第47話 「堰楽留巡」

ドニスは身を隠すため

王宮の厨房で働きだしたが

当然、恋人である第二王妃ミーナモには

会う事はできない

そこでディウがドニスの手紙を預り

ミーナモの婆やさんに渡し

婆やさんはミーナモの手紙をディウに渡し


要するに

ディウと婆やさんを介してドニスとミーナモは

密かに連絡を取り合っている

この事は勿論もちろんクシマイニ陛下の許可済みだし

提案者は王妃のヌーメインである

本当に心優しい我が真の友でなのである。


―――――――――


養兄シュアスは

反アーザス派と日和見派の貴族に

クシマイニ王の手紙を届け

同時に血判状を受け取る任務で忙しい

貴族の中には私達の父キチェスのように

領地にとどまる者もいるので

国中を駆け巡っている

何たって❝その時❞が押し迫ってますから

ミーナモの出産が早まらない

とは限らないのだそうです・・・

お産とそんなものらしい・・・知らなかった


10月23日

王宮の勤務から戻ると

珍しくシュアスが出迎えてくれた

「お帰り」

双子の弟トーキスとスイークも一緒だ

『姉様、兄様達お誕生日おめでとう』


えっ⁉

誕生日?

本当に?

ほんと?


「私は何歳になったの?」

トーキスとスイークが笑いながら

『姉様は自分の歳を忘れたの、17歳でしょ』


えーマジに17歳⁉

転生人生の記録を2歳も更新しましたよ!!


「質素だけど祝いの食卓を用意したよ」

シュアス有難う、本当にいい奴だよなぁ


今年に入り

ゴコーゼッシュ家の食卓は質素になった

別に生活が苦しい訳では無い

庶民の生活が困窮しているのに

自分たちだけ贅沢な暮らしをするなど

もっての外である

とのキチェスの考えからである

私もその考えに大いに賛成だ

勿論ラテルもルクトもシュアスも

そして、もう直ぐ11歳に成る

トーキスとスイークもだ。


トーキスとスイークは

情に厚く気概ある少年に育った

正にキチェスによく似た

ゴコーゼッシュ家の血筋である。


誕生会は質素だったが

使用人達が心から祝ってくれ

「お誕生日おめでとうございます」

と言われることが

これ程に嬉しいものだと知った

いやぁ~長生きはするもんですなぁ~


―――――――――


誕生会が終わるとシュアスから

「話がある」

と言う事でルクトの部屋に集まった


シュアスは弱々しい笑みを浮かべている

それはシュアスが

途轍とてつもないく悩んでいる時の顔だ

いったい何事でしょうか?

こっちの方が不安になります


シュアスが話し出した

「実は陛下から新たなご指示が出された」


なるほど、

それが悩みの種ですねぇシュアスさん


「アーザスとの内戦が始まれば

 いくら王都が広くても

 ここに住む民が危険に晒される」


確かに王都は広い

けど民の安全は保証出来ないよなぁ


「そこで、各男爵家の領地に

 王都の民を非難させたいと仰せで」


いいじゃん、クシマイニ頭いいねぇ


「当然、

 父様にも血判状を書いて貰う事になる」


そうだよね、キチェスは男爵だもんねぇ


「そうすれば僕たちが

 雄義隊として活動している事を

 知られてしまう」


別にいいんじゃない・・・

うん?

なんか不味い気がする・・・


ラテルが

「それは困った、

 父様が知れば雄義隊の活動を止めに来るね」


そうだきっと心配して止めるよなぁ

下手したら縛り上げてでも止めそうじゃん


「今回は

 カイッソウガ領のゴコーゼッシュ家には

 王宮諸事総取締役のシーバン様が

 行く手筈てはずだけど

 何時いつかは父様に

 雄義隊の事は知られると思う」


カイッソウ領へ

シーバンジイさんが行ってくるのは助かります

でも確かに、

キチェスには何時かはバレルよねぇ・・・


シュアスはクシマイニ陛下の手紙を

名代として届けているが

その事は既にアーザスの耳にも

届いているだろうし

アーザスがシュアスの命を狙ってくる可能性も

拭えないので

雄義隊の中から優秀な者を選び

護衛に付けてはいるのだが

心配はぬぐいきれない。


ルクトが

「シュアス兄さんに渡す物があるんだ」

と研究室から何やら持ってきました

おっ、それは

懐かしの❝ビリビリ小箱❞ではありませんか

そして・・・その玉は何でしょう?


「このビリビリ小箱は

 改良して威力いりょくを増したんだ

 こっちの玉は煙幕玉と言うんだが、

 地面に強く投げ付けると

 割れて黒い煙が立ち込めて

 目眩めくらましになるから

 危険が迫った時に役立てて」


「有難う。

 しかし相変わらずルクトの発明は凄いね」


うわぁ~久々に出ましたよ~

ルクトのドヤ顔!


シュアスに褒められて

ルクトオジサンが浮かれてますよ

はたして

浮かれたオジサンを

可愛い~、と言うのでしょうか?


「最近、研究室に籠っていると思ったら

 煙幕玉を作ってんだね」

と声を掛けたら

「おう、他にもアーザスと戦になった時

 役立つ物を作っている」

だそうである

何を作っているのか・・・

怖くて聞けません!


あれ・・・?

何か忘れてる・・・?

「あっ今日はクーエラの誕生日だよ!」


去年に引き続き又しても

クーエラの誕生日を

忘れていた三つ子に戦慄が走る


「大丈夫だよ、

 クーエラには髪飾りを4個

 それぞれの名前で送ってあるから。

 来年はレアリカヒ学園に入学だから

 お洒落なクーエラには必需品だものね」


流石シュアス!

何に対しても抜かりが無い


『有難うシュアス兄さん』

三つ子揃って心から感謝感激です!


「それじゃあ僕はもう行くから、

 留守は頼んだよ」


シュアスはクシマイニの名代として

国中を駆け巡り

心も体も疲れているだろうに、

そんな感は微塵も見せずに

颯爽さっそうと出掛けて行った

頭が下がる

私は来世ではシュアスの様な兄が欲しいです。


―――――――――


シュアスが出掛け三つ子だけになったので

転生者タ~イム!

が開幕です


「王都って、どれ位の広さ何だろうねぇ?」

「だいたい面積は佐賀県位だろう」

とルクトは言うが

・・・よく分かりません


「お前、佐賀県を知らないのか⁉

 日本人のくせに」


そうはおっしゃいますけど~!


「戦国時代は

 しょっちゅう国の大きさが変わってたし

 江戸時代末期なんて

 藩の数は200を超えてたんだよ

 それが明治時代に転生したら

 ❝廃藩置県❞とか言ってさぁ

 藩も武士も無くなって

 ビックリしたんだからね!」


「それと佐賀県を知らないのと何の関係が

 ・・・お前、江戸末期に転生してたのか?」

「うん、してたよ」


私の返事にルクトの目の色が変わった


「じゃぁ新選組を見たか?」

「あ~私は江戸に暮らしてたから

 見てないねぇ」

「じゃぁ志士は

 幕末の志士には会ったことは有るか?

 坂本龍馬とか西郷隆盛とか桂小五郎とか」


う~ん幕末の志士ねぇ・・・


「あぁそれなら吉田松陰を・・・」

「おぉ~!吉田松陰と知り合いなのか⁉

 見直したぞ蝉丸」


そう言いながらルクトが

私の両肩を持って力一杯に揺するから

首が前後に揺れて

頭がグワングワン回ります~


私は、

吉田松陰の知り合いだとは言ってない!

あの人が軍鶏しゃも籠に入れられて

江戸の伝馬町牢屋敷へ運ばれるのを

近所のガキ共と見に行った

だけなんですけどねぇ。


隣で聞いているラテルは

何の事だか分からず

加えてルクトが興奮状態なので

目がテンになっているのに

ルクトはラテルの背中を叩きながら


「吉田松陰とはな、

 素晴らしい学者で教育者で思想家で

 伊藤博文や山県有朋とか

 沢山たくさんの英雄を育てた人物なんだよ!」


へぇ~そうだったのかぁ

初めて知ったわぁ

ルクトオジさん興奮絶頂!

鼻息が荒くなってるよぉ~

これも老化現象なのでしょうね

仕方ない許しましょう


「そっ、そうなんだぁ偉大な人物だねぇ」

ラテルが

ルクトオジさんへの対処に苦慮してる~

笑える~


「それはそうと、

 例の計画を明日から実行しよう

 もう時が無いんだから少しは焦らないと」


ラテルが言う「時が無い」とは

第二王妃ミーナモの出産の事

出産予定日とは

あくまでも予定であり

必ずしもドンピシャで

産まれる訳では無いそうである

遅くなる事もあれば早くなる事もある

だから急がなくては

例の計画を・・・


―――――――――


例の計画とは


王宮に居るアーザス派の兵士達を

体調不良にして追出し

替わりに雄義隊員を

こっそりと王宮兵士に就職させる

題して

❝王宮兵士入れ替え作戦❞

とそのまんまのネーミング


この計画を発案したのはラテル

そして体調不良にさせるのは・・・

私です!呪術を使ってねっ


数日前にラテルが

「王宮のアーザス派の兵士を排除したい」

と言い出した


「それは良いけど、どうやって排除するの?」

「フォーラの呪術を使えば簡単だよ」


おい、ちょっと待てよラテルさん

急に何を言い出すんだい


「できるよねフォーラ。

 だって王宮特別学問所に合格する為に

 クラスメイト達を呪術で

 体調不良するって言ってたものね」


う~ん・・・

言ったなぁ

確かに言いはしたがぁ

実際には使っていない

まぁ術の練習はしましたけどね

一応念のためにねっ


「やればできると思うけど

 兵士って何人いるの?」

「王の直属の兵士は2万5千人位かな」


おいおいおい、ラテルさん

涼しい顔でサラッと言ってるよ


「そんなには無理です!」

「大丈夫だよ、

 排除するのは王宮内の近衛兵だけだから」


なんだぁそうかぁ


「それで、何人なの?」

「1万人位かな」


はあぁ~⁉

「無理だよ!

 あの術は呪力の消費が激しいんだから」

「大丈夫だよ、

 アーザスが兵を牛耳っていると言っても

 アーザス派兵士は半数程だし

 残りは王に忠実な兵士だから」


なあんだぁ半分だけかぁ~


「そうすると、

 12月中に毎日80人ちょっとだな」

ルクトさんが素早く計算してくれました

半分と聞き危うく騙されるところでしたよ!


「・・・毎日80人だぁ⁈それは無理!」


断ろうとしたらルクトが

「できるさぁ、

 蝉丸は安倍晴明最後の弟子なんだから」


うっ、余計な事を言いやがって


「でも雄義隊員って5千人もいるの?」

「フォーラなに言ってるんだい

 雄義隊員は既に1万2千人はいるんだよ」


え~マジかぁ

そんなに増えてたのかぁ

ビックリです~


「あの術は一人ずつにしか掛けられないから

 私一人では無理だよっ

 それに

 どの兵がアーザス派かなんて分からないし」

「それも大丈夫だよ

 アーザスは自分の配下の兵に

 臙脂えんじ色の剣のさや

 使わせているから一目瞭然」


「俺も一緒に手伝うから」

と優しく言うルクト


ちょっと待て

もしかしてラテルとルクトはグルなのか?

私をこき使う事を

二人で打ち合わせ済みなんじゃないのかぁ?


「もしかして二人は、

 私に呪術を使わせる相談を

 密かにしてたんじゃない?」

「よく分かったなぁフォーラ、

 俺もラテルも呪術が使えるお前を

 尊敬しているからなぁ

 ついてにしちまうんだよ」


えぇ~

私を尊敬してるの~

しょうがないなぁ~

「まぁ、あアーザスを倒すためだからさぁ

 やってもいいけどぉ」


「ほらなラテル言った通りだろ。

 こいつの頭は、さ・・・」


ラテルが何か言いかけたルクトの口を手で塞ぎ


「ありがとうフォーラ、頼んだよ!」


なんだかラテルとルクト怪しいなぁ・・・


実際には使用した事が無い術なので

取り敢えず実験します

実験体は・・・

表の顔はゴコーゼッシュ家別邸の護衛係

裏の顔は雄義隊副参謀のオスタ


何をするかは知らせずにオスタを呼出した

それは当たり前のこと

三つ子が転生者である事も

私が陰陽師で呪術が使える事も

重大機密ですからねぇ

では・・・

呪術いきま~す!

ごめんよ~オスタ!


ごうじゅん


下を向き小さく唱えオスタの背中に軽く触れた

・・・何も変化はない


「なんだ何も起こらないぞ、失敗かぁ?」


ルクト失礼な!


「力を2割に抑えたから

 効きが鈍いんだよ

 本気でやって

 オスタが死んだら困るだしょ!」


「あの、ご用は何でしょうか?」

オスタが不審そうに尋ねる


ラテルが慌てて

「実はフォーラの占星術によると

 近々王宮兵士の間で

 原因不明の病気が流行するらしいんだ」

「本当ですか⁉」


本当だよオスタ君

何たって病の源は私なのだからねぇ~!


「アーザス派の兵士が病になったら

 王命で新しい兵士を雇う事になるから

 これは雄義隊員を王宮へ送り込む

 好機になるだろ」

「なるほど、それは正しく好機です。

 私は早速に王宮へ送る隊員の人選をします

 何名ほど選べばよいでしょうか?」


ラテルは含み笑いで

「5千人」

「ごっ5千人ですか⁉」

「ああ、フォーラの占星術に間違いは無い。

 ねっフォーラ」


急に振るなよぉ


「間違い無いよ!オスタ、私を信じなさい」


それにしても

術の効きが遅いなぁ・・・


「はっ!では雄義隊支部へ行って参ります」

そう言ってオスタが歩き始めた途端

その動きが止まった


「どうしたオスタ?」

白々しく心配そうな振りをするルクト


「いや、急に目眩めまいがして

 力が入らない・・・」


「それは大変だ」

「きっと疲れが溜まっているんだよ

 少し休んだ方がいい」

とラテルとルクトは

言葉では心配している様子だが

顔は嬉しさを隠し切れてないですよ~



三つ子は念の為オスタの様子観察をする

オスタは3時間ほど眠り目覚めた


「オスタ、気分はどうだ?」

「はいルクト様

 休んだらすっかり良くなりました

 ご心配をおかけしました」

「それは良かった。動けるかい?」

「はいラテル様、疲れが取れて気分爽快です」


マジかっ!

術が解けると逆に元気になっちゃうの⁈

まぁでも一応2割の力でも

体調不良にはなるし大丈夫でしょっ

オスタはそのまま雄義隊支部へと出掛けた。


ラテルとルクトは悪代官の様に笑いながら

「これで行けるねぇ」

「ああ、行けるなぁ」


怖い

怖いです

何か二人共怖いよぉ・・・


―――――――――


といった流れがあり

いよいよ例の作戦

❝王宮兵士入れ替え作戦❞を始めます!

三つ子だけの秘密の作戦だぜっ!

一番疲れるのは私だぜっ!

チキショー!


翌日

最初のターゲットは現近衛兵隊長

王宮兵士のトップであり

アーザスの忠実なしもべ野郎だ

こいつさえ消してしまえば後はすんなりと

雄義隊員を王宮兵士に仕立てられる


ルクトが案内人

「近衛兵隊長は毎日この時間に王宮へ来るから

 そろそろ来るはずだ

 来たぞ来たぞ、あいつだ!頼むぞフォーラ」

「うん」


とは言ったものの

力加減がまだ分からないんだよねぇ

100%の力で術を掛けたら死ぬかも・・・

まっいっか!

いま100%出さないと

これから先の力加減が測れないし

別に死んでもいい相手だしなっ

良々お前は実験台だぜっ!


アーザスのしもべ野郎が

こっちに向かって歩いてくる


私は丹田に呪力を巡らせ

ごうじゅん

と唱え

すれ違いざまに

僕野郎の手の甲にわたしの手の甲を当てた


「ふむっ!」

しもべ野郎が怖い顔で私を見下ろしたので

思い切りの笑顔で

「失礼しました」

「ふむ、今後は気をつけろ」


気を付けるのはお前だよ!

バ~カ!


私とルクトはその場を後にして

柱の陰からしもべ野郎の様子を確認した


「近衛兵隊長!しっかりしてください!」

僕野郎の部下たちが慌てて介抱している

息は有るが反応は無い


やったね~!

大成功だ!

ルクトとハイタッチ、エッへへッへへ


近衛兵隊長の後釜は

ディーゴの近衛兵隊長時代の元部下が着いた

あとは毎日せっせと

ごうじゅん

王宮兵士入れ替え作戦を遂行するのみ!


頑張りますよ~!

久しぶりに

陰陽師らしい仕事でウキウキしますぅ


因みにしもべ野郎の近衛兵隊長は

7日間、意識が戻らなかったそうだ

ざまぁ見さらせだ、エッへへッへ。










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