第29話 兄と弟

学園生活に変わりは無い

と言えば無い・・・


ルクトは自ら設立した科学俱楽部に

新入部員ができたのが嬉しいらしく

アレやコレやと

皆が驚く実験をして楽しんでいる

それが、まるで手品のようで

❝ルクト部長は魔法使いだ!❞

などと下級生が噂しているんだけど・・・

オジサンは何をやってるんだかねぇ・・・


――――――――――


12月になった

憂鬱である

13歳となり

いよいよ王都で社交界デビュー

憂鬱だ・・・

憂鬱以外の何物でも無い!


なんでこの私がドレスで着飾り

オッホッホッなどと愛想笑いをし

社交界に出ねばならんのだ⁉

あぁ~日本男児の私が・・・

不条理この上ない!


ルクトが

「リエッドが

 娘の晴れ姿を楽しみにしているんだから

 我儘を言うな。

 これも親孝行のうちだ」

とはおっしゃいますが

自分は中も外も男だから

私の苦痛は分かるまい!

チッ!


ラテルは

「社交界デビューして

 他の貴族や金持ちと親しくなるのは

 アーザスを倒すための

 情報収集に重要な場だ」

と仰せだ


なるほど、それならば

「私も情報収集に一役買おう」

と申し出たら


「あぁ・・・。フォーラは何もしないで」

と静かに軽く、お断りされました

なんでだぁ⁉


社交界デビューのドレスコードは

男女共に白が決まりだそうで

白ければ何でもいいじゃん、と思うのだが

母リエッドは

生地選びからデザインまで余念がない


「一生に一度の大切なイベントだから

 子供達には最高の装いをさせてあげたい」

だそうです


胸元はどれくらい開けるか

レースを付けるか裾幅と形はどうするか

袖の長さや形は

とリエッドは悩んでいた


申し訳ないが私にとっては・・・

ど~でもいい事だ


「思い出すはぁ。初めての社交界・・・」

リエッドは乙女のように瞳を輝かせいる


「さようでございますね

 旦那様に見初められた

 夜でございましたねぇ」

婆やまで思い出に浸っている


そこにやって来た父キチェス

「フォーラのドレスは地味でいい!

 なるべく目立たないのが一番だ!」

いつになく不機嫌に言い放ち立ち去った


それをルクトオジサンに話したら

「目の中に入れても痛くない

 可愛い娘が、誰かに見初められて

 恋に落ちるのが心配でならないのだ

 父親なんて、そんなものだ」

そうである


自分は13歳のリエッドを見初めて

妻にしたのにぃ・・・?

女心は分らんが

父親心も摩訶不思議である

私には生涯

いや、何度転生したって分からないだろう


―――――――――


いま別邸は大賑わいだ

夜な夜な催される社交界に通うため

キチェスとリエッドがやって来た

そして双子の弟

トーキスとスイークも同行して来た

来春のレアリカヒ学園入学を前に

王都生活に慣れるため

このまま別邸に移り住むそうである。


トーキスとスイークは

髪の色も目の色も違うが性格も違い

悪戯を思い付くのは

好奇心旺盛な五男スイーク

その悪戯を成功に導くのは

思慮深い四男トーキスで

双子のチームワークはバッチリ

見ていて心地いい

しかし、

それを毎度𠮟る爺やが何時か倒れるのではと

さすがの私も

爺やを気の毒に思えない事も無い・・・。


―――――――――


さぁ~て今夜は

三つ子と養子シュアスが揃って貴族会の

社交界デビューである・・・


私は全く乗る気で無かった、が・・・

会場に入るなり私は一気に心を奪われた

旨そうな色とりどりの菓子達に・・・!


なぁんだぁ社交界とは

こんなに良い所だったのかぁ!

百聞は一見に如かずである

やった~!ラッキ~!


ラテルとシュアスは

進んで挨拶回りに行ってしまった

ルクトは

ご令嬢達に囲まれている

笑える・・・

中身はご令嬢達の親より年上の

57歳のオジサンなのにねっ

腹の中で笑いが止まらない。


私は菓子達に夢中である~

クッキーにカップケーキにetc.

あぁ~来て良かった~


私が真剣にカップケーキと向き合い

忙しいのに

話し掛けて邪魔する男子達・・・

まったく無礼千万だ

私が忙しいのが見て分からないのか⁉


でも大丈夫!

キチェスが私の前に立ちはだかり

邪魔する男子共を

ことごとく追い払ってくれる

今夜のキチェスは実に役に立つではないか

良き良き。


ラテルとシュアスは

何か情報を入手しているようだ

顔を見れば分かる

どうして顔を見ただけで分かるのか

それは・・・

ラテルはドヨンドヨン顔をし

シュアスは目を輝かせているからだ

この二人は反応が正反対

そして分かりやすい

これまた笑える・・・


―――――――――


1月5日メインイベント

社交界デビュー者は

どんなバカであろうとも一生に一度

この日だけは漏れなく・・・

王に拝謁できる


ラテルは日が近づくにつれ

落ち着きが無くなり

ドヨンドヨン顔をしたり

わくわく顔をしたり・・・

まぁ、全般に無口になっていましたが。


ルクトが

「無理もない、14年ぶりの再会だ。

 それに弟が置かれている立場を

 思えば心配で堪らんだろう」


ディーゴは・・・

何も言わずに、ただラテルの様子を

悲しさと悔しさの入り交じった

目で見守っていた。


王宮に到着すると謁見の間へと通された


殆どはレアリカヒ学園の生徒だが

中には初見の者もいる

皆、初めての王陛下との謁見に緊張し

バカ面が更にバカに見える

ガキ共のバカ面を鼻で笑ったら

ルクトに背中をツネられた

痛いですよ!


「王陛下の御入場」

静かな広間に響く声


いよいよラテルの弟

クシマイニ王の御出ましだっ

あぁ~なんだか緊張する~

初めて見るラテルの前世の弟だぞ


あれっ?

やけに老けてるなぁ

まだ16歳だろっ?

苦労のし過ぎで老けたのか?


「ねえ、すごく老けてるんだけど」


背が高く瘦せていて

目をギロリと動かしながら

謁見者等を見回している

なんかぁ感じ悪~い


「あれは・・・アーザスだ」

怖い・・・!

ラテルの「アーザス」

の言い方がすっげぇ怖い

まぁ、自分と父親を殺した奴だから

当たり前だよな


❝アーザス❞と聞いて全身に力が入った


私が・・・

いや、私達が・・・

そう、

私達がこれから倒す相手だ

しっかりと、この顔を脳裏に焼き付けろ!


この男は、殺さねばならない

そうせねば、この国は民は滅ぶ・・・

私の22回の転生で培われた

生と死の狭間を嗅ぎ分ける本能が

・・・ざわめく。


後から入って来た若い奴・・・

王冠を着けてるから・・・

間違いない、これが王だ!

まだ身体は小さく

日光に当たった事が無いような白い肌


ラテルは大きく眼を開き

微動だにせず王を見つめている

当時2歳だった弟の

16歳に成長した姿をジッと見つめている


「王陛下より、御言葉を賜る」


おぉ王の声が聞けるのだな


「皆、本日は大義である。

 貴族の一員として研鑽し

 国を担う人材と成ることを希望する」


おいおいアーザスよ

お前は王じゃないだろう⁉

なんで、お前が話してんだよ!


「王陛下の御退場」


あれっ?

行っちゃったよ~

弟くん、一言も話して無いのに

喋ったのはアーザスだけかよ

何様のつもりですか?アーザスさんよぉ!

まぁどうでもいいけどね

どうせ殺す相手だしぃ~


「おい、フォーラ行くぞ」

ルクトに肩を叩かれた

痛い!

武術は弱いくせに叩く力は強いんだからっ


「ラテルは?」

「もう出て行った」


いつもはラテルが三つ子をまとめて

行動するのに・・・


「ラテルが心配だなぁ」

「今あいつは平常心ではいられないさ」

「こんな時は、年長者のルクトに頼むよっ」

「ああ分かっている。

 でも、あいつなら大丈夫だ」


そうなのかなぁ・・・?

うん!ルクトオジサンが言うんだから

大丈夫だろう!



一つだけ気になる事があるんです・・・

なのでぇ

ディーゴに質問させて頂きますぅ


「あのさぁ

 ラテルの前世の顔と

 今の王様の顔って似てるの?」


これは、どうでもいい質問です

分かっちやいるけど

抑えきれない好奇心なのだぁ


「うーん、そうですねえ。

 ニナオイス王子は瞳の色が濃い茶色でした

 お顔も現陛下よりも・・・」


なんで、そこで言葉を濁そうとする⁉

はっきり言えよっディーゴ!


「陛下よりも、なにっ⁉」

「はぁ・・・

 ご婦人方に好かれるお顔立ちでした」


はいはい、要するに男前だったのねっ

でも、今でも充分に女子に人気ですよねっ

あ~なんか、腹立ってきたわぁ


私は別に・・・

男前になど成りたくは無いですけどね!

本当に本当・・・です・・・


そんな事よりもです!


今日、新たにした決意

必ずアーザスを葬り

国の為

民の為に王権復古を成し遂げる!

そして、勇者になる!


先ずは王宮特別学問所へ入所する為に

何が何でも七年1組に入らなければ

頑張れ!私!






















































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る