第37話 友

10月

見習い期間が終了し

シーバンジイさんは打合せ通りに

三つ子を両陛下の侍従にしてくれ

ディウも陛下の侍従になった

私とルクトは裏口昇進だけど

ディウは優秀でお付きになった


―――――――――


これまで

ラルフトス・カンパニーの

香水や化粧水などの類似品が

幾つか出回っていたのだが

それらの製造は

「特別困難でも無いし

 少し頭を使えば製造できるさ」

ルクトが言っていた

品質はルクトが開発した物に比べると

どれも粗悪品なんだよね。


ところが!

10月初旬に

傷薬[ヒーサコ]の類似品が発売された

ヒーサコはルクトが偶然に開発した薬で

そう簡単に真似できる物では無い


急ぎ偽物ヒーサコを買いに薬局へ走った

正確には

護衛係のオスタを走らせ入手した


偽物の品名は[ヒータコ]


ヒータコって何だよ?

蛸がヒィーって言ってるのかよ⁉

ヒィーって言う蛸を想像したら

もう笑いが止まらん


いやいや笑ってる場合じゃない

とにかく効能を調べねば


「オスタ、剣で自分の手を切って」

さらっとラテルが言うので慌てた

これまがいい物ですよ!

ヒータコが効かなかったら

いや、たぶん効かないよ

どうするの⁉


「それは不味まずいんじゃない?」

と心配発言をしたら


「大丈夫だ、ヒーサコを準備しているから」

とルクトも落ち着いているけどさぁ

なんだかオスタがモルモットにされて

少し気の毒だなぁ


オスタは素直に手を切った

怖いぐらい素直な奴である

ラテルはぐにヒータコを

オスタの傷に塗ったのだが

効能は驚くほど弱く

手から流れる血はいっこうに止まらず

さすがにオスタの顔が焦り始めた


ルクトがオスタの傷にヒーサコを塗ると

見る見るうちに出血は止まり

傷痕も綺麗に消えた。


「これは・・・このまがい物は

 余りにも酷過ぎる!

 ヒーサコは人様の役に立つ為の

 薬なのに許せない!」


ルクトは怒りで顔を赤くしている

元大学教授の科学者としては

許し難い行為なのだろう

私も許せない


「オスタ、ヒータコの薬瓶に書かれている

 製造会社の詳細を調べさせて欲しい

 早急にだ、できるか?」


ラテル元王子の言葉に


「はっ!直ぐに調べさせます」

そう言い終えたオスタは走って出て行った

よく走らされる奴だなぁ~

ちょっと笑える、エッへッへへ。


―――――――――


それから2日後

オスタが

ヒータコ製造会社の調査報告書を持って来た


こんなに早く調査が出来たのは

王政復古を目指す同志が

日増しに増えているお陰だ


同志には其々それぞれに得意分野が有る

武術が得意な者

裏社会に精通し武器の調達が得意な者

何処に隠れ何処で戦えば有利か

などと地理地形に詳しい者

尾行が得意な者

情報収集が得意な者など

まさに十人十色だ

有難く心強い同志達だ

とラテルが言っていた

うん、私も同感です!


ラテルは報告書を持ち

一人で自分の部屋へ向かおうとするので

「私とルクトにも見せてよ」

と声を掛けたら


「二人には後で知らせるよ。

 それからヒータコ製造会社を調べた事は

 絶対に誰にも話さないでよ!」


何故か

ちょっと怒り気味に言い残して

自室へ行ってしまった

気に入らん

ラテルはなに一人で怒ってんだよ!


「ラテルが、ああ言うんだから

 何か事情があるんだろう

 フォーラ誰にも話すなよ、いいな」


チッ!

ルクトの言い方も気に入らん!


一人でプンプン怒っていたら

2週間振りにディウが訪ねてきた

何だか顔色が悪い

元々冴え無い顔を

更にえない顔にしている


「おお、ディウ久しぶりだな

 まぁ王宮では毎日一緒だが」

「うっ、うん・・・」


今日のディウは、やっぱり変だ

王宮で先輩達にいじめられては無いし

もしかしてあれかぁ

買い食いでもし

親に𠮟られたのかぁ?


双子の弟

1号トーキスと2号スイークがやって来た

『ディウさん、いらっしゃい。

 ルクト兄様お勉強を教えてくれる?』

「勿論だ。ディウ、スイークの面倒を頼むよ」

「うっ、うん・・・」


1号2号は

物静かで優しいディウになついているし

一人っ子のディウも

1号2号を実の弟のように可愛がってくれる

私はそのディウの思いが何よりも嬉しい


皆で居間へ移り勉強をしていたら


まぁ、私は勉強なんぞはしてませんけどねぇ

今夜の食後のデザートに

思いを馳せていただけですけどねぇ

居間に入って来たラテルがディウの姿を見て

顔をドヨンドヨンさせてるんですけど・・・

二人の間に何かあったったのかぁ?


『ラテル兄様

 ディウさんがお勉強を教えてくれてるの』

「そうか良かったね。ディウ、ありがとう」

「ゴコーゼッシュ家は兄弟が多くて

 いつも賑やかで明るくて

 皆と楽しい時間を過ごせて

 僕の方こそ、ありがとうだよ」


そうかぁ

ディウはゴコーゼッシュ家が好きなのかぁ

うんうん、友とはいいもんだなぁ・・・

思えば22回の転生で

いや平安時代から❝真の友❞など無かった

よし!

いつも優しく周りに細やかな気遣いをする

我が友ディウよ

お前を蝉丸の❝真の友❞に

認定してやろうではないか!


「僕は用があるから部屋へ戻るね

 ディウ、ゆっくりしていって」


なんだかラテルの奴つれないなぁ

いつもなら誰にでも優しく気配りするのに

もう少しディウに優しくしてくれよ

私が認定した記念すべき

❝真の友❞第一号なんだぞ


―――――――――


護衛係のオスタから報告があった

又してもソベクが人身売買を決行すると

懲りないジジイだぜ

しかも今回は馬車2台で

一遍に60人を運ぶ算段だと


ラテルの

「怪しいな」

の言葉にディーゴも

「私も同意です

 これは我々同志を捕らえる罠だと考えます

 今回は救出作戦は見送りましょう」


罠って何が?

どこが罠?


「いや、逆に相手の罠を利用しよう。

 当日、我々を捕らえるために

 ソベクの屋敷の護衛は手薄になるだろう」


それで?

それが何か?


「二手に分かれて行動する。

 一手は馬車を追い

 もう一手はソベクの屋敷に潜入し

 アーザスとの繋がりを示す

 証拠の帳簿を手に入れる」


おぉー!それは一気に凄い展開になりそう

そんな帳簿が有れば

アーザスの悪事が露呈するってもんだぜっ


「でも、そんな大切な帳簿が

 簡単に見つかるかな?」

養兄シュアスの心配はもっともだ


「ソベクの近しい人物を味方に付ける。

 その人物なら

 帳簿の在処ありかを事前に探れる」


そんな人物がいるの?

「そんな奴を知ってるの?いったい誰?」


ラテルはドヨンドヨン顔をしながら

「明日になれば分かるよ」

とポツリと一言


そのドヨンドヨン顔は何ですか?

その顔の方が気になるわぁ。


―――――――――


翌日の晩ディウが別邸へやって来た

せっかくの訪問だが

今夜は大事な客が来るんだよねぇ

ソベクの❝近しい人物❞

って奴がさぁ来るんですよ


「ディウ、申し訳ないんだけど今夜は・・・」

私が言いかけたところへラテルが


「よく来てくれたね。さぁ客間へどうぞ。

 フォーラ、

 シュアス兄さんとルクトを呼んで来て」


はぁ?

何を言ってるの?

これから❝近しい人物❞が来るのに

ディウが居たら不味いでしょう


そんな事を考えグズグズしていたら

ラテルが、ゆっくりと重みの有る声で

「早く・・・呼んで来て」

と・・・


こんな時のラテルは威圧的で

こっちの背筋がピーンとする

元王子の威厳なのか?

顎で使われている様でメチャムカつく!

なのに何故か言う事聞いちゃうんだよねぇ


ルクトとシュアスを客間へ連れてきた

さて、何が始まるのか?

ラテルの表情は重い・・・


「ディウ、君が頻繫に我が家を訪れていたのは

 ラルトス・カンパニーの

 企業秘密を探るためだね」


はあぁ⁉

ラテルの奴

急に何を訳が分からない言ってる?


ディウ黙って下を向いてないで

何か言い返せよ!


「ソベクに命令されたんだろ

 ヒーサコの製造方法

 いや、ラルトス・カンパニー製品

 全ての製造方法を入手するようにと」


いやいやいや

全く意味不明!

何でソベクがディウにそんな事を命じるの?


「君が入手したヒーサコ製造方は

 僕が作った偽物なんだよ」


ラテルの言葉にディウは

「えっ⁉」

と小さく声を上げ再び下を向いた


次はシュアスが

訳の分からない事を言い始めた


「君の父上はソベクの実弟だよね

 そして男爵位はソベクが買い与えてくれた

 済まない全て調べさせてもらった」


続けてラテルが

「ヒータコ製造会社の親会社が

 ソベク商会なのも分かっている」


あれ?

あれあれ?

それって騙してたのか?

今まで何食わぬ顔で友達面して

騙してたのかよ!


「ひどいじゃないか!

 シュアス兄さんもラテルも

 友達を騙すなんて!

 ディウはゴコーゼッシュ家の

 皆が好きだって言ったんだぞ!

 ディウは、

 ディウは真の友なんだぞ!

 なのに騙してたなんて!」


そう叫びながら

両手でラテルの胸ぐらを掴んだ


あれ?

でも私が言ってる事は何か違うの?

怒りの矛先は間違ってるの?

自分でも混乱して訳が分からない


「フォーラ落ち着け手を離せ!」

ルクトが割って入った


「友達なのに・・・真の友なのに・・・」


そのまま床に崩れ落ち

目からは涙がこぼれてくる

噓だ!

ディウが私達を騙すなんて信じられない

信じたくない・・・


「ごめんなさい・・・」

蚊の鳴く様な、か細い声でディウはそう言った


あぁ、ラテルとシュアスが言う事は本当なんだ

本当にディウはソベクの手先だったんだ


「ごめんなさい。僕は皆を騙してた・・・

 それは僕の本意じゃない

 本意じゃなくても・・・

 皆を、友達を騙していたんだ

 騙していたのは事実なんだ・・・

 ごめんなさい」


なんだよそれ

ごめんなさいって、何なんだよ・・・


シュアスが優しく語りかけた

「ディウ、君が僕ら兄弟を

 慕ってくれてるのは本心からだよね

 だから騙していて心が苦しかっただろう」


ディウは憔悴しょうすいした顔で


「僕の父さんは

 元々は街でパン屋の店主をしていた

 だけどソベク叔父さんが

 男爵位を買ってくれて・・・

 父さんは僕を貴族にできると大喜びして

 叔父さんは恩人だから

 悪い事だと知りながら断れずに

 ラルトス・カンパニーの情報を盗んだ」


シュアスは静かに

ディウの背中をすりながら

「ソベクに断れなかったんだね」


「でも断らなければいけなかったんだ!

 なのに僕は弱虫だから勇気がないから

 シュアスさんもラテルもルクトもフォーラも

 トーキスとスイークも大切な友達なのに

 僕は貴族になんて成りたくなかった!

 本当は父さんの跡を継いで

 パン屋に成りたかった!」


ディウが・・・

泣いている・・・


「ディウ、

 君はソベクが人身売買で稼いでいる事を

 知っているかい」


ラテルの言葉を聞きディウの顔色が変わった


「まさか、そんな事を・・・」

「事実なんだ。同胞を外国へ売り

 その利益の殆どをアーザス公へ渡している」


「あっ・・・

 僕を王宮特別学問所へ推薦したのも

 王陛下お付き係にしたのもアーザス公だ

 でもまさか、叔父さんが人身売買なんて」

「噓では無い。

 僕達は、もう何度も

 ソベクの人身売買を阻止しているんだ」


ラテルの発言に、シュアスもルクトも頷いた

それを見たディウは

叔父の悪行が事実だと悟り震えている


「近くソベクが人身売買をする

 だがそれは我々を捕まえる罠だ

 こちらは裏をかき

 警護の手薄になったソベクの屋敷から

 人身売買やアーザスとの繋がりを示す

 帳簿を手に入れたい

 君なら、隠し場所の見当が付くだろう」


ディウは震えながら下を向き、黙っている


「我々は組織で動いている。

 アーザスを倒し王権復古を成し遂げ

 この国の民を救う為に戦っている。

 今この国の多くの民が

 アーザスの悪政で苦しんでいる事は

 君も知っているだろ」


ディウの体がビクンと動いた


「我々の計画がソベクに知られれば

 皆が殺される

 君に話したのは

 君を信頼しているからなんだよ」


ディウが顔を少し上げた


「ディウ、協力してくれないか

 タスジャーク国の平穏な未来の為に」

「僕を許してくれるの?

 本当に信頼してくれるの?」


私は大きな声で言った

「当たり前だ!

 だってディウは真の友なんだから

 大切な友だから私はディウを信じる!」


ディウは静かに呼吸を調えながら

天井を見上げている


友よ私達を信じさせてくれ

信じてくれ

頼む友よ


真っ直ぐな瞳で力強く胸を張り

ディウは宣言した

「もう逃げない!

 悪事には二度と加担なんかしない!

 自分の良心に噓は付かない!

 自分の進む道は自分で決める!

 この国の未来の為に僕を共に戦わせて欲しい」


それを聞いた次の瞬間

私は思い切りディウの顔を拳で殴った


ルクトが慌てて

「フォーラ、何するんだ⁉」

「これでチャラだ。

 騙していた事はチャラだよ・・・ディウ」


シュアスが笑いながら

「フォーラらしい、けじめの付け方だね

 ところでディウ、顔は壊れていないかい?」

「壊れてません、逆にスッキリしました。

 ありがとうフォーラ」


シュアスが拳を突き出し

三つ子も拳を突き合わせた


「これは僕たちの仲間の儀式なんだ

 さぁディウも一緒に拳を」


シュアスに促されディウも拳を合わせた


21歳に成ったシュアスは

中身が同じ21歳の元王子ラテルよりも

包容力が有り

こんな時のまとめ役が上手い


「さあ、作戦会議を始めよう!」

『はい。シュアス兄さん』


今日は真の友であるディウが同志にも成った

記念すべき日だ!




 

 

 

 




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