第40話 燃える恋文

ラテルとルクトとディウは

王陛下お付きの侍従で

私は王妃お付きの侍従になった


魂は男でも

今の肉体は女だから

王妃の侍従は当然なのだけど

身の回りの世話をする役職なので

お着換えの手伝いもしなくてはならない


自分の裸は見慣れているけど・・・

他の女性の裸を見るのは恥ずかしいです

毎回、目のやり場に困りますんです・・・

ラテルとルクトに相談したら二人共

『ふっ』と笑うだけで助言無し

なんでだよ~!


今朝

私が一人で

ヌーメイン王妃の髪をとかしていたら

「ご朝食の支度が整いました」

と連絡係が知らせに来た


王妃は連絡係に

「陛下は、おいでになられるの?」

と訪ね

「いえ、陛下はご体調が優れず・・・」

と連絡係は気まずそうに答え

それを聞いて王妃は項垂うなだれている


どうした王妃よ?

何が悲しい?

これから美味い飯の時間だと言うのに?


王妃がか細い声で話しだした

「陛下は私を、お気に召さないのかしら」


知らな~い

そ~んな事を私が知るわけが無~い


「陛下に初めてお会いしたのは

 父上に連れられ

 タスジャーク国を訪れた6歳の時

 お庭で転んだ私に

 太陽の日を背に浴びた陛下が

 優しく微笑み

 手を差し伸べて下さったの」


転ぶよねなぁ子供の頃って

しょっちゅう転ぶんだよねぇ

あれ世界七不思議だよねぇ


「その時・・・私は陛下に恋をしたの

 陛下は私の初恋の方」


❝初恋❞の響きが

私の初恋の人ゼネッスを思い出させた


「陛下を想うと今も胸がドキドキして

 ・・・切なくて」


ゼネッスを想うと胸がドキドキして

今でも切ない

あ~私はなんて未練がましい男なのだ!


「初恋の方を想って切ないなんて

 私は可笑しいわよね」

可笑おかしくなんて有りません!」


しまった、

王妃の恋心と

己の恋心が重なり思わず口から出てしまった


顔を赤くする私を鏡越しに見た王妃が

「貴女も恋をしているのね

 お相手はどんな方かしら?」


私はボソッと

「その人は、ほかの方と結婚を・・・」

それ以上は言葉に詰まってしまった


王妃は振り返り

「悲しい恋だったのねっ」


あぁまぁそうなんですよ

如何いかんせん私の中身は男なのに

今世の外見は女なんで

始めから結ばれない恋だったんです


あれっ?陛下と王妃は

アーザスの企てた政略結婚だったはず

なのに王妃は陛下に恋してたって事は・・・

アーザスの思惑は外れたって事じゃん

や~いアーザス

ざまぁみさらせってんだい

まぁそんな事はアーザスにとっては

どうでもいい事なのかも知れないなぁ


「貴女、お名前は?」

「フォーラ。フォーラ・ゴコーゼッシュです」

「フォーラ、私のお友達になってくれない?」


はぁ⁉

友達だぁ⁉

いやぁ~女友達は面倒なんだよなぁ


あっ王妃さん目をウルウルさせてるよ


そう言えば古参のお付き係が・・・

❝陛下と王妃は公用以外で

お顔を合わせる事は無いし

アーザスには母国から一人の召使いも

連れて来るなと言われ

何時もお独りでお寂しそうで

お気の毒❞と言ってたなぁ


う~ん・・・

女を泣かせちゃ男がすたるってぇもんだ

仕方ない友達になってやるかぁ


「はい、私で宜しければ」

「有難う、嬉しいわ。

 でもフォーラ、友達なら

 かしこまった口の利き方はしないで

 二人きりの時は

 王妃と侍従ではなくお友達なんだから

 私のことは名前で呼んでね」

「うん、分かった!いいよっ」


友達の契りの握手をしようと

右手を差し出したら

ヌーメインは少し驚いた顔をして


「握手を求めるなんて

 フォーラは殿方みたい、それに言葉使いも」


しまったぁ~

言葉に蝉丸が丸々出てしまったぁ~

この国では握手は男同士の挨拶でしたぁ~


「あぁぁれはですねぇ

 あのぉ男兄弟が多くてぇつい・・・」

上手い言い訳が思いつかん


「まぁそうなのね、では握手をしましょう」

ヌーメインとがっしり握手を交わした

「これで二人は友達だからね

 ヌーメインよろしく!」

「こちらこそ、よろしくフォーラ」


そうだ、いいことを思いついた!


「今朝は青空で風も無いから

 テラスで朝食を取ったら気持ちがいいよ

 直ぐに運ばせるから待ってて」


急いで食堂へ知らせに行こうとしたら

勢いあまって扉に頭をぶつけ

ゴン!と凄い音がした


「痛~い!」

ヌーメインが

「クスクス」

と笑いやがった


いつもは失敗を他人に笑われると腹が立つ!

でも不思議と腹は立たない

だって・・・

侍従になり3ヶ月

初めてヌーメインの笑う声を聞けた

良かった、

ヌーメインが笑う事を忘れずにいてくれて。


―――――――――


三つ子とディウは仕事が終わると

ほぼ毎回

王宮諸事総取締役シーバンを訪ねて

執務室に行く


私はヌーメイン王妃の王陛下への気持ちを

皆に話した


告げ口でも秘密の暴露でも無いですからねっ

❝どんな些細な事も

王権復古の足掛りとなる大切な情報共有だ❞

とラテルが言うので話したんです


シーバンジイさんは

「うぅおぉぅ、うぅおぉぅ。

 王妃様は心より

 陛下をお慕い下さっているのか

 ありがたやぁ~」

と泣きながら嬉しそうにしている


私としては

友達であるヌーメインの気持ちを

陛下に知って欲しいんだよなぁ・・・


「フォーラ・ゴコーゼッシュ!」

へっ⁉

ジイさん何をいきなり怒鳴ってる⁈


「事もあろうに

 王妃様を友達呼ばわりするとは

 無礼千万である!

 身の程をわきまえよ!」


はあぁー⁉

私は頼まれて友達になったんだよ!

なぁにが身の程をわきまえよだよ

このジジイ!


「シーバンさま

 フォーラがした事は王妃様が望まれたこと

 少しでも王妃様のお慰みになれば

 それは良きことかと」


ラテルのこの一言でジイさんは

「まぁそうであるな。

 フォーラよ

 これからも王妃様によくお仕えし

 おなぐさめせよ」


はあぁ⁉

元王子ラテルの言う事には

何~でも

へえこらしやがって

釈然としませんよ!

ジイさんに言われなくとも仲良くするさっ

なんたって

私とヌーメインは友達なんですから


ラテルがドヨンドヨン顔をしながら

「解せないのは

 なぜ陛下が王妃様と公務以外に

 お会いにならいのかという点だ」


確かにそうだよなぁ

陛下はヌーメインが嫌いなのかぁ?


シーバンジイさんも

「私も気になっている

 いったい陛下はどうされたのか」

と暗い顔


「陛下には

 何かお考え有っての事かも知れません」

ラテルの言葉にシーバンジイさん

「おお、確かに」

「シーバン様

 陛下に真意をお尋ねしては如何でしょう」

「おお、そうであるな」


シーバンジイさんラテルが意見すると嬉しそう

やっぱ不公平感が有ってムカつきます


話し合いの結果

話し合ったのはラテルとジイさんだけどねっ

シーバンと三つ子とディウで

揃って陛下のもとへ行く事になりました


シーバンの後ろを

ぞろぞろと一列で付いて行く

これ幼稚園の遠足みたいじゃん


―――――――――


陛下の部屋に着くと

シーバンは人払いをし

ラテルだけを引き連れて

陛下の居る奥の間へ入り扉が閉められた

私とルクトとディウは

控えの間で文字通り控えています


な~んてねっ

大人しく控えているわきゃ無いじゃん

だって気になるも~ん

三人揃って

耳を思い切り扉に押し当て盗み聞き

では無い立派な情報収集です

・・・本当です!


中からシーバンと王の話し声が聞こえる


「陛下、お部屋に籠られてばかりでは

 お体に障ります

 特に婚礼されてからは目に余るこもりよう」

「公務はこなしておるのだから問題なかろう」


「ですが陛下、王妃様が・・・」

「王妃がいかがした?」


「はあぁ、お寂しい思いを・・・」

「よい、構うな!」


あれっ?

なんか王様がプチ切れしてるよ

何で⁈


僭越せんえつながら陛下に申し上げます」


おっラテルの声だ


「国民は陛下と王妃様が

 仲睦まじいご夫婦である事を

 望んでおります

 しかしながら今の状態では」

「うるさい!そなたに何が分かるのか!」


あちゃ~王様怒りだしたよぉ

ラテル大丈夫かぁ?

処罰されないかぁ?

心配です・・・


「陛下は王妃様がお気に召さないのですか?」


と、なおも食い下がるラテル

その問いにクシマイニ陛下が答える


「そなたは王妃が気の毒だとは思わんのか

 アーザス公の仕組んだ

 政略結婚で我が妻となり

 そのうえ夫である我は

 いつ殺されるとも知れない籠の鳥

 王妃の身の上にも

 どんな災いが降りかかるか

 我に嫁がされた王妃があわれでならない」


それは違うぞクシマイニ!

ヌーメインの気持ちは違う!


「それは違います!」


あっ・・・

興奮して叫びながら奥の間へ入ってしまった


皆が凍りつく・・・

そして空気も凍りつく

ヤバイです極刑になるかも・・・


でも本当のことを伝えなくては


「王妃様は陛下を

 お慕いなされているのです!」


頑張れ蝉丸

友であるヌーメインの心を伝えるのだ!


「その昔、

 転ばれた王妃様に陛下が手を差し伸べられた

 6歳の時から

 王妃様は陛下を好きなんです

 恋しているんです!

 だから陛下のおそばに居る事を

 望まれているんです!」


言ってやったぞっ~!

私は頭が悪いと自覚していますから

だからたぶん上手くは言えて無いけど

でも言ってやったぞ


あれっ、やっぱりヤバイ雰囲気ですかぁ?

沈黙の嵐だよぉ

シーバンジイさんは顔を青くしてるし

ラテルとルクトの顔は怒っているし

ディウはビビッて気絶寸前だし

もしかして私やっぱり極刑かぁ~?

どうしよう!


「覚えている・・・」


沈黙を破ったのはクシマイニだった


「王妃と初めて会った日の事は

 よく覚えている」

「陛下が初恋の人だと

 ヌーメインは言ってました

 今でも陛下を想うと

 ドキドキするそうですよ」


「そなた、王妃を

 ヌーメインと名前で呼んでおるのか?」

「はい。友達ですから!」


あれっ

これって言ったら不味いやつ⁇


「王妃の友達かっプップップップ」


あっ笑い方がラテルと同じだぁ!

やっぱり兄弟だなぁ~


「そなた名は何と申す」

「フォーラ・ゴコーゼッシュです」


「ゴコーゼッシュ?

 確か青と緑もゴコーゼッシュであったな

 そなたらは兄弟か?」

「三つ子です」


王が言う❝青と緑❞とは

ラテルとルクトのことだ

学園時代から

周囲から見分けが付くようにと

ラテルは青ルクトは緑のポケットチーフを

制服の胸ポケットに挿ししている


何度か悪戯して

ラテルとルクトの

ポケットチーフを入れ替えたら


「周りの人たちが混乱するから駄目だよ」

とラテルに注意され


「お前の脳ミソは

 何時いつになったら成長するんだ!」

とルクトの言い方!

ほんとルクトオジさんの言い方は・・・

思い出したら腹立ってきたわっー!


「そうか三つ子の兄弟か・・・

 我は親兄弟も無く孤独の身」

「陛下、僭越ながら我々がります

 今この場に控えし者は

 漏れなく陛下のお味方です」


ラテルが前世の弟である王に

優しく語り掛けた


「味方だと?

 シーバン、この者達は何者であるか⁉」

「この者達は

 アーザス公を倒す為に

 決起した者達でございます」

「何の為にアーザス公を倒すのか⁈

 青、答えてみよ!」


王の苛立いらだちが伝わってくる


青のラテルは静かに

だが力強く語った

「アーザス公から陛下を御守りし

 王政復古を果たすためでございます」



「我を守って何の得がある」

「民を守るためです。

 この国の民を心から憂い救えるのは

 陛下だけにございますから」


「だが情けないかな我には・・・その力が無い」

「我々には雄義隊なる多数の同志がおります

 それに貴族達は一枚岩では有りません

 アーザス公の悪政に

 不満を抱く貴族もおります」


「貴族を味方にできると申すか?」

「陛下に王政復古への強いお志が有れば

 必ず後に続く者は出てまいりましょう」


「しかし

 宮殿内にはアーザス公の手の者も多い」

「分かっております。

 水の流れが音もなく岩を削るように

 静かに確かに事を進めて参ります」


これが兄弟の会話・・・

ラテルは前世の弟に

どんな気持ちで語っているのだろう


「シーバン、この者達を信じてよいのか?」

「はい、間違いございません!

 雄義隊は既に

 アーザス公の手下が資金調達の為に

 タスジャーク国民を国外へ売買するのを

 何度も阻止しております」


「アーザス公がそんな事を・・・

 我が民を・・・」


王は項垂うなだ

そして顔を上げ

「我は王である

 王である我には国と民を守る責任と義務

 そして権利がある。

 罪なき民を他国へ売る者は

 例え誰であっても

 許すことはできない。

 王の権限の下、必ず極刑に処する!」


そう言い切る姿は

毅然とし怒りの炎に包まれている


あれっ?

今の台詞どっかで聞いた覚えが・・・


「そなたらを信じよう。

 いや頭を下げ頼む

 国のため民のために

 我と共に戦ってくれ」


王は私達を信じてくれました~!

勿論、戦いますよ~!

ってぇ事で

雄義隊は王直属の影の軍団に格上げだ~!


あれ~なにか忘れてるようなぁ?

何だっけ・・・?

あっ!

「ヌーメインはどうするの⁉」


私の発言に一同「あっ!」顔になってる

皆で忘れてたよねぇ


「陛下、事を成すためには

 王妃様の協力が必要になります

 ですから王妃様には

 全て打ち明けれるのが宜しいかと

 それと、陛下の王妃様への想いも・・・」


シーバンジイさんの言う通りだ

伝えろ!

恋しい想いを


「だが、どうやって?

 王妃に会えばアーザス公に疑われる」


どうしたものか、と皆で悩み顔


「そうだ!和歌を送るんですよ」

『ワカ?』

しまった

皆キョトンとしているぞ


平安時代に和歌を届けて

こずかい稼ぎをしていたの思い出した

どこぞの貴族の兄ちゃんに頼まれ

どこぞの姉ちゃんに届ける

受け取った姉ちゃんから返歌を預り

それをまた兄ちゃんに届ける

両方から金が貰える嬉しいバイトだった


でも土階つちしな様に知られて

「陰陽師として恥ずかしい!」

と怒られて

尻を赤くなるまで叩かれた

苦い思い出です・・・


「手紙ですよ

 陛下が書いた手紙を緑のルクトに渡し

 ルクトは帰宅してから私に渡し

 翌日に私が王妃様にお渡しする」


「なるほど、そなたらは兄弟

 帰る家は同じであるから

 手紙の受け渡しも安心と言うわけだな」

「はい、そうです陛下」

「では少し待っておれ」


そう言って王は書斎へ消えた

少しって言ったにぃ

もう30分は経ってるよぉ

腹が空いたよぉ


ディウは

ず~っと微動だにしていない

「ディウ、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。

 色々と急展開して少し驚いただけだから」


こりゃあ少しも大丈夫じゃ無いなぁ

ディウのやつ、だいぶ驚いてるなぁ


おっ、やっと王様さんが戻ってきたよ


「この手紙を明日、王妃へ。

 中にも書いては有るが

 読み終えたら必ずその場で燃やすように」

と私に差し出した


合点承知の助ですよぉ

お任せくださいませ~


挨拶を終え部屋を出ようとしたら

クシマイニに呼び止められた


「フォーラ、これからも王妃の友でいてくれ」

「はいっ!」


―――――――――


翌朝

他のお付き係の目を盗み

「ヌーメイン、陛下から手紙を預かったよ」

戸惑うヌーメインの手を引き書斎へ向かった


「手紙は読んだら直ぐに燃やせってさ」


ヌーメインは表情を変えず真剣な眼差しで

手紙を食い入るように読んでいる


読み終えた手紙を燃やすヌーメイン

手紙が燃えて灰になるのを

じっと見つめる瞳は涙で濡れている

どうしたヌーメインよ⁈


「陛下に意地悪な事を言われたの⁉

 だから泣いてるの?」


友の涙に驚き心配する私に


「フォーラ、嬉しいのよ

 私は嬉しくて泣いているの」


そうかぁ

嬉しいのかぁ良かった安心した


「返事の手紙は私が預かって

 明日には弟のルクトが陛下に渡すから

 此れからは陛下と文字で話ができるよ」

「有難うフォーラ、直ぐにお手紙を書くわね」


ヌーメインの全身からは

嬉しさと喜びが溢れ出ている


燃やされる手紙・・・

残せない手紙・・・

でも

その燃やされる手紙が

王とヌーメインを強く結び付けるのだ。








 

 









 


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る