第43話 シュアス・バルモンクという男

王宮諸事総取締役のシーバンからの

急な呼出しで

三つ子に養兄シュアス

そしてディーゴとオスタが揃って

出かけようとしたら


父キチェスに

「こんな時間に皆で何処へ行くのだ」

と呼び止められた


シュアスは

「写真館に忘れ物を取りに行きます」


ラテルは

「私達は急な仕事で王宮へ」


ディーゴは

「夜ですので警護に付いてまいります」


キチェスは無表情で

「そうか、気を付けて行きなさい。

 ディーゴ、子供達を頼んだぞ」

と静かに言い残し自室へ向かった


まさかキチェスは何か感づいているのか?

無表情のキチェスはマジで怖いんですけど~


―――――――――


迎えの馬車の中には既にディウが乗っていた

皆やけに無口だ

馬車は王宮とは反対方向の

夜の繫華街へと進んでいる

いったい何処へ連れていかれるんだ?


馬車は繫華街の裏道で止まった


「ここで降りていただきます」

使者に従い馬車を降りその後ろに付き歩いた


「こちらです」

目の前には小さく古びた木の扉

案内されたのは店の裏口のようだ

中に入ると賑やかな話し声と

鼻を衝く酒の匂い

店の中は見えないが

如何どうやらここは酒場らしい


なぜわざわざ人目を避け

賑わう酒場で落ち合うのか?

なんかぁいい匂いがする~

この匂いはソーセージだぁ~

チーズの匂いも~するよぉ~

あぁ~腹が減った~!


狭い階段を上り二階の廊下に

そのまま進み一

番奥にある部屋の扉が開かれ中へ通された

部屋の中は思ったより広い


窓から離れた場所に

王宮諸事総取締役のシーバンが立ち

隣には若い男が背中を向けて立っている

王だ

平民の服装なので直ぐには気づかなかったが

まぎれもないクシマイニ国王である


気が付いたら迎えの使者も兵士も

皆がダッサイ平服じゃん

此れはぁあれですねぇ

❝お忍び❞ってやつですねぇ

変装ですねぇ

って当たり前かぁ

国王が堂々と大衆酒場にご来店あそばしたら

上へ下への大騒ぎだもんなぁ


三つ子とディウが片膝をつき

『王陛下に御挨拶申し上げます』

それを聞いて

シュアス、ディーゴ、オスタは驚き

慌てて片膝をつき頭を下げた


「皆の者、頭を上げ立つがよい」

シュアス、ディーゴ、オスタは

恐れ多くて立ち上がれない


「さぁディーゴ殿

 陛下がおっしゃるのですからお立ち下され」

シーバンに促されて皆が立ち上がった


「お久しい

 ディーゴ殿よ息災で何よりじゃあ」

「シーバン殿もお元気そうで安心しました」


旧知の仲の二人

相通じるものがあるのだろう

シーバンジイさん目に涙を浮かべている

シーバンジイさんの変な泣き声を

また聞かされるのは嫌だから

シーバンジイさんには

泣かないでいただきたいと願います


其方そなたがディーゴであるか

 近衛兵隊長としてマーツ二キス前国王に

 忠義を尽くしてくれた事、礼を言う」

「勿体ないお言葉、恐悦至極にございます」


「其方は雄義隊副参謀長のオスタだな

 此れからもディーゴの右腕として

 活躍をしてくれ」

「はっ!」

オスタの奴

緊張して顔がこわばってるよ

笑える・・・


「そしてそ其方が雄義隊隊長

 シュアス・バルモンク」


シュアスは驚いた顔をし言葉も出ない


「其方の生家バルモンク侯爵家については

 ラテルから聞いている

 王である我が不甲斐なく

 其方には辛い思いをさせてしまった」


シーバンが王をかば

「何をおしゃるのです

 それは陛下がご幼少期の出来事。

 バルモンク侯爵家を取り潰したのは

 アーザス公でございます」


そう言うとクシマイニは

「2歳で父と兄を亡くし玉座に付き

 王の勤めが何たるかも知らずに

 どうせいつかは

 アーザス叔父上に殺されるのだと

 生き長らえる事を諦めていた

 誠に不甲斐なき王であった」


クシマイニは幼い頃から

そんな事を背負い生きてきたのか

こいつも大変だったんだなぁ


「だが今は違う!

 雄義隊の志と活躍を知り

 そしてラテルから

 始祖ミツザネ王より代々伝わる

 帝王学を学び

 王として民を守らずに死んでなるものか!

 今はそう思っている

 いや、それこそが

 王としての我が使命なのだと」


おぉ~短期間で

ここまで成長するとは感動ものです


「今夜、皆を呼び出したのは

 アーザスが我が名を語り布告した

 勅命を許すことが出来ぬ。

 阻止するのに力を貸して欲しい」


おそれながら

 今は動かぬのが賢明かと存じます」

王陛下に向かって

シュアスが言い切りましたよ


「理由は二つございます。

 まず一つ目に貴族です

 貴族は

 アーザス派と日和見派に分かれています

 申し上げにくいのですが

 いま争いになっても陛下の味方に付く者は

 極僅ごくわず

 勝ち目はございません」


申し上げ難い事をガッツリ言ってるよ~


「ですがこの度の増税は

 貴族達に不満をもたらします」


クシマイニは黙って聴いている


「貴族達は勅命は

 アーザスが出したものと承知している

 ですから不満は

 必然的にアーザスへと向かいます」


そりゃそうだ


「二つ目は国民です。

 この増税は民の生活に重くのし掛かり

 当然、民の不満は高まります」


ここでクシマイニがシュアスに疑問を投げかける


「それでは人心が国から離れてしまう。

 人は国の根幹である

 王が人心を失えば

 国は衰えてしまうのではないか?」


「はい、当然不満は陛下に向けられます。

 ですが雄義隊がおります

 民の不満が膨らんだところで我々が

 〚増税は摂政のアーザス公が行った

 アーザス公が居なくなれば

 王に政権が戻り生活は守られる〛

 と市中に噂を流します」


う~ん噂を流すかぁ、

確かに戦の常套手段の一つではある


クシマイニは少し不安そうに

「民はその様な噂を信じようか?」

「信じます。

 始めは聞く耳を持たなくとも

 人は何度も耳にすれば

 やがて、それが真実と思い込むのです」


ここでディーゴが

わたくしもその通りと考えます。

 それに民は陛下をお慕いしております

 必ず陛下の味方になるでしょう」


「まだ我々の仲間は少ない、

 増税で国民全体には苦労を掛けますが

 ここは焦らずに

 貴族と民を味方にしてまいりましょう」


「日和見の貴族を味方に付け

 人心を掴む計略を考えるとは

 シュアスは面白い奴だ

 それに今の我には勝ち目が無いと

 臆せず堂々と言い放ちおって

 シーバンよ

 亡きバルモンク侯爵とシュアスは

 似ておるか」


「はあ・・・歯に衣着せぬ物言い

 父とそっくりでございます」

「なるほど、

 亡き父上がバルモンク侯爵を頼りにした訳だ

 決めたぞ

 此れからはシュアスを兄とあおごう」


クシマイニよ兄は目の前に居るぞ

ラテルこそがお前の本当の兄なのだぞ

と言ってやりたいが言えないもどかしさ


ラテルが

クシマイニ王の兄ニナオイスⅢ世の転生した

姿である事は

三つ子の他はディーゴとシーバンしか知らない

これ以上知る者が増えれば混乱を招く

だから超極秘事項です!


「陛下の兄などと畏れ多い事でございます」

シュアスはクシマイニの申し出を拒否した


「その様な事を言わず兄と呼ばせてくれ」

「どうかご容赦ください」


あ~あ、ラテルが弟を取られちゃうよ

さぞや悔しいだろう

とラテルの顔を覗き込んだら

悔しいどころか嬉しそうに笑っている

何でだろう?


クシマイニとシュアスの押し問答は続き

皆が静観している

仕方ない助けてやるかぁ


「真の友になればいいじゃん!」


あれっ?

全員揃ってポカンとしている・・・

皆さん真の友をご存じないのか?

ならば教えて進ぜよう


「真の友とは

 損得なしで互いに助け合い、

 高め合い、語り合い

 悪い事をすれば

 力尽ちからずくくでも止めてくれる

 それが真の友なのだ!」


「フォーラ!」

何だよルクト、急に大きな声で

「お前いつの間に

 人間らしい事が言えるようになったんだ⁉」


はぁ~何だそれ⁉

「それじゃぁ私が何時いつもは猿ってこと?」

「そうだ。お前の日頃の言動は、ほぼ猿並だ」


あぁそうかぁ~

何時いつかはルクトを殺そうと思っていたけど

その何時かは今日なんだ~


私はルクトを押し倒して馬乗りになり

胸ぐらを掴み床に頭を打ち付けた


「フォーラ!

 そんなに床に頭を打ちつけたら駄目だよ!

 ルクトが死んじゃうよ!」


そう言いながらラテルが私を羽交い絞めにし

必死にルクトから引き離そうとする


「離せラテル!

 今日こそルクトを殺してやるんだ!」


「プップップップ!」

クシマイニが笑い出した


「プップップップ

 ゴコーゼッシュ家の兄弟は誠に面白い

 我は生まれて初めて、こんなに笑ったぞ」


そうかぁそりゃぁ良かったです

王の笑いに免じ

今日は殺さずにいてやるか

ルクト、命拾いしたなフッン!

次は無いからなっ!


その後は雑談が始まった

ラテルとルクトとシュアスは王と

ディーゴはシーバンと

オスタは護衛の兵士達と

皆さん仲良く

楽しそうに話してらっしゃいます

いいことだぁ~


でもねっ

でも私は限界なんですよ~!


「も~無理!!」


皆さん一斉に静まり返り私を見ている


「お腹が空いた~~!!」


今度は一斉に笑い出した


「そうだな今日は終わりにしよう。

 此れからはシュアスとの連絡は

 ラテルを介して手紙で行うが

 又こうして皆で集まり

 直接話をしたい。

 此れから宜しく頼むぞ雄義隊」


クシマイニの一言で

やっと終わりました~


―――――――――


別邸に戻ると

シュアスがメイドに声を掛けてくれた


「済まないが食事を頼むよ」

「はい、直ぐにご用意いたします」


やっと晩飯にあり付けます~


「夜遅くに済まないね、君も疲れただろう」

シュアスにねぎなわれ

給餌きゅうじ係は


「いえ、大丈夫です。

 お気遣い有難うございます」

と本当に有難ありがたそうに答えた


シュアスは何時いつ

使用人の隅々までに気を掛けている

これはシュアスが持って生まれた気質と

農家の下働きとして苦労し

一人で生きてきた経験から出る

真の気遣いなのだろう


実はシュアスが

ゴコーゼッシュ家の養子に成った時

ほとんどの使用人たちの反応は

ひややかだった


いくら出自が侯爵家でも

今まで自分達と同じ使用人だった

なのに養子に成り

此れからはシュアス様と呼び仕えて

身の回りの世話をするなど納得できない

と考える者達が

明白あからさまにシュアスの世話の手を抜き

嫌がらせをした


父キチェスと母リエッドは

その事に気付いていながら

使用人たちに注意することも無く

黙って見守っていた


当のシュアス本人は

明白な嫌がらせに対して

悲しむ事も怒る事も悔しがる事もなく

それどころか忙しい使用人がいると

進んで手伝いをした

皿洗い薪割り水汲み、馬小屋の掃除まで


「そんな事なさらないでください」

と止める使用人たちに

「何でも経験しなくては、

 この経験は何時いつか役に立つ」

そう言って手伝いながら

面白い話をして皆を笑わせる


養子に成ったからと威張ること無く

自分達に気配りをし

優しく丁寧に接するシュアスに

いつの間にか使用人達は

流石さすがは侯爵家の出自、

 品が有ってふところが広い」

と言い出し

よく仕える様になっていった

今では使用人同士の揉め事の仲裁や

私生活の悩み事まで

皆がシュアスを頼ってくる


キチェスとリエッドが

シュアスに対する

使用人達の悪辣な態度を敢えて黙って

見守っていたのは

これから先

ゴコーゼッシュ家の息子として生きていく為に

シュアス自身が乗り越えなくてはならない

壁だったからだ


それを見事に乗り越え使用人達の信用を得た

シュアスとは

そういう男であり

実に大した男である


とラテルとルクトが言っていた・・・


そしてラテルは

「弟クシマイニの真の友に

 シュアスがなってくれ嬉しいし

 心強く安心だ

 シュアスになら弟を任せられる」


笑みを浮かべ安堵あんどし喜んでいた。

 

 

 














 

 







 






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