第2話 目立つなよ!

指月しづき翔琉

伍香ごこう沙紀

畝田うねたエリーネ瞳

の三人が地球で再会を果たしてからは

三つ子の姉弟でない事以外は

前世同様に行動を共にした


毎朝、沙紀が翔琉かけるを迎えに行き

翔琉と沙紀は瞳を家の前まで迎えに行く

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」


交わす言葉はそれだけ

そのまま無言で学校へ向かう三人

な~んてはずが無い


三人で通う初日の朝から


「二人とも女に生まれて

 前世での私の苦労が分かったろ」

翔琉かけるがしたり顔で言うと


「そんなに苦じゃ無いけどなぁ」

沙紀の返しに翔琉は心の中で

(チッ、女にモテてた元々王子は

 女心が良く分かるってか⁉)

と呟く


「俺も全く不自由を感じないなあ」

「それは57歳のオジさんだから

 何事にも動じないんだ!」


「何だその物言いは⁈歳は関係無い、

 俺はお前よりも適応能力があるんだよ!」

「はぁ⁉

 それじゃぁ私の能力がおとるって言うの⁈」


「フォーラの思考回路は猿並だろうが」

「猿だとー!」


慌てて翔琉と瞳の間に割って入る沙紀

「もういい加減にしなさい!

 朱鷺門領詮ときかどりょうせんを封印するまでは 

 目立たずに生活するって

 昨日申し合わせたでしょ!」


沙紀に𠮟られシュンとする翔琉と瞳


だが、

何をしなくても目立つ

人目をく美少女二人に

並み以上でも並み以下でも無い

ごく普通の男子生徒の組合せ

どうしたって目立ってしまう

目立たない訳が無い


この可笑おかしな組合せは

学年の枠を超え学校中の噂になる

特に翔琉には全男子生徒から

せん望と嫉妬が向けられた


―――――――――


ある日の放課後

翔琉かけるは上級生に呼び出された

場所は体育館裏

教師に隠れてい悪さをする定番の場所である


翔琉は囲まれた

相手は三年生五人


「おい、お前が指月しずきか」

「はい、そうですけど」

(何だよガキ共が)


「お前、随分と調子ぶっこいてんな」

(はぁ?なに言ってんだぁ?)


「生意気なんだよ!」

(だから何がだよ⁈)


「黙ってないで何とか言えよ」

「何がですか?僕が何かしましたか?」


「一年坊主が女侍はべらしてんじゃねえよ!」

(女って沙紀と瞳の事かぁ?

 知らないって怖いよなぁ

 中身は21歳の兄ちゃんと

 57歳のオジさんなんだぞ)


「不細工野郎がよぉマジムカつく」

「誰が不細工だと!」

(しまった大人げなく怒ってしまった)


「もう許せねぇ痛い目に合わせてやる」

「止めてください僕は暴力は嫌いなんです」

(不味いぞ、あざ作って帰ったら

 ママが心配するし

 仕方ない反撃するか・・・

 あれっ?殺さない程度の殴り方って

 どうやるんだっけ?)


「貴方たちー何してるのー」

「やめなさーい」


そう言いながら沙紀と瞳が走って来る姿を見て

翔琉は慌てた

(うわぁ二人共怒ってるなぁ、

 暴れたら止まらないぞぉ)


翔琉は悪童達に

「逃げろ!皆早く逃げるんだ!」

と逃げる事を推奨すいしょうしたが

誰一人聞く耳を持たない


(ヤバいぞヤバいぞガキ共が殺されるぞ)

とオロオロする翔琉かける


近付いた瞳が大声で

「一人相手に卑怯ひきょうな真似をするなー!」


その言葉に腹を立てた悪童が

「うるせぇ女は引っ込んでろ」

と瞳の肩を突き飛ばそうとした

「ダメだやめろ!」

翔琉は悪童を必死に止めようとした


が、しかし・・・

時すでに遅し・・・


瞳は肩に手が触れる前に

「触るん・じゃ・ねー!」

の声と共に腕を掴み地面に叩き付けた


(あああぁ~やっちゃったよ~)

とその光景を見ている翔琉の視線には

翔琉の脇を通り抜け

悪童達に突っ込む沙紀の姿が・・・


(ヤバい!)

と振り返ると

既に悪童の一人は地面を転がっている


(おいおいおい不味いだろうがぁ~)

「殺さないでよ!殺したらダメなんだよ!」

と翔琉が言う間に瞳も加わり

ものの1分で

悪童五人全員が地べたに寝転んだ


沙紀は

「男のくせに大人数で一人を襲うとは!」

と言いながら力一杯に腹を踏み続けている


(デジャヴだぁ~

 怒るとマジヤバ怖い元々王子がぁ!)


沙紀を止めるには呪術しかないと

翔琉は

れんねえりき

と唱え

沙紀の右足に触れ当て呪力の流れを止めた


沙紀はそのまま膝から地面に崩れ落ち

ひどいじゃないかフォーラ!」

と翔琉に怒りだす


(あぁこれもデジャヴだよぉ~)

「酷いのはラテルでしょうが大人げない!

 ルクトもだよ!」

「まあまあ、俺達が喧嘩してどうするんだよ」

なだめに入る瞳


「だいだい三人の中で

 フォーラが一番強いんだから

 さっさと片付けらば良かったでしょ」

むきになる沙紀


「だってさぁ、

 殺さない程度の力加減が分からなくて

 タスジャークでは殺してただけだし・・・」

「そりゃそうだ、

 フォーラはただ我武者羅に

 殺しまくってたからなぁ」  


翔琉・沙紀・瞳の会話を

呆然と聞いている悪童達に


「フォーラ・・・じゃ無くて

 翔琉は強いんだから

 怪我したくなかったら

 二度とこんな真似するなよ!」

すごむ瞳


悪童達は脱兎の如く逃げ去った


「あぁ~あ、こんなに暴れてどうするの~

 レアリカヒ学園の時みたいに

 変な噂が流れるよ~」

頭を抱える翔琉


「人の噂も七十五日だ、その内に消えるさ」

悠長ゆうちょうな瞳


「次からは決闘にしなさい」

いまだに地球の法律にうとい沙紀


「決闘でも怪我をさせたら

 日本では犯罪なの!」

「そうだ、やりすぎたら捕まるぞ」

「そうなの⁈」


「それより二人共、

 私のことフォーラと呼んでたでしょ」

『あっ!』

「あっ、じゃ無いよぉまったく」


「翔琉だってラテルって呼んでたよ」

「そうだルクトって口に出してた」

「あぁあ~どうしよう・・・そうだ!」


歩き出す翔琉

「どこ行くの?」

「あいつらの頭を強く打ち付けて

 記憶を抹消してくる」

「バカか⁈

 そんな事したら本当に殺しちまうぞ」


「じゃぁどうすりゃいいの~?

 転生者だってバレちゃうよ!」

「大丈夫だよ

 転生なんて誰も信じたりしないから

 ただ・・・

 変な名前で呼び合う

 イタイ奴らだと思われるよね」

「あああぁ~もう~目立ち過ぎる~」

と頭を抱える翔琉


「人の噂も七十五日にかけるしか無いなぁ」

と瞳

「そうだねぇ・・・」

と沙紀


ここにイタイ三人組誕生・・・


―――――――――


ある朝

翔琉が登校し教室に入り席に着くと

クラスメイトの男子たちが机を取り囲み


「翔琉、大変なんだよ」

(何で毎日こいつらは

 私の周りに集まるんだ?)

「こいつがさっ」

(こいつって誰だよ)

「そうなんだよ鈴木がよぉ」

(ああ、こいつが鈴木かぁ知らなかった)


相変わらず前世同様に

クラスメイトの名前を覚える気が無い翔琉


「ヤバいんだよ、なあ」

と周りの同意をあおるクラスメイト男子

それに大きくうなずくクラスメイト男子たち


(早く要件を言えガキ)

「昨日、塾の帰りにカツアゲされたんだって」


「えっそうなのか⁈」

流石さすがに翔琉もこれには反応した


「ほら見てみろよ顔にあざができてるだろ」

(たしかに。

 まぁこの程度で死にはしないがなぁ)

「災難だったな」

「マジ怖いよなぁ」

(別に怖くはない)


その時は偶々たまたま鈴木とやらが

どこぞの不良にカツアゲされた

程度の話だと皆が思っていたのだが・・・


それから3週間後

被害者が続出

学年関係なく狙われ女子も標的になった

これには沙紀が激怒した


「女性を怖い目に合わせるとは許せん!」

翔琉かけるも瞳も心でツッコむ

(出た、元々王子のプレイボーイぶり~)


今までの被害者の話をまとめると

ターゲットにされているのは

この中学校の生徒らしく

どこ中か、と聞かれ

素直に答えるとカツアゲされる

と言うのである


三人の性格からすれば犯人を捕まえて

二度と悪さしないようにと

痛めつけるところだが

とにかく今は

❝朱鷺門領詮の封印までは目立たない事❞

が大切なので関わらない事に決めていた


のだが・・・


いつも通りに三人で下校して

校門の前に差し掛かった時

「おい」

行く手を塞ぐ奴が

見ると先日、翔琉を呼び出した三年生だ


⦅うわぁ面倒くさぁ、またりずに因縁かよぉ⦆

うんざりする翔琉・沙紀・瞳


「しっ指月しずき・・・君」

今日はやけに大人しい


「なんですか?何か用ですか?」


ぶっきら棒な反応の翔琉に


指月しづき君は強いんだよね?」

「えっ・・・」

「そうよ翔琉は強いんだから、

 手を出したら怪我するわよ」


何故か意気込む瞳


「指月君、頼みがあるんだ」

(あ~ぁ嫌な予感しかしない

 転生23回のかんが言う)


「今うちの生徒が

 カツアゲされているのを知っているよね」

「はぁまぁ」


「犯人は隣り町の

 阿座巣あざす中の奴らなんだよ」

「はぁそうなんですかぁ」


「あいつら、

 わざとうちの生徒だけを狙っているんだ」

「へぇそうなんですねぇ」


沙紀と瞳は翔琉の隣で黙って話を聞いている


「俺達はこの学校の皆を守りたいんだ」

(それは殊勝しゅしょうな考えだ褒めてやろう)


「これから阿座巣中で番張ってるグループとの

 話し合いに行くんだけど」

(要するに不良どもと話し合うんだな)


「指月君に一緒に来て欲しいんだ」

「はぁい⁈なんで僕が?」


「恥を忍んで言う、俺達は喧嘩が弱い」

(知ってるよ立ち姿を見ればわかるよ)


「だから指月君の力が借りたい」

「いや僕、暴力はちょっと苦手なんでぇ」

「でも伍香ごこうさんや畝田うねたさんより

 強いんだろ?」


(あぁ~もう、この前ラテルが

 私が強いなんて口にするから~

 ど~すんだよ!)


「これは男同士の決闘・・・

 じゃ無くて話し合いだから

 女子に頼むわけにはいかない。

 男の面子めんつに関わる」


「だから指月君頼む!

 皆を阿座巣中から守る為に協力してくれ」

と土下座をし頭を下げた悪童達

(えぇ~絶対に

 話し合いで済まないでしょうがぁ)


翔琉は沙紀と瞳に救いの目を向けたら

二人共にあごで行けと合図する


「ダメでしょ」

と翔琉が小声で言うと

「人助けなんだから行ってあげなよ」

「そうだ、子供が困っているんだから

 力添えしてやれ

 それに男の面子とは中々なかなか雄雄おうおうしい奴らだ

 気に入ったぞ」

「いやいやいや、

 目立つ行為は控えないとダメじゃ無いのぉ

 って何んでラテルが

 奴らのことなに気に入ってるんだよ」


「そんな事を言ってる場合じゃ無いよ

 か弱い女性まで犠牲になっているんだから」

「そうだな、これ以上の被害者を

 出さないためにも協力だな」

(こいつらバカなのか⁉

 転生ボケでもしてるのか⁉)


「翔琉が一緒に行くそうです!」

(お~いラテル、勝手なことを言うなよ)


「ありがとう指月君!」

「うぉー!」

と歓声を上げる悪童達


翔琉の耳元で

「殺さないでね」

「殺すなよ」

と囁く沙紀と瞳

「それが難しいんだろうがぁ!あぁ~」

と頭を抱える翔琉


―――――――――


話し合いの場は河川敷

既に阿座巣中のグループは到着していた


「おっせぇぞ」

「ビビッて来ないかと思ったぜっ」

「マジ思ったよなー!」


などと

定番のヤジを飛ばす阿座巣あざす中生達


「ああ、どっからみても頭悪そうだなぁ」

「だね」

「嫌だなぁ絶対バカ過ぎて話し通じなさそう」


「だな」

「だね」

「だなだね、じゃ無いよ~」


「指月君、早く来て」

既に三年生悪童達は

阿座巣中生達と対峙たいじしている

敵は三十人は居るのに対し

こちらは翔琉を含めて六人


翔琉は後ろに隠れていたのを

無理矢理に先頭に押し出された


(仕方ない、まずは話し合いだな)

「君たち

 何でうちの生徒を狙って悪さをするの」

「阿座巣中が天下を取るためだ」


「はぁ・・・天下って、何?」

「この辺一体の中学校を

 俺らの傘下にするんだよ」

「そうだ、それが天下取りだ」

「お前ら阿座巣中の配下になれ

 そしたら今後は手を出さないでやる」


翔琉は

「あぁ・・・そうなんだぁ・・・」

と言い沙紀と瞳のもとへ走った


「ねえ聞いた?」

『聞いた』

「天下取りだってさぁ

 もう我慢できないアッハッハッハ!」

「プップップップッ小さな野望だね」

「ガッハッハッハ実に子供らしい発想だ」


「本当の戦いの厳しさを教えてやらないとな」

「そうだね、でも殺さないでね」

「蝉丸、社会の厳しさを教えてやれ

 でも殺すなよ」

「わかってるよ、

 程々に叩きのめして来ますよ」


翔琉は立ち位置に戻ると

「僕は暴力は嫌いだけど、

 お前らは話して分かる奴らじゃ無い

 本当の戦いを教えてやるから

 みんなまとめて掛かって来い!」


後ろに居る三年悪童達に

「皆さん危ないから下がっていて」

指月しずき君一人で大丈夫なの?」

「さすがに無理だよ」


「大丈夫です、邪魔だから下がって!」

翔琉に言われ離れる悪童達


「てめぇ調子に乗りやがって

 ボコッボコにしてやる!」

一斉に襲い掛かる阿座巣中生達


それを眺める沙紀と瞳

「始まったね」

「おぉ始まったな」


「何分かかるかなぁ」

「う~ん三十人相手だから

 10分はかかるだろな」


「早く帰って宿題やらないと

 今夜はザッミュージックに

 大塚愛ちゃんが出るから観たいんだよね」

「一青窈も出るだろ、

 俺ハナミズキ好きなんだよな」


と二人が暢気のんきな会話をしているのは

イクス星で生死の戦いを経験した者にとって

目の前の光景は

まさしく子供の喧嘩であるからだ


「あっ終わったみたいだよ」

「どれどれ、ふむ誰も死んでないな」


「君たちは弱いじゃないか

 僕一人にも勝てないんだから

 今後一切悪さをすっるな。

 うちだけじゃ無い他の学校にもだ

 今日は手加減したけど

 又悪さしたら本気でやるからね!」


阿座巣中生達は地べたに転がりながら

「はい」

と弱々しく答えた


「うちのへっどは一年だけど強いんだからな

 二度と舐めた真似をするなよ!」


偉そうに三年悪童が息巻く


「じゃぁ僕は帰ります」

「翔琉さん鞄をお持ちしますから」

そう言って悪童の一人が

翔琉の鞄を奪い取り

他の奴は翔琉の制服に付いた砂ぼこりを払い

そしてぞろぞろと翔琉の後について来る


(何だよ、この前は威張ってたくせに)

「ねぇへっどって何かな、

 番頭ってことかなぁ?」

と聞く翔琉

「違う、番長のことだよ」

瞳の答えに凍りつく翔琉


「もうぉ目立たないって約束したのにぃ

 フォーラは!」

沙紀の言葉に

「なんで私が怒られるんだよ、

 ラテルとルクトが

 やれって言ったんじゃん!」


「フォーラ、手下ができたなガッハッハッハ」

と笑う瞳に

『笑い事じゃ無い!』

と怒る翔琉と沙紀


朱鷺門領詮ときかどりょうせんの封印までは

目立たずに生活するはずが

たった数十分で番長に成り上がるどころか

近隣の学校中からも

恐れられる存在と成ってしまった翔琉

一体全体、蝉丸は何をしているのやら・・・

 


















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