒロを好きな男子が出てこないとも限らない。また女子にしても、百合的な展開でヒロのことを好きな女子が出てきてもおかしくはない。ヒロが誰か他の人と付き合うと想像するだけで、嫌な気分になってくる。
「10分休憩。」
卓球場にキャプテンの声が響き渡る。修平は外の空気を吸いたくなったので、体育館2階にある卓球場をでた。
体育館の外でペットボトルの水を飲みながら、何気なく中庭の方に目をやると、ヒロと男子生徒が練習しているのがみえた。ヒロが手取り足取り、熱心に男子生徒に教えている。制服が新しいところをみると、多分1年生の新入部員なんだろう。部活の先輩として教えるのは当たり前だが、ヒロが他の男子と仲良くしているとなんとなく気になってしまう。
10分の休憩はすぐに終わり卓球部の練習にもどったが、いまいち集中ができずに、キャプテンから怒られてしまった。
不完全燃焼な思いで制服に着替え、校門で待っているヒロのもとへと向かう。
「ヒロ、今日部活で教えていた男子って、1年生?」
「そうだよ。全くの未経験者で楽譜も読めないからドレミを書いて、マウスピースのくわえ方から教えてる。」
「そうなんだ。でもまったくの初心者で、よく高校から吹奏楽はじめようとおもったね。」
「家を片付けていたら、お父さんのクラリネットが出てきたんだって。それでそのクラリネットを吹きたくなって、高校から始めたんだって。ひょっとして、修ちゃん私が男子といたから心配になったの?」
図星だったが、それを悟られるわけにはいかない。
「いや、まぁ、なんだヒロは面倒見がいいんだなと思って。」
修平は適当にごまかした。でもヒロはそれを見透かしていたのか、
「大丈夫だって。好きなのは修ちゃんだけだから。」
ヒロは修平の手を握ってきた。拒否するのも悪いから握ることにしたと自分に言い訳しながら、ヒロの手を握り返した。
横にいるヒロをみると、少し顔が赤くなっていた。その表情をみて、かわいいと思ってしまった。ヒロは男だぞと、修平は自分の心に言い聞かせた。
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