第46話 霧晴れてもなお

一週間後

ディウが第二王妃ミーナモのお腹の子の父親

ドニスを連れ無事に王都へ戻った。


念のため

雄義隊副参謀のオスタに後を追わせたのだが

「ディウ様は実に冷静に物事を判断される」

と褒めていた

ディウは

「そんな事は無い」

と謙遜しているが

真の友が褒められ私は素直に嬉しいのだ!


取り敢えずドニスは

以前クシマイニ王と密会に使った酒場の二階で

雄義隊員数名を護衛に付け、身を隠している。


ドニス自身も

ミーナモの護衛係をしていたくらいなので

武術にはけているが

絶対に死なせてはならない生き証人だ

念には念を入れての措置を

との養兄シュアスの指示である。


―――――――――


その日の夜

ドニスの

「お知らせしたい重大な話がある」

を受け

クシマイニ王は

王宮諸事総取締役シーバンを引き連れ

雄義隊の三つ子とシュアス

ディウ・ディーゴ・オスタと

酒場の二階へと向かった


クシマイニの姿を見るなり

片膝を付いたドニスは

緊張しているのか

微動だにせず

ただその額から脂汗を流している


「緊張せずに立って楽にせよ」

クシマイニに促されドニスは立ち上がるが

その顔は緊張して鬼瓦のようですよぉ


「ドニスの話を聞く前に

 フォーラ今日は腹は空いておらぬか?」


このクシマイニの言葉に

静まり返っていた皆が笑った


「はい、今日はしっかり食べて来ました!」


私の返答に更に大笑いが起こり

その笑い声で

ドニスの緊張も少し気が楽になったようだ


「ではドニスよ

 其方そなたの話を聞こう。

 謝りの言葉は要らぬ」

「はっ、では・・・

 いえやはりお詫びがしとうございます

 私はアーザス公の

 恐ろしい企てを知りながら

 黙っておりました」


「恐ろしいくわだてとは何か?」

「私とミーナモ様の子が生まれたら

 陛下を亡き者とし

 腹の子を王位にけるくわだてです」


クシマイニは、静かな笑みを浮かべながら

「わかっておる。

 ミーナモが懐妊していると知った時に

 アーザス公は我を殺し

 己の孫を王に祭り上げる腹づもりなのだと

 直ぐに悟った」


ドニスは驚いて

「陛下は、そうと知りながら

 ミーナモ様と私の子を・・・」

そのまま項垂うなだれ震えている


その様子を見て

クシマイニの眉がぴくりと動いた

其方そなたは他にもアーザス公の企てを

 何か知っているのだな

 隠さずに全てを話しみよ

 罰したりは決して致さぬゆえ」


それでもドニスは口を開けずに沈黙が続く


クシマイニが王宮諸事総取締役シーバンに

「あれをドニスに見せよ」

と命じた


【あれ】とは

ソベク商会の裏帳簿である


「ソベクを知っておるな」

「はい、存じております」

「ソベクは昨年アーザス公に殺された。

 今年に入り税を上げたのは

 そこに記されている金が

 得られなくなったからだ」


ドニスは裏帳簿を広げて読み

「あっ!此れは人身売買・・・

 アーザス公はこんな事を・・・

 やはりうわさは本当なのか⁉」

と声をあげ震えだした


クシマイニは身を乗り出し

「噂とは何のことか?申してみよ」


その場に居る皆も固唾を飲み

ドニスの言葉を待っている


「アーザス公の屋敷内で噂されていたのです

 アーザス公は戦をする為に

 金を集めていると」


戦って?

相手は誰だよ??

クシマイニを殺すためになら

わざわざ兵を挙げて

内戦を起こす必要は無いよなぁ


「戦とは

 何者を相手に起こすつもりなのだ?」


なんかさぁ最近のクシマイニって

饒舌じょうぜつと言うかぁ・・・

言葉に威厳が出てきてさぁ

人の心を掴むんだよなぁ


「戦の相手は・・・

 ヌーメイン王妃の生国

 ノスカラ国です

 アーザス公が陛下の御妃に

 ヌーメイン王妃を選んだのは

 楯にして戦を有利にするためで

 ノスカラ国を手に入れたら

 ヌーメイン王妃は

 子ができない事を理由に廃位させると」


ドニスのこの発言で

部屋が一瞬にして凍り付いた


濃い霧に隠れていたアーザスの本当の目的

いまやっと霧が晴れ

アーザスの本当の目的が見えた

だがその事に誰一人として

何の喜びも達成感も感じられない


ヌーメインは恋しいクシマイニに嫁いだ事を

心から幸せに思い

冷遇された環境にも常に笑顔で愚痴を言わず

王妃として

タスジャーク国の民に心を寄せて生きている


そのヌーメインの祖国を攻め落とすだと!

そのヌーメインを楯にするだと!

断じて許せんぞアーザス!


でも何でノスカラ国を攻め落とすの?


「ノスカラ国はタスジャーク国よりも

 ずっと小さな国なのに

 なんでアーザスは

 戦までして手に入れたいの?」


私の素朴な疑問にラテルが

「鉱山だ。

 ノスカラ国が鉱山から採掘する金の量は

 イクス星で一二を争う

 アーザスの狙いは鉱山だ」


脳ミソ沸騰野郎アーザスめ

なにをそんなに金に執着してどうすんだよ

死んだら金は使えないんだぞ

バッカじゃん!


クシマイニは顔色一つ変えず

「始祖ミツザネ王より

 国土を広げる為の戦は禁じられている

 その国掟を破る為に民を苦しめ

 命をも奪ったと言うのか・・・」


静かだ・・・

物音一つしない・・・


皆が息を殺した様に静かな中で

興奮したルクトオジさんと

王宮諸事総取締役シーバンジイさんの

・・・鼻息の音がうるさい!


年取ると鼻息まで荒くなるんですかねぇ?

皆が緊張してるのに

私は鼻息の音に笑ってしまいそうです


「決行は何時いつ頃かは分かるか?」

クシマイニの問いにドニスは

「ミーナモ様が出産されたらば

 行動開始と・・・」


「なるほど

 子が生まれたら直ぐに

 我を殺し王妃を捕らえ楯にする

 シーバン、ミーナモの出産はいつ頃か」

「はっ陛下、

 年明け1月が予定日でございます」

「今は10月

 貴族達を味方にするには時が足らぬ・・・」


一瞬クシマイニの顔が曇った


「お恐れながら陛下」

「なんだシュアス」


「雄義隊が手分けし流した噂

 〘アーザス公は政の実権を握るため

  娘を第二王妃にした〙は

 庶民の中に浸透しており

 貴族の耳にも届いておりますので

 私が写真家として出入りする貴族達に

 〘ここだけの話第二王妃のお腹の子は

 陛下の子でないらしい〙

 と既に耳打ちしております」

「ふむ、それでどの様な反応か?」


「耳打ちしてのは、

 アーザス公には

 くみしていない貴族達ですので

 もあらんとの反応でございます」

「そうか、でかしたぞシュアス」


「こちらに貴族のアーザス派と反アーザス派

 そして日和見派を書き記しました」


シュアスはクシマイニに

一冊のノートを渡した


「これは分かり易い。

 つくづくシュアスが敵でなくて良かったわ」


クシマイニは笑みを浮かべながら

ノートに見入っている

ノートには

各貴族が抱える私兵の数も記されていた


私兵を持つ事が許されているのは

王族・公爵・侯爵・伯爵・子爵で

男爵家は私兵を禁じられている

まぁ男爵家は一番下っ端ですからねぇ


「さて、反アーザス派はよしとして

 問題は日和見派を

 どの様に取り込むかだな。

 皆、何かよき考え有るか?」


知らない分からない

電話が有れば手っ取り早いんだけど

文明の遅れているイクス星には

電話がないからねぇ~


ラテルが

「始祖ミツザネ王は家臣へ

 王の印を押印した手紙を密かに

 渡していたそうです。

 陛下もそうされたは如何でしょうか」

 シーバンが

「おお、それは良い考え。

 流石 ニナオ・・・ラテルである」


あっ!

今シーバンジイさん

ラテルの前世の名前ニナオイス王子

って言いかけたよぉ

ダメじゃんジイさん!


続けてラテルが

「陛下との約束を違えぬ証に

 血判状けっぱんじょうを書かせるのです

 いにしえより血判状は命と同等の重き物」


「よし、そうしよう。

 では我の手紙と貴族の血判状の遣り取りは

 シュアスに一任する

 一番の懸念はアーザス公の計画を

 ノスカラ国が知り

 逆に戦を仕掛けてくる事だ

 小国なれども軍事力はあなどれない」


ラテルに小声で

「そうなの?ノスカラ国は強いの?」

と聞いたら

「鉱山を狙われ

 戦を繰り返した歴史があるからね

 国を守る為に軍事に力を入れ

 鉄壁の兵団と呼ばれているんだ」


カッコイイ~~

鉄壁の兵団だってさぁ~

アーザスは

鉄壁の兵団を打ち破る自信があるのかぁ?

脳ミソが沸騰し過ぎてバカになったのかなぁ?

まぁ元々バカだけどねっ、へッへへ


「この事けっしてノスカラ国に知られぬ様

 細心の注意を払え」

『はっ!』


とんとん拍子に

作戦の計画がまとまりましたねっ

もう飽きたから帰りたかったので

ホッとしましたぜ


なのにディウが

「ところで陛下

 ドニス殿は如何いかがいたしましょう?」


って、

え~まだ終わらないのぉ~⁈


「このまま酒場に置いておくのも危険かと」

なんか今回はディウは張り切ってるよなぁ


皆さん良い案が無く悩んでます・・・

でも私は良い場所を知っているのだ!!


「王宮に連れて行けばいいじゃん!

 ・・・です」


シーバンジイさんが怪訝けげんそうな顔で

「はあっ⁉王宮では目立つであろうが」


うわぁ~

シーバンジイの私とラテルへの態度は

毎度違い過ぎ

こいつ差別主義者かよ!


「王宮の厨房なら大丈夫!

 王宮は24時間体制で

 兵や従者が働いているから

 厨房も

 24時間体制で人が沢山働いてるし

 厨房には厨房係者以外は入らないもんね!

 ・・・です」


皆が

『ほ~』と感心している

エヘッエヘッエヘッへッへ

私、賢い!


「どうせ、つまみ食いしに

 厨房へしょっちゅう忍び込んでるんだろ」

うっ!ルクト鋭い

なんで分かったんだ⁉


「そんな事は無い!して無い!」

必死に弁明してるのにルクトは

「フッン」

と鼻で笑いやがる

ちっきしょ~!


かくして

第二王妃ミーナモのお腹の子の父親ドニスは

王宮の厨房係に扮して身を隠す事に決定!

私の手柄なのであ~る!


ところで・・・

「ノスカラ国って、どれ位小さいの?」

とルクトに尋ねたら

「地球のサンマリノ共和国位だろう」

「あぁサンマリノ位かぁ」


と、さも知った振りして言っかど・・・

知りません

サンマリノ共和国・・・

ごめんなさい。

 



 





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