第28話 王都の隅

春休みの期間中

ゴコーゼッシュ家別邸は

大忙しの大賑わいだ


別邸をもうけたご挨拶に

父キチェス母リエッド主催で

交流のある貴族を招待して

茶会に昼食会に晩餐会ですよ


そして

三つ子主催のガキ共を招いての茶会

これには勿論

アッサとディウも招待したのだが・・・


生意気小娘マイナが

呼んでもないのに来たやがった!

どうやら金に物言わせ

他の者の招待状を買ったらしい

ケッ!

いやらしい成金野郎だぜっ!


写真館のオープンも無事に済み

養兄シュアスも

やる気に満ち溢れている。

写真撮影では無く

スパイ活動の方にですけど・・・


店のショーウインドーには

ゴコーゼッシュ家の家族写真と

リエッドの写真が飾られ

繫華街を行きかう人々の目を

釘付けにしている

ショーウインドーの効果は抜群であります


一通りの行事も無事に終わり

キチェスとリエッドは爺や等を引き連れ

カイッソウガへ戻って行った。


やれやれ、

爺やが居なくなり、やっと伸び伸びできる~

今日から自由だ~!ヤッホーイ!


――――――――


六年生になってすぐ

休日の早朝から

ラテルが先頭となり

四兄弟でディーゴが操る馬車で出かけた


そこは

別邸から馬車で7時間も離れた王都の端の端

華やかな王都から追いやられた

貧困層が住む町だった。


なんとか雨風をしのげるだろう粗末な家が並び

路上には

瘦せこけ虚ろな目をした子供達が座っている。


この光景は・・・

地震や疫病で飢饉が続いた鎌倉時代と同じだ

あの頃を思い出し吐気がしてくる。


しかし・・・

タスジャーク国では、ここ数十年間

災害も疫病も起きていないはず

これはいったい・・・


「タスジャーク国は建国以来

 こんなに多くの民が

 貧困に喘ぐ事は無かった

 アーザスの摂政が始まってから

 貧困の差は大きくなる一方だ」

静かにラテルが語る


「僕は母が死んだ後

 農家でキツイ労働をさせられ

 食事も粗末だったけど

 それでも毎日

 食事が与えられるだけ幸運だった」

養兄シュアスがポツリポツリと語る


「親を病気で亡くしたり

 貧しさから親に捨てられた子供も多くいます

 教会の炊き出しで

 なんとか命を繋いではいますが・・・

 前王の時代までは

 国が生活を立て直す対策をしていました」

 

と語るディーゴは無表情だ

まぁ、ディーゴはいつも無表情だけど


「助け合いの精神は

 始祖ミツザネ王の教えだったのに」

ラテルの顔からは悔しさが滲み出ている

そして続けて語る

「貧富の差が有るのは当然だ

 だが、何の救済措置も行は無い政など

 政では無い!

 ルクトとフォーラにも知って欲しかったんだ

 アーザスがもたらした、この現実を!」


ルクトが私の耳元で

「これは戦後の日本の光景だな。

 復員して東京に戻った時を思い出す

 辺り一面が焼け野原でな・・・。

 女房と子供を探したが

 何年経っても見つからなかった・・・。

 今でも、二人が何処かで生きていて

 いつかは再会できると信じている。

 馬鹿だよなっ俺は」


ルクトオジさんには

そんな辛い過去が有ったのか・・・


でも・・・

何でいま言う⁉

今はダメでしょ!

私だって室町時代の悲惨な光景を思い出して

心が辛いのにさぁ

こっちの心が更に重くなるでしょうが

ハアァ~

今日は色々とたまりませんです。


帰りの馬車の中は無言の嵐で

別邸に着いてからも

皆、無口に自分の部屋に戻った。


――――――――


別邸へ転居してからは

夕食後に

シュアスと三つ子の四兄弟+ディーゴ+オスタ

で居間に集まり

集会をし放題なのであ~る、エッへ


やっぱり別邸を買ってもらって良かったです

エヘッエッへ


オスタとは

新しい別邸の護衛係で

ディーゴが近衛兵隊長時代の部下であり

新しい同志なのなだが・・・

身体が細く心許もとない

「武術の腕は確かです。

 それに、頭も切れ頼りになる」

とディーゴが言うのだから

まぁ間違い無いのだろうけど



今夜の話題は昨日の貧困街についてだ


ルクトが

「あそこに住んでいる子供達に

 何か援助をしたい。

 未来ある子供達なのだから」


だそうである

その気持ち分かるよ

出来れば私も何か力になりたい


ラテルの意見は

「ラルフトス・カンパニーから教会へ

 毎月、寄附金を出す

 慈善事業はカンパニーの宣伝にもなるしね」

である


元王子様は

段々と商人化しているような気がしますが

大丈夫なのでしょうかぁ?


ディーゴが

「確かにお金は必要です

 子供達に栄養の有る物を食べさせる

 病気の者へ薬を与える

 ですが・・・」


あれっ?

なんだか難しい話しになる気配が・・・

だめだぁ~耳が自然と閉じていく私~!


「根本的に貧困から抜け出すためには

 自ら仕事をして稼ぐことが大切です。

 子供達には読み書きも教える、

 それらを万遍なく進める事が

 本当の救済であると思います」


このディーゴの発言にルクトが

「それなら、いい物がある。待ってろ!」

意気込んで研究室へ走っていた


って事は・・・

難しい話は終わったのですかねぇ?

もう耳を開いて大丈夫ですか?


別邸にも研究室がある

と言うか・・・

ルクトが庭に立派な研究室を建てましたよ

そこで夜な夜な

何をしているのかは知りませんがぁ

何やら一人で没頭しています。


ルクトが自信満々の不敵な笑みを浮かべ

籠を抱えて戻ってきた


「新たに開発した、化粧品だ!」


籠から平たいガラスの入れ物を出した。


う~ん

赤・ピンク・オレンジ・ブルー・ブラウン色の

得体の知れない物が詰められていますけど

「これは、なあに?」


いったい何でしょう?


「これは口紅&頬紅だ

 ブルーとブラウンはアイシャドー

 フフッフフッ

 カンパニーの新たな主力商品だ」


元大学教授の科学者は

段々と化粧品業者になってきているようなで

大丈夫なのでしょうか?


「これを大量生産して

 お手頃価格で売る、薄利多売だ」


自信満々のルクト

しかしシュアスが

「それは、勿体ない」


何が勿体ないのだ?


「中身は同じ物でも器を豪華にして

 高級化粧品店におろせば高く売れるでしょ

 一般市民用と

 上流階級用に分けるのが良いと思うよ」


シュアスって・・・

けっこう腹黒?


「そうだよねぇ

 高級化粧品店で売る物は

 ”金額の〇〇%が教会への寄附金”

 と宣伝すれば

 上流階級の子女が見栄を張って買うね」


おい!ラテル・・・

お前まで悪徳商人かよ⁉


「搾取できる者から搾取する、ですな」


ディーゴ・・・お前もかぁ~


まぁいいけどねぇ

私には

物を作る知恵も商才も有りませんので

皆さんの仰せのままに・・・です


「では、まずはカイッソウガに

 工場を新設して・・・」


あぁ~

ラテルの難しい話が始まるの?

早く耳を塞がねば

頭が混乱する~


「貧困街から働き手を求人する

 もちろん移住できるよう寮を完備

 住まいと仕事の両方を手にできれば

 貧困から脱せる」


――――――――


❝持ってる者から搾取作戦❞

は大成功を収めた

多くの貧困者の救済が叶えられ

シュアスもラテルもルクトも嬉しそうだ


ラルフトス・カンパニーが

毎月、教会へ

困窮者救済の寄附を行っている

と知った民衆が

カンパニーを褒め称えるので

他の貴族や金持ちも負けじと

教会への寄附を始めた。


猿真似かよ~⁉

と思ったが

ラテル曰く

「人は誰でも世間の目が気になるもの

 真似する者が増えるのは良いことだ」

そうである


❝誰かが一歩踏み出せば

 おのずと後ろに人は続く

 始めの一歩を踏み出す

 始めの一人が大切なのだ。❞

とディーゴが言っていました。


――――――――


新入り護衛係オスタが入手した情報によると

❝反アーザス派なる地下組織❞

があるようだとの報告


「それ、いいじゃん!」

と私は喜んだのだが


「焦りは禁物です

 先ずは探って真意を確かめなくては」


おぉ、さすが元近衛兵隊長ディーゴである


「よく探ってから接触して欲しい

 もしかしたら

 反対勢力の一網打尽をたくら

 アーザスの罠とも限らない」


おぉ、

さすが元王子

実に的確な指示です


ラテルとディーゴは過去に

アーザスに煮え湯を飲まされた経験者

だから二人の慎重さは大切だ

と22回の転生で養った私の感が言う


なんてね

チョットかっこつけて

心の中で言ってみましたっ

エッへ。































 



















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