第49話 開戦前夜Ⅱ

12月中旬

1月5日にクシマイニ陛下は

アーザス公へ挑戦状を叩きつける

もしアーザスがそれを拾えば

内戦の火蓋が切られる・・・

と皆が言っている


私は作戦会議中に

ほとんど耳を塞いでいたから知らなかった

私が知っている事は

❝山吹色の布を腕に巻いている者は殺さない

武器を捨て降伏した者は殺さない

その他は皆殺し❞

これだけ知っていれば十分です!


城下の住民は殆どが避難した、

雄義隊が

❝戦が始まる城下は危ない❞

と噂を流しまくった成果だ


ゴコーゼッシュ家別邸の使用人も

必要最低限の人数を残し

カイッソウガへ避難させた

残りの者も父キチェスが

クシマイニ陛下の親書を携え

ノスカラ国へ出立したら直ぐに

カイッソウガへ戻れるよう準備をさせている


「大切な使用人たちを

 戦火に巻き込む訳にはいかない」

とキチェスが決めたことであり

むろん異議は無い

私は長い22回の転生人生で

飯の支度も洗濯も掃除も身に付けている

伊達だてに転生を繰り返しちゃあいませんぜ


キチェスが使節団長として

数名の兵を引き連れノスカラ国へ出発の朝

養兄シュアスと三つ子

そして残り少ない屋敷の使用人達で見送った


ノスカラ国への道のりは7日程度

2週間もすれば戻れる予定だ

ただ願うはキチェスの無事のみである


「それでは行ってくる。

 シュアス、後は任せたぞ」

ノスカラ国へと向かうキチェスの後姿は

まぶしいほど凛々しく

男の生きざまを現しているようだ。


―――――――――


次の日の午後には

使用人達はカイッソウガへ帰っていった


中には残ってお世話をさせて欲しい

と泣いて懇願する者もいたが

帰る事は不忠では無い

と言い聞かせ馬車に押し込んだ。


広い別邸には

三つ子とシュアス

ディーゴとオスタの6人だけ

静かだ・・・

フォーラとして転生してから

こんなに静かなのは初めてだ

あ~

伸び伸びします~


皆で飯の支度をした

元王子ラテルさん

からっきし役に立たないです

なんでもスマートにこなすのに

ジャガイモの皮むき一つ出来ない

ラテルにはいつもチョットだけ

劣等感を抱いていた私だけど

この時は優越感に浸りまくったぁ~

エッへッへへ


自分達で作った飯を

仲良くワイワイ言いながら食べてると

何だか林間学校みたいで

思ってたより数倍楽しい!


食後は居間で

ディーゴの入れてくれた紅茶を飲んだ

これが美味い!


「やっぱりディーゴはオジサンなのに

 独身で、いつも自分で紅茶を入れるから

 上手なんだね」


ディーゴは微妙な顔で


「まぁ・・・お気に召して良かったです」


ルクトに

「お前、ディーゴに失礼だろ」

と怒られた

素直に褒めたのに何で怒られるんだ⁉

訳わからん?


テーブルの上に

見慣れないノートが置かれているので気になる


「これなぁに?」

と聞くとラテルが


「それはシュアス兄さんと僕が

 王派とアーザス派の貴族を分けて

 記したノートだよ」

「見てもいいの?」

「ああ構わないよ」


どれどれ見てみますかぁ

と開いてはみたが貴族家は200以上

知らない名前ばかりで

興味など湧くはずもなく・・・


「あれ?この名前って

 見覚えがあるようなぁ・・・」

ルクトがノートを覗き込み

「アモーグ・シュングス伯爵・・・

 あぁゼネッスの旦那だな」

「えっゼネッスのクソ亭主⁉」


ゼネッスは言わずと知れた

22回の転生で私が初めて恋をした

唯一の女性である


「シュングス伯爵家は

 元々王権復古を支持していたんだけど

 夏に先代が急死し

 代替わりをしてから経済がなりいかず

 金のために

 アーザス派に転じてしまったんだ」

ラテルが親切に教えてくれた


ってぇ事は

アモーグは私に殺されるってことかぁ・・・


でもそしたらゼネッスはどうなる?

反逆者の妻として

爵位をはく奪され路頭に迷う身に・・・


それは嫌だ!

ゼネッスが不幸になるなんて絶対に嫌だ!


「なんで早く教えてくれなかった!」

ラテルに食って掛かった


「これは国と民の運命を左右する戦いだ

 私情は挟めない」


元王子め理路整然と言いやがる


「はぁ⁉

 ゼネッスは、お前にも友達だろうが!」

「私情は挟まない。

 それに今さら何が出来たと言うんだ」


頭にきた!

ラテルの胸ぐらを掴み

「アモーグを説得したさ!」

「無理だろうし、そんな義理もない」


一々冷静に言い返すラテルに更に腹が立つ


「なんだよ私情は挟まないって

 義理が無いって!

 お前の考えは何時いつも冷酷なんだよ!」

「僕のどこが冷酷なんだ?

 フォーラのように感情に流されていたら

 正義は貫けないよ!」


こいつ

こいつ

こいつ

ぶっ飛ばす!


「ラテル、

 確かに感情に流されては事を治められない

 でも国は人で成り立つ、

 そこには情が必要なんじゃないかな」


シュアスが落ち着いた口調でラテルに言いさとした

ラテルは下を向き黙っている


「フォーラ、残念だけど

 今からシュングス伯爵を説得するのは

 僕も無理だと思うよ」

「シュアス兄さん

 やってみなければ分からない!

 アモーグが陛下に付かないなら

 ゼネッスを奪ってでも連れてくる

 大事な・・・大事な友達だから!」


私は一人で

シュングス伯爵邸へ向かうため居間を出て

そして勢いよく扉を閉めた


出たはいいが・・・

そっと居間の扉を開けた

皆が私を見ている

視線集中・・・


「知らない・・・

 シュングス伯爵邸を知らない

 オスタ、案内して」

「はあぁ・・・」


皆がどっと笑い出した

その笑いで

居間に漂っていた重い空気がスッと消え

明るい空気が満ちてくる


「しょうがないなぁ

 オスタ案内してくれ俺とラテルも行くから

 なぁラテル、

 俺達は元クラスメイトだもんな」

「そうだね、三人で行こう。

 フォーラだけだと心配だしね」


なんだよっラテルもルクトも

・・・嬉しいじゃないか


馬に乗りオスタの案内で

シュングス伯爵邸を目指した。


―――――――――


シュングス伯爵邸に着いたけど

まぁ屋敷の大きさは

ゴコーゼッシュ家別邸と大差ないじゃん


三つ子とオスタは客間に通され主を待った


「やあ、ようこそ

 ゴコーゼッシュ家の三つ子さん」


主のアモーグが護衛を連れ

入って来るなりの一言がかんさわ


護衛付きでお出ましかよ

まぁこっちも同様に

護衛係のオスタを引き連れているけどね


「妻が是非とも皆さんに会いたいと言うので

 同席することをお許しください」


あっ、

アモーグの後ろにゼネッスが立っている

私はその姿を目にしたら

言葉が出ず口ごってしまった


「おう、ゼネッス久しぶりだなぁ

 いや今はシュングス伯爵婦人か」

「嫌だわラテル、

 変わらずにゼネッスと呼んでちょうだい」


「そうはいかないよ

 今や立派な伯爵夫人だもの

 ちなみに

 さっき話したのがルクトで僕がラテルだよ」

「あら私ったら

 相変わらず間違えて、ごめんなさい」

「構わないさ。

 それよりも元気そうで良かった

 なぁフォーラ」


へっ⁉

ああそうか何か言わないと


「うん、ゼネッスが元気で良かった・・・」


何を緊張しているのだ蝉丸よ

ゼネッスを救えるチャンスは

今しか無いのだぞ

しっかりしろ蝉丸!


「今夜はシュングス伯爵に

 重要なお話しがあり伺いました」

「ほう、何でしょうかフォーラ嬢」


「率直に申し上げます。

 アーザス公と距離を置いてください」

「急に随分と不躾ぶしつけなことを、

 当家の事に口出しとは」


あ~私は頭が悪いから

何て言ったらいいのかわからん

でも言う!


「アーザス公の言いなりになれば

 シュングス伯爵家は滅んでしまう

 だってアーザス公は悪い奴だから!」

「なにを馬鹿げた事を、子供でもあるまいし」


「亡き御父上は王権復古を願われていたのに

 アーザス公に組するなんて

 そっちの方がバカじゃん!」

「なんと無礼な!

 女だからと許せぬ男爵家の分際で!」


「女も爵位も関係無い。

 そんな差別をするとは肝の小さい奴だ!」

「貴様、殺されたいか!」

「お前に私が殺せるもんか!」


思わずアモーグの胸ぐらを掴み

投げ飛ばしてしまった


アモーグの護衛が剣を抜き

私に突き付けようとすると

オスタが瞬時に剣を抜き

剣と剣がぶつかり合う音が響く


シュングス家の護衛と

オスタは睨み合い一触即発状態


ゼネッスが

「止めて!」

と叫ぶ


あぁやっちまった

これじゃぁ説得どころじゃ無い

どうすんだよバカ蝉丸・・・


「お待ちくださいシュングス伯爵

 フォーラは馬鹿なんです」


うっ、ルクトが私を馬鹿って言った~


「フォーラは

 馬鹿がつくほど友達思いなのです

 ゼネッス夫人の生末いくすえ

 心から憂いているのです

 どうぞ無礼をお許しください」


今度はラテルまで私を馬鹿って言った~


アモーグが護衛に

「剣を収めよ」

憮然ぶぜんとした顔で言い

護衛は命に従い剣を収め

オスタも剣を収めた


「シュングス伯爵は

 アーザス公がこれまで

 どれだけの非道を重ねてきたか

 そしてこれから何を企んでいるか

 ご存知ですか?」


ラテルとルクトは

今迄のアーザスの全ての悪行と

これからの悪巧みと

ノスカラ国侵略計画を

一から説明した


聞き終えたアモーグはひどく動揺し


「まさかそんな事を・・・」

と言ったが

「だがアーザス公に約束をした

 今さら覆せない」


あぁもぉ~

煮え切らん奴だ


「国と民を守るため陛下に使えるのが

 貴族の役目でしょ」

私の言葉に

アモーグは黙っている

すると護衛の者が口を開いた


「お恐れながら閣下

 我々私兵団は亡き先代様より

 王室に難事が起きた際には

 逸早く駆けつけ

 陛下をお守りせよと

 申し付かっておりました」

「ふむ、確かに父上は

 そう申していた・・・」


「シュングス家の私兵である私共は

 陛下に弓引く事はでませぬ

 どうか、

 お考え直しいただけませんでしょうか」


ここでゼネッスも

「貴方、私からもお願いします。

 このままアーザス公に従えば

 シュングス家が反逆者になってしまいます」

と懇願した


「フォーラ嬢、一つ聞きたい

 アーザス公側の兵は陛下の兵より多く

 負けるかもしれないのに

 貴女は死ぬことが怖くないのか?」


「陛下に従う兵には

 国と民を守り抜く決意がある

 アーザス公の兵には何の志も無い

 志の無い者には戦い抜く芯の強さが無い

 だから必ず陛下が、我々が勝!」


「ふむ、なるほど」

「人は誰でもいつかは必ず死ぬ

 だから私は死ぬことは怖くは無い

 でも同じ死ぬなら

 正義を貫き勇者として死にたい!」


「これは驚いた

 貴族の令嬢が、ここまで言うとは・・・

 ・・・ならば私も勇者になろう

 当家の兵たちにも

 勇者として戦わせてやりたい

 今からでも同志に加えてもらえるか?」


ラテル元王子が清々しい笑顔で

「勿論です、陛下もお喜びになられます」

「ラテル殿ルクト殿フォーラ嬢、

 今宵お越しいただこと礼を言います

 お陰で目が覚め

 大切な者達を反逆者の道連れとせずに済む」


おぉ

さっき投げ飛ばされた事は忘れているらしい

ラッキ~~!


「フォーラ!ありがとう」

ゼネッスが力一杯抱きついてきた


「私を心配して夫を説得してくれたのね

 本当にありがとう」

「だってゼネッスが言ったんじゃない

 私達は親友だって」


私は初めてゼネッスを抱きしめた

これで彼女が

反逆者の妻と呼ばれない事への安堵と

たぶんもう二度と会えないだろう、

の予感・・・


「ゼネッスにまだ伝えてなかっわ」

「なにを?」

「結婚おめでとう・・・」


大丈夫、

君の未来は幸福に満ち溢れるさ

きっと

きっと絶対に大丈夫


―――――――――


帰り道

『投げ飛ばすなんて、何をやっているんだ!』


でたあ~

久しぶりのラテルとルクトの

シンクロ攻撃だよ~


その後も二人から散々怒られた


オスタも何か言いたそうだったが

二人の小言に頷いて

溜飲りゅういんを下げているようだ


「やってみなければ分からない、か。

 全く蝉丸の言う通りだったな」

「そうだね、僕も蝉丸に完敗だよ」

「二人が助けてくれたからだよ、

 ありがとう」


「おいラテル聞いたか

 素直に礼を言ったぞ、ガッハッハッハ」

「プップップップ、確かに聞いたよ」

「うるさい笑うなっ」


「でもなかなかカッコイイじゃないか

 れた女の幸せのために

 奔走ほんそうするなんて」

「そうだね、男らしいと思うよ」

「うるさいなっ

 そんなんじゃ無いよ友達としてだから」


『へぇ~そうなんだぁ~蝉丸~』

「なに二人でニヤついてるんだよ!

 しつこ~い!」


静かな夜の町中に

私の声が木霊こだまする


三つ子の会話をオスタは

不思議そうに首を傾げながら聞いていた。

 




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