スピンオフ『タスジャーク国』

アーザスの反乱から十数年

三つ子亡き後

それぞれがどう生きているのか・・・


―――――――――


クシマイニ国王陛下

ヌーメイン王妃陛下夫妻


今でも仲睦まじく

4人の王子と1人の王女に恵まれた


第一王子はニナオイスⅣ世と名付け

一人娘は王妃の希望で

フォーラシスと名付けられた


仲の良い両陛下の姿は

民にとって安寧と平和の象徴である


ヌーメイン王妃の

民へ向けられる笑みは

優しく心を包み込み

生きる勇気と癒しを与えてくれる

まさに国母

老いも若きも全ての民の母的存在と成った。


クシマイニ国王のまつりごと

順調で滞りなく執り行われている

特に

【全ての民が誇りと喜びが持てる国造り】

の基本方針が功をなしている


この基本方針は

内戦終了後に

王宮諸事総取締役シーバンにより

発見された

ニナオイスⅢ世から

クシマイニ国王へ宛てた手紙

【我が親愛なる弟よ、

 其方そなたがこの手紙を

 手にしているという事は

 私が早逝し

 其方が王と成ったという事だろう

 幼き弟よ今は亡き兄を許して欲しい。

 王として最も大切な事を

 ここに書き残す・・・・

 親愛なるクシマイニへ

 ニナオイスⅢ世より】

この中に書き残された文から

クシマイニは己が取る政の方針を決めた


勿論この手紙はラテルが開戦前夜に書き

シーバンに託したものである


クシマイニが王として

あやまりなくまつりごとが取れるのは

シュアス・バルモンクの力が大きい


―――――――――


シュアス・バルモンク侯爵


故アーザスにより

父の代で不当に廃位された爵位は

内戦終了後

クシマイニ王により復興された

これにより

ゴコーゼッシュ家との養子縁組を解消し

バルモンク侯爵家当主となる。


歯に衣着せぬ物言いは変わらず

臆さず王をたしなめる

その姿勢が他の貴族達に受け入れられ

貴族からの信頼も厚い


他国からは

❝シュアス・バルモンクある限り

タスジャーク国は容易に攻め落とせない❞

と恐れられる存在


そしてもう一人

他国から恐れられる人物

ディーゴ・カーマツア


―――――――――


ディーゴ・カーマツア


内戦終了後ゴコーゼッシュ家を去り

王国兵団総司令官の職に付き

日々兵団の更なる強化に余念がない


無表情は相変わらずである・・・


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ディウ


内戦終了後に

叔父のソベクから買い与えられた

男爵位を返上し

平民となり

父と共に街でパン屋を営んでいた


ディウは内戦で心に大きな傷を負った・・・

レアリカヒ学園時代から共に過ごした

三人の友の死・・・

自分だけが生き残ってしまった罪悪感


❝また美味しいパンが食べたい!❞

最後にそう言っていた真の友への

せめてものつぐないいと

パン屋を始めたのだが

今は王宮諸事総取締役として

日々忙しく働いている


元王宮諸事総取締役シーバンは

内戦以前から

頭脳明晰で何事にも臨機応変に対応し

細部にまで目を配るディウを

是非とも自分の後継者にと考えていた

毎日のようにパン屋へ通い説得するも

ディウはシーバンの申し入れに

決して首を縦にしない


そこで始祖ミツザネ王の

❝身分に関係なく優秀な人材を取り立てる❞

の教えに習い王より勅命が下され

数年間シーバンの下で副総取締役を務め

今に至る。


―――――――――


シーバン


王宮諸事総取締役を引退後は故郷に戻り

毎日手入れをして庭を花で埋め尽くし

早くに亡くなった

花好きの妻を思いながら花を

一人穏やかな余生を過ごしている


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オスタ


ラテルと交わした最後の誓い

❝一生涯シュアス様を守る❞を忠実に守り

バルモンク侯爵家の私兵隊長として

今もシュアスの護衛を務めている

律儀な性格と剣の腕前は変わらない。


―――――――――


ミーナモ元第二王妃とドニス


故アーザスの一人娘ミーナモと

夫のドニスは

避難した村で

❝王都から戦火を逃れ住み着いた家族❞

として畑を耕し

家族三人慎つつましく和楽に暮らし


その後に生まれた息子には

命懸けで王宮から連れ出してくれた

恩人にあやかり

ディウと名を付けた。


―――――――――


ゼネッス・シュングス伯爵夫人


開戦前夜に

レアリカヒ学園で共に学び

同じ時を過ごした親友のフォーラと

その弟ラテルとルクトの説得により

夫がアーザス派から離脱し

王軍として尽力し廃位を免れた


その後

子宝にも恵まれたが今は病の床にある

どうやら余命は幾ばくも無いようである。


―――――――――


クーエラ・バルモンク侯爵夫人

(旧姓クーエラ・ゴコーゼッシュ)


幼少期から養兄シュアスに好意を抱き

❝大きくなったら

 シュアス兄様のお嫁さんになる❞

との言葉に

シュアスが幼子の戯言たわごとと扱い

❝それは嬉しい❞とお世辞で返答した


クーエラの性格は母リエッドではなく

父キチェス

いや、祖母カーシャに似て

一度口にした事は曲げない性格

約束は約束であると

16歳の誕生日にバルモンク家へ嫁いだ


シュアス32歳クーエラ16歳と

年の離れた夫婦が誕生した


周囲の❝幼な妻❞との心配をよそに

祖母カーシャ譲りの性格を発揮し

クシマイニ国王の側近とし

日々忙しい夫に代わり

立派に女主人として

バルモンク家を切り盛りしている。


そしてもう一つのクーエラの大切な役目


それは開戦前夜にフォーラが書き残した遺書

【私の遺産は全て

 親の無い子供達、

 貧困にあえぐ子供達が

 生きるため学ぶために使って欲しい】

に従いゴコーゼッシュ家は

❝フォーラ基金財団❞を設立

クーエラは財団の理事として活躍している。


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トーキス・ゴコーゼッシュ侯爵

スイーク・ゴコーゼッシュ侯爵


ラテル・ルクト・フォーラは

王政復古への貢献が讃えられ

クシマイニ国王より

死後それぞれ侯爵位を賜り

トーキスとスイークがその爵位を引継ぎ

それぞれの爵位は侯爵へと昇格した


内戦時は子供だった二人も既に成人し

ゴコーゼッシュ家の男として

それぞれが責任ある立場にいる


好奇心旺盛な三男トーキスは

ラルトス・カンパニーの

代表取締役社長を務め

思慮深い四男スイークは

カイッソウガ14代目領主を務めている


カイッソウガ領は

代々領主の時代と変わらずに

❝領主は領民を思い遣り、

 領民は領主を敬う❞

の関係が続き平穏な領地である


「スイーク!ついに完成したぞ。

 早く中庭へ降りて来ーい!」


トーキスが外から

書斎に居るスイークに声をかけ

スイークは階段を

転げ落ちる勢いで駆け下り

急いで中庭へと向かった


中庭に着くとトーキスが満面の笑みで

「どうだ見てみろ、完璧だぞ!」

「すごいなぁ」


「乗ってみろよ」

「えぇ⁉怖いよ」


「何を言ってんだよ領主様が。

 ほら、ここに座って」

「うっうん」


「足をここに乗せて

 左右交互に踏み込むんだぞ」

「大丈夫かなぁ?」


「ラルフトス・カンパニー社長を信じろ。

 後ろを支えているからなっ

 ゆっくり漕ぐんだぞ」

「あぁ分かった」


「肩の力を抜いて、

 そうだ上手いぞスイーク」

「トーキスこれは実に素晴らしい乗り物だ!」


「素晴らしいのはルクト兄様さ

 こんな乗り物を発明して

 デペロップメント・ノートに

 書き残してくれて」


スイークは乗り物から降りると


「これは便利な乗り物だ。

 馬みたいに餌も要らないし

 場所も取らない。

 名前は・・・何だっけ?」

「自転車だよ自転車。これは売れるぞー!

 どんどん生産して国外にも売るからなぁ」


「お前さぁ、

 そういう所ルクト兄様に似てきたよな」

「当たり前だろ、兄弟なんだから」


『アッハッハッハ』


【デペロップメント・ノート】とは

ルクトが作ろうとしたが

当時のイクス星の技術では作れない物

例えば機関車・ラジオ・発電所・蓄音機

などの製造法を子孫に伝えるために

作り残したノートである


ルクトは開戦前夜

【デペロップメント・ノートを

 愛する弟トーキスとスイークに譲る】

と遺書に書き残した。


ラルフトス・カンパニーは現在も

いや、更に繫盛している

主力商品は傷薬【ヒーサコ】で

今では国外にまで販売網を伸ばしているが

価格は庶民が買える低価格のままだ


そしてもう一つの主力商品

ルクトが遺書に

【これを作りフォーラに捧げて欲しい】

とデペロップメント・ノートに書き残した

製造方法と配分を忠実に再現し作り上げた


透き通る薄い黒色

付けた時には独特の癖の有る香りがするが

時間が経つと心落ち着く優しい香り


その名は【ブレイブ・フォーラ】

勇者(Brave)フォーラと

ルクトが命名していた

ラテル・ルクト・フォーラは今現在も

タスジャーク国の英雄である事から

香水【ブレイブ・フォーラ】の人気は

不動である。


「なぁスイーク、父様から手紙は来たか?」

「いいや今月はまだだよ」


「そうかぁ・・・」

「心配するなトーキス

 父様も母様も元気に過ごされているさ」


―――――――――


キチェス・ゴコーゼッシュ侯爵

リエッド・ゴコーゼッシュ侯爵夫人


キチェスは内戦時に

死を覚悟し

ノスカラ国使節団長を務めた功績により

クシマイニ国王より侯爵位を賜る


キチェスとリエッド夫妻は

今タスジャーク国には居ない・・・


終戦から7年後

長きに渡り

アーザスの悪政で乱れていた国内情勢も

落ち着きを取り戻しつつあった

次にクシマイニ国王が着手したいと

望んだ政策の一つが

❝他国へ売られた同胞を取り戻す事❞

であった


だがそれは容易なことでは無い

イクス星の国々を巡り同胞を探し出すのは

長い年月が掛かる気の遠くなるような作業


クシマイニ国王は貴族議会において

この重責を担う人材を募ったが

皆下を向き黙り込む

その中ただ一人キチェスが

「そのお役目

 私ゴコーゼッシュに

 お任せ頂きたく存じます」

自ら重責を買って出た


国王の名代として

イクス星を巡るキチェスのかたわらには

リエッドが寄り添い共に責務を果たしている


キチェスが役目を担ったのは

国のために命をかけ戦った

我が子達の意志を継ぐために

同胞を救いたいとの思いがあったが

一番の目的は

妻リエッドを

タスジャーク国から遠避ける事にあった


内戦終結後

ラテル・ルクト・フォーラは

国と民を救った英雄と讃えられ

リエッドは

❝三人もの英雄を生み育てた母❞

として持てやされた

称賛の声に

リエッドは笑顔を作り応えていたが

心の中は

子を亡くした悲しみの涙で溢れていた

何年経っても

リエッドと三つ子への称賛は止まない

称賛されればされる程に心は涙で溢れる・・・


このままでは妻リエッドが壊れてしまう

と案じていたキチェスは

他国から同胞を取り戻す役目を

渡りに船と買って出て

家督をスイークに

ラルフトス・カンパニーをトーキスに譲り

リエッドを伴い侍従をしたがえ

諸国を巡る旅に出た


それから何年経ったのか・・・


宿の見晴らしの良いテラスでリエッドが

胸に手を当てながら沈みゆく夕陽を見ている

キチェスはその後ろ姿を写真機に収めた

その写真機には

【我らが尊敬する

 父キチェス・ゴコーゼッシュへ】

と彫られている

遺書と共に置かれていた

三つ子達からの最後の贈り物である


キチェスは写真機を置くと

リエッドの隣に立った


「夕陽が綺麗・・・」

そう言うリエッドの肩を抱きながら

「そうだね・・・」

と一言


それ以上の言葉は要らない

悲しい辛い苦しい、そんな言葉は要らない

命よりも大切な我が子を亡くした

二人だけに通じ合う

・・・想い


リエッドが胸に当てる手の中には

肌身離さず付けている

紅い宝石の散りばめられたブローチ

三つ子が初めての給金で買ってくれた

大切なブローチ・・・


―――――――――


まぁ大体こんなとこである


皆の者

特別に教えてもらった事を感謝するがいい!


ニナオイスⅢ世と

林部勇と

兎良つら蝉丸はどうなった?だと

そんな事は知らん

私には関係無いことだ

私はタスジャーク国が滅亡しなければ

それでいいのだ


えっ⁉

お前は誰だ?とは失敬な人間だ!


我が名は守護神ウーシアである・・・




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