第33話 守護神ウーシア

10月23日

三つ子は15歳になった

蝉丸とフォーラ

平安時代と異世界での年齢が同じに成った


八年生の冬休み

双子の弟トーキスとスイークは

カイッソウガ領へ帰省したが

三つ子は帰省せずに

王宮特別学問所の最終選考に向けて

其々それぞれが最後の追い込みだ。


まぁ其々と言ってもラテルは別だ

何たって元王子

前世で全ての学科を修得済み

出来ない事は何もない超エリート

ってズルいだろうがっ!


ルクトは勉強は申し分ない

流石、元大学教授だ

だぁが、しかし・・・

武術は駄目で笑える、エッへッへへ・・・。


王宮特別学問所の査定には

武術も含まれので

この冬休み期間中、ルクトは毎日

ディーゴから武術稽古を受けている

ルクトも必死だ

オジサンの必死な姿

涙ぐましくて笑ってしまう、エッへッへへ


今日もディーゴの指導のもと

武術の稽古を終えたルクトが

真冬だと言うのに汗をかき

息を切らしながら染み染みと一言・・・


「いやぁ~若い身体は良いよなぁ~」


それを聞いて私は可笑しくて

け反ってしまった

なのにディーゴは

「全くその通りですなぁ」

と同意している


違うぞディーゴ!

今のは15歳の発言では無く

57歳の発言なんだよ!


ディーゴのスパルタ指導のお陰で

ルクトの武術の腕前はメキメキと伸びた

やればできるじゃん!

これなら王宮特別学問所に合格できそうだ


―――――――――


1月

新年早々

クシマイニ王陛下の婚礼が決まったと

王宮から発表がなされた

お相手はタスジャーク国に隣接する

ノスカラ国のヌーメイン第三王女

婚礼の儀は5月に執り行われるそうだ

王陛下も18歳になり結婚適齢期

実に目出度い祝事である。


でも・・・

「これって、政略結婚だよね?」

素朴な疑問


それに対してラテルは

「まぁ政略結婚ではある。

 始祖ミツザネ王の教えで

 王の結婚相手は国外から選ばれる事が多い

 僕の母も、そうだった」


「しかし、

 前王と前王妃様は仲睦まじくおいででした」

とディーゴが遠い目をしながら

当時を懐かしんでいる


「うかうかしてはいられない!」


ラテルが急に大きな声を出すから

ビックリしたよぉ~


「何が?目出度いのに?」

「子供ができれば、王は御払い箱

 次は王の子供がアーザスの操り人形だ!」


なるほど~


「てぇ事は・・・王の命が危ない⁉」

「そう言う事だ・・・」


おぉ~珍しく私が正解を出したよぉ

まぁアーザスなら

マジで王の命を奪うだろうな


「と言う事は三人揃って

 何が何でも王宮特別学問所に合格し

 王の傍に行かなくてはだな。

 おい分かったか、フォーラ!」


えっ?

何で?

何で私がルクトに怒られてんの?


まぁ、うかうか何ぞしてられないのは事実だ

王宮特別学問所に入所しなくては

勇者になれない

今までの苦労が水泡に帰してしまう

頑張れ!

私!

やってやろうじゃないか!

転生22回の底力を見せてやる!

はっきり言って

転生経験は入所試験には全く役に立たない!

です!


―――――――――


2月初旬、王宮特別学問所入所試験。

2月中旬、合格者発表。

正面玄関前に合格者が張り出された。


はい!ごぉうかっーーく

合格です!

三つ子揃って、ご・う・か・くーーー!

勇者への道が大きく前進しましたーー!


張り出された紙を見ながら

「今迄の苦労が報われた!俺は天才だ!

 フォーラみたいなバカを

 よくぞ此処まで導いた!」

とルクトが泣くから周りはドン引き


よくも公衆の面前で!私を馬鹿にして!

腹が立ったので

呪術で気絶させようとしたら

私の殺気に気付いたラテルに手を押さえられた

チッ!


元いじめられっ子のディウが

「おめでとう」

と声を掛けてくれたのだが

ディウの名前は無い・・・


「ディウも頑張ってたのに

 残念だったね・・・」

それ以上の言葉が見つからない

ディウはさぞ悔しいだろう


だが当のディウは

さほど落ち込んだ様子もなく


「うっ、うん、仕方ないさぁ」

と、意外とあっさりしている

そんな物なのか?


―――――――――


3月初旬

卒業式

父キチェスと母リエッド卒業式に参加する為に

郷里のカイッソウガからやって来た。


キチェスは三つ子が揃って

王宮特別学問所に合格した事を大いに喜び

祝いにと三つ子に一頭づつ馬を買ってくれた


何で馬??

何で馬なんですかぁ~??

まぁ、貰える物は貰いますけどね・・・

でも・・・何で、馬??


あぁ~学園ともお別れだ~

長かった8年間

色々な事が有ったなぁ・・・

う~ん、色々と有り過ぎて・・・

逆に思い出せない現象である

まぁ、何はともあれ「仰げば尊し」

お世話になりました!だ



王宮特別学問所の入所は5月

そこで3ヶ月間学び

その後は王宮の各部署に配属される。


王宮で働き始めれば

三つ子が揃っての長期休暇は難しいので

キチェスの

「入所までの間

 三人でカイッソウガ領で過ごしなさい」

との言葉に従い帰省してゆっくりと過ごした


思い起こせば6歳で勇者を目指し

やっと此処までたどり着いた

我ながら、よく頑張ったじゃんねぇ


そして・・・

打倒アーザスへの大きな大きな前進だ!

そう考えると

心の中で炎が燃え盛るような感覚がする

きっとラテルの心は

もっと燃えているのだろう

あ~入所が待ち遠しいぜっ。


「おい、フォーラ

 学問所では学ぶ事が沢山あるんだからな

 しっかりと覚えろよ、怠けるなよ」


はぁあ~

出た~

いつものルクトオジサン一言多い攻撃

私が、やる気満々でいるのに~


「分かってますよ!」

チッ!


―――――――――


休暇を終え王都へ出発した

馬車に揺られながら

ラテルがドヨンドヨン顔をしている

来月は王陛下の婚礼である

弟である王の行く末が心配なのだろう

気持ちは察するが

外は雨なのに余計に湿っぽくて仕方ない


「ねぇディーゴ、ラテルは前世でも

 ドヨンドヨン顔してたの?」

「はぁ・・・まぁ、

 お変わりなく・・・です」


やっぱりねぇ

ドヨンドヨン顔が板についてるもんなぁ

元王子さん笑えますぜ、エッへッへへ。


馬車が突然ガタンと大きく揺れて止まった

「申し訳ございません。

 車輪が泥濘ぬかるみに嵌まってしまいました」


御者ぎょしゃが慌てている


「君のせいでは無いよ」

「そうだ。ここ数日は

 雨が続いてるのだから仕方ないさ」


ラテルとルクトの言う通りだ

でも雨脚は強くなってる

ここで立ち往生は嫌だよぉ


ザーザー降りの暗闇の中

皆で馬車を押した

車輪は深く泥濘に嵌まっていて

ビクともしない


「車輪と泥の間に木の板を差し込めば動く」

とルクトが言うのだが

そんな板など落ちて無い


「なら私が樹を切るよ。

 へんめいでん


呪術を唱え一本の樹を切り倒し

そのまま板にしてやった。


ディーゴは私の呪術をみて

目を丸くして固まっている

通常なら人前で披露する術では無いが

緊急事態だし

いずれはディーゴに知られる事だろうから

別に構わないだろう。


私お手製の板を使い

無事に馬車は泥濘から脱した

エッへッへへ

私のお手柄~!

偉いぞ~私!


さて馬車に乗りますかぁ

と踏み出したら足を滑らせた

暗くて気付かなかったが

道の下は崖じゃないか!


そのまま落ちそうな私の腕を

「危ない!」

と叫びながらルクトが引っ張ってくれた


「助かった~」

と思ったのに

ルクトは雨で泥濘ぬかるんだ地面に足を滑らせて

私もろ共・・・

落ちていく~⁈


あぁ・・・

これは・・・

駄目な場面

終わりの場面

周りがスローモーションで目に映る

何度も経験してきた

死を迎える刹那

口惜しいが、

フォーラの人生は終わりを迎える

呪いを掛けて転生せねば

蝉丸として、朱鷺門領詮を滅するために

フォーラの人生で関わった

全ての者達に感謝の意を捧げる

心から

ありがとう・・・


「我、我に呪いを掛けん・・・・・・」


―――――――――


目覚めた・・・

辺りは薄暗く

大きな石の柱が高くそび

天井は遥か高く遠くその終わりを

見ることが出来ない

広い部屋?

いや、部屋では無い

まるで神殿のようだ・・・


〘よく神殿だと分かったね

 流石はフォーラ

 いや兎良つら蝉丸君〙


何故だ?

私は転生の呪いを掛けたのに

何故こんな所に居るんだ?


〘こんな所とは失礼な。

 そう、君は確かに転生の呪いを掛けた。

 が、君が呪いを掛け終える前に

 私が連れて来たんだよ。此処へね〙


はっあっ?

どっ言う事だ

お前、一体何者だ⁉

「って言うか、頭の中に話しかけてくるなよ

 気持ち悪い!姿を見せやがれ!」


「それは失礼したね。

 我は守護神ウーシアである」

「あっ、そう」


「ほぅ。神が姿を現したというのに

 あがめぬとは」

「だって、私の神じゃ無いし。

 それに顔は、のっぺら坊だし。

 あがめる理由が無いしなぁ」


「そうかぁ、のっぺら坊か。はっはっは」

「なに笑ってんだよ」


「(こいつ神への敬意がなさ過ぎる)

 君、死んでもいいの?」

「神のくせに馬鹿な事を言うんだなぁ

 人は誰でも死ぬんだよ」


「(そうだけど、そうでは有るけども)

 まだフォーラとして志半なかばだろ?」

「仕方ないさ、それも定めだ」


「(アッサリしてるのねぇ)

 でも君が死んだら、

 林倍勇はやしべいさむも死ぬよ」

「はぁ、そんな奴は知らん」


「林倍勇君だよ⁉」

「誰だよそれ?林倍なんて知らねぇしぃ!」


「ほら見て、向こうで倒れてるでしょ。

 君が地球から連れて来た」

「どれっ?

 あっ・・・ルクトじゃん

 へぇ~ルクトって

 林倍って名前だったんだぁ。それで?」


「それで?って。

 だからですねぇ、

 君が転生したらルクト君は死ぬんだよ」

「うん、仕方ない。それがルクトの定めだ。

 そんな事より早く元の場所に戻せよ。

 私には転生して

 果たさなければならない事があるんだ」


「お前には情けが無いのか⁉

 だいたい

 お前があの時に余計な事をしなければ

 勇だけを連れてこれたのに。

 お前のせいで計画が狂ったんだよ!」

「計画?計画って、何の事だ?」


「(しまった!

 こいつに事実を知られたら私の立場が)

 ゴホッゴホッ。」

「なんだ、咳なんかして。風邪かぁ?」


「あれだ、あのぉーあれ、

 勇者になる計画だ

 蝉丸君は勇者に成りたいのだろ?」

「そうだなぁ~

 勇者には成ってみたかったなぁ」


「(単細胞だな)ならば私が助けてやろう」

「助けるって?何をしてくれるの?」


「命を救ってやろうではないか。

 その上にだ

 地球へ転生出来る様に計らってやろう」

「う~ん、でもなぁ~

 早く朱鷺門領詮をなぁ」


「それは、勇者に成ってからでも良いだろう」

「う~ん、でも愚図愚図してる間に

 領詮の封印が解けたら困るしなぁ」


「それは大丈夫だ。

 アーザスを倒してからでも間に合う」

「本当にぃ?そうなのぉ?」


「本当だ。ちゃんと計算してあるから」

「う~ん、でもなぁ~」


「(なに⁉何をまよってるの!)

 何か不安かい?」

「う~ん、見ず知らずの人がさぁ

 親切にしてくれるのってさぁ

 親切の押売りじゃない?」


「私は神だから!

 神さまだから親切にするの!」

「う~ん、どうしようかなぁ」


「兎良蝉丸君、私からの提案だ。

 いま死なずに、

 フォーラとしてルクトと共にアーザスを倒し

 国と民を救い勇者に成る。

 それから転生して朱鷺門領詮を封印する」

「う~ん、それもいいかなぁ・・・

 ところで、私とルクトが死なずに済む為には

 どうしたらいいの?」


「この守護神ウーシアに願えば良い」

「えっ、それだけ?貢ぎ物は要らないの?」


「要らない、要らない」

「でもなぁ、只より高い物はないからなぁ」


「いや、神だから!悪徳商人じゃ無いから」

「じゃぁ見返りは必要ない?」


「無い無い、なーんにも要らない。

 ただ心から願えばいいのだ

 守護神ウーシアに命を救って欲しいと」

「でも、それって・・・もしかして

 そっちの都合なんじゃないの?」


「(まんざら馬鹿でも無いのか?)

 何の事だ?」

「アーザスを倒す為にどうしても

 私とルクトの力が必要とか?

 もしそうなら、そっちが

 『転生せずに、アーザスを倒してください』

 とお願いするのが筋だよねぇ」


「(けっこう鋭い奴か?)

 神が人に願い事などしない!

 志半ばで去りゆく其方そなた達を不憫に思い

 手を差し伸べてやるだけだ!」

「ふ~ん、そうなんだぁ・・・

 まぁいいっか

 領詮の封印に間に合うなら問題は無いかぁ。

 それで、呪文は?」


「呪文なぞ必要ない。

 アーザスを倒す志を果たす為に

 命を救って欲しいと

 言葉にして願えば良い」

「な~んだ簡単じゃん」

 


「いいから!早く願いを言えよ!」

「うん、分かった。

 守護神ウーシアよ

 アーザスを倒す志を果たす為に

 我とルクトの命を救え!」


「(何か言い方が図々しいんだよな。

 あぁミツザネを思い出すわぁ)

 よかろう。

 そなたの願い

 この守護神ウーシアが叶えてやろう。

 しかと志を果たすがよかろう」


―――――――――


「ルクト様!フォーラ様!」

気が付いたら・・・

ディーゴが私とルクトの腕を掴み

崖から引き上げている最中だった

約束通りにウーシアは私の願いを叶えてくれ

九死に一生を得たようだ。


でも・・・

『アーザスを倒す為に』と言わせたよねぇ

やっぱり、それが狙いなんじゃないのぉ?

本当はウーシアが

アーザスを倒して欲しいんじゃないのぉ?


まぁどうでもいいかぁ

何せ私は

心底からアーザスを殺したいのだから・・・。


 

 













 



































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