第42話  蠢き

12月

怖いぐらいに何事もなく過ぎて行く

国中で日常が音もなく流れるように

過ぎて行く


レアリヒカ学園が冬休みになり

双子の弟

トーキスとスイークはカイッソウガへ帰省し

程なく父キチェスと母リエッドが

年末恒例の社交界参加と

年始の陛下謁見参列のために

王都の別邸へやって来た。


両親に会うのは8ヶ月ぶりになる

リエッドは変わらず美しく

キチェスも変わらずのオヤジ馬鹿で


「シュアス、ラテル、ルクト

 暫く見ぬ間に男らしく成ったな

 私のプリンセスは益々美しく成って」

逃げる間も無く抱きついてきて

久々に会えよほど嬉しかったのか

グワングワンと体を持ち上げ振り回してくる

やめろ~やめてくれ~

心身ともに気持ち悪くて気絶しそうです!


「まぁフォーラは

 本当に父様が大好きなのねぇ」

違うぞリエッド!

どこから見たら、そう思えるんだ~⁉

相変わらずリエッドの感覚はずれてます!


―――――――――


私は社交界なぞに興味は無いが

毎回リエッドが目を輝かせ

新しいドレスを着せたがるので

仕方なく参加している。


会場でいつも通り

並べられた菓子をむさぼっていたら


「フォーラ!」

と後ろから大きな声で呼ばれた


この声は・・・

慌てて振り返ると

そこにはゼネッスの姿が・・・

初恋の人・・・ゼネッス


「やっぱりフォーラだった

 お元気そうで良かったわ」


変わらない笑顔を向けてくる


「私だとよく分かったわね」

「わかるわよ、私達お友だちでしょ」


うん、

そうだよね、

友だち、

だよね・・・


「ゼネッス、

 こちらのご令嬢は何方どなたかな」

「お友達のフォーラさんですわ

 フォーラ、この方は私の婚約者アモーグよ」


こっこっ婚約者⁉

こいつがゼネッスの婚約者なのか!


「初めましてフォーラさん

 シュングス伯爵家の長男アモーグです

 貴女の噂はゼネッスから聞いていますよ」


にやけ野郎が握手を求めてきた

誰がお前なんぞの手を握るもんか!


「妹が何か失礼をいたしましたか?

 アモーグさん」

シュアスが間に入って来た

二人は知り合いなのか?


「フォーラさんは

 シュアスの妹さんだったのですね」

「ええ、お転婆な妹でして」


なに仲良く話してんだよ

馴れ馴れしくシュアスに話しかけるな!


「シュアスさん

 僕たちの結婚式で写真撮影をお願いしたい」

「勿論、仕事ですのでお受けします

 でもゼネッスさんは妹のお友達ですから

 料金は特別割引にさせていただきますよ」


シュアスよ割り引くな!

何なら料金ぼったくってやれ!


「結婚式には来てね」

ゼネッスがそう言い

柔らかくて温かい手で私の手を握った


あぁ、

私はなんと未練がましい男なんだ・・・

初恋の人の花嫁姿なぞ見たくない・・・

目が点になり体が硬直して言葉が出ません


「ゼネッス、約束は出来ないんだ

 いまフォーラは王妃様のお世話係だから

 王妃様のご都合で仕事になるかも知れない

 だから式への参列は約束出来ないんだよ」


おいルクト

何時いつからそこに居たんだよ⁉


「残念だわ・・・フォーラお仕事頑張ってね」

ゼネッスは笑顔を残し去って行った

私の胸はキュンと締め付けられる


ルクトが私の背中を押しながら

「男とは未練がましく女々しいものだ

 女々しいとは男のために有る言葉だからな

 蝉丸、お前は男らしいと言うことだぞ。

 さぁ、菓子でも食ってろ」

ルクトは私を

菓子の飾られたテーブルまで

連れていってくれた

57歳ルクトオジさん人生の達人かよ

有り難いです・・・


菓子をやけ食いしていたら

いつの間にか

キチェスとリエッドに挟まれていた

「まぁフォーラったらぁ、

 食べてばかりいないで

 殿方とお話ししたり踊ったりしなさいなぁ」

「そんな必要は無い!

 美しいフォーラは居るだけで

 会場に花を添えているんだから

 無理して男どもと仲良くする事は無いぞ」

「貴方!それではフォーラが

 いつまでもお嫁に行けませんわっ」


リエッドさん怒っています。

他人様から見れば少々へそを曲げた程度

だが、

これはリエッドさんが激昂している姿です

どうするよ、旦那さん⁉


キチェスは顔を引きつらせ

「素敵な男が居れば進んで歩み寄るさ

 なぁフォーラ」

ドギマギ言いながら

私を見てくるんですけど・・・

なに見てんだよぉ

私に助けを求めるなよぉ

女は怖いんだぞぉ


ハァ~仕方ない助けてやるかぁ・・・

だが何て言えばいいんだ?

何が正解なんだ?


「そうですわ

 お父様みたいな素敵な殿方がいれば

 私だって・・・」

あぁ~あ

まるで幼稚園児のお遊戯会みたいな棒読み


リエッドは首をかしげている

これは彼女が考え事をしている時の仕草だ

私の言葉は不正解だったのか?


「そうねぇ、

 父様みたいに優しくて誠実で

 家族を愛せる殿方は

 なかなか居ないわよねぇ。

 でもそんな殿方と結婚する事で

 フォーラは幸せになれるのよねぇ」

「私、父様と母様のような

 仲の良い夫婦になりたいから」


又しても棒読みになっちまった~


「フォーラの幸せの為に慌てずゆっくりと

 父様のような殿方を探しましょう。

 貴方、怒ったりしてごめんなさい」

「いいんだよリエッド

 君の怒った顔も愛おしいんだから」

「まぁ貴方ったら」


奥さん頬を赤くして

旦那さんの甘い言葉に酔いしれてますよ!

こらキチェス!

リエッドが機嫌を直したからって

ガッツポーズは止めなさい!

私が正解を出したお陰でしょうがぁ


全くもって面倒で可笑しな夫婦だ

でも喧嘩をする姿を見た事が無い

仲のいい変わった夫婦です。


―――――――――


1月5日

恒例行事である

貴族総出の新年謁見の儀が執り行なわれる

貴族は公爵家から男爵家まで5段階に区分され

総数は200を超える

鎌倉時代に地球からイクス星にワープして

こんなに立派な国造りを成し遂げた

始祖王ミツザネこと

満実みつざね兄ちゃんは凄いよなぁ


新年謁見の儀には勿論キチェスも参列する

三つ子とディウは

両陛下のお付き係として王宮へ出勤です


ヌーメイン王妃は

久しぶりに王に会えるのが嬉しくて

朝からソワソワし落ち着きが無い


好きな人に会えるヌーメインを

うらやましいと思う

女々しい心が出てしまい落ち込んでいたら

「どうしたのフォーラ?」

心配したのかヌーメインに尋ねられたので

正直に


「暮れに行われた社交界に

 初恋の人が婚約者と一緒に来ていて」

と話したら

ヌーメインにいきなり抱きしめられた


「可哀想なフォーラ。

 でも、いつかきっと運命の人に出逢えるわ」


ヌーメインから甘い匂いがする

この香りはラルトス・カンパニーの香水

アド・クーエラだ

ラルトス・カンパニーの香水を使っているなんて

ヌーメインは本当にいい子だ!


―――――――――


さぁ新年謁見式が始まる

両陛下とお付きの者達は

ぞろぞろと会場まで行列で移動し

両陛下が入場されると

廊下に整列して終わるのを待つ


でも気になる~

緊張してるヌーメインのことが心配です~

会場をのぞこうと

そ~っと扉を開けたら

中から兵士が睨んできて邪魔され中が見えない


〚困った時はニッコリ笑えば

 大抵の兵士は思いのまま操れます〛

と護衛係のオスタに教えられたのだが

本当に通用するのかぁ?


物は試しとニッコリ笑い

「王妃様のご様子が心配なんですぅ」

兵士は

ウッホンと咳ばらいをして

そっと体を動かし

覗ける隙間を作ってくれた

本当だぁ兵士を操れちゃうよ

マジかよ

何でだよ?


私が覗きだしたら

ラテルもルクトもディウも他のお付き係まで

押し合いながら覗き込む

なんだぁ皆も気になってたのね


中から「王陛下よりお言葉を賜る」

と司会の声が聞こえる

でも実際に話すのは

脳ミソ沸騰野郎のアーザスですけどね


「陛下に代わりに、皆に新年の挨拶をする。

 新年、誠に目出度し皆の息災を祈る」


はい終わり

これで新年謁見の儀は終了で~す


「これより王陛下からの

 勅命ちょくめいを申し伝える」


えっ⁉

勅命なんて予定には無いはず・・・


「国の財政の逼迫を補うため

 この1月より増税を執行する。

 貴族・国民・商会は

 納税額をこれまでの3倍とする。

 また大商会は収入の6割を納税する事。

 従わなき者は

 我クシマイニ国王の名の下に厳罰に処す」


会場内がざわめき

王は顔色を変え

玉座から立ち上がろうとするのを

王妃と王宮諸事総取締役のシーバンが

必死に押さえつけなだめた


それでも王は

勝手に自分の名をかたるアーザスが

許せないのだろう

唇が怒りで震えている


参列する貴族達は

王とアーザスを交互に見ている

そして分かっている

勅命は王の意志では無い事を。

だが異を唱える者はいない

この国でアーザスに楯突くことは

地位も財産も全てを失う事を意味する


皆、黙して語らない

そして皆が信じている

王が二十歳になれば

アーザスの摂政は終わり悪政は消え去り

再び安寧が訪れると。


新年謁見の儀が終った後

王宮内は静まり返っていた

ヌーメインは新年謁見の儀で

怒りと悔しさに震えていた愛する夫

クシマイニ国王を心配し涙を浮かべていた

私はただ友のかたわらに立ち

見つめる事しか出来なかった。


―――――――――


仕事を終えての帰り道

三つ子とディウは

新年謁見式での一連の出来事を話した


「まさか、あんな無茶な増税をするとはねぇ」

「俺も驚いた」

「遂にアーザスの闇がうごめきだした・・・」


なるほど、

そうなのかなぁ闇が蠢きだしたのかぁ・・・

って

「どういう事?」

私は素朴な疑問をしただけなのに

ラテルとルクト

ディウまでもが呆れた顔をする

何だよその顔は⁉

文句あるのかよ!


ルクトがハァーと溜息をつき

「お前にも分かるように

 俺が親切に説明してやるからな」


そして私のことを

気の毒そうに見ながら教えてくれた


「此れからは

 10個の菓子の内7個は国へ納める

 要するにだ

 毎日10個の菓子を食べていたのを

 此れからは

 毎日3個しか食べられなくなるって事だ」


そいっぁ大事おおごとですよ!

ヤバイですよ!


「アーザスの野郎は

 そんな酷いことをしやがるのか!

 許せんぞアーザス

 私の菓子を横取りするとは!」

「ちょっと違うよフォーラ」


ディウは顔を引きつらせながら

続けて何か言おうとしたのに

ルクトが

「ディウ、フォーラの脳では理解に限度がある

 無駄だ、ほっとけ」

と止めた

何で?

なに?

どういう意味だ?


「ハァー」

又しても溜息が聞こえた

溜息の主はラテルだ

おまけにドヨンドヨン顔になっている

いったい何を思い悩み考えているのか?


「あの時の陛下の悔しそうなお姿・・・」

アーザスが王の名を借り

勝手に勅命を出した時の姿

ルクトとディウも下を向き沈んでいる


「ヌーメインがね

 王を心配して涙を浮かべていたのに

 私は何も言ってあげられなかった。

 友達なのに・・・」


沈む私の肩をルクトが優しく叩きながら

「何も言わない方がいい時もあるさ」

有難う・・・

ルクトオジさん


ディウに別れを告げ別邸に帰宅すると

キチェスとシュアスが増税に伴い

これからの

ラルトス・カンパニーの運営について

話し合い次の事が決定した


写真館はシュアスの個人経営で

さほど問題は無いので今まで通りに運営する。

カンパニーの役員報酬は廃止し

運営資金に回す。

である

三つ子は王宮勤務報酬が貰えるし

王宮で働く者は無税だし

なんの問題も無いし文句も無いですぅ

王宮勤務報酬が無税なのは

アーザスが取り決めた事らしい

自分の摂政報酬から税金納めるのが嫌だから

だそうです


はい!解散~!

そんな事より腹が減ったよ~

やっとご飯がたべられる~

と喜んでいたら・・・

王宮諸事総取締役のシーバンジイさんの

手紙をたずさえて使者がやって来た


手紙には

〘ラテル・ルクト・フォーラ・シュアス

 ディーゴ・オスタは

 至急、送った馬車に乗り来るように〙

と書かれている


あ~も~マジかよ!

腹が減ってるのに最悪な夜ですよ!

行きますけどね!

行ってあげますけどねっ!






























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