10日目 お弁当
4月18日月曜日、修平は午前最後の3時間目の古文の授業を受けていたが、授業についていけていないので先生の話は全く頭に入らず、昼休みに学食で何を食べようかだけを考えていた。できるだけ安く、おなかが満たされる組み合わせを模索していた。
3時間目終了のチャイムがなり、学食へ向かうため教室から出ようとしたとき、ヒロから呼び止められた。昼休み混みあう学食に一秒でも早くいきたかったのに、迷惑だなと思ったが、無視してまた泣かれると面倒なので、
「何か用?早く学食に行きたいんだけど。」
「よかったら、お弁当作ってきたから一緒食べない?」
ヒロは鞄からお弁当を取り出しながら言った。
「作ったって、ヒロが?」
「そう、修ちゃん今月お小遣いが少ないって言ってたからどうかなと思って。」
たしかにお小遣いに余裕はない。昼ご飯代が浮けば少し楽になる。
「せっかく作ってくれたのなら、無駄になるから一緒に食べようかな。」
昼ご飯代が浮く喜びをあまり表に出さないように、修平は返事した。
ヒロの横の机に座り、お弁当箱を開けてみる。プチトマトに卵焼き、ブロッコリーと色どりと栄養を考えながらも、メインおかずはこってりでご飯がすすみそうな生姜焼きで、男子高校生の食欲をがっちりつかんだお弁当だった。
「ヒロ、めっちゃ美味しいよ。ありがとう。ヒロって料理上手いんだな。」
「お母さんが、『男を捕まえるなら、胃袋で捕まえろ』っていって教えてくれた。」
「そうなんだ。」
本当に捕まえられそうで怖くなる。
「修ちゃんが良ければ、月曜日だけになるけど、お弁当作ってこようか?」
「さすがにそれは、悪い気がする。手間もかかるし、材料代とかかかるだろ。」
「自分の分は作るから、一人分も二人分も手間はあんまり変わらないし、材料代はたまに奢ってくれたらいいから、気にしなくていいよ。」
月曜日だけとはいえ、お昼代が浮くのは助かる。
「それじゃ、お願いしていいかな。」
ヒロと一緒に弁当を食べていると、その様子を見ていた片桐さんが近づいてきた。
「あら、愛妻弁当なの?大森君、よかったね。」
「片桐さん、ちがうよ。妻ではないから。」
「私も一緒に食べていい?ヒロちゃんのお弁当美味しそう。」
周りをみなくともクラス中の男子の嫉妬の感情にみちた視線が、修平の方に向いているのがわかる。
「この卵焼き、ヒロちゃんが作ったの?美味しそう。」
そう言って、片桐さんは修平の弁当箱から卵焼きを取り上げ、口の中に入れた。
「ヒロちゃんの家の卵焼きって、甘いんだね。大森君ちは甘いの?しょっぱいの?」
「うちの家は、しょっぱい方かな。甘いの食べたかったな。」
「また来週作ってくるね。」
「じゃ、卵焼きの代わりに、私のウィンナーあげるね。」
片桐さんは自分の弁当箱からウインナーを一つとりだすと、修平の弁当箱に入れた。それと同時に、クラス中の男子からの殺気に満ちた視線を感じた。
ヒロと付き合っていればそのつながりで片桐さんと仲良くなれる、修平の予想通りの展開になり、心の中ではガッツポーズしていた。
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