第31話 待てない

八年生になった

私は無事に

王宮特別学問所への切符を手にできるのか

不安で仕方ない・・・


こうなったら

「呪術でクラス全員を体調不良にするか!」

「それは・・・ダメだろ」

「さすがに・・・ダメだよ」

ラテルとルクトは、そう言いながらも

顔は〘それも有りだな〙と語っていた


マジで・・・やるかも・・・

今から、そっち系の呪術も特訓する!

いざとなったら

やってやるぜ!

フッフッフッ。


――――――――――


夏休み前に護衛係のオスタが

❝とんでもない情報❞を入手した


「ソベクが、人身売買の準備を進めている」


それって・・・?

「誰?誰?誰?」


ルクトが怒りながら


「ソベクはアーザスの子飼い商人だろ!」

「あぁ~あいつねっ

 同胞を国外へ売って

 その金の一部を

 アーザスに献上してた極悪人ね」

「そうだ、忘れるな!お前はバカか⁉」


はい!言い方!

そんなに怒らなくてもいいじゃん!


「ルクト、そんな言い方はよくないよ」

よくぞ言ってくれた、シュアスよ


ゴコーゼッシュ家の子供達はシュアスを

❝兄さん❞と呼んでいる

養子であっても家族であり

私達よりも年長者であるからな


初めて会った時は16歳だったシュアスも

20歳になり、立派な大人だ

まぁルクトよりは

ず~っと年下ですけどねっ

笑える・・・


シュアスが自分の部屋から写真を持ってきた

今まで撮影した写真は全て焼き増しして

ラテルとシュアスが

王派・アーザス派・中立派と分け

資料として保管している・・・

らしいです。


「これがソベクだよ」

さすがぁ金持ちだ

高価な写真撮影を、しっかりしてるよ


おぉ、こいつがソベクかぁ

如何いかにも冷血そうで

ずる賢さが滲み出ている

絶対にこいつも・・・

殺そっ~と!へッへへ


「人身売買の件、如何しますか?」

オスタの問いにディーゴは

「まだこちらの体制は不十分だ

 深追いをするのは危険が大き過ぎる。

 今回は相手の手口を見極め

 次に備えよう」


しかし、ラテルが厳しく眼を光らせ


「ディーゴ、次まで待てない!

 いま救えなければ次の者を救えても

 私の・・・タスジャーク国の敗北だ!」


「はあ・・・」

「一人たりとも、この国の民を

 奴隷にしてはならない!頼むディーゴよ」


ディーゴは正しい姿勢を更に正し

「はっ、仰せのままに。

 私の考えが及ばずに・・・」

「いいのだディーゴ

 其方そなたの考えも思いも分かっている」


ラテルすっかり王子に戻ってるよ~


「有難いお言葉・・・

 オスタ、詳しい日時と場所を調べろ

 私は直ぐに実行出来るように

 幾通りかの対処策を考えておく」

「はっ、直ちに」


やっぱりディーゴが居てくれて頼もしいよ


「まるでラテルは司令官だね」

このシュアスの言葉で

ラテル・ルクト・ディーゴ・私も慌てた

何たってラテルの中身が

現王の死んだ兄ニナオイス王子である事は

絶対に極秘なのだから


笑った事の無いディーゴが

必死に笑顔を作り

(幼児が見たら泣きだすであろう

 だいぶ怖い笑顔です)

「はっはっはっ、そうですな

 戦いには指令塔が必要

 ラテル様は14歳ではあられますが

 適任であると思います」


その言葉にシュアスも笑顔で

「そうだね、私もディーゴと同意見だ」


さすがディーゴ

上手くシュアスとオスタを納得させましたよ

マジで焦ったじゃんかぁ


以前にオスタが話していた

反アーザス派地下組織は確かに実在した

人数は30人程だが

緻密な調査の結果

信頼できると判明し

ゴコーゼッシュの名前を伏せ

オスタが連絡係をしている


地下組織には

ディーゴの元部下も加わっており

これから、

もっと人数が増えるだろう

との事だ


ってことは・・・

活動資金に武器の調達

今はラテルとルクトの

ラルフトス・カンパニーから支給される

役員報酬で賄っているが

同志が増えれば資金繰りが・・・


「ねぇ、お金は大丈夫なの?」

ルクトに耳打ちしたら

「大丈夫だ。

 新しい商品を、どんどん発売してるから」


えっ⁉そうなの?

「私は知らなかったよ

 なんで教えてくれないの?」

「お前は余計なことを考えなくていい

 ひたすら勉強をしてろ!」


チッ!

最近は以前よりも増して

仲間はずれにされてる感が・・・

釈然としないなぁ。


――――――――――


それから10日後

悪徳商人ソベクが

人身売買を行う日時が判明した


オスタは暗い顔で

「調べが遅くなりました

 ・・・決行日は明日の夜です・・・

 申し訳ございません」


ディーゴは

「構わない。

 計画は既に出来ている詳しく報告を」


さすがディーゴ!

狼狽うろたえないですなぁ


オスタの調査報告によれば

明日の夜

ソベク所有の隠し小屋から

捕らえている人達7名を

檻付きの馬車に乗せて西側の国境を超える


用心棒の数は4人と少ない

その少ない数が意味するところは・・・

今やソベクの悪事に対し口建てする者

邪魔する者はいない

まさにソベクの一人天下である余裕の表れだ



すっげ~悪い事をするくせに

余裕こくなんて、ふざけた野郎だ!

許せない!


「明日は私がソベクを殺す!」

「フォーラ!

 女の子が殺すなんて口にしてはいけないよ」

シュアスに怒られた


私は女じゃ無ーい!

と言いたいけど言えない

キィ~!


「ラテル様ルクト様フォーラ様は

 別邸にて待機していてください。

 私共で囚われた民を奪還し

 安全な場所へ移す手筈です

 それからフォーラ様、

 その様な危険な場所にソベクは参りません」


えっ、そうなの⁉


ルクトが私を白い目で見ながら耳元で

「時代劇でも

 黒幕は危険な事は手下にさせるだろうが」

はいはい、そうですよね

時代劇大好きオジサンめっ!


ディーゴの言う

奪還した民を隠す安全な場所とは、

王都から離れた農村で

高齢化が進み働き手が不足しているので

喜んで一時的にでも永遠にでも

かくまってくれるそうだ。


こんな細部にまで気を配り

元部下を使い手配するディーゴ

恐れ入りたてまつる、ですぜっ。


「承知した、全てディーゴに任せよう」

と元王子

「ただ

 こちらからは一人の犠牲者も出さぬように」

「御意」


これは完全に❝王子と臣下❞の遣り取りです


ルクトが

「ディーゴ、これを使ってくれ」


❝これ❞とは

例の❝ビリビリ小箱❞だ

それを三個、手渡した。


以前ルクトに

「ビリビリ小箱を製造販売すれば」

と言ったら

「悪用される恐れがあるから

 商品化はしない」

と言っていた


「これは有難い

 ルクト様、遠慮なく頂戴致しまします」

「うん。存分に役立ててくれ」


さすがはルクトだ

自分だけ、いい恰好して何かムカつく。チッ!


ところで・・・

「シュアス兄さんは、行かないよねぇ?」


「シュアス様には

 ご同行して頂きたいのですが」

そのディーゴの言葉に

「是非とも同行したい。

 初めから、そのつもりだ」

とシュアス


「僕もシュアス兄さんの同行に賛成だ

 ディーゴ、兄さんを頼んだよ」

とラテル


なんで三つ子はダメでシュアスはいいの?


「私も、行きたいんですけどぉ」


「却下だ。

 僕たちは、身体が小さくて目立つ

 相手に、こちらの素性を知られては

 同志に危険が及ぶ」

とラテル

「ラテル様の仰る通りです

 今回は我々にお任せください」

とディーゴ


そうかぁ

そこまで考えなくては

大義は果たせないのか・・・


「わかった、待ってる」


―――――――――


翌日の深夜

三つ子はルクトの部屋で

ディーゴ達の帰りを待っていた。


私はシュアスが心配だ

たいして武術にけてるわけでもない

なのに何故

ディーゴはシュアスを同行させたのか・・・


その事についてラテルが

「シュアスを同行させるように

 僕がディーゴに頼んだんだ。

 僕は、シュアスの生家

 バルモンク侯爵家を復権させたい

 その為には一つでも多く

 アーザス派への対抗実績が必要だ」


おぉ~!

ラテルに、そんな深い考えが有ったとわぁ

流石は元王子、尊敬します

と本気で思える私は・・・

最近、素直になってきた・・・

わきゃ無いかぁ


夜明け前にディーゴ一行が戻ってきた

心配していたシュアスも無事である

良かったぁ~


「万事、滞りなく

 一人の負傷者も出ず救出は成功しました」

ディーゴの報告にラテルが

「ご苦労だった、オスタの尽力にも感謝する

 他の者達にも感謝を伝えて欲しい。

 シュアス兄さんもご無事で安堵しました」


「ありがとうラテル。

 私はこれからも戦うよ、民の為に!」


シュアスだけカッコいいじゃん

ズルいじゃん


だが、それでいい

バルモンク侯爵家が復権され

シュアスが本来の地位に着き

国の安寧の為に活躍することを

私も心から願う。


あぁ、そんな事を願う私って立派だなぁ~

エッへッへッへへ・・・。

































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