第50話 火蓋を切る

1月

いよいよ決戦の時が間近に迫る


三つ子と雄義隊長の養兄シュアス

雄義隊参謀のディーゴ

副参謀のオスタ

そしてディウは王宮に居を移した。


ディウは王宮に沢山のパンを持参した

「父が焼いたパンだよ。皆、食べてね。

 皆さんに宜しくと父が言ってた」


ディウの父親は

実兄の悪徳商人ソベクが

アーザスに殺された後に

実兄がアーザスに利用され

悪行を働いていたことを知り

ソベクの汚い金で

爵位を買い与えられ喜んだ己を恥じたが

ディウから雄義隊の活動を教えられ

今は進んで協力してくれている


「わぁ~美味しそう~!いただきます」


早速に召し上がってみました~


「美味しい!美味しいよディウ」

「フォーラ、もう食ってるのか!

 ディウの父上は元はパン職人だからな

 どれどれ俺も頂こうか」


な~んだよルクト

私のこと怒ったくせに自分も食べるんじゃん


美味うまい!美味いぞ、皆も食べてみろ」


ルクトの言葉に誘われ皆がパンを食べだした


美味しい物を食べると何故に顔が緩むのか?

無表情男のディーゴさえ

ちょっぴり顔が嬉しそうです


そして美味しい物を食べると

何故かワイワイと話しが弾むよねっ


そこへ

クシマイニ陛下とヌーメイン王妃がやって来た


以前はアーザスの手下の兵に見張られ

自由に王宮内を歩けなかった

クシマイニとヌーメイン

だけど今は

私の陰陽術❝ごうじゅん

でアーザスの兵は王宮から消え去り

自由に歩き回れるのだ~

ぜ~んぶ私の功績なのだ~!


だけどその真実を知るのは

ラテルとルクトだけ

あんなに頑張ったのに

誰からも褒められずチヤホヤも無し・・・

ちょっとねちゃいます。


「皆で何を楽しそうにしておるのだ?」

「あっ陛下

 あのね、ディウの父様が

 パンを焼いてくれたの

 美味しいよ一緒に食べましょう。

 ヌーメインも食べようよ」


私がへクシマイニとヌーメインに

パンを手渡したら

王宮諸事総取締役シーバンが


「こらフォーラ、なんだその口の利き方!

 最近は更に礼儀がなっておらん!

 陛下も王妃様も

 毒見もせずに召し上がられてはなりません」

「シーバンよ、ディウに失礼であろう

 雄義隊副隊長の父君が

 毒を盛るとでも言うのか」


シーバンジイさんたら

クシマイに怒られてやんの、へッへッへ。


そうなんです!

ディウは雄義隊副隊長なんです!


隊長のシュアスが忙し過ぎるので

副隊長を置く事になったが

ラテルは固辞するし

ルクトは戦に役立つ物を作るのに忙しい

私の副隊長就任は皆が

「無い無い無い無理無理無理」

と満場一致で却下され

ディウが副隊長になりました~


私は、

もし、

副隊長に任命されても

お断りするつもりでしたよ・・・


我が真の友ディウは

気弱だが頭脳明晰で瞬時の分析力

判断力にけているので文句無しです!


でもなんで私は

「無い無理」と

皆で口を揃えて言ったのかなぁ?


―――――――――


1月3日

そろそろ父キチェス率いる

ノスカラ国への使節団が

帰国する頃だと

皆で帰りを待ちわびていた使節団が

ノスカラ国王からの返書を携え

無事に戻った



ノスカラ国王からの返書には

〘タスジャーク国王の

 民への思いには深く感服する

 されども、

 今や貴国の民衆が置かれる苦境は

 抜き差しならぬ状況と推察する。

 7日間で内戦を鎮圧すると書かれているが

 内戦は3日が限度であろう。

 それを過ぎれば、次は民衆が

 王に刃を向ける事態になり兼ねぬ。

 我が軍は3日待ち

 吉報無き時はノスカラ国を守るため

 タスジャーク国への進軍やむなし。

 婿殿よ奮闘を祈る〙


皆、静まり返り

誰も口を開かない・・・

だけでは無い

明らかな苛立ちが充満している


「一週間を3日に短縮しろってぇ⁉

 べらぼうだなぁ

 ノスカラ国王は陛下に意地悪してるの?」


場の空気にお構いなく放った

私の言葉にクシマイニは


「意地悪では無い。

 本来ならば既にノスカラ国軍が

 攻めて来ても致しかた無い国情

 それを舅殿は

 我に期待し猶予下さっているのだ」


そうなのかぁ

それじゃあ期待に応えないとねっ


総司令官が難しい顔で

「作戦を練り直すぞ」

と各司令官とディーゴを近くに呼び寄せた


この総司令官は

ディーゴの元上司で国兵のトップ

どんな奴かと言えば・・・

ゴリラの全身の毛をそり落としたような

オジさんです

我ながら上手く例えたなぁエッへへッへ。


ところで・・・

さっきから凄く気になる事が


「父様は何処にいるの?」


使節団として共をした兵が

「ゴコーゼッシュ閣下は

 ひん客としてノスカラ国に残られました」


なんだ、そうかぁ安心した


なのに何故か

私とルクト以外の者が顔を曇らせる


「賓客なんだから

 今頃は手厚く持て成されているね」

ラテルが苦虫を嚙み潰したような顔で

「違うんだよフォーラ、

 父様は陛下の名代だから

 タスジャーク国が約束をたがえたら

 斬首刑にされるんだ」


えっ⁈

どういう事⁈


「それじゃ3日で決着がつかなければ

 父様は殺されるの⁈」

「そうだ・・・」


はぁ⁉

キチェスが殺されるかもしれないだと~!

キチェスが死んだら

妻のリエッドはどうなるんだよ

トーキスとスイークは?

クーエラだってまだ幼いのに


「まさか父様は

 危険を承知でノスカラ国へ行ったの?」

「そうだよ」


なんてこった

キチェスめ死を覚悟しての行動だったのか


いや、そうではない

きっと4人の子供たちを信じているんだ

私達なら必ずアーザスを倒し民を救うと・・・

そして父として少しでも力になりたいと・・・

あいつは、

そういう男だ


「済まない、

 シュアス・ラテル・ルクト・フォーラ

 其方らの父は必ず救う。

 皆の者、時間が無い知恵を出し

 勝利を掴み取るのだ!」


クシマイニ陛下の一言に

皆が前を向き会議が繰り広げられた


絶対にアーザスも赤痣あかあざ野郎も殺す!

そしてキチェスを私達家族のもとへ取り戻す!


作戦会議で決まった新たな作戦は

・・・耳を塞いでいたので知りません


私への下命は【とにかく我武者羅に暴れろ】

だそうです

まぁ私は我武者羅は得意なんで

気合い入れてガンガン行きます!


「仲間と降伏者は殺したらダメだからね!」

とシュアスにきつく言われた

それぐらいは分かっているし

最大限に努力します!


―――――――――


1月5日

恒例行事である新年謁見の儀

両陛下の下

貴族達が謁見の間に集った

アーザスはいつも通り玉座の隣に立ち

摂政として新年の言葉を述べようとした


だがクシマイニ陛下が先に口を開く


「本日は皆に知らせがある

 第二王妃ミーナモが昨年、出産をした」


会場にいる皆が驚いている


それは初めて陛下が

お言葉を発された事にだ


そして皆が不審に思う

陛下の子の誕生は国中あげての祝い事である

なのになぜ今まで隠されていたのかと。


「連れてまいれ」

クシマイニの命令で

兵士が赤ん坊を抱いたミーナモと

赤ん坊の父ドニスを連れて来た


やっぱり赤ん坊は漏れなく猿なんだ!

と確信しました


「ミーナモの産んだ子は

 我の子にはあら

 子の父は、ここに控える

 元ミーナモの護衛係ドニスである

 ミーナモは第二王妃になった時

 既に子を宿していた」


会場がざわめく


「ミーナモよ、

 其方そなたの口から皆に真実を伝えよ」


クシマイニにうながされ

ミーナモが震えながら話し出す


「私の産んだ子は

 陛下のお子ではありません

 ここにいるドニスの子供です

 父アーザスはそれを知りながら

 己が政を操るために

 私を第二王妃の座に据えたのです」


ざわめきは更に大きくなる


「これは不敬罪である

 ミーナモの証言により我はアーザス公も

 同罪と見なす」


クシマイニの言葉に会場は静かになった


アーザスは顔色一つ変えずに

「これは異なことを

 私が娘の不埒を知っていれば

 第二王妃などに推挙する

 はずはございません」


そして続けてこう放つ


「我が娘は万死に値する大罪をおかした

 誰か剣を持て今ここで自らこの手で

 不埒な娘と男と赤子を切り殺す!」


おいおい⁉

自分の罪を隠すために娘と孫を殺すのかよ!


「黙れアーザス公

 其方は知らなんだと申すか」

「はい陛下。

 その証拠に

 今すぐ不埒者共を殺してお見せしましょう」

「黙れ!アーザス公

 処刑を決めるは王である我ぞ!

 口をはさむ事あいならぬ!」


誰もが初めて

陛下が摂政のアーザスを怒鳴る姿を目にし

驚きを隠せない


「この者たちを地下の牢へ連れていけ」


クシマイニの命令でミーナモ達は連行た

が、これは作戦の内

ミーナモとドニスそして赤ん坊は

後でディウが安全な場所まで

送り届ける手筈てはずだもんねぇ


「シーバン、あれを持て」

クシマイニに言われ

王宮諸事総取締役シーバンが

❝アレ❞を差し出した


「これはソベク商会の主の

 ソベクの所有していた帳簿である」


おぉ~

苦労して手に入れた帳簿が

やっと日の目を見ましたよ


アーザスの眼がぎょろっと動く


「この帳簿には

 ソベクがアーザス公の指示で

 タスジャーク国の民を他国へ売り

 その金を

 アーザス公に納めていたと記されている」


再び会場がざわめきだす


「摂政でありながら、

 自国の民を他国へ売り私腹を肥やすとは

 許し難き蛮行

 いさぎよく己の罪を認めよ!」


そ~だそ~だ~

認めろ~!


「確かにわたくしは民を売りました」


更に会場がざわめき立つ


「ですが全ては国のため、

 金が無ければ多くの者が困窮する

 多くの者を救うため

 ほんの少しの民を犠牲にしただけの事

 それで大勢の者が生きられる

 仕方なき犠牲なのです」


「なにを申すか、民は国の宝ぞ!

 一人も国の犠牲になぞしてはならぬ!」

「陛下は甘い。

 そんな青臭いお考えで政が務まると?

 私は私腹を肥やしたのでは無く

 その金で困窮する貴族達を

 助けてやっていたのです」

 

多くの者って国民じゃ無くって

一握りの貴族なんか~い!


「言い逃れをするか!」

「陛下が何もお出来にならないから、

 私が代りに

 貴族達が反乱を起こさぬように

 心配りをして差し上げていたのです

 陛下は私に感謝なさるべきなのですよ」

 

「なんと恥知らずな!

 アーザスよ王の名の下に

 其方の摂政を解任する!」

「生意気な小僧が息巻きおって、笑止千万!

 よかろう、

 この国の本当の王は誰なのか教えてやる

 首を洗って待つがよい!」


そのままアーザスが出ていこうとする


私は逃がしてなるものかと

近くに立つ兵の剣を抜き取り

追いかけようとしたら

「危ないよフォーラ嬢」

と誰かに後ろから羽交い絞めにされ

止められた


誰だよ邪魔するのは

と振り返ると・・・

軟派野郎レアリカヒ学園の

元乗馬俱楽部部長テンマスじゃん!

こいつ❝ごうじゅん❞を掛けた時に

もっと強く唱えて

一生眠らせてやればよかった、と後悔です


「フォーラ、作戦通りなのに何をやってるの」

とラテルに言われた

作戦て何ですか??


「作戦会議で

 第二のアーザスを出さない為に

 わざといくさに持込み

 朝敵を一掃すると決めたでしょ」


えっそんな事が決まってたんだ

そりゃ止められて助かったわ~

初めて軟派野郎テンマスが役に立った


「どうせまた会議中に耳を塞いでたんだろ

 だからお前の頭は、さ」


話し途中のルクトの口をラテルが慌てて塞ぎ

「それは言っちゃダメだって!」


ふうん?

ルクトは何て言おうとしたんだ?


「さ」って言ったよなぁ

・・・さ、さ、さ?

そうか、わかったぞ

❝さ❞は❝最高のさ❞なんだ!

ルクトは私の頭は最高だ

と褒めようとしたんだなっ

なのにそれを止めるなんて

ラテルは結構意地が悪いなぁ


「ルクト!

 フォーラに猿並みの頭って言わないでよ

 こんな大変な時に暴れだしたら

 手が付けられないから」

「悪かったなラテル、今後は気を付ける」


―――――――――


貴族達は皆

戦の準備のため早々に王宮を後にした


私とルクトそしてディウは

急ぎミーナモ家族の居る

地下牢へと向かった

ディウは王命で

ミーナモ家族を安全な場所へ届けるのだ


皆でマントを羽織り

フードで顔を隠し

赤ん坊は大きな木箱に入れて隠し

階段を登った

階段を登り切り地上に出れば

3頭建の馬車が用意されている

急いでミーナモ家族を馬車に乗せた


「ねぇ赤ちゃんの名前は付けたの?」

と尋ねたらミーナモが

「ヌーメイン王妃にあやか

 ヌーメイスと付けたの

 妃陛下のように心広く優しく

 そして強く生きてくれるようにと」

「そうか、いい名前だね。

 ヌーメイス元気に大きくなるんだよ」


「ディウ、気を付けて行けよ」

「うん、ルクト有難う」


「お前なら大丈夫さ、

 不測の事態もその頭脳で乗り切れる」

「随分と褒めてくれるんだね」


そりゃ褒めるさ

だって・・・

これが最後の別れなんだから

私も真の友に最後に何か言い残さなければ


「ディウ!・・・」


初めて会った時は辛気臭い顔をして

そんなんだから同級生にいじめられるんだよ

と思ってたけど

今のディウの姿は

凛々しい若武者そのものじゃないか


「なに、フォーラ?」

「うん・・・また美味しいパンが食べたい!」

「アハハハハ、任せてよ

 戻ったら父様に

 フォーラの好きな甘いパンを

 たくさん焼いてもらうからね」

「待ってるよ!」


ルクトと私はディウと握手をし

手を振り馬車を見送った


「友との永遠とわの別れは辛いもんだよね」

「そうだな・・・

 だがこれで俺達の真の友ディウは

 死なずに済む

 あいつも、この国の未来に必要な人間だ」


ルクトが笑いながら背中を叩き


「さあ、ディウの分も張り切ってくれよっ」


だから痛いんだよ!

オジさんはなんでいつも背中を叩くんだよ⁉


 

 









 





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