第32話 言えない言葉

夏休みになり

三つ子と双子はカイッソウガ領へ帰省した

三つ子には、これが最後の夏休みである。


屋敷に着くと、いつも通り

父キチェスと母リエッド

そして4歳になった妹

クーエラが出迎えてくれた


この妹クーエラ・・・

非常にクセ者である・・・


六人兄弟姉妹の末っ子であり

尚且つ他の兄弟姉妹は王都の別邸住まい

いまカイッソウガの屋敷に居る子供は

クーエラ一人だけ、

両親のみならず使用人達からの注目を集め

可愛がられまくり

結果・・・

おのずと高飛車女に仕上がる


「お帰りなさい、お兄様方」

可愛い笑顔で、お出迎え

これに最初に反応して

妹を抱き上げるのはルクト


まぁ、ルクトは・・・ねぇ・・・

戦争で亡くした娘さんを思い出し

・・・のお気持ち察します


その次は、ラテルに抱っこをせがむのだが

クーエラの奴、私を横目でチラッと見てから

「お兄様、クーエラとフォーラ姉様

 どっちが可愛いぃ?」


はぁあっん⁉

なに言い出してんだ、この妹は⁉


「もちろん、クーエラの方が可愛いよっ」

「そうだ、クーエラが一番可愛いぞぉ」

二人の兄から可愛いと言われたクーエラは

勝ち誇った上から目線で、私を見てくる


おい!ラテル・ルクト甘やかし過ぎだぞ

だいたい私とクーエラは瓜二つなんだぞ!


「そんな事を言ってチヤホヤしたら

 ろくな女にならないよ」

と注意したら

ラテルは

「女性は、幼い頃からチヤホヤされたいんだよ」

ルクトまで

「そうだ。げんにクーエラは可愛いだろうが」


駄目だ・・・こいつらも、ろくな兄では無い

私は、大切な妹クーエラの行く末が心配だ

生意気小娘マイナの様にならない

事を心底祈ります!!


―――――――――


王宮特別学問所に入れば長期休暇は無い

まさに、これが最後の夏休み。


ラテルとルクトは連日

カンパニーの工場巡りをしている

ルクトは、工場の不備や改善すべき所を

ラテルは、王都の貧困街から来た人々の生活具合を

其々それぞれが丁寧にくまなく見て回っている。


私は・・・

双子のトーキス・スイークと遊び惚けよう

と計画していたのだが

『先ずは宿題!』

と、まるでルクトのようだ・・・チッ。

双子の弟達は将来

詰まらん大人に成るのではと

クーエラとは違う意味で心配です・・・。



余りにも暇なので

久しぶりに悪戯をしてみた

大した悪戯では無い

蛙を20匹ばかり捕まえ箱に入れ

使用人専用食堂のテーブルの上に

こっそり置いただけだ


昼時になり続々と集まってきたぞぉ~

私は廊下で息をひそめ隠れている・・・


「この箱は何かしら?」

そうだ、いいぞ~早く開けろ~


箱を開ける音がした!と同時に

『ぎゃー』

と、メイド達の叫び声が響き渡る

よーしっ!上手くいった

蛙20匹を捕まえるのは大変だったのだから

これぐらい派手に驚いてくれなきゃ

遣り甲斐が無いってもんですよぉ


大満足で部屋へ戻ろうとしたら・・・


「フォーラ!さまぁー!」

と叫びながら

爺やが脱兎の如く追いかけて来て

首根っこを掴まれ取り押さえられてしまった

ヒィー!

お仕置きされるー!

とビビッていたら・・・

爺やが突然、泣き出した・・・


どうしたジイさん?

久しぶりの悪戯で嬉し泣きか?


「そんな事だから・・・

 お嫁に行けないのです。ウッウッウッ」


はあぁ?なんだぁ?嫁がなんだってぇ⁉

行けない、じゃ無くて行かないんだよ!


爺やの話しによると

実は私に縁談が多数有るそうで

母のリエッドは大変に乗り気だが

私の淑女らしからぬ普段の行いを憂いて

爺やが

「今のフォーラ様では嫁に行っても

 ゴコーゼッシュ家の名に傷を付けるだけ

 まずは淑女の再教育を」

と進言し

その進言に父キチェスが大いに賛同

くして、縁談話は全て断っているそうだ


キチェスは爺やに賛同したのでは無く

ただ娘を手放したく無いだけ

だと思うのだが・・・


「私は、フォーラ様が嫁がれるまでは

 死ねません!」


そうか・・・爺やよ

ならば気の毒だが・・・

あんたは一生・・・

死ねませんからぁ~!


と言いたいところだが

長年にわたり

ゴコーゼッシュ家に仕えてきたジイさんに

そんな事は流石に言えないから


「ごめんね、爺や。

 もう二度と蛙の悪戯はしないから」

と吐き捨ててやった

爺やの

「そう言う事では!ありませーーん!」

の怒鳴り声を背中かに受けながら

走って逃げました


この悪戯の件を聞き

ラテルとルクトは腹を抱え

大笑いしていたのに・・・

トーキスとスイークには

『姉様!令嬢にあるまじき行為。

 二度としてはいけません!』

と怒られた・・・


将来トーキスとスイークは

絶対に詰まらない大人に成る!

姉として・・・

いや、兄として心配です・・・。


――――――――――


夏休みの終盤に

王都から養兄シュアスが戻ってきた

三つ子は今年の冬休み

王宮特別学問所の最終選考試験に向け

カイッソウガ領には戻れない

これから先は

家族が勢揃いできる機会も減るだろう。


両親のキチェスとリエッド

養兄シュアス、ラテルとルクト

双子のトーキスとスイーク

末妹クーエラ、そして私・・・

数年ぶりに家族全員で写真を撮った

皆、笑顔で・・・

私の自慢の家族だっ

私の、家族かぁ・・・

この人生も、まんざら悪くない


だがこの人生は、通過点!

私の目指すべき、到達点では無い!


――――――――――


最後の夏休みをカイッソウガで楽しく過ごせ

心地よく迎えた二学期初日・・・


「おはよう、ゼネッスさん。

 夏休みは楽しく過ごせて?」


ゼネッスは相変わらず

可愛いなぁ・・・


「えぇ」

ゼネッスは一言だけ発して

頬を赤くしながら、もじもじしている

どうした?ゼネッス、なにが有った?


「私・・・とつぎ先が決まったの」


えっ?なに?

なんの話し?


いつの間にかアッサが加わり

「まぁ!ゼネッスさんも?

 私も夏休みの間に婚約したのよ」


アッサよ

今はお前の事は聞いてない

「フォーラさんは?ご婚約は?」


頼むアッサよ静かにしてくれ

「ゼネッスさん、

 こっこん・・・お嫁にいっいつ・・・」


アッサが私を不思議そうに見ながら

「どうしたのフォーラさん?」


だから黙っていてくれアッサ!


「卒業して一年間は

 嫁ぎ先の慣習や仕来たりを習い

 ゆっくりと準備をして・・・お嫁に行くの」


あぁ・・・そうなのかぁ


グサッ、と何かが胸に刺さる・・・


「フォーラさん

 絶対に結婚式には出席してねっ」

「ふぅぅうん」


結婚式・・・

又しても何かが

グサッ、と胸に刺さる・・・


「ゼネッスさん

 ウエディングドレスは何色になさるの?」

などと、ゼネッスとアッサは

楽しそうに話しながら

私を置いて先に行ってしまった


正確には私が歩けなかった

心に刺さった傷が痛くて・・・


妹のような存在と誤魔化していた

それしか無かった

私の魂は蝉丸

でも見た目は・・・この異世界ではフォーラ

男では無い、女なのだから・・・


好きだよゼネッス

君の笑顔も

困った顔も

悲しい顔も

優しい心も

仕草も

好きだ好きだ!全部大好きだ!


言いたくても言えない言葉たち

言ってはいけない言葉たち

君の傍で

ずっと君を

その笑顔を守っていたかったよ・・・


一緒にゼネッスとの会話を聞いていた

ラテルとルクトが

優しく私の背中に手を当て

「蝉丸、素敵な恋をしたね」

「少年が男に成長したな・・・。泣くなよ」

「うるさい!誰が泣くかっ!」


そして一緒に小さく笑った、転生者の男三人


兎良つら蝉丸15歳の初恋と失恋・・・。

フォーラ14歳の初秋・・・。


【逢ふことの絶えてしなくはなかなかに

   人をも身をも恨みざらまし】

 (あなたに逢うことが全くなかったら・・・

  我が身の辛さを

  嘆いたりすることはなかっただろう

     歌人・中納言朝忠)


























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