第48話 開戦前夜Ⅰ

私は休み無く毎日

王宮に通い只管ひたすら

ごうじゅん

でアーザス派の兵士を倒しまくっている


実に呪力を消耗するが

例の守護神ウーシアが入城時に使用した

と言伝えが残る

アーチ型の❝神の門❞の前に立ち氣を蓄え

多い時には100人は片付けてます!

頑張ってまぁす!


雄義隊副参謀のオスタは

私の予言通りに

次々とアーザス派の兵士が倒れ

代りに雄義隊員を送り込むのに忙しい

「フォーラの占星術は

 恐ろしいほど当たるのですね」

と感嘆している

本当は占星術じゃ無いんですけどねぇ

陰陽術なんですけどねぇ


毎日疲れます!

別邸に戻り半分寝ながら飯を食い

食べ終わるとそのまま寝てしまう私を

メイド達が身包みぐるみ剝がし

風呂に放り込み体を洗い

寝間着を着せベッドへ放り込む・・・

そんな毎日です・・・


そうそう

レアリカヒ学園の

元乗馬俱楽部部長テンマスに会ったら

相変わらずの軟派野郎で

「フォーラ嬢~」

と甘ったるい声を出し近寄ってきたので

ごうじゅん

をお見舞いしてやった

テンマスに関わるとろくな事が無いからなぁ

まぁテンマスが

3日くらい床に臥せても

誰も困らないだろう、エヘッエヘッ。


―――――――――


12月

レアリカヒ学園が冬休みに入り

双子の弟トーキスとスイークは

カイッソウガ領へと帰省した


地方に身内や親戚が居る民は

続々と王都を離れて行き

どこもかしこも閑散として何だか寂しい

まあしかし、これはこれで都合がいい

王都で内戦が勃発した時に

避難させる手間が省ける。


今年は恒例の社交界は全て中止となった


当たり前だ

国民が高い税と物価の高騰で苦しんでいるのに

笑って踊っている場合じゃあ無いです。


暮れも押し迫り

❝王宮兵士入れ替え作戦❞は無事終了!

と喜ぶ間も無く

又しても問題勃発です・・・


ヌーメイン王妃の生国

ノスカラ国に

アーザスの侵略作戦が知られてしまった

第二王妃ミーナモが子供を産んだら

クシマイニ王は殺され

ヌーメイン王妃は廃位されると・・・


タスジャーク国の人間が

告げ口した訳では無い

どの国も他国に

隠密おんみつを送り込んでいるのが常なのだ


ノスカラ国では

きたる日に備え鉄壁の兵団が動き出している

この情報はノスカラ国に潜んでいる

タスジャーク国の隠密から得た

信頼できる情報だ

正に壁に耳あり障子に目あり

って

こりゃあ一大事ですぜ!!


―――――――――


クシマイニ王から雄義隊首脳陣に

緊急招集が掛かった

だが今のご時世

酒場の二階は無理です

人込みで賑やかだからこそ

紛れ込める空間だった夜の繫華街も

閑散としていて

今はかえって目立ってしまう


そこで今回は

我がゴコーゼッシュ家別邸が

密会場となりましたぁ~


当家の使用人達は

クシマイニ王の顔を知らないし

仮に敵襲にあっても

ディーゴとオスタの他にも護衛係が二人居るし

クシマイニの護衛兵も居るし

何たって私の呪術

へんめいでん

も❝曇華風恒うんげふうごう❞も有ります!


生まれて初めて他人の家に入ったクシマイニは

物珍しそうに

「ほーぅ、ほーぅ」

を連呼し

子供のように家の中を見て回った


私達の自室を見て

「こんなに狭いのか⁉」

と驚いていた

そりゃ、あんたの部屋に比べれば

犬小屋並ですが

一般的にはこれでも広いんですよ!


でも、

こんな事ではしゃぐクシマイニを見てたら

可哀想になった

わずか2歳でアーザスの陰謀により

王位に付き

籠の中の鳥にされてきたクシマイニを

本当に不憫に思う・・・


客間に移り会議が始まった

まずクシマイニから重大発表~

「ミーナモが無事に子供を産んだ、

 女子である」


おぉ、それは目出度い!

新しい命の誕生は素晴らしい事だ

と22回目の転生で知った

そして生まれたての赤子は

皆等しく猿である事も


いや・・・

目出度く無いでしょ!

クシマイニが

アーザスに殺されちゃうでしょ!


王宮諸事総取締役のシーバンが

「この事を知るのは

 両陛下とミーナモの従者じゅうしゃのみ

 この場の皆も口外は固く禁じる」


そんなこたぁ言われなくとも承知の助です


今後の行動についての作戦会議が始まった

もうアーザスとの軍事衝突は避けられない

この事は皆、同意見である


クシマイニがディウに

「開戦の混乱に乗じ

 ミーナモと赤子とその父ドニスを

 城から連れ出すように」


三人を連れて行く先は

王都から往復で5日は掛かる

ディウがミーナモ一家を

連れ出すのはいいけど

それだとディウは戦に参戦できなくなる

とヤキモキしてたら

クシマイニとラテル・ルクトが目を合わせ

うなずいている


そうか・・・

ミーナモ一家を守るためには誰かが

安全な場所へ連れて行かなければ

そして・・・

ディウは頭はいいが武術はダメダメ

このクシマイニの命令は

ディウを守りたい

ラテルとルクトの案に違いない


私もディウを守りたい

ミーナモ一家も守ってやりたい

これは一石二鳥の妙案だと思います!

でも・・・

ラテルとルクトに仲間外れにされて

ちょっとムカつく


当のディウは惑っているよだ


「この任は冷静な判断力を備えた

 其方そなたにしか出来ぬ」

とクシマイニ言われディウは

「はっ、身命をかけ任を果たします」


これで一つ片付いた

後は細々とした戦に向けての打ち合わせ

ここで初めて知ったのだが

アーザス派の兵は6万

対する王の直属の兵士2万5千

それに雄義隊が1万5千で計4万

2万も差があるよ!

絶望的に

足りない

少ない

ヤバいです!


ディーゴが落ち着いて

「勝算は有ります。

 こちらは陛下のもとに集いし

 志し高き兵団

 一方アーザス派の兵団は

 烏合の衆でまとまりが無く

 劣勢れっせいになれば

 もろく崩れるのは必然」


本当に?


「戦いに大切なのは

 団結力と不屈の闘志です」


えぇ~⁉

精神論ですかディーゴさん

皆さん何故か納得してますが

私はやっぱり不安ですよ~

その後の作戦会議なんて頭に入りません!


あっそうだ

肝心な事を確認しなくては

一度ソベク商会の御者ぎょしゃ

間違えて殺してしまい

養兄シュアスに怒られたんだよねぇ

また怒られた嫌だもんねぇ


「全員漏れなく殺していいの~?」


大きな声で質問したら

ラテル・ルクト・シュアス・ディーゴ

そしてオスタとディウが私の顔を見ながら

『ハァ~~』

皆で仲良く溜息をつき

クシマイニと

王宮諸事総取締役シーバンジイさんは

驚いたように

眼をギョッと開いて私の顔を見ている


何故に溜息?

何故にギョッとする?


シュアスが

「見方は殺したらダメなんだよ」

はぁ⁉

そんな事は当たり前でしょうが!

「分かってますよ!」

「それじゃぁ敵と味方の見分け方は?

 味方が腕に巻く布の色は?」


えぇっ~

そんな事は耳を塞いでたから・・・

分からない

色って・・・

考えろ私!

またシュアスに怒られるぞぉ

う~んう~んう~ん頭を使え


そうだ、

ラテルの前世ニナオイスⅢ世の色に違いない


勿忘草色わすれなぐさいろ!」

どうだ当たりだろ


「違う!

 クシマイニ陛下のお印の

 山吹色やまぶきいろだよ

 また会議中に耳を塞いでいたね!」


何だよ~!

山吹色かよ~!

必死に考えたのに違うのかよ~!

結局シュアスに怒られちゃったじゃん!

チッ!


ここは、なんとか誤魔化せねば


「そうでした山吹色でしたぁ

 それ以外は皆殺しねっ」

「違う!

 武器を捨て降伏した者は殺さずに

 捕らえる!」

「はい、了解しました!」


シュアス怖いよ~

ラテルもルクトも皆して

あきれ顔で私を見やがってさぁ


クシマイニとシーバンジイさんは

相変わらず驚き顔をしている


「フォーラ、

 其方そなたは女子の身で戦うつもりなのか?」


クシマイニは何を当たり前の事を聞いてんだ?


「はい、そうですけど」

女子おなごがそんな危険な事を・・・」


クシマイニよ何で落ち込んでるの?


「陛下、フォーラ様の強さは

 オスタにも引けを取りませんし

 実戦経験もお有りですので

 ご心配は無用でございます」

ディーゴの言葉を聞いて

クシマイニは更に驚き


「そうで有るのか⁉

 ディーゴが言うのであれば

 間違い無いなかろう

 では信じて頼ってよいのだなフォーラ?」


勿論もちろんですぜクシマイニさん


「はい!お任せください!」


私には呪術❝へんめいでん❞も

曇華風恒うんげふうごう❞も有りやすからねっ、エヘッ


「フォーラ!まだ会議は途中なんだから

 居眠りしないでちっゃんと聞いててよ!」


今夜のシュアスはなんか怖いです


―――――――――


次の議題は

❝これから起こる

 タスジャーク国の内戦に対し

 ノスカラ国の介入を

 どの様に防ぐか❞である


ノスカラ国王としては自国を守りたい

と同時に

愛娘のヌーメイン王妃を救いたいであろう

そして最も恐れるべきは鉄壁の兵団・・・

ノスカラ国に内戦介入されたら

そのままタスジャーク国は

征圧されてしまうかもしれない


敵はアーザスだけでは無い

今やノスカラ国も今や敵となりつつある


って全部の元凶はアーザスじゃん!

脳ミソ沸騰野郎ただ一人の欲望が

民を苦しめ

国を危機に陥れてるんじゃん!

あ~早く殺してやりたいです!


ラテルが

「ノスカラ国王に

 陛下から親書を送られては如何でしょうか

 あわせてヌーメイン王妃様からのお手紙も」

「ふむ、

 内容はどの様に書くのがこのましいか」


クシマイニの質問にラテルは

「タスジャーク国は

 ノスカラ国を侵攻する意思がない事

 侵攻はアーザス公の独断である事

 陛下が必ずアーザス公を打ち倒し

 ノスカラ国侵攻をはばむ事を

 お約束なさるのです」


われは誠心誠意で

 ノスカラ国王へ親書を書こう

 だがしかし・・・

 王妃は

 アーザスのノスカラ国侵攻計画を知らぬ

 タスジャーク国と

 ノスカラ国の板挟みにさせるのが

 我は気の毒なのだ・・・」


「陛下、お気遣いは無用です

 私はタスジャーク国王妃として

 国と民を守るため

 父であるノスカラ国王に

 喜んで手紙を書きましょう」


皆がその声に驚き振り返ると・・・

そこにはヌーメインが立っていた


ヌッヌッヌーメインいつから居んだよ?

メイド服を着て変装してるのねぇ

かしこいねぇ

って言うか

勝手に王宮を出たら危ないでしょうが!


「王妃、ここで何をしておる⁉」

そりゃあクシマイニもビックリだよねぇ


皆が一斉に片膝をつき

ヌーメイン王妃に敬意を表す


ヌーメインは

「どうぞ皆さん、お楽になさってください」

と笑顔で語りかける


飾らず偉ぶらず

だが凛とした王妃の風格・・・

成長したなぁヌーメイン

私は嬉しいぞ


本日のゴコーゼッシュ男爵家別邸は

満員御礼状態

雄義隊首脳陣に

王宮諸事総取締役シーバンジイさん

クシマイニ陛下とヌーメイン王妃

そしてその護衛兵達

人口密度たっかぁ!

酸素うっすっ!


さて次なる議題は、

ノスカラ国王に対し

クシマイニの親書とヌーメインの手紙を

送ることに決定したのだが・・・

その親書と手紙は

誰がノスカラ国王に届けるか、である


クシマイニとヌーメイン王妃は

タスジャーク国から出られないし

我々全員が開戦当日に揃ってなければ

指揮系統に支障がでる


ならば誰にたくすか・・・

本来なら王族直系の公爵なのだが

現在、公爵家はアーザスだけ

それじゃあどうするのよ?

ってんで、

あれやこれやと喧々諤々けんけんがくがく~!


「そのお役目、

 私にお任せ願えないでしょうか」


後ろから大きな声が・・・

こっこっこっ、この聞き覚えある声は・・・

・・・振り向くと父キチェス!

ばっばっばれた~

雄義隊の事がばれた~!


あまりに驚いて

「ヒィー」

と息を吸込み

吐き方を忘れ

口がパクパク金魚になってしまった私の背中を

ディウが叩き

「フォーラ息を吐くんだよ!」

と助けてくれた

有難う真の友よ!

危うく

間抜けな死に方をするところだったぜっ


其方そなたは?」

「はっ陛下、

 シュアス・ラテル・ルクト・フォーラの父

 キチェス・ゴコーゼッシュにございます」


「おぉゴコーゼッシュ男爵か。

 其方の息子達には世話になっておる

 実に頼もしき者達だ」

「お褒めのお言葉、恐悦至極にございます」


クシマイニとキチェスが

り取りをしている間

三つ子もシュアスもディーゴもオスタも

キチェスと目を合わせないように

皆が揃ってグルグルと目を泳がせている

だってキチェス怖いもん!

マジに切れたら怖いんだもん!


「ゴコーゼッシュ男爵よ

 我の名代としてノスカラ国へ

 おもむいてくれるのか?」

「はい。

 男爵家では役不足とは存じますが、

 私も息子達同様陛下のもとにて

 微力ながら

 民を救う為に働きたいと存じます」


「何を申すか

 いまやゴコーゼッシュ男爵家は

 タスジャーク国において

 一番の忠臣である

 その事も親書に書きしるそう」

「ありがたき幸せ。

 身命にかけお届けいたします」

「ふむ、任せたぞゴコーゼッシュ男爵」


あららキチェスに決まっちゃったよ・・・


―――――――――


取り敢えず必要な作戦はまとまり

クシマイニとヌーメイン一行は王宮へ

ディウは屋敷へとそれぞれ帰っていった


客間に残った

三つ子・シュアス・ディーゴ・オスタは

キチェスを前にし

気まずい空気がながれる・・・


「お前たちの様子がおかしいので

 密かに調べさせ雄義隊の事を知った。

 シュアスが隊長であることもだ」


エッ!

知ってたんか~いキチェースさん

しかもすでに声が怖い~~


「お前たちは何を考えている!」


ヒィ~

やっぱり怒った~よぉ


「これがどんなに危険な行為か

 分かっているのか!」


皆で冷や汗ダラダラ

ディーゴでさえ固まっている


「いや分かっているお

 前たちの国を民を守りたい気持ち

 父として息子達を誇りに思っているのだ」


なぁんだ~

そうなのかぁ~

安心したよぉ~


「だが心配もしている、

 お前たちの身に何かあつたら・・・

 リエッドが・・・

 母様かあさまがどれほど悲しむか」


あぁ・・・そうだよなぁ


ルクトが口を開いた

「父様、ご心配を掛ている事は

 重々承知しています

 でも誰かが立ち上がらねば

 平穏へいおんは訪れません

 僕はゴコーゼッシュ家の男として

 堂々と悪と戦いたいのです

 たとえその先に

 死が待ち構えていようとも」


流石ルクトオジさん57歳

伊達に年を食ってはいません


キチェスは目を閉じ

静かに苦悶くもんの表情を浮かべている


やがて重い口を開き

「シュアスとラテルも同じ思いなのだな?」

『はい』

「だがディーゴとオスタはどうなのだ

 息子達の巻き沿いにないるのではないか?」

「閣下、私ども・・・

 いえ雄義隊全員の思いは同じです」


キチェスはディーゴの答えを聞き


「そうか、承知した・・・」

と短い言葉の後に何か言いたげなのを

グッと飲み込んだ様に見えた

それは父としてではなく

男として言えない

〘死んでくれるな〙の一言なのだろう


「ではフォーラは今すぐに

 カイッソウガ領へと戻りなさい」


エッ⁉

なんですと⁉


「フォーラは娘なのだから戦には不用だろう」


はあぁ⁉ 

自分で言うのも何ですがねキチェスさん

私一人で

兵士10人分の働きをしちゃうんですよぉ

こう見えても主力戦闘員なんですよ~!


不味いぞ

このままだと馬車に押し込められ

本当にカイッソウガへ送られてしまう


こんなときは口八丁のラテルの出番です

ラテルの脇腹に肘鉄を食らわせ合図した


「父様、

 フォーラは王妃の唯一の友達なんです

 フォーラの明るさと優しさが

 孤独な王妃の心の支えです

 ですからカイッソウガへは

 帰らせないでください」

「なんとそうなのかっ⁉

 フォーラは生まれた時から美しく

 心優しい私のプリンセス

 王妃がお気にいられるのは当然のこと」


キチェスの❝心優しい❞発言に

その場の全員が何故か目を伏せた

なんでだよ⁉

私は優しいだろうが

そこはうなずくとこだろが!


キチェスが私をムギューと抱きしめ

「私の可愛いプリンセス

 王妃のそばで慰めて差し上げなさい

 でも危ない事はしてはいけないよ」

「はい、お父様」

ゲッ!

キチェスのオヤジ馬鹿は

今だに健在だったのかぁ~


❝はい❞とは言ったが噓です・・・


思い返せば22回の転生人生で

どれだけの噓をついてきたことやら

これじゃぁ閻魔様に会った時に

舌が何枚有っても足りないなぁ

エッへッへへ。






 























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