第53話 内戦Ⅲ

三日目

今日がノスカラ国王に突き付けられた期限日


クシマイニ陛下が兵士らに

「今日、必ず勝利せねばならない。

 ノスカラ国王の恩情による

 鉄壁の兵団が我が国に攻め込み来る期限は

 今日までである

 目指すはアーザスの大将首ただ一つ!

 我が勇者らよ、

 タスジャーク国に勝利の光をもたらせ!

 全ての父母を妻子を守り救うのだ! 

 えい!えい!えい!」

『おーー!!』


銅鑼が鳴る

決戦の始まり


今日は養兄シュアスが仕組んだ計画が

実行されるそうだ

どんな計画なのかは知らないし

誰かに聞く暇もないし

そんなことは、どうでもいい

私は我武者羅に戦うのみである。


―――――――――


三つ子とディーゴは今日も最前線に位置する

作戦は、

兎に角投げられる物は投げまくり

そして剣を振りまくり切りまくる

今日、我武者羅なのは私だけでは無い

味方の兵士も敵兵らも

皆が必死の我武者羅だ


弓を射る、

煙幕玉を打ち込む、

突進して切り込む、

もう戦場はぐちゃぐちゃで

敵と味方の区別がつかない状態

だけど味方を断じて殺す訳にはいかないので

腕に巻かれた印を

「山吹色山吹色」

と一々確認するので気が休まらないです~


もう昼過ぎかなぁ?

皆さん朝早くから戦って腹減らないの?

日が傾いたら休戦なんだからさぁ

昼休みも入れるべきだ

と私は主張したい!


いや違う!

もう昼頃なんて不味まずいじゃん!

今日の戦い、

あと数時間しか残って無いじゃん!

早く敵の本陣へ辿り着き

アーザスの首を取らねば!

我武者羅我武者羅我武者羅に

前へ前へと突き進め!


―――――――――


本陣から伝令が来た

「陛下が皆様に

 至急本陣へ戻るようにとご命令です」


一体何事だろうか?

三つ子とディーゴは本陣のへ急いだ


作戦指令室テントへ着くと

皆さん渋い顔をしている

嫌な予感しかしません

シュアスが

「敵に送り込んでいる内通者から報告があった」


アーザス軍にスパイを送り込んでいたなんて

流石はシュアス


「アーザスと本陣の兵士らが消えた

 右手首に赤いあざの有る私兵もだ」


右手首の赤い痣野郎とは

ラテルの前世ニナオイスⅢ世と前国王

そしてディウの叔父ソベクを殺した奴だ


はっきり言って

赤痣野郎は滅茶苦茶に強い

ディーゴでさえかなわないらしい

でも赤痣野郎も絶対に殺す!!


「負けを悟って逃げたのかなぁ

 そしたらこっちの勝利だよね」


私の発言にクシマイニが

「大将首を取らねばいくさは終わらぬ」


そりゃ不味いですよ

戦いが終わらないと・・・


「ノスカラ国にとらわれている父様が殺される

 早く探して捕らえないと!」


「いま行方を探しているけど、

 戦場には既に居ないようなんだ」


シュアスの話し方からは焦りを感じる


ラテルが

「アーザスは狡猾こうかつな男だ逃げる訳がない

 姿を消したのは何かたくらみがあるに違いない」


シュアスは深呼吸をして

「ラテルの言う通りだ、

 アーザスは狡猾だ

 己の欲を叶えるためなら

 どんな悪辣あくらつな手段でも使う

 さあ、アーザスは何を仕掛けてくる

 何を目論んでいる」


そして目を閉じ思考を巡らせる


以前ルクトが

「シュアスは陛下にとっての諸葛孔明だな」

と言っていた

諸葛孔明って誰?

名前からして地球の日本人ぽいなぁ

知らないと言ったら

ルクトに馬鹿にされると思い

も知ってますよ顔して

「そうだね」と答えたけど・・・

諸葛孔明って一体何した人なんですかねぇ?


「内戦を起こしたアーザスの目的は二つ

 陛下を亡き者とし玉座を手に入れる事  

 そして、

 ノスカラ国を攻め落とし手に入れる事だ」


シュアス一生懸命に考えています


「いまアーザスは戦を有利に進め、

 尚且つノスカラ国に足枷あしかせを付け

 鉄壁の兵団の進軍を躊躇させたい。

 その両方を成す為には何が有効か・・・」


分からない・・・

言ってる事が難しくて

私にはさっぱり分かりません


皆は固唾を飲みシュアスの導き出す答を待つ


「タスジャーク国とノスカラ国に

 共通するものが有るとすれば・・・

 ヌーメイン王妃だ!

 王妃はタスジャークの国母こくぼであり

 ノスカラ国の第三王女であられる」

 

確かにそうですけど

それが何か?


「もし、もし仮に

 ヌーメイン王妃がアーザスの手に落ち

 盾にされたら

 我が軍は容易よういにアーザスに手が出せなくなる

 そしてそれはノスカラ国も同じこと」


うん?

ヌーメインが何だってぇ?


「あぁ何故もっと早く気が付かなかったんだ

 ヌーメイン王妃が危ない

 王妃はどうされているのか

 王宮から知らせはないか⁉」


シュアスがテントの外で控える兵に呼び掛ける


どこから見てもゴリラにしか見えない総司令官が

「シュアス殿、まさかアーザスが王妃を

 人質にすると本気でお考えか?

 いくらアーザスでもタスジャーク国の男が

 そのような卑劣な真似をするとは信じがたい」


ラテルが毅然とした態度で

「アーザスなら十分にあり得ます」

とゴリラ総司令官に反論した


それから指令室のテント内は

喧々諤々けんけんがくがく

首脳陣により

❝やる・やらない❞の意見が激しく飛び交う


怖い・・・

皆が何を揉めているのか分からない


ルクトに尋ねた

「ねぇ何を言い合ってるの?」

「馬鹿かお前は!

 アーザスが王妃を拉致らちするかどうかを・・・」

「拉致って何だぁ?」


「すまん、お前にはむずかしかったな

 要するにだアーザスが王妃を人質に・・・」

「えっ⁉ヌーメインが人質になってるの!」


「違う最後まで聞け!

 アーザスが勝つ手段に

 王妃を人質にするかしないかで

 揉めているんだ」

「ヌーメインを人質にしたら

 アーザスは有利なの」

「そうだ、それは間違いなく有利だ」


何でそんな事で揉めてんだよ!


「皆バカじゃないの!

 そんなのヌーメインを

 人質にするに決まってるじゃん!

 そんな事で揉めてるなよ!」


そう叫んだら皆が口を閉じ一斉に私を見た


「アーザスは脳ミソ沸騰野郎なんだよ

 馬鹿なんだよ!

 今迄いままでだって自分の欲望の為に

 何でもして来たじゃん

 民を他国へ売ったり殺したり

 平気でするじゃん!

 ヌーメインを人質にする事だって

 あいつにとっては

 恥で何でも無いじゃん。

 皆ほんとバカ!!」


王宮諸事総取締役シーバンが

顔を真っ赤にして

「フォッフォッフォーラ!

 陛下に向かい馬鹿とな何事か!」


ヒィ~シーバンジイさんが怒ってる~


「よい、シーバン怒るな。

 フォーラの言う通りだ

 アーザスならば必ずヌーメインを人質にする

 間違い無い、

 今までシュアスの読みが外れた事は無い

 迷うことがおろかであった」


おぉクシマイニが助けてくれたよ~


「フォーラへの説教はこの戦に勝利してからだ」

「はっ!陛下」


なんだよ助けてくれたんじゃ無いのかよ

先延ばしかよ

それにシーバンジイさんたら

嬉しそうな顔で返事してさぁ

怒る気満々じゃないですか


その時

「陛下、王宮より使者が参りました」

と兵士が知らせてきた

「通せ」


王宮から来た兵士は怪我をし

両脇を抱えられ息も絶え絶えだ

残る力で声を絞り出し


「アーザス公が兵を引き連れ王宮に・・・」

「なに!それで王妃は如何いかがしておる」

「分かりません、

 私は陛下にお知らせするため

 何とか抜け出して参りました

 ・・・お許しください」


そう言い終えると事切れた


いやぁ~入ってきた時に

こいつ死ぬな

って分かっちゃいましたよねぇ

私22回死んで経験豊富なんで

分かっちゃうんですよねぇ

まぁ経験者は語るってやつですね


とか言ってる場合じゃ無~い!

早くヌーメインを助けに行かないと!


「やはりシュアスの予想は

 何時いつなずれない、大したものだ」

クシマイニは落ち着き払いそう言ったが

握りしめた拳は震えている

それは王である自分を利用し虐げ

民を苦しめてきたアーザスが

自分が愛するヌーメインを

恐怖におとしいれている事への怒りの現れなのだ

・・・と思う、

わからんけど、

いやきっとそうだ


クシマイニが命を下す

「敵は王宮に有り!

 全軍に命ずる、王宮殿へ進軍せよ!」


シュアスがテントを飛び出し兵士らに伝える

「陛下のご命令である!

 敵は王宮に有り!

 一刻も早く大将首を取りに王宮殿に向かへ!

 王妃をお守りせよ!

 全陣営に速やかに伝えよ!急げ!馬を持て!」

 

本陣がざわめ

「急げ!」「伝令兵!早く全陣営に!」

「陛下の馬を用意しろ!」

兵士達が慌ただしく走り回る音がする


三つ子・シュアス・ディーゴ・オスタ

ゴリラ司令官

王宮諸事総取締役シーバンジイさん

クシマイニ陛下と本陣兵達は

王宮へ向け馬を走らせた


その後ろからは

伝令から命を聞いた兵士らがぞくぞくと続き

王軍が移動するので

訳も分からぬアーザス軍も追いかけて来る

砂埃すなぼこりを巻き上げながら民族大移動である。


隣を走るラテルが

「不味いことになったキチェスが危ない」

「そうだね、

 でもヌーメインを奪い返せば大丈夫でしょ」

「いや、もしアーザスが王妃に

 かすり傷一つでも付ければ

 報復として

 キチェスは即刻処刑されてしまう」


えぇ~!

そんなぁ理不尽な!


ヌーメインは❝真の友❞と互いに誓った時から

命をかけ守ると己の心に誓ったのだ

この蝉丸に二言は無い

ヌーメインを助けて

キチェスをノスカラ国から取り返すぞ

リエッドとトーキスと

スイークとクーエラを泣かせるものか!

急げ急げ急げ!

「アーーザーース!殺す殺してやるーー!」


―――――――――


王宮殿は静かだ

外には

王妃の護衛をしていた兵たちの死骸が

転がっている

王宮内に敵を入れまいとの善戦もむなしく

壊滅状態なのだろう


剣を抜き王宮殿へ駆け込む

三つ子とディーゴ・シュアスとオスタ

陛下とゴリラ司令官と護衛兵が三手に分かれ

ヌーメインを探す


王宮内は広く

敷地面積は後楽園球場の2倍は有り

それが地上13階に地下2階で

全ての部屋の数は

・・・知らない


先着した王軍と

それに付いて来たアーザス軍が加わり

王宮内は完全なる戦場と化し

敵味方が入り乱れ

刀剣を打ち合う音に

雄叫びと大混乱であります


こっちはヌーメインを探し出すので

忙しいってのに

アーザス軍の兵士らが襲い掛かってくる

ウザイ!

邪魔!

へんめいでん

唱えまくって切りまくりっても切りが無い

これじゃあ

ヌーメインを探し当てるどころじゃ無いじゃん


ルクトがラテルに

「アーザスが立てこもる場所に

 心当たりは無いのか?」

と尋ねると

鳳凰ほうおうの間・・・」

と小さく呟き暗い顔をした


「鳳凰の間ってのは何処なんだ?」

ルクトの問いにディーゴが

「中央棟です、

 私に付いて来てください案内します」


ディーゴも暗い顔をしている

そこには何があるんだ?


「ねぇ、鳳凰の間なんて

 いままで聞いたことがないよね

 隠し部屋なの?

 それとも何か因縁の有る開かずの間なの?」


私の問いにラテルは何も答えない

ディーゴが

「マーツ二キス前国王陛下と

 ニナオイス前第一王子殿下が

 お亡くなりになった部屋です」


その顔には口惜しさと

いきどおりが滲み出ている


そうかぁラテルの前世ニナオイスⅢ世と

その父マーツ二キス前国王が

アーザスにより殺された部屋かぁ

なるほど脳ミソ沸騰野郎ならバカだから

同じ事を繰り返しそうだ


ラテルはその部屋の名を口にするだけでも

平常心じゃいられ無いよなぁ

だが今は死んだ過去の出来事に

思いをせるよりも

今を生きている者達の命を

助けることが最優先だ


「急ごう!」


―――――――――


アーザス軍兵を倒しながら

鳳凰の間を全力で目指していると

にわかに外が騒がしい

その喧騒けんそうは兵士達のそれとは違う


一体何者達なんだと窓から外を見たら・・・


民衆だ!

王宮の敷地内を民衆が手を繋ぎ合い

「アーザスを殺せー!」

「陛下と王妃をお守りしろー!」

「子供達を守れー!」

「食べ物をよこせー!」

「平和を返せー!」

と叫びながら

アーザス軍の兵士らに詰め寄っている


アーザスの悪政悪事に

怒りを爆発させた民衆の勢いはすさまじく

敵兵らはおくして後退あとずさりしている


ルクトが久しぶりに

時代劇の定番❝越後屋お前も悪よのう❞の

不適な笑みを浮かべながら

「来たな!」

と喜んでいる


「来たなって、

 ルクトは民衆が来るのを知ってたの?」

「これが今朝話した

 シュアスの仕組んだ計画だ」


ルクトが養兄シュアスの立てた計画なるものを

ご教示下さった


シュアスはこれまで

綿密な作戦を実行してきた

それは、

アーザス個人が己の欲望のために悪政を行い

民衆の命を脅かしている事を

雄義隊を使い市中に流言し

その事実を民衆に知らしめ認識させ植え付け

同時に人心を王陛下へと傾かせる作戦である


そして内戦が始まると

市中に潜伏する雄義隊員らが

『王陛下は民を守るため命をかけ

 てアーザスと戦っている

 我々も王陛下と共に戦おう!』

と扇動し

国中の民を戦場へと駆り立てたのだ


民衆の戦場参加には二つの効果が有る

一、アーザス軍の殆どは

飢饉による食糧難から逃れる為に

やむ無く兵士になった

寄せ集めの民で形成されたいる

したがって

目の前に押し寄せた民衆を容易には殺せず

自らの行き場を失い戦意を喪失する。


二、民衆はその目でじか

王陛下が剣を持ち戦う雄姿を見る事で

王陛下に信頼感情を持つ

更に

自分達もアーザス兵をやり込め

王陛下と共に戦ったという一体感を持つ


この二つの感情で王陛下は人心を得て

アーザス軍に勝利した後の

タスジャーク国復興に

民衆の協力が得られる。


って何を言っているのか

・・・よく分かりません


ただ、

窓の外に見えるのは

アーザス軍兵士が後退あとずさりし

中には武器を捨て

民衆の列に加わるアーザス軍兵士の姿

これって凄いじゃん!

な事は分かります。


「シュアスってさぁ

 優しいけど考える策はちょっと怖い・・・」

「ガッハッハッそう思うか

 シュアスは策士だ諸葛孔明なんだ

 ひたすらに国と民が

 安寧な未来を手に入れる為の策を考える

 それは凡人には出来ない事だ

 シュアスは大した奴なんだ」


そうかぁ

凡人には出来ない事をやる奴かぁ


「頭の悪いお前が理解できなくて当然だ

 ガッハッハッ」


はい出たぁ

ルクトの私をバカにする発言!

いつもなら襲い掛かるところだが

今はそれどころじゃないので

許す

許してやる許してやりましょう


それよりも!

待ってろヌーメイン必ず助けてやるからな!



 


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