第44話  波紋

私に❝真の友❞が一人増えた

それは・・・ヌーメイン王妃だ


酒場の密会での出来事を

クシマイニ国王からの手紙で知った

ヌーメインが

「私とフォーラは真の友よね?」

と聞いてきた


はたして男と女が真の友と成れるのだろうか?

ど~う考えても面倒である

クシマイニめ余計な事を書きやがって


ヌーメインは仔犬の様な瞳で見つめてくる


故郷のノスカラ国から

一人の従者もれずにとつ

里へ手紙を出す事さえ禁じられているし

タスジャーク国での友達は私だけで

親戚も無い寂しい身の上だ


ここで否定しては男蝉丸の名がすたる!

と覚悟を決め

「勿論、真の友よ!」

と答えた


これまでは友として守り助けてきたが

此れからは命がけで守り助けねば!

だって真の友なのだから・・・


―――――――――


1月の増税から物価も上昇し

国民の生活は追い込まれ

終わりの見えない経済苦と

先行きの不安が日に日に増し

❝小さな波紋❞と成り

静かに水面下で広がり始めた。


貴族や上流階級の者達は

疑心暗鬼になっていた

その理由は

❝アーザス公に付き従うと誓えば

 金が戻ってくる❞

とのまことしやかな噂にあった


アーザスなら

貴族や上流階級者を抱き込む為にやりかねない

が我々の見解だ


だが分からないのは、

アーザスは何の為に増税までして

金を集めているのか

そして

何の為に今さら貴族を抱き込むのか・・・


アーザスは国庫の金は自由に使い放題

クシマイニ王の権限も

命さえもその手中に握っているし

アーザスへ刃向かう者など無いのに

一体その目的は何なのか・・・?


―――――――――


5月

季節外れの長雨が続き

その影響で作物に病害が拡がり

麦と大豆に甚大な被害がでた。


小麦を主食とするタスジャーク国では

深刻な食糧難を起こし兼ねない事態なのに

国民は・・・

飢饉ききんや災害時は

 代々国王が助けてくれた、

 今回も高い税金を納めているのだから

 必ず国王が対策してくれる〙

と信じ、危機感を持つ者は極僅わずかだ


この国の主食は小麦・・・パンである


米が無い!

もう16年も米を食って無いんです~!

どうしても米が食べたくて

ルクト必死に探したんだけど

無い!

米が無い!

麦も米も同じイネ科なのに米はえて無い


私とルクトが必死に米を探す姿を見てラテルが

「そんなにコメって美味しいの?」

『旨いよ!』

と二人同時に叫んだ

あ~塩おにぎりが食べたい

食べたい食べた~~い!


カイッソウガ領では

領主を務めるゴコーゼッシュ家が

代々飢饉に備え

領民が3年間は食い繋げる量の

小麦を備蓄しているが

現在はラルトス・カンパニーの従業員として

他領から出稼ぎに来ている者も多いし

王都の貧困街から移住する者も後を絶たずで

人口は増加している。


「この分だと備蓄小麦は2年、いや1年半しか持たない」

とラテルが言っていた

大丈夫だろうか・・・

今迄の転生で何度も飢饉を経験している

私にとっては恐怖と心配しかない。


―――――――――


6月中旬

王室から

とんでもない事が公布された

【この度、クシマイニ国王陛下は

 目出度めでたくも第二王妃を迎えられる

 国民全てが祝うように】


「タスジャーク国では

 王妃は何人もいるんだね」

と言ったら

ラテル元王子が怒りながら

「王妃は一人だ!

 建国以来、側室は居ても

 第二王妃なんてない!」


えっ!

じゃあどういう事⁉

全く不可解なアーザスの行動・・・

何が目的なんだよ

貴族も民衆も驚きを隠せない

王宮諸事総取締役シーバンは慌てふためき

右往左往する始末


第二王妃を迎える件は

クシマイニ王も寝耳に水で怒り心頭

ヌーメイン王妃もショックを隠し切れない。

だがクシマイニは嫌だとは言えない

断れない

そんな事で騒いだら

アーザスがどんな手を使って来るか・・・

下手をすれば

クシマイニが暗殺される危険もある

皆で話し合い

大人しく第二王妃を受け入れることに決定した


第二王妃は

なんとアーザスの一人娘でクシマイニの

従妹ミーナモである

きな臭い匂いが

プ~ンプンするんですけど!


逢う事もままならぬクシマイニとヌーメインは

手紙の遣り取りで愛を育んでいる

と皆が言っている

❝愛とは育む物❞・・・私には難解である


クシマイニは第二王妃ミーナモの件で

ヌーメインが悲しまないよう

手紙で丁寧に説明をしたらしい


他人様の手紙を勝手に盗み見するの犯罪です!

だから絶対に見ないように!

と養兄シュアスにきつく止められています


第二王妃ミーナモは

大聖堂での婚礼の儀は行わずに

そのまま王宮に住み始めた

教会は第二王妃なんて認めて無いんだから

当たり前である!


ヌーメインよりも広い部屋で暮らし

侍従の人数もヌーメインより多いのに

それでも足りないと言い

ヌーメインの侍従の半数を連れていった

なんて我儘わがままな女なんだ!


王室の王女と生まれ育ち

自分の髪に

ブラシを当てた事もないヌーメイン

なのに手が足りなくて世話が行き届か無い


ヌーメインの父であるノスカラ国王が

こんな現状を知ったら

黙ってはいないだろう

だが・・・知らせるすべが無い


でも逆に知られるとヤバいかも

国際問題に発展し兼ねない

と皆が言う・・・

そうりゃそうだよなぁ

娘が粗末に扱われてたら

ヌーメインの父も黙っちゃ無いですぜ


でもやっぱり私は

真の友であるヌーメインが不憫でならない


「ごめんねヌーメイン

 お世話が行き届かなくて」

「私は気にしていないわ

 私には陛下が付いていてくださる

 だから何の不満も不安も無いのよ」


これが育まれた愛の力なんですかぁ?

ヌーメインよ

必ずアーザスを倒して

クシマイニと一緒に過ごせるよう

この蝉丸がしてやるからな!


―――――――――


7月

レアリカヒ学園が夏休みになり

双子の弟トーキスとスイークが

カイッソウガへ帰省した。


双子が居ないと

雄義隊の会議が開きやすくて助かるし

あいつらの悪戯に振り回されずに済む

やれやれだっ。


今年に入ってから

驚くことばかりが起きる


今度は第二王妃ミーナモが懐妊した・・・!


雄義隊隊長の養兄シュアスとクシマイニ王は

ラテルを介して

毎日のように手紙で連絡を取り合っている

クシマイニは事ある毎にシュアスに相談し

意見を求めているらしいが

内容は二人の秘密で私達は知らないです


だが今回の手紙は

その書かれた内容について

シュアスから皆に報告がされた


「ミーナモのお腹の子は

 クシマイニ陛下のお子では無い」


雄義隊首脳陣のラテル・ルクト

ディーゴ・ディウ・オスタは

驚きと同時に

やはりそうで有るかと納得の表情


でも私は一人納得できません


「何で?何で陛下と結婚したのに

 陛下の子じゃないの?」


皆が私の発言にポカンとしていると

シュアスが

「ミーナモは第二王妃になって

 まだ一月ひとつきにもならないのに

 お腹の子は3ヶ月になるんだよ」

「だから何?」


皆、私の発言にえぇ⁉

ってな顔をしている


ルクトが

「結婚して一月で

 腹の子が3ヶ月なら計算が合わないだろ」

ラテルは

「そもそも陛下は

 ミーナモと何年も会ってないし

 結婚してからだって

 一度も会って無いんだよ」


意味が全く分からないです!


「だって、会わなくても

 結婚すれば子供ができるんでしょ?」


今度は皆『ハァー』と溜息の嵐

何でだよ⁉


シュアスが

「子供は結婚したからと出来る訳では無いし

 結婚しないと出来ない訳では無いんだよ」

「へっ⁉そうなの!」


ビックリなんですけど!


「じゃあ、どうしたら子供が出来るの⁉」


皆が顔を引きつらせている

どうした皆さん⁈


シュアスが

「フォーラ、子供は・・・」


皆の顔が更に引きつる

何だよ⁈


「子供は

 心から愛し合う男女が授かるものなんだよ」

「なるほど!

 じゃあミーナモのお腹の子は

 陛下の子じゃ無いよね

 だって陛下が愛してるのは

 ヌーメインだけだもの!」


皆がホットした顔をしている

何故に⁈


「じゃあ

 ミーナモのお腹の子の父親は誰なの?」


皆が眼が一斉に鋭くなった

どうした皆さん⁈


ラテルが

「そうだ!父親が誰なのかだ

 父親を探り出そう!」

ルクトが

「おぉフォーラ

 お前も役に立つことがあるんだな」


はい出たぁ

ルクトの余計な一言!


ディーゴが

「オスタ、早急に父親を探しだせ」

「はっ」


「兎に角

 父親を探し出さなくては

 陛下の御命が危ない

 子供が生まれ

 アーザスは外祖父になれば

 その子を王位に就け摂政として

 これまで以上に政を思いのままに操り

 民衆が耐え難い辛苦に置かれるのは

 間違い無い!」


シュアスの言葉に皆の顔が凍りつく


「市中では陛下が税を上げ

 その金を第二王妃につぎ込んでいる

 と民衆が囁き始めている

 そろそろ噂を流す作戦を

 決行してはどうだろう」

「私も頃合ころあいいかと考えます」


シュアスの意見にディーゴが賛成した

勿論、皆にも異論はなく頷いて意を表した


「流す噂は二つ。

 一つは

 王陛下は幼くして即位されてから今日まで

 アーザス公の囚われの身で

 増税も摂政のアーザス公が一存で行った。

 二つ目は

 今後も政の実権を握るため

 娘を第二王妃にした。

 今回はこれでどうだろう?」


ラテルが

「僕はシュアス兄さんの案に賛成です」


皆も同意した


「では雄義隊員達に国中の隅々まで

 噂を流させて欲しい。オスタ頼んだよ」

「はっシュアス様、承りました」


出会った頃のシュアスは・・・

どこかオドオドして

引込思案な少年だったのに

今や雄義隊隊長として

臆する事なく堂々と采配を振るい

王陛下にまでも頼りにされる

青年へと成長した、大したもんだ!


とルクトオジサンが

感慨深げに言ってましたです。


―――――――――


早速

全国に散らばる雄義隊員達によって

噂が流された

民衆は始め誰も信じない

だが何度も耳にするうちに

〘これは本当かも知れない〙

と心が揺らぎだす


そして自らの思考を動かしだす

〘前王の時代までは

 もっと暮らしやすい国だったのに

 アーザス公の摂政になってから変わった。

 既に王妃が居るのにも関わらず

 自分の娘を王妃にえたのは

 国を自分の物にする為なのかも知れない〙


経済苦と先行きの不安の

❝小さな波紋❞はぶつかり合い

やがて強く大きな波紋に姿を変える

民から発せられた波紋は

アーザスへの不信へと姿を変え

貴族達もその波紋に気づき考え始める


〘このまま領民の間で

 波紋が大きくなれば

 領地を統治できない

 事態が発生するかもしれない〙と。





 






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る