第54話 さぁ!

ラテル・ルクト・ディーゴと共に

王宮の鳳凰の間に着いた


ディーゴが扉に耳を当て中の様子を探る


「中に数名の兵士が居るのは

 間違いありませんが

 本当に王妃様が

 ここに捕らわれているかは分かりません」


ラテルが

「それでもいい踏み込もう、もう時間が無い」


そうなんです

日が傾けば今日の戦は休戦になり

明日へ持ち越される

だがそれではダメなんだよ

今日中にアーザスの首を取らねば

キチェスがノスカラ国王に

処刑されちゃうんだよ!

もうすぐ日が傾く

躊躇ちゅうちょしている場合じゃ無い

行くしかない!


4人で目を合わせ意思を確認した

よし!

行こう!

皆、剣を抜き切り込む体制をとる


ディーゴが扉を蹴り開け

三つ子も共に間髪入れず部屋に押し入る

中にいた十数名の兵士を

確実に一人ずつ切り倒していく

全ての兵士を倒したその先に・・・


居た!ラテルの予想通は当たってた


目の前には縄を掛けられ

自由を奪われたヌーメインの姿

そしてその縄の先を

薄ら笑いを浮かべながら握るアーザス

赤痣あかあざ野郎も居る


ヌーメインに何て酷い事をするんだ!

だが当のヌーメインは

泣くこともおびえることもせず

りんとした態度で黙って前だけを見ている

その姿はまさに

国母である王妃の威厳と風格そのものだ


「よく此処ここまでたどり着いたな、褒めてやろう」

「おいアーザス!

 脳ミソ沸騰野郎に褒められても

 嬉しく無いんだよ!」


「ほう、威勢のいい娘だ。殺すのは惜しいな」

「そうか、

 私はお前を殺す事に

 何の躊躇ちゅうちょも無いけどな」


じわりじわりと少しずつ

アーザス達との距離を縮めていく


「それ以上は近づくな、

 王妃の顔に傷を付けるぞ」

脳ミソ沸騰野郎

ニヤニヤと薄気味悪く笑いながら

剣をヌーメインの顔に突き付けた


大切な真の友であるヌーメインに

傷一つ付けさせる訳にはいかない

もし彼女が傷つけられたら

ノスカラ国に居るキチェスの命が・・・


いやタスジャーク国の人々の命が

ノスカラ国の鉄壁の兵団により

おびやかされる事態となるのだ

それを知る私達四人は身動きがとれないまま

時だけは刻々と過ぎていく


私は剣を投げ捨て

そしてゆっくりと両手を広げ

アーザスに向かい歩き始めた


「娘、

 王妃が心配で己も一緒に捕らわれたいのか?」

「ヌーメインが心配だ

 私達は真の友なのだから」

「真の友か、

 なるほど、生きるも死ぬも一緒にか

 実に面白いクックックックッ」


あ~笑いかたキモイわぁ~

マジ苦手マジ殺したい


ヌーメインが心配だとは言ったが

一緒に捕らわれるとは言ってない!


ラテル・ルクト・ディーゴは何も言わず

黙って私の行動を見守っている


私はれんねえりきの術で

アーザスの両腕の力を抜く作戦だ


だがここで一つ問題がある・・・

今朝からの戦いで呪術を使いまくり

私の体内の氣は残りわずか

ここで氣を使い過ぎれば

転生の呪いが掛けられ無くなる


少しでいい

ほんの0.5秒でいい

れんねえりき

アーザスの腕の力を抜けば

ヌーメインを助けられる

焦るな蝉丸

ゆっくり

ゆっくりと進むんだ


アーザスの目の前にたどり着いた

ヌーメインが悲痛な声を上げる

「フォーラ来ては駄目!」

「何を言っているのヌーメイン

 私達は真の友でしょ」


そう言いヌーメインを抱きしめる振りをして

れんねえりき

と唱え

油断しているアーザスの

縄を握る手にほんの一瞬触れ

アーザスの縄を握る手の力を抜いた


これがヌーメインを救える

最初で最後のチャンスだ

私はヌーメインを

ディーゴ目掛けて力一杯突き飛ばす

ディーゴ見事にはヌーメインを受け止めた

成功だ!


「この小娘があー!」

アーザスは怒り私を切ろうとしたその時


「フォーラ!」

と言いながら

ルクトが私の剣を拾い投げた

私は剣を受け取り

間一髪アーザスの攻撃を防いだ


「生意気なあ!殺せ殺せ殺せ

 王妃もろ共、皆殺しだ!」


脳ミソ沸騰野郎に命ぜられた赤痣野郎が

ヌーメイン目掛けて突進する


すかさずラテルとルクトが

行く手をはば

それを見てディーゴが

加勢しようとヌーメインから離れた


「ディーゴ、王妃から離れるな!」


ラテルが叫ぶ、そして続けて

「王妃を連れ逃げるんだ!」

「しかしそれではラテル様達が」

ディーゴは躊躇ちゅうちょしている


赤痣野郎は強い

三つ子が束になって掛かっても勝算は低い


けどそんな事は百も承知だ


それよりも大事なのはヌーメインの命

彼女の命に

タスジャーク国の全てが掛かっているのだ


「私は逃げません、

 フォーラと一緒に戦います」


おいおい、

ヌーメイン何を言い出す

お前さん

武術の心得なんぞ持っていないでしょうが


「王妃、貴女の命には

 全てのタスジャーク国民の

 命が掛かっているのです

 私心は捨て

 国と民のために逃げてください!」

ルクトオジさんが悟らせるように言う


「王妃を連れて逃げるのだ、

 ディーゴ・カーマツアよ

 これは勿忘草色わすれなぐさいろ

 最後の命令だ」


勿忘草色

それはラテルの前世、ニナオイスⅢ世の印

ラテルは元王子ニナオイスⅢ世として

最も信頼していたディーゴに

最後の命令を下した


ディーゴは歯を食いしばり声を振り絞り

たった一言

「御意!」

と・・・


そしてディーゴは

「王妃様、失礼をお許しください」

そう言いヌーメインを肩に乗せ

「フォーラ!フォーラ!」

と泣き叫ぶヌーメインを連れ

鳳凰の間を後にした


泣くなヌーメインよ

我が真の友よ生きてくれ

これから復興をなすクシマイニを

妻として支え

王妃としてタスジャーク国の民を慈しみ

希望を与えてくれ

君なら出来るさ

いや君にしか出来ない事なんだ


赤痣野郎がディーゴを追いかけようとする

バカ野郎!

そうは問屋がおろさないってんだ!

三つ子に前を塞がれた赤痣野郎が

襲い掛かって来た

その剣捌けんさばききは速く正確だ


「残念なお知らせがあります。

 私の氣は

 もう転生する為の分しか残ってない、

 ので攻撃の呪術は使えません」


私の報告にラテルとルクトは笑い出し


「ご丁寧にお知らせありがとう。

 でも大丈夫さ蝉丸」

「おうそうだ俺達は死を覚悟している、

 何にも怖い事は無い」

「そうだよねぇ、じゃぁやりますかぁ」


三人で剣を構え、何度も交わし合う中

赤痣野郎が私に狙いを定め切り込んだ


「フォーラ!危ない!」

と言いながらルクトが私をかば

右肩に傷を負った


「ルクト!」

「大丈夫だ、この程度じゃまだ死な無い」


ルクトオジさんカッコイイ~

生まれて初めてルクトを

カッコイイと思ったよ~


なんて考えてる間に

ラテルが赤痣野郎の太股ふとももを切り付け

見事に大腿動脈を切断し

血しぶきが上る

だが敵は百戦錬磨の強者つわもの

そんな傷はものともせずに

襲い掛かって来る


私とルクトは腹を深く刺され、

ラテルは左肩から大きく切られた

それでもひるむものか!

負けてたまるか!

倒れてたまるか!!


更に傷を負う三つ子・・・

さすがに立っている事だけで

精一杯の状態

いや、

立てている事が奇跡かもしれない

負けてはならない勝たなければならない!

の気力だけが頼り


だがそれも尽き始めた時

❝ドスン❞と音を立て

赤痣野郎が仰向あをむけに倒れ息絶えた

ラテルの大腿動脈を切断で

出血多量が死因だ


「やった、やったぞラテル!

 かたきを取ったじゃないか!」


ラテルは前世で

自分と父を殺した赤痣男を見事に仕留めた


と喜んでいる間に

アーザスが逃げようとしている


逃がしてなるものか!

三つ子に追いかけられながら

アーザスは剣を振り回す

私達の身体は既にボロボロで

アーザスのへなちょこ剣でさえ

上手くよける事ができない


必死に逃げようとする

アーザスの右脚にルクトが飛びつく

それを見た私は左脚に飛びつき

奴の歩みを止めた


「離せガキ共!離せ離せ!離さぬか!」

とアーザスは必死に剣を振り回し

私とルクトの背中を切り付ける


流石はアーザス

剣術の腕前は猿並だが

手にする剣は上等で切れ味抜群だ

何度も切り付けられ

自分の背中の肉が飛び散るのが見える


例え背中の肉が全部飛び散ろうとも

この手を離すものか!!


そしてルクトと私の今生こんじょう最後の叫び


『行けーー!ラテルーー!』


ラテルは最後の力を奮い起こし

剣を抱え

真っしぐらにアーザスに向かい

その胸を突き刺した


アーザスは

ドスンと鈍い音を響かせ床に沈む・・・


やった・・・

アーザスを打ち取った・・・

んだけど・・・

ラテルが慌てている


「首、首を取らないと。

 アーザスの首をクシマイニに届けて

 休戦の銅鑼が鳴る前に

 勝利宣言をしないと駄目なんだ」


「えっ⁈そうなの?

 首を持って行かないとキチェスは

 処刑されちゃうの⁈」

「そうなんだよ」


ルクトも慌てだす

「そりゃ不味いぞ、早く首を切らないと」


三人でアーザスの首を切ろうともがく

が死にかけの私達は立ち上がる事も

剣を握る事もできない

あと数十分で日は完全に傾くというのに

悔し涙がこぼれそうだ

ここまで辿り着いたのに

ちきしょー!


「ラテル!ルクト!フォーラ!」

この声はシュアスだ

シュアスとオスタが来てくれたんだ


「三人共しっかりするんだ、

 オスタ衛生兵を呼んで来て!」


「待ってシュアス兄さん

 それよりも先にアーザスの首を、

 首を陛下に届けて勝利宣言を」


ラテルの言葉にシュアスは

「早く手当をしないと」


ルクトが

「俺達は後回しで大丈夫だよ

 国と民と、父様を救う事を先に」


そうだ、

どうせ私達は

手当てなんかしたって助かりはしない

「シュアス兄さん、

 父様を母様達のもとへ返してお願い」


「分かったよ・・・」

シュアスはアーザスの首を切り落とし

「待っているんだよ、いいね」


そう言って鳳凰の間を走って出ていったのに

オスタはこの場を離れようとしない


「何をしているオスタ、

 シュアス兄さんを身命にかけて守ると

 約束しただろ」

ラテルの言葉に

「はっ・・・しかし」


オスタは剣士だ

それゆえに私達がもう助からない事を

十分に理解しているのだ


「オスタ早く行け

 行ってシュアス兄さんを守れ

 最後の頼みだ

 これからも一生涯

 シュアス兄さんを守ってくれ」


ラテルの最後の頼みに

オスタは涙を流しながら

「はっ!

 一生涯シュアス様を

 お守りすると誓います!」


そしてシュアスを追いかけ出ていった


オスタは情に厚い優しい奴だったな・・・

いつも使いっ走りさせても

文句一つ言わなくてさぁ

便利な奴だったぜっ、エッへへッ

ありがとうオスタ・・・


廊下からはシュアスの

「道を開けよ!大将首を取ったぞ!

 アーザス軍は降伏せよ!

 陛下にお知らせせよ!

 ノスカラ国へ早馬を出せ!」

と繰り返し叫ぶ声が遠ざかって行く


間に合うのだろうか?

頼む間に合ってくれ!

・・・時を長く感じる


ラテルは私の右側に

ルクトは私の左側に倒れ

何も言わずに三人は

ただじっと天井を見つめている


やがて王宮の内も外も

水を打ったように静かになった


窓の外からクシマイニの声が聞こえる


「見よ悪漢アーザスの首は我の手にあり!

 いま地獄の門は閉ざされ

 平和の門は開かれた!

 悪は滅んだ我が軍の勝利である!

 兵士達よ民達よ共に勝鬨かちどきを上げよ!

 えいえいえい!」

『おーーー!!』


終戦を知らせる銅鑼の音が

激しく鳴り響く


三人が口々に

「やった」「終わった」「間に合った」

その声には既に力は無い


『王陛下万歳!王妃陛下万歳!』

『王陛下万歳!王妃陛下万歳!』


外では民衆の歓喜の声が

大きく渦巻き空を突き抜ける


「やったなラテル、

 前世からの悲願を叶えたな」

「うん・・・」

「ラテル、泣いてもいいんだよ~」


「泣かないよ、子供じゃあるまいし」

「はぁ~前は泣いたじゃん、ねぇルクト」


「ああ泣いてたな、確かに泣いてた」

「外見5歳の時に中身21歳の兄ちゃんが

 〚僕も転生者なんだ〛って」

「僕は泣いたりして無い!」

『泣いてた!』


三人同時に小さく笑う


右手でラテルの左手を

左手でルクトの右手を握る

もう命の灯が消えかけているのを感じる


私は迷っていた

本当に二人を道連れに

転生して良いのだろうかと・・・


「確認だけどさぁ、

 ほんとに私と一緒に転生していいの?」

「俺は誓った、

 ラテルの悲願を達成したら

 蝉丸と共に行くと」

「僕も約束した、

 それに二人が教えてくれた

 電車や飛行機にも乗ってみたいし

 米も食べてみたいんだ」


「そう言う事だ。

 蝉丸、俺達を連れて行ってくれ」

「うん、分かった・・・ありがとう」


私は二人の手をしっかりと握り

呪文を唱え始める

「我、我に呪いを掛けん。我が魂の・・・」


「ちょっと待った蝉丸」

ルクト・・・

やっぱり心変わりしたのか

それも構わないさぁ


「なにルクト?」

「来世も美男子にしてくれ・・・グブッ」


「無理!できません!

 それってさぁ

 グブッって口から血を吹き出してまで

 言うことかよ⁉」

「やっぱり無理かぁ」


「やっぱり無理かじゃねえよ

 オジさんがぁ!」


「プップップップ」

ラテルが楽しそうに笑い出した


「ガッハッハッハッ」

ルクトも笑い出す


釣られて私も笑ってしまった


そして三つ子、最後の言葉・・・


『さぁ!行こう!』


―――――――――


ラテル・ゴコーゼッシュ 享年17歳

(元タスジャーク国第一王子 

  ニナオイスⅢ世21歳)


ルクト・ゴコーゼッシュ 享年17歳

(元晃正大学教授・科学者 林部勇57歳)


フォーラ・ゴコーゼッシュ 享年17歳

(陰陽師・安倍晴明最後の弟子 

  兎良蝉丸15歳)



       ~ 第一章完 ~

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