第45話 新しい命の行くへ
8月
日照りが続き一日も雨が降らない
麦・大豆に加えイモ類までもが
ほぼ壊滅的な被害に見舞われた
それを受け、更に物価が上昇し始める
通常ならば農作地では
麦や大豆の刈取りで
猫の手も借りたい時期
なのに今年は・・・。
9月
市場に出回る小麦粉が少なくなり
大幅な値上げがされた
繫華街から少しずつ賑わいが消えていく
ラルトス・カンパニーでは
物価の上昇を
季節ごとに出していた
新商品の発売を見合わせる事に決まった
にも関わらず
ルクトは暇さえあれば研究室に籠り
何やら作っている
「もし戦闘になった時に役に立つ物」
だそうで
私は心配して
「銃とかダイナマイトとかを
作ってないよねぇ?」
と訪ねたら
「俺は科学者としてノーベルにはならん!」
と怒っていたけど
ノーベルってノーベル賞の事だよねぇ
科学者なのに
ノーベル賞は欲しくないって
どういう事?
さっぱり分かりません。
10月
大半の民衆は
アーザスの
もうすぐ国が救ってくれる
と淡い期待を持っていた
だが中には
タスジャーク国に見切りを付け
国外へ移住しようとする者が出始めた
しかしアーザスの命により
国境の警備は兵士達により強化され
国境を超える事は出来なくなった
中には国境の警備兵と揉め
その場で殺される者もいる。
この件はクシマイニ王の耳にも届いた
「我が罪なき民を、我が兵が殺すとは・・・」
国王クシマイニは相当なショックを受け
落胆の色を隠せずにいた
ディウがクシマイニに
食糧について報告をした
「国中に有る昨年収穫された貯蔵の残りと
今年の収穫分を合わせても
来年の1月までしか
持たない計算になります」
ディウは元来頭が良く
細かい所に気が回る
それに加え
元はパン屋の息子で商人気質があり
計算が早く正確だ
この計算に間違は無いだろう。
―――――――――
定例の雄義隊首脳陣会議が開かれた
それにしても
摩訶不思議と
第二王妃ミーナモのお腹の子の
父親がみつからない
ミーナモが第二王妃となる直前まで
ミーナモの護衛を勤めていた
アーザス家の私兵が一人姿を消した、
までは分かったのだが
雄義隊の情報力を駆使しても
その行方は掴めない
はたしてその私兵が腹の子の父親なのか?
だとしたら既に殺されたのか?
八方塞がりに陥り
皆が焦り顔をしかめ沈黙している
「聞けばいいじゃん、本人に」
私の言葉に皆がポカンとしている
何でポカンとする?
「ミーナモなら知っているでしょ。
聞けばいいじゃん、早いじゃん」
皆が下を向き考えている
「ミーナモは、いま王宮に居て
王の手中なんんだからさぁ」
皆が〘あぁそうか〙的な顔をになり
それならばクシマイニ陛下が適任だ
で話はまとまった。
―――――――――
と言う事で翌日
クシマイニに事情を説明すると
「ならば見舞いと称し
王妃と共にミーナモの所へ参ろう」
素朴な疑問
「えっ?なんで二人で行くの?」
ラテルが
「側室が懐妊したら
陛下と王妃が連れ立ち見舞うのが
王室の
と教えてくれました
私はヌーメインのお付きとして同行
勿論ラテル・ルクト・ディウ
王宮諸事総取締役のシーバンも同行
初めてのミーナモ部屋へ入り驚いた
めちゃ広い!だけではない
そこに置かれた数々の調度品は
明らかにヌーメインの物より
高価で豪華で悪趣味だ
きっとアーザスが
嫁入り道具に持たせた物に違いない、ケッ!
いきなり陛下と王妃が訪ねて来たので
ミーナモの侍従達は
あたふたし
「急なご面会はお断り致します」
と
「我と王妃に向かい無礼であろう!
とクシマイニに一喝され
皆は震えあがっている
ざまぁみさらせ!
あ~かんべ~
「人払いを・・・
何をしておる早く下がらぬか!」
又してもクシマイニに一喝され
ミーナモの侍従達は全員が
部屋から出ていった
それにしてもクシマイニは強くなったなぁ
私までビビってチビリそうになったぞ
ミーナモは顔を青くしている
クシマイニはミーナモに優しく語りかけた
「会うのは何年ぶりであろうか
すっかり大人になったな」
ミーナモは硬い表情のまま黙っている
「お腹の子は・・・」
クシマイニのその言葉に
ミーナモはビクンと反応した
「順調に育っておるか?」
思いもかけないクシマイニの質問に
ミーナモは戸惑っている
「子が生まれるのは目出度い事ではあるが、
ミーナモは泣きだし
声を振り絞るように
「陛下、
恐ろしいのです
皆を騙し陛下の子では無いのに
陛下の子として生むことが」
ヌーメインが
「陛下
ミーナモさんは大事なお体なのですから
座ってゆっくりとお話をなされた方が」
その言葉に促され
クシマイニとミーナモは椅子に腰掛け
ヌーメインはミーナモの隣りに座った
「貴女には愛する方がおいでなのよね
そして今そのお腹には愛する方の
それは女性として幸せな事だわ」
ヌーメインの言葉に
ミーナモは涙を
「私には愛する人がおり子を授かりました
ですが父に知られ
二人の命が
言う事を聞くようにと・・・」
「それは辛い選択でしたわね」
ヌーメインは気の毒そうに
ミーナモを見つめる
突然ミーナモは椅子から転げ落ちるように
クシマイニの脚にしがみ付き
「陛下、私は死を賜る事を
ですがどうか、
どうかお腹の子の命だけはお助けください」
と必死に懇願した
「我は
そして腹の子の父親の命も
奪うつもりは無い。
皆、大切な我が民である」
ヌーメインは凛として、そして優しく
「陛下は
無暗に民の命を奪う君主ではありません。
ですからミーナモ
安心して元気な子を産んでください」
と語りかける
クシマイニとヌーメインの優しさに触れ
ミーナモの顔色が良くなっていく
「ところで、子の父は何処に居るのだ?」
クシマイニの問いにミーナモは素直に答える
「場所は存じませんが
父に殺されぬようにと
私の婆やが
遠い親戚の所に
廊下でオロオロしている婆やを
「第二王妃がお呼びです」
と私が連れて来ましたよ~
連れて来るのは得意だもんねっ、エヘッエヘッ
婆やさんは部屋に入るなり両手を床に付け
「どうぞミーナモ様と
お子様をお助けください
代わりに、この婆やの命を差出ます」
とクシマイニに願った
「婆や、そうでは無いのよ」
とミーナモが事の経緯を説明した
婆やは
「何の為に陛下は
ドニス様の行方をお探しなのですか?」
もっともな質問だ
ってか
腹の子の父親はドニスって名前なのかぁ
「民を守り国を守るため。
今はそれしか言えぬが・・・
それでは駄目であろうか」
クシマイニの言葉に噓が無い
と感じた婆やさんは
「無礼な事をお尋し失礼を致しました
ドニス様の居場所をお教え致します」
ドニスの居場所は
王都から馬を走らせれば往復一週間だが・・・
「陛下、その役を私に御命じください!」
指示待ちしかしないディウが
自ら名乗りを上げた
「私が必ずアーザス公から守り
連れて参ります」
ディウの頭の中には
アーザスに使い捨てられ殺された
悪徳商人だった叔父ソベクの事が有るのだろう
だからこそアーザスの思い通りにさせるものか
必ず生き証人となるドニスを連れて来る
と言う
真の友が危険を
私は応援するぞ!
「ディウは腕っぷしは弱いです
でも頭は切れます
だから必ず無事に任務を遂行できます
行かせてください、お願いします!」
「おい、あれはディウを褒めてるのか?」
とルクト
「う~ん、たぶんフォーラ的には
絶賛してるつもりじゃない」
とラテル
「なんだよ二人共
私がディウを応援してるのに!キィ~」
「プップップップ」
クシマイニの笑い声が響いた
「本当にゴコーゼッシュ家の三つ子は面白い
であろう王妃よ」
「フッフッフッ、
陛下の仰せの通り楽しい姉弟ですわ」
クシマイニとヌーメインが
初めて見つめ合い笑っているぅ
何だろう・・・
この感動は・・・
「だが、ディウをどのようにして
一週間も休ませるか・・・」
クシマイニが悩んでいると
王宮諸事総取締役のシーバンが
「ディウ
陛下に病を移してはならぬ
出勤を禁ずる故に一週間程自宅で療養せよ」
「はいシーバン様」
ディウは笑いながら頷いた
「えっ⁉ディウ病気なの?大丈夫?」
「違う!」
私が心配してるのに
ルクトが怒ってるんですけど
「何が違うんだよルクト⁉」
「だからお前の頭は、さ・・・」
ラテルがルクトの口を慌てて塞ぎ
「ルクトそれは禁句だよ」
はあぁ?
二人はいったい何をしてるんだぁ?
ディウはミーナモがドニスに宛てた手紙を持ち
そのまま馬に乗り王都を後にした
三つ子とディウは王宮まで馬で通っている
何たって三つ子は
王宮特別学問所に合格した祝いに
父キチェスが馬を一頭ずつ贈ってくれたし
それを見たディウも父親に買ってもらい
4人は馬で通っているのだが・・・
未だに謎なんだよなぁ・・・
何で祝いの品が馬なの?
クシマイニは王妃とミーナモ・ドニス
そしてお腹の子を守るため
アーザスに通じる侍従を免職するよう
ミーナモに命じ
婆やさん以外のアーザス家から付いて来た者は
全て免職された
代わりに
前王時代に仕えていた
出産経験の有る者達を呼寄せ
新しい命を迎えるための
万全の体制が整えられた。
これは
アーザス封じの
第一歩を踏み出した事を意味する
ほらねっ
探すより
当事者に聞き出した方が早かったでしょ!
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