第35話 始祖ミツザネ王

8月

王宮特別学問所を卒業した同期20名が

其々それぞれの部署へ配属となった


ここまで辿り着いたよ!

長い道程だったよ!

ヤッホーイ!

勇者への道をまっしぐらだぜ!


ラテルは王陛下の侍従見習になった

絶えず王の傍に仕え、お世話をする

まぁエリートってやつだ


ルクトとディウは共に伝令係見習

伝令係とは

王の勅命・お言葉を各部署や大臣に伝える仕事

現実には王では無く

摂政を行うアーザスの伝令係だが


そして私は

王妃付きの連絡係見習

王妃を「ごはんですよ」「お風呂ですよ」

と呼びに行く係


呼びに行くのは得意だ!

養兄シュアスもディーゴも

カイッソウガでの重大案件の時に

森へ呼び出したのは私なのだから

正に適材適所だな、エッへへッへ。


見習い期間は2ヶ月

その間は先輩達の使いっぱしりに明け暮れる

先輩には絶対服従って軍隊かよ⁉


特に女性陣はキツイそうで・・・

学園時代に乗馬俱楽部で

”水溜りぶっ掛け事件”を起こした私を

ラテルは心配していて


「なにが有っても乱暴な行為は禁止だからね!」

と朝から5回も言われました

しつこい!

その様子を見ながら

ルクトとシュアスとディーゴまでもが

クスクス笑いやがる

フッン!


ラテル曰く私は美人なのだそうだ

ラテルとルクトが男前なのは分かる

が自分のことは分からない

興味がない

私は男なのだから

器のフォーラが美人でもなぁ・・・


「男は全般、美人に弱い」

まぁ私も江戸時代"笠森お仙"ちゃんの浮世絵を

こずかい貯めて買った口なので

それに異論は無い


だが、しかしだ!

「フォーラの美しさは

 武器として使えるなぁ・・・」

と怪しくほくそ笑むラテルは

一体、私に何をさせる気だ!

ラテルはアーザスを倒し王権復古の為なら

手段を選ばないだろう

その言葉を聞いた時は失神しそうになったわ!

こわっ、あ~怖いです


―――――――――


見習い期間中でも

給金が貰えるそうで嬉しい限り

給金を貰ったら

思い切り菓子を買おうと決意したのに

ルクト曰く

「初任給は自分のために使わずに

 親への感謝の贈り物を買うんだ」

そうである

・・・本当に?

そうなの?


取り敢えず

父キチェスと母リエッドへの贈り物は

三つ子で相談し、お金を出し合い買う事にした


仕事は毎月休まず行けば

なんと皆勤手当が付くそうだ

頑張って働くぞ~~!


「職場では目立つなよ」

とルクトの言付けを守り

先輩達の後ろを大人しく歩いていたら・・・


「久しぶりだね、フォーラ嬢」

と突然話しかけられた

誰だ、こいつ?


「相変わらず美しい」

はぁ⁉馴れ馴れしい奴だ


「忘れたのかい?つれないねぇ

 乗馬俱楽部部長だったテンマスだよ」


あぁー!

思い出した!

あの虫唾が走る軟派野郎じゃん

来るな

近づくな

口を開くな

この軟派野郎がぁ!


「君も王宮努めになれるなんて

 流石は才色兼備だね。

 今度ゆっくりと、お茶でもご一緒しよう」


そう一方的に話し消えて行きやがった

誰がお前なんぞと一緒に茶なんか飲むもんかっ

なんなら今すぐ追いかけてって

二度と口がきけない様にしてやろうか⁉

軟派野郎めが、チッ!


あれっ・・・

何か背中に冷たい視線を感じる・・・

そっと振り返ると

先輩達の目が怒ってるよぉ

嫉妬に燃えてる目ですよぉ


そう言えば学園時代もテンマスと話したら

他の女子らに睨まれたよなぁ

あんな男のどこが良いんだ?

女心ってのは誠に理解不能だ


「私達これからお茶休憩だから、

 貴女は一人で

 宝物庫の整理をして来てちょうだい」


えっ⁉

私の休憩は?

茶菓子は?

無しってことですかぁ⁈

そもそも宝物庫は管轄外ですよねぇ?

くっそぉ~

テンマスに話しかけられると

いつだって、ろくな事が無い

次に会ったら何か術を掛けてやる!

絶対に呪術だ!


―――――――――


一人、宝物庫に入り途方に暮れる・・・

何をどう整理すりゃぁいいんだよぉ~


腹が立って力任せに棚を蹴ってやったら

何かが落ちてきてコツンと頭に当たった


「痛っ!」


更にムカつく!

いたい何が落ちて来たんだよ!

落ちて来た物を拾おうと見たら、巻物だ


「何だこれ?」


手に取ると巻物が解けて開いた

そこに書かれた文字は・・・

間違い無い漢字だ!

この書体は江戸時代より古いぞ

なんでこんな物が?


私はその巻物を

目を皿にして読みだした

〘いつの日にか、この文を

 誰かが読んでくれることを祈り書き残す。

 我が名は"林倍 太郎左たろうざ 満実みつざね"

 日本国の坂東ばんどうに生まれ 

 鎌倉殿の末席にお仕えする者

 巻き狩りに お供つかまりし折り 

 目の前に突如 黒き穴が現れ

 その穴に引き込まれ 気を失い 

 目覚めると 見知らぬ森の中に おわし候〙


ふぅん?鎌倉?

太郎左?・・・

あ~!

居たなぁ

近所の林倍さん家に満実兄ちゃんて

そうだそうだ

よく悪戯して怒られたよなぁ

・・・そう言えば

急に行方不明になったって

大騒ぎだったよなぁ

嫁さん貰って、

跡取り息子も生まれたばかりだったのに


・・・それがぁ

熊に食われたのでも無く

蒸発した訳でもなく

黒い穴に引き込まれて

イクス星に来ただとぉ

なんじゃそりゃ~⁈

空間をワープしたって事なのか


〘目覚めし時 うずらの卵ほどの 

 光りしたまが見え候

 その光珠は 我に話し掛ける 

 摩訶不思議な光珠なり

 光珠が申すに

 『我は神の卵。

 お前が我の望みを聞き遂げれば

 未来永劫 お前の神となり

 願いを叶えてやろう』これは夢か現か幻か〙


何だあぁ?

光珠ひかりたま

そりゃあ頭も混乱するよなぁ

私も、かなり混乱している


〘元の場所へ帰せ とう申すと

 『それは出来ない。

 お前を連れて来たのは

 我が神になる為。お前は選ばれし者』〙


えっ⁈

自分が神になる為に

勝手に連れて来ちゃったの?

神ってのは

なんて我儘わがままなんだよ!


〘こらはしき夢に相違ない 

 刀で手を切りしが 血が滴り痛みが走る 

 これは真の事と 身が震え涙を流し候

 我が父母は 妻は子は 

 如何いかが、過ごしておるのか〙


何て可哀想な!

一体その神の卵とは何者なんだ!


〘光珠に 

 そなたの望みとは何ぞ と尋ねしかば 

 『我を神とあがめること』

 と返答あり〙


はぁ⁉

なにが崇めろだよ

この神は馬鹿なのか⁉


〘そなたの様な者を 神と崇める道理無し 

 と言いしかば

 『頼むから、神と崇めてくれ』

 と懇願されり〙


神が頼むからだってさぁ

こりゃ可笑しいねぇ

笑えるわぁ~


〘ならば、我を一国一城の主となし 

 子々孫々まで国を栄させてみよ

 『その願い、叶えると約束しよう』

 もし、この約束を破りし時は 

 そなたは神ではなくなる

 そなたと我の誓いなるぞ

 『誓おう。お前の造る国が滅ぶ時は

 我は神の力を失い消滅する』と〙


噓っ⁉

そんな契約を結んで

満実みつざね兄ちゃんは王に成ったの?

このイクス星で

タスジャーク国を建国したの?

流石は坂東武者

強気ですなぁ~


〘その光珠は 目のくらむ激しい光を放ち 

 人の姿と変わり候

 目尻が下がり 間の抜けた顔なり 

 我以外にその姿は見えず 

 また、見る者の心構えにより

 顔形が変わるそうな

 光珠は ウーシアと名乗り候〙


あっーあっーあーー!

ウーシアかよぉ!

あいつ人攫ひとさらいかよ

なんて酷い奴だ!


〘初めは小さき村に住み 

 そこに徐々に強者が集まり来たり 

 それらを従え戦をし 領地を広げ 

 また戦をし 領地を広げるを繰り返し

 二十年後にはウーシアが約束した通り

 我は国主となり候

 その間もその後も 

 ウーシアは我の傍を 片時も離れず〙


ほぉ~

こうやって満実みつざね兄ちゃんは

タスジャーク国の始祖王に成ったのかぁ


〘この星にて 妻を取り 

 有難くも子宝にも恵まれ候

 されども

 武蔵国に暮らす

 父母妻子を想い泣かぬ日は無し〙


ウーシアの身勝手のせいで

満実兄ちゃんが泣いてるじゃん・・・

神のくせに悪魔のような奴だ!


〘我が国が滅ぶ時 それすなわ

 我とウーシアの約束が破られし時

 国と共にウーシアが消滅する時なり〙


なるほどねぇ

国が滅べばウーシアも消えて無くなるかぁ


・・・ちょっと待てよ

今この国はアーザスの悪政で存亡の危機じゃん

イコール

ウーシアにとっても存亡の危機って事だよなぁ

笑えるわぁ~

勝手に満実兄ちゃんを地球から連れて来た罰だな

神のくせに罰が当たってやがるぜっ

や~いや~い、ざまあみろ~


いやいやいや、待て待て・・・


私は勇者になる為に

アーザスを倒すと決めた・・・

ラテルの仲間として

アーザスを倒し王政復古の志を果たす為

共に闘う同志になり

必ずアーザスを殺すと決めた・・・


でもそれって・・・

ウーシアを手助けするって事だよねぇ?


う~ん・・・

満実兄ちゃんとの約束が守れないとぉ

ウーシアは消えるんだよなぁ・・・


あっ!

もしかしてラテルを転生させたのは

アーザスを殺させるため⁈

自分の神の地位を守るため⁈

あの、のっぺら坊なら

やりそうだと思うわぁ


でもぉ

ラテルは弟である現王と国民を守りたくて

転生を望んでした訳だし・・・

まぁ、総合利益って事ですよねぇ


納得しましたよ・・・


って納得でるかぁあーい!

なんかモヤモヤする~!

なんだ、このモヤモヤは?


・・・林倍 太郎左 満実・・・

最近耳にしたよなぁ

林倍って・・・


あぁそうだ

ルクトだよ!

思い出したよ

ルクトをウーシアが『林倍 勇』と呼んでた

あ~ぁ

スッキリしたわぁ~


・・・いやスッキリしない

しません

できません

ルクトの前世が林倍って事はぁ

満実兄ちゃんの子孫・・・


そう言えばウーシアの奴

『お前があの時に余計な事をしなければ

 勇だけを連れてこれたのに

 お前のせいで計画が狂ったんだよ!』

って言ってたよなぁ・・・

言ってた

絶対に言ってた!


あいつ

アーザスを倒す為にルクトを転生させたんだ!

・・・って事は

私がイクス星に転生したのは・・・

ウーシアのせいじゃないんですか⁉


それじゃあ・・・

それじゃあ・・・

道づれになったのは

ルクトじゃ無くて私じゃん!

巻き込まれたのは私の方じゃん!

ルクトに

「道づれにして、ごめん」

と謝ったのに

その私の謝りを返せよ!


あれっ

ルクトが満実兄ちゃんの子孫で

ラテルも満実兄ちゃんの子孫・・・

って事はぁ

ラテルとルクトは遠い遠い遠い親戚だぁ~

だから一緒に生まれたのかぁ

なるほどねぇ~

そして余計な私が加わり

三つ子に成った訳ですなぁ


ウーシアはアーザスを倒してからでも

朱鷺門領詮の封印に間に合う

って言ってたけど

本当に信じて大丈夫?

あいつは人攫ひとさらいいなんだぞ

急に不安になってきた・・・

もう不安しかないですよ!


「おい!ウーシア聞こえるんだろ

 本当に領詮の封印に間に合うんだよなぁ?

 答えやがれウーシア!!」


反応がない


「ウーシア!

 シカトするならお前の悪行を

 ラテルとルクトに

 それから皆にもばらすぞ!

 いいんだな、ばらされても!」


(うるさい奴だ)

「おい、頭の中に話し掛けるなよ!」


「なんだ?私は忙しい中

 わざわざおもむいてやったのだぞ」

「はぁん、本当は自分が

 人攫神だと

 ばらされたく無いから来たんだろ

 アーザスを倒してからでも

 本当に領詮の封印に間に合うのか?」


「間に合う。

 信じられないのなら

 今すぐ死んで転生するか?」

「へぇ~この前は死ぬなと言ったくせにぃ

 変だねぇ、他にも隠し事があるのかなぁ」


「(蝉丸って単細胞なのに

 ミツザネみたいに感がいい)

 隠し事など無い」

「私は地球転生して

 領詮の封印さえ出来れば文句は無い

 ねぇ本当の本当に間に合うんだよね⁈」


「しつこい!約束する!

 信じられないなら今ここで転生しろ」

「はい約束取付けました~!

 まだ転生しないよんだっ

 転生はアーザスを倒して

 タスジャーク国の民を救ってからだ」


「そうか、承知した。

 (蝉丸、慈愛に満ちた良い少年ではないか

  関心関心)悔い無きように闘うがよかろう」

「あっ!!」


「今度は何だ?」

「忘れてた

 ルクトはウーシアが転生させたんだろぉ

 タスジャーク国の危機を救う為に

 だろっ?」


「(うっ、ばれてる)

 全てはタスジャーク国のためだ」

「やっぱりねぇ

 私が転生に失敗したのは

 巻き沿えを喰らったからって事だよね!」


「まぁ、そうとも言える」

「自分が神で居続ける為には

 満実兄ちゃんとの約束を守らなきゃならない

 そこで始祖ミツザネ王の子孫である

 ラテルとルクトを転生させ

 アーザスを倒させる、てっか」


「むっむっ・・・」

「別に道づれにされた事は

 怒ってないよ、今はねっ。

 皆で力を合わせて悪を打つ

 そんな人生も乙なもんさぁ

 だからフォーラの人生も

 楽しいと思ってるよ、今はねっ!」


「そっ、そうか、それは何より」

「ウーシアには感謝しないけどねっ!」


「(ホントに生意気なガキだ)」

「そうだぁ、

 ラテルとルクトにミツザネ王の話をして

 二人が遠い遠い遠い親戚だと

 教えてやろうかなぁ」


「それはぁ・・・

 その件は少し話し合をうじゃないか蝉丸」

「別にいいじゃん

 人攫いは内緒にしてやるからさぁ

 もう用は済んだから、私は帰るわ。

 じゃあねぇ、さいならぁ」


「待て、話し合いをしよう蝉丸

 なぁおい蝉丸、蝉丸? 

 ああ、行きやがった

 蝉丸めー!クソガキがあー!」



 

 







































































































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