第二章 第1話 逆!

ピンポーン

ドアチャイムが鳴る

翔琉かけるちゃ~ん

 沙紀さきちゃんが迎えに来てるわよ~」

「は~い今行く~」


学生鞄を脇に抱え

勢い良く玄関ドアを開ける翔琉


「おはよう」

「おはよう」

交わす言葉はそれだけ

並んでエレベーターに乗り込み

そのまま無言で学校へ向かう

クラスメイトの二人


指月しづき翔琉かける 13歳 中学一年生

伍香ごこう沙紀さき 13歳 中学一年生


今日から二学期が始まる


―――――――――


教室へ入り席に着くと

数人の女子生徒が寄って来て


「沙紀、

 今日も指月しずきと仲良く登校してるぅ」

「別に、

 同じマンションに住んでるだけだから」


「でもさぁ同じ日に同じ病院で生まれて

 同じマンションでさぁ」

「それに幼稚園も小学校も一緒でしょ

 指月と沙紀は

 赤い糸で結ばれてんじゃない」

「はぁ⁉やめてよ気持ち悪い!」

(結ばれてるのは赤い糸じゃ無くて

 どす黒い糸ですよ)


翔琉かけるも男子生徒に囲まれている


「なぁ翔琉、しってるか?」

「何を?」


「転校生が来るんだってよ」

「俺も聞いた、隣りのクラスにだろぉ」


「そうなんだよ!

 飛び切りの美女なんだって」

「マジかよ⁉」

「おぉー羨ましいな!

 なんでこのクラスじゃ無いんだよ~」


「しかも名前がエリーネでなぁ

 外国生まれなんだぞ」

「ふ~ん、そうなんだ~」

(子供はこんな事ではしゃぐから面倒くさい

 それにしても、

 こいつの情報収集力は毎度すごいよな)


「なんだよ翔琉、

 興味きょうみなさそうに」

「当たり前だろ、

 翔琉には美人の伍香がいるんだから」

「そうだよなぁ

 立派な彼女がいるもんなぁ」

「はぁ⁉そんなんじゃ無いよ

 ただの幼馴染だよ!」


―――――――――


始業式が終った後

学級委員長の沙紀さき

副委員長の翔琉かけるは担任呼ばれ

下校が遅くなった

他の生徒は既に帰宅し

校内は静まり返っている


下駄箱の前に立った時、

後ろから声を掛けられた


「遅かったね、待ってたんだよ」


振り返ると見知らぬ女子生徒が一人


(ああ、これが噂の転校生か。

 確かに美人だな)

「ねえ翔琉、知ってるの?」

「いいや、沙紀が知ってるんじゃ無いの?」

(変な奴だなぁ、

 初対面で馴れ馴れしい・・・あれ?)


「知らない、初めて会った」

(どっかで会った様な気がするけど・・・)


翔琉と沙紀は

怪訝けげんそうに顔を見合わせた


「やだなぁ分からないのかぁ?俺だよ」

(まさか・・・)

(えぇ・・・まさかぁ・・・)


畝田うねたエリーネ ひとみ 

13歳 中学一年生

が発した衝撃の事実


「ルクトだよ!」


しばしの沈黙・・・


そして静かな校内に響く

翔琉かけると沙紀の大爆笑

「プップップップ・・・」

「アッハッハッハ・・・」


二人は地べたを転がりながら笑っている


「ルクトが~ルクトが~」

「噂の美少女だって~」


「57歳のオジさんが~」

「エリーネってなんだよ~」


「プップップップ・・・」

「アッハッハッハ・・・」


「ダメだあ、無理無理」

「可笑しくて笑いが止まらない」


「執念が凄すぎるだろ~」

「口から血を吹き出しなが言ってたよなぁ」


「言ってた言ってた」

『来世も美男子に生まれたい!』


「それがぁそれがぁ」

「美少女だってぇ」

「プップップップ・・・」

「アッハッハッハ・・・」


ルクトが笑い転げる翔琉と沙紀を指差し

「おい!フォーラ、ラテル

 いい加減にしろよ!

 俺だって、女に生まれたくて

 女に生まれた訳じゃないんだ!」


その言葉を聞いて

翔琉と沙紀はピタリと笑いを止め

すくっと立ち上がり


『逆!』

「はぁ?」


『逆だよ!』

「はぁ?何がだ」


「私がラテル!」

「僕がフォーラ!」

「えぇー⁈フォーラが男でラテルが女⁉」

『そうだよ!逆だよ!』


「プップップップ・・・」

「アッハッハッハ・・・」

「ガッハッハッハ・・・」


三人は一頻ひとしきりり笑い

「これで、やっと三人揃ったね」

「うん、揃ったね」

「待たせたなラテル、フォーラ」


拳を合わせる三人

それは前世で生死を共にした仲間の儀式


―――――――――


「ただいまー」

「お帰りなさい、

 あら沙紀ちゃんも一緒なのねぇ」


沙紀の後ろから顔を出す瞳


「ママ、こいつは転校生の・・・」

「初めまして、畝田エリーネ瞳です」


「エッエリーネ⁈」


「ミドルネームです」

「ミッミドルネーム・・・⁈」


「あぁママ、こいつは日本人だからね」

「あらっ、そうなのっ」


「これから僕の部屋で勉強するから」

「あらっ、そうなのっ」


母は考えた

(いやだぁ翔琉ちゃんったら、

 沙紀ちゃんみたいな

 美人のガールフレンドの他に

 更に美人なガールフレンド

 モテ期なの⁈

 家の息子は今人生最強のモテ期なの⁉)


『お邪魔しま~す』


「どうぞぉ~」

母は的外れな思考を巡らせた

(まぁどうしましょう~⁈

 ケーキそうよケーキよ

 息子のモテ期を応援しなくちゃ)

「翔琉ちゃん、ママ買い物に行くわねっ

 すぐ戻るから」


財布を片手にドタドタドタと走り

バタン!

と勢い良くドアを閉め出かける翔琉の母


小母おばさんどうしたの?

 慌てて買い物なんて」

「気にしないで、

 よく分からない行動とる人だから

 取り敢えず部屋に入って」


翔琉の部屋に置かれた

小さなテーブルを囲んで座る三人


「それでルクトは今まで

 何処どこにいたの?」

「そうだよ心配したんだよ

 ルクトだけ転生失敗したんじゃないかと」

「心配掛けて悪かった。

 実はな親の仕事の関係で

 ベルギーで生まれてなぁ、

 やっと日本に帰国できたんだ」


「へぇ⁉ベルギー!

 一人だけ随分と遠くに転生したね」

「本当だよ僕とフォーラなんて

 同じ日に同じ病院で生まれたし 

 幼稚園から中学まで一緒で

 同じマンションに住んでさぁ」

「ラテルもこのマンションに住んでるのか?」


「マンションは同じでも

 我が家は3階の低階層庶民で

 ラテルは最上階に住んでるセレブだ」

「ほう、さすが元々王子。

 高貴なお方は転生しても

 生まれながらにして金持ちか」


「やめてよルクト。

 それよりルクトの家は?

 両親は日本人なの?

 どうしてベルギーで生まれ育ったの?」

「そうそう教えてよ、

 57歳のオジさんがエリーネって

 恥ずかしくない?アッハッハッハ」


「うるさい蝉丸!

 瞳と呼べ瞳と

 エリーネと呼ぶな恥ずかしい!」

「オジさん、やっぱり恥ずかしいんだぁ」

「もう蝉丸やめなよ、

 再開早々喧嘩になるよ!」


沙紀にたしなめられ口をつむ翔琉かける


「両親は日本人

 父親が学者でベルギーの大学に勤めていて

 俺の生まれ育ちはベルギー。

 お陰でフランス語に

 ドイツ語とオランダ語も堪能になった」

「えっ⁈なんで三か国語も?」

「ベルギー国は地域で公用語が違うの

 常識でしょ」


「おいおい、

 イクス星から転生したラテルの方が

 地球の知識が豊富じゃないか」

「悪かったね、知識も常識も無くて」

「いや、蝉丸らしくて安心する。なぁラテル」


苦笑いする沙紀


「ルクトの家は何処どこなの?」

「隣りの一軒家だ」

『はあ⁉隣り!』

「あぁそうだ、すぐ近くで驚いたか」


「驚いたのは、そこじゃ無いよ」

「そうだよ隣りって凄い豪邸じゃん!」

「ああ、そっちか」


大きくため息をつく翔琉


「はぁ~何だよ何でだよ

 二人は金持ちに生まれてさぁ」

「蝉丸だって

 いいお母さんで幸せじゃないか」

「そうだぞ、

 あの蝉丸が母親に甘えてママと呼ぶとは」

 

顔を赤くする翔琉


「仕方ないだろ!

 ママがママと呼べって言うんだから」

「ガッハッハッハ」

「プップップップ」


笑う沙紀と瞳

翔琉を馬鹿にした訳ではない

あのフォーラが

素直に成長したことが嬉しくて笑ったのだ


「ラテル、米は気に入ったか?」

「うん!ルクトとフォーラが言ってた通り

 米は美味しいね

 電車も乗ったし、

 飛行機が空を飛ぶのにはホント驚いたよ」

「ラテルの家は毎年家族で海外旅行だからね

 家なんて国内ばかり。

 今年の夏は熱海だよっ」


「いいなぁ熱海、行きたいなぁ。

 なぁ、いつか大人になったら

 三人で行こうぜ熱海」

「いいねぇ、行こう行こう」

「はぁ・・・

 まぁ二人が行くなら私も行くけど」


「蝉丸は相変わらず

 フォーラ時代の癖が抜けずに

 私と言うんだな

 もう男なんだから俺とか僕でいいんだぞ」

「前世の癖じゃ無いの

 平安時代から私と言ってるの!」


「そうなの?」

「そうなのか?」

「そうだよ!」


コンコン

翔琉の部屋のドアを叩く音


「翔琉ちゃ~ん入るわよ~

 ケーキとお紅茶を用意したから

 仲良く召し上がれ~」


『ありがとうございます』

「ありがとうママ」


「ほっほっほっ、

 これからも翔琉と仲良くしてねぇ」

 母は無駄な動力を使い応援をする

(これでバッチリ乙女心を掴めたわね。

 頑張れ翔琉!)


そう心の中で言い母は部屋を出て行った


「あのさ、改めてお礼を言うよ。

 二人共本当にありがとう」

「なに急に」

「そうだ、どうした?」


「だって朱鷺門領詮ときかどりょうせん

 封印する為の転生に付き合ってくれて

 ・・・ありがとう」

「水臭いなぁ

 仲間なんだからお礼も遠慮も無し」

「そうだぞ、

 お礼は朱鷺門領詮をやっつけてからだ」


「うん!」

「封印が解けるまで、あと二年だね」

「うん!」

「それまでに蝉丸はしっかり

 陰陽師として成長しないとな」

「うん!」


翔琉は兎良蝉丸つらせみまるとして嬉しく心強かった

(また仲間がいてくれて嬉しい!

 でも二人は呪術が使えないから

 なんの役には立たないけど・・・

 それでも心強いよ

 ありがとうラテル・ルクト)


それから三人は携帯のメルアドを交換した


「これで何時でも連絡が取れるね」

「そうだね」

「いやぁしかし、

 しばらく地球を留守にしてる間に

 技術が発達し世の中便利になったもんだ」


「ルクトはまた科学者になるの?」

「おう、そのつもりだ」

「ラテルはどうするんだ?」

「僕はこの星をじっくり観察してから決めるよ」


翔琉が顔を曇らせ

今回の転生をしてから

言いたくても言えなかった事を

ポツリと口にした

「イクス星の皆は・・・元気かなぁ?」


その言葉に沙紀と瞳は明るく答える

「心配ないさ

 クシマイニは立派に国をおさめている

 シュアスも付いている事だし」

「ゴコーゼッシュ家だって俺の残した

 デペロップメント・ノートで

 カンパニーも安泰で

 今頃がっぽり儲けてるさ」

「うん・・・」


「皆、元気でいるよ、

 ディーゴもオスタもディウもね」

「トーキスとスイークはもう25歳かなぁ

 既に領主とカンパニー社長かもな

 キチェスとリエッドだって

 変わらず仲良くやってるさ」

「そうだよね・・・」


「クーエラはとついで

 子供も産んでるかもよ」

「あぁそうだなよめに行っただろうな」


「えー⁉クーエラの旦那さんは

 苦労してそうだなぁ」

「ガッハッハッハ確かに」

「プップップップそうかもね」


「蝉丸は本当に変わったよねぇ」

「何が?」

「俺も同意見だ。

 お前は他人を思いやる人間になった」

「失礼だなぁ私は元から心の広い男だ!」


「いや心の狭い我儘わがまま坊主だった!」

「はぁー!ルクトは相変わらず意地が悪い」


「俺のどこが意地悪なんだ!」

「昔から意地悪ばかり言うじゃん!」

「やめなよ二人共!怒るよ!」



指月翔琉(兎良蝉丸 フォーラ)

伍香沙紀(ニナオイスⅢ ラテル)

畝田エリーネ・瞳(林部勇 ルクト) 


遠いイクス星で出会い

共に育ち共に戦った三人の再会

さてさて、これからどうなる事やら。






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