第2話

「それでは、おっちょこちょいな彼氏を陰ながら手助けして、無事にプロポーズをされることを目指してがんばってください!『被・プロポーズ☆大作戦』スタートです!」


 謎解き公演でよくある、スタッフによる開始の掛け声は、手元のスマートフォンから聞こえてきた。


 リモート型のリアル脱出ゲームだ。

 

 ところで、謎解きイベントのリアル脱出ゲームにおける主な開催形態は主に次の5つだ。

 

 “ルーム型”: 実店舗へ行き、実際の部屋に閉じ込められて、謎を解きつつ全員で協力して部屋からの脱出を目指すもの。数人から10人程度。基本のタイプ。部屋の探索が重要。


 “ホール型”: 実店舗へ行き、広い部屋で複数のチームで同時に謎を解いてゆき、基本的にチームごとにクリアを目指すもの。1チーム4〜6人程度で、10〜30チーム程度。難易度が高めな傾向。


 “フィールド型”: 専用のキットを購入して、街中を歩いて謎解きにチャレンジするもの。1人から数人で、数週間から数ヶ月間の開催期間の間、好きなタイミングで開始できる。制限時間が無いのが特徴。


 “ドーム型”: ドームや閉園後の遊園地など、イベントのために貸し切られた施設へ行き、謎を解きつつゴールを目指すもの。数百人から1000人が参加。広大なエリアに謎が散りばめられているため、移動も重要。


 “リモート型”: リモート会議システムなどを通して参加するもので、開催内容はホール型に近いものが多い。中にはデジタルであることを活かした、イカした演出があったりもする。感染症により出歩きづらくなってから一気に増えてきた。自宅からも参加でき、遠方の人でも参加しやすいのが特徴。


 リアル脱出ゲームと銘打っていても、実際には脱出要素がないこともよくある。

 今回はそんな感じのリモート型のリアル脱出ゲームイベントだったというわけだ。



 イベント開始後、ストーリーが流れ出した。



 ――ここ最近、彼氏がソワソワしているところをよく見るようになった。明らかに様子がおかしい。


 

 ――しばらく注意して様子を見てみよう。


 

 ――やっぱり。私に隠れて何かをしてるみたい。


 

 ――今日は彼氏の出社日で、家には私1人。家の中を探索してみようかな。


 

 ――がさ……ごそ……。


 

 ――……資源ゴミの中に見知らぬ紙を見つけた。彼氏の字で書かれたメモのようだ。


 ――……どれどれ……



 

 『プロポーズ☆大作戦』


 ……

 

☆2022/09/02

 プロポーズするホテルを予約する。日本で一番たくさんの人が住んでいる市にあるとっても大きなホテル。彼女にはまだ内緒!

 →→→ 彼女にバレずに予約完了!驚いて喜んでくれるかな〜


☆2022/09/09

 彼女に、明日の予定がまだ空いてることを確認しておく!

 →→→ 確認Done!家でのんびりするみたい。


☆2022/09/10

 プロポーズ決行日!

 朝、出かけてすぐに、夕方までにホテル近くの駅に来てもらうように連絡する。このメモも忘れずに持っていくこと。自分は先に到着して、プロポーズの準備を進めておく。

 プロポーズ!絶対に成功させるぞ!


 

 

 ――わっ!プロポーズの準備をしてくれてたんだ!嬉しい!


 ――……って、え!?!?

 

 ――プロポーズ決行日って今日じゃん!もうお昼前になるけど連絡もらってないよ!


 ――朝出かけてすぐに連絡くれるはずなんじゃないの?

 

 ――どうしよう!そもそもこのメモも忘れちゃってるし!


 ――私の彼氏がおっちょこちょいすぎる〜!



 そんな感じでプロローグのようなものが流された後、早速問題が表示された。

 

《おっちょこちょいなあなたの彼氏は、あなたへメールの送信をしそびれちゃっているみたいですね。でも、そのことを彼氏に伝えたら、バレてることがバレてしまいます。彼氏が伝えようとしていた、あなたが行くべき都市名を推測してください。》


 

「うーん。なるほど。彼氏にバレずに彼氏のおっちょこちょいなミスをカバーしていくってわけね。」


 謎解きの大まかな雰囲気は把握できた。

 

 いったん問題から目を外し、スマホ画面全体を見回す。

 普段よく使うようなコミュニケーションツールアプリではなく、この謎解き専用に用意されたアプリをインストールさせられていて気になっていた。

 開始前にはこのアプリの詳細は語られず、見れば分かる、というようなことを言われていたから、開始後に確認しようと思っていたのだ。

 

 「あ、彼氏のメモはいつでも見られるのか。」


 横持ちにした画面の右端の方にあるメモのようなマークのボタンを押すと、ストーリーで流れてきた『彼氏のメモ』を確認することができた。


 画面中央には問題が大きく出ていて、画面下側には、回答欄と送信ボタンが存在していた。


「ここに回答を入力して送信ボタンを押せば良いのかな。」


 試しに回答欄をタップしてみると、キーボードが出てきた。文字を入力してみる。


「あ、い、う、っと……。あれ?入力できない。」

 

 どうやらカタカナしか入力できないようで、ひらがなや漢字、数字、アルファベットは入力できなかった。

 

「表記の揺らぎを防ぐためかな。よしよし、システムについてもだいぶわかってきたよ。」


 最初の問題は都市名を答えろ、という問題。

 彼氏のメモに直接都市名は書いてなかったけど……。


 よし……。

 


 【指示】答えがわかったら、次の話に進んでください。

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