第36話 二つの顔

見習い期間も残り2週間ほど

もうすぐ一人前として認められ

給金も上がる~

とは言っても

ルクトによれば

毎月ラルトス・カンパニーから支払われる

役員報酬の方が段違いに高いのだそうだ

私の役員報酬は相変わらず

爺やが管理しているので

金額を知らないし

幾ら貯まってるのかも知りません。


そうそう・・・

初任給で母リエッドには

瞳の色と同じ紅い宝石の散りばめられた

ブローチを贈った

父キチェスへの贈り物は三つ子揃って悩んだ


「女性への贈り物には悩んだ事はないんだ

 男性はねぇ」

出たよ

出たよ

出ましたよ

前世で恋多き元王子だったラテルの

いけ好かない発言ですよ


結局キチェスへは高級な革手袋に決めた

金色と銀色の混ざった髪に合わせ

茶色の高級革手袋

三つ子の初任給を合わせても

両親への贈り物代が足りない

足りない分はラテルとルクトが出してくれた

二人はラルトス・カンパニー役員報酬を

自由に使えるからなぁ

私は爺やに嫁入持参金として

貯蓄管理されているからなぁ

だぁかぁらぁさぁ私は

天地がひっくり返っても嫁には行かん!

のですよ


贈り物は郵便でカイッソウガへ送った

荷物が届くと

直ぐにキチェスから感謝の手紙がきた

そして珍しくリエッドからも手紙が届いた

手紙には

〘素敵なブローチを、ありがとう。

 何よりも嬉しいのは

 私の大切な愛する三つ子達が

 無事に成長してくれたこと。

 どうか、体を大切に元気に過ごして下さい。

 母様の心からの願いです。〙


と短くはあるが

何物よりも深い母の愛が溢れていた

その母の愛が

親より先に旅立つであろう

三つ子達の心を締め付ける


―――――――――


見習いを順調にこなしているが

困った事がある

今はまだ

三つ子で一緒に通勤して退勤しているが

本採用になれば

三つ子の所属部署がバラバラである事と

勤務時間もバラバラになる事

そうなると

三つ子+1集会が出来なくなってしまう


今日も仕事を終え

三人並んで王宮の長い廊下を歩いていたら

向かいから偉そうな老人が歩いてきた


王宮では役職が上の者とすれ違う時には

下の者は壁を背にして見送らなくてはいけない

面倒くさい!

一々止まって背中を壁に付けるの

面倒くさいです!


その老人が通り過ぎたので

早く帰ろうと歩き始めたら

後ろから


「おおっ。おおっ。おおっ」

変な声がと聞こえてきた

さっきの老人だ


随分と大きな独り言だなぁ

と思っていたら

突然

ダダダダダダダダダダダダダ

と、けたたましい足音立てて走ってくる

ジイさんよ

そんなに勢い付けて走ると心臓にわるいぞぉ

面倒だが仕方ないので

再び背中を壁に付け通り過ぎるのを待つ


ところがジイさんは

三つ子の前でピタリと止まった

なんだ、なんだ、なんだ~⁉

私は何も悪い事してないぞぉ

ラテルかルクトが何かやらかしたのかぁ?


小声で隣りのラテルに訪ねた

「ねぇ、このジイさん何者なの?」

「王宮諸事総取締役のシーバンだよ」


「それって偉い人?」

「バカ、学問所で習ったろ」


すぐ言う

ルクトは私にバカとすぐ言う!

「ルクトには訊いてまぁせ~ん」


「おおっ。おおぉ。おおおおっ」


何かジイさん

私達見ながら

又おおって言ってるよ~


「ふ。ふ。ふ。ふ。ふ」

今度は震えながら

ふふって連呼してるよ~

ヤバいんじゃん

ボケてんのか?


「二つの顔~~!」

???なんだ

生まれて初めて双子を見たのか?

双子じゃ無いけどねぇ

私達は三つ子なんですけどねぇ


「ここここここれは・・・」

いきなり手を伸ばしてきた

こここ怖い~


「おおおおおおお!!」

ヒィ~~何々⁉

なになになに~!


ジイさんの伸ばした手がルクトの腕を掴んだ


「ルクト、なに悪い事したの?」

「俺は何もしてない、してないぞ」

ジイさんはルクトの腕を掴み走り出した

おいおいおい、ジイさん

ルクトを何処へ連れて行くんだよ!

誘拐かよ⁉


隣でラテルも口を開け啞然としている

「ラテル、どうするの⁉」

「追いかけよう」


そりゃそうですよね


二人で走り

ジイさんとルクトを追いかけたが

見失ってしまった

どこだ、どこだ、どこだ

何処へ行った~~!

ルクト~~!


扉が少し開いた部屋を見つけた

中からはジイさんの話し声が漏れている


「ニナオイス王子であられますね。

 このシーバンには隠さずに

 本当のことを仰って下さい」


えっ、何言ってるジイさんよ⁉

そっと中を覗いたら

どうしたらいいのか分からずに

ルクトが固まっているので、笑える


「ウーシア様が夢で御告げを下さったのです。

 ニナオイス王子が

 二つの顔で王宮に戻られると」


あぁっウーシアか

あいつ、もう少し詳しく説明してやれよ

まったく自分は神だと偉ぶるくせに

中途半端な御告げしやがってっ


違う違う違うよジイさん

王子はこっちですよぉ~

と教えてやりいが

ルクトの固まり具合が面白過ぎて

もっと見ていたい欲にられてしまった

へッへへへへ


ラテルがスッと扉を開けて中へ入ったので

私も笑いをこらえながら

扉を閉めて後に続いた

こんな話を誰かに聞かれたら大事ですぜっ


部屋へ入ったラテルはジイさんの前へ立ち

「ウーシア様の御告げが有ったのですね?」

と訪ねると

「そうだ、御告げが有ったのだ」


それを聞いたラテルは静かに

左のてのひらをジイさんに向け

「守護神ウーシアよ、我のしるしを現したまえ」

と、ディーゴに見せた時と同じ文句を唱えた


おっ

又あれが見られるぞっ

ワクワクッワクワクッ

剣に蔦の絡まる勿忘草わすれなぐさ色の模様


ルクトは見たことが無い

これは見ないと損だぞと

私はルクトを引っ張りジイさんの隣りに並んだ


『おぉ!』

ルクトとジイさんが同時に驚きの声を上げた

なんで意気投合したかのように

同時に声を上げるぅ?

二人共、中高年だから息が合うのかぁ?


ジイさんはニナオイス王子の印を

眼を開き食い入るように見つめ


「うぅおぉぅ、うぅおぉぅ・・・」

と床に手をつき泣き出した


泣き声が変!

まるで間抜けた犬の遠吠えのようだぞ


「ウーシア様の御告げは夢では無かった。

 ニナオイス王子が

 第一王子様が戻って下さったぁぁぁ」


ジイさん興奮しすぎて死にゃぁしないかと

マジで心配になる


しかしお印なる物は

こんなにも絶大な信用があるんだねぇ

ディーゴもジイさんも

ラテルの勿忘草色の印を見た途端

ニナオイス王子だと

微塵も疑わずに信じたんだから。


「殿下、ああぁ殿下

 又こうしてお会いできるとは・・・

 マーツニキス王陛下と

 殿下をお守りでき無かった

 この不忠のシーバンに

 どうぞ罰をお与え下さいませ」

「何を言うシーバンよ

 そなたが今も王宮総取締役を努め

 我が弟クシマイニ国王の傍にいてくれる事で

 何よりも安心できているのだ。

 心から感謝を言うぞ」


「うぅおぉぅ勿体なき御言葉

 うぅおぉぅ、うぅおぉぅ」


ジイさんたら

なかなか泣き止まない

それにしても

こんなにあっさり秘密を教えて大丈夫?


「シーバン、

 私はゴコーゼッシュ男爵家の

 三つ子の長男に転生し

 今は王宮努め見習いである」

「ゴコーゼッシュ男爵家に・・・

 三つ子とは?」


「私達のことだよ」

そう言ってルクトと二人で

ラテルの隣りに並んだ


「こ、こ、このぉ無礼者がぁ!

 殿下の隣りに立つとわぁ!」

 

はあぁ⁉なにが無礼だよ!


「良いのだシーバンよ

 この者達は三つ子の兄弟であり

 共にアーザスを倒す仲間なのだ」


そうだぞジイさん

私は元王子の現姉なのだぞ


それよりラテルよ

ルクトは兎も角として

この私を指して

❝この者❞呼ばわれとは失礼なっ!


「殿下は

 アーザス公を倒されるお覚悟なのですね」

「ああ勿論だ。

 その為に守護神ウーシア様に願い

 転生させて頂いたのだ」

「おぉ!微力ながら

 このシーバンも共に戦いまする」


ジイさん剣が振れるのか?

大丈夫か?

腰が砕けねぇか?


「それは有り難い

 ゴコーゼッシュ家にはディーゴも居る」

「なんと!近衛兵隊長だったディーゴ殿が」

「ディーゴは私の事を全て知っている

 既に打倒アーザスの同志として

 共に活動しているのだ」

「おお。おお。おお」


ジイさん今度は歓喜の雄たけびですか?


「私の転生の件は誰にも悟られぬように」

「御意」

「それと、頼みがあるのだ」

「はっ、何なりと」

「アーザスを倒し王政復古するために

 私とルクトを王陛下の侍従に

 フォーラを王妃侍従にして欲しい

 勤務日も時間も三人同じにだ」


ジイさんは鼻息荒くしながら

容易たやすいこと。このシーバンにお任せあれ」


やったぁ

これで見習い期間が終わっても

三つ子+1集会が通常開催できます


「但し、

 王陛下と王妃様のお付きの者の中には

 片腹痛くも

 アーザス公と通じている者がおります

 くれぐれも油断なさらぬ様に」


ボケてるのかと思ったが

以外に使えるジイさんである


これでラテルの前世が

ニナオイスⅢ世である事実を知るのは

私、ルクト、ディーゴにシーバンジイさんの

4人となった訳だ

頼もしい同志が、また増えたじゃん

やったね!

と喜んで大丈夫だよねぇジイさん?
























 









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