第26話 勿忘草色

父キチェスが帰宅し

昼間の誘拐未遂事件が報告されました

案の定

キチェスは怒り心頭

「全員、集めろ。

 家族も使用人も一人残らずだ!」


と言う事で

全員集合!

大広間に家族、使用人、治安署長が並び

全員が直立不動


あっ、来ました

いまキチェスが入室しました!

顔色を赤くしたり、青くしたり

メチャ怒っています


「何たる失態だー!!」

大広間に響くキチェスの怒号

ヒィーィー

爺やなんて

床に着くんじゃない⁉って位に頭を下げる


「お前たちは、何をしていた!

 爺!執事長として

 使用人にどんな教育をしているのだ!」

「誠に申し訳ございません」


キチェスよ、気持ちは分かる

よーく分かるぞ

だが・・・あまり怒り過ぎると体に毒だ


執事の一人が口を開いた

「旦那様。私が悪いのです

 トーキス様スイーク様に護衛を付けずに」


今度は御者が

「いえ。私がお二人を連れて逃げていれば・・・」


ディーゴは震えながら

「護衛係として、お二人を守る事ができなかった

 私は、また同じ過ちを・・・」


「ディーゴ!もうよい。それ以上、言うな!」

と、キチェスがディーゴの言葉を遮った


『ごめんなさい、父様

 僕たちが我儘を言ったから』


1号2号が謝っている

が、そもそもの原因は私だ

双子は私の為に買い物に出たの

ここは黙ってはいられない


「父様、トーキスとスイークは

 私の為に街へ出かけたのです

 どうぞ、許してください」


「もうよい!これ以上、誰も口を開くな!」


そう言いながら、キチェスが足でドン!

と床を鳴らした

その場の全員が、ビックンと飛び上がる


「今回は未遂で済んだが

 またいつ狙われるか知れない

 二度と繰り返すな!」


確かに身分に関係なく

子供たちは危険と隣り合わせだ


「お前たちの処分は、追って沙汰する!」


うっわぁー

使用人達漏れなく全員、真っ青です・・・


「署長・・・」

今度は治安署長の番です

署長さん、震えてらっしゃいます


「常々言ってあるが

 領民が一人でも連れ去られたら・・・」

「はっ、はい

 分かっております。警戒は怠りません」

「ふむ、宜しく頼むよ」


キチェス退室


全員一気に緊張から解放され

その場に座り込んでいる

いやーぁその気持ち分かります

開放感が半端ないっすよねぇ


――――――――


次の日

朝から屋敷の中はピリピリモードだったが

キチェスがいつもと変わらないので

皆もほっとしていた。


でも・・・

なんーか忘れてるんだよなぁ・・・

なにか大切なこと・・・

何だっけ・・・


そうだ!

ディーゴの事だ!

昨日の騒ぎですっかり忘れていた


「ディーゴ!」

「そうだ!」

「忘れていた!」

三人揃って忘れていたとは


「私、呼んで来る

 ラテルとルクトは森で待ってて」


私はディーゴを連れ森の中へ


三つ子と向き合うディーゴが口を開いた


「フォーラ様」


えっ、私ですか?


「昨日の矢ですが、

 一体どのようにして

 あのような狙い定めができたのですか」


ええっと・・・私は陰陽師だ!

なんて言えないよ

どうしよう口ごもっちゃう

「ええっと、あれはぁ・・・」


するとルクトが

「あれは、風の流れを計算したんだ」

「風ですか」

「そう、地上と上空では気流が違うからね」


さすがぁ元教授

ナイスな回答です


「なるほど、

 フォーラ様は弓の名手になられたのですね」


いやぁ~名手だなんて

褒められちゃったよ~嬉しいなあ


「あれは、たまたま上手くいっただけさ」

おいルクト

なに落としてんだよ!ムカつくー!


「ルクトは、何にもして無いじゃん

 トーキスとスイークと一緒に

 馬車の中にいただけじゃん」

「はぁ⁉俺は二人を守ってたんだ!

 こいつでな」


ルクトはポケットから

昨日の小さな木の箱を出した

あっ、あれ気になってたんだよなぁ

いったい何なんだ?


「フォーラ、手を出してみろ」

ルクトが言うので

素直に手を出すと木の箱を手に押し付けた


「ギッエーー!」

ビリビリする! 

ビリビリする! 

これ嫌なやつだ!

昔、平賀源内のおっちゃんの家で

悪戯したエレキテルじゃん!

マジこれ嫌い!

腹立つった!


「なにすんだよ!」

「お前が俺をバカにするからだお前が悪い」


こいつ頭が良いからと調子に乗りやがって!

なんと大人げ無い57歳だ

ぶん殴ってやる!


「ルクト様、それは何でしょうか?」

「ディーゴも試してみるかい?」

「是非とも」


止めとけディーゴ

ルクトは

悪徳商人越後屋みたいにニヤリと笑い

ディーゴの手に、木箱を押し当てた


「うおっ。これは驚きました」

「そうだろぅ」

「これなら、敵も怯みますな」

「そうだろぅ。

 これを使えば、充分に逃げる隙が稼げる」


「ちょっと、いいかなっ!」

ゲッ、ラテル元王子が怒ってる・・・

そうでしたぁ

大事な話でディーゴを連れて来たのでした


「ルクトとフォーラは

 少しの間、黙っていてくれないか」

「はい」

「すまん」


お口にチャックします!


ラテルは私とルクトを押しのけ

ディーゴの前に立った


「ディーゴ

 前国王と第一王子が逝去したことで

 自分を責めているよね」


ディーゴの顔色が変わった

「何を仰っているのか

 私には分かりかねます」

「僕は君を知っている

 君が近衛兵隊長だった時から」


明らかに動揺しだすディーゴ


「前国王と第一王子は

 ラテル様がお生まれになる以前に

 ご逝去あそばしました。

 お戯れは、よろしくございません」

「戯れてなどいない、僕がニナオイスⅢ世だ」

「ラテル様、これは不敬罪です

 そのようなお言葉は、お控えください」


あのさぁ

黙ってろと言うから

お口チャックで待ってるんですが

とっとと❝王子の印❞

とやらを出したらいかがでしょうか

このやり取り、飽きるわぁ


「ディーゴ・カーマツアよ

 ニナオイスⅢ世は今そなたの眼の前にいる

 守護神ウーシアよ我の印を現したまえ」


そう唱えると

左のてのひらをディーゴに向けた


何々なによ?

何が現れたの?

観たい!メチャ観たい!

私は、ディーゴの隣へ回り込んだ


ラテルの掌には

剣に蔦の絡まる

勿忘草わすれなぐさ色の模様が浮かび上がっている


それを見たディーゴは

「あっ!」

と驚きの声を上げ、息を吞み

まるで金縛りにあったかのように

身体を硬直させた


もしも~し~ディーゴさ~ん

息してますかぁ?


「ねぇ、これって王子の証なの?」

しまった!

黙ってろと言われたのにぃ・・・

辛抱堪らず、喋ってしまった・・・


ディーゴが

「そうです、これは、まごうこと無き

 ニナオイス王子の紋章です」


その話し方でディーゴの混乱ぶりが伝わる


「ディーゴよ

 父上と私を亡き者にしたのも

 あの夜、そなたが城に居なかったのも

 全てがアーザスのはかりごと

 私は現国である弟クシマイ二と

 国の民をアーザスの魔の手から救うため

 守護神ウーシア様のご加護により

 ラテル・ゴコーゼッシュとして

 転生したのだ」


ディーゴは、ゆっくりと片膝をつき

「不肖ディーゴ・カーマツア

 ニナオイス第一王子に

 ご挨拶申し上げます」

と深く首を垂れた

そして、両手で地面を叩きながら

「あの夜、私が陛下のお側に居れば

 あんな事には・・・」


ちょつと待ってちょつと待って!

ディーゴさん

ラテルがニナオイス王子だと信じたの?

理解できたの?

すっげぇなぁ!

王子の証って・・そんなもんなのかぁ⁉


「ディーゴよ、嘆く時間は勿体ない

 後悔を断ち切り

 我らと共に王権復古のために

 闘ってはくれまいか」

「王権復古?」

「そうだ。あと5年でクシマイ二は二十歳

 そしてアーザスによる摂政は終わる

 だが、アーザスが容易たやす

 政権を手放すはずがない

 必ずクシマイの命を奪うであろう

 それを阻止するためには

 お前の力が必要なのだ。

 今一度、臣下として忠義を尽くして欲しい」


「この私を、再び臣下に加えて下さるとは

 ディーゴ・カーマツア

 不惜身命でお仕えすると誓います!」

「ディーゴよそなたの誓い

 このニナオイスしかと受け取った」


やったー!

初めて外見も中身も大人の仲間ができました!

ヤッホーイ!

やったねっ!


「ところで、

 ルクト様フォーラ様は

 殿下のご事情をご存知なのですか」

「二人は我が同志であり、大切な仲間だ」

「さすがはキチェス閣下のお子様

 幼くして高い志を、お持ちでらっしゃる」


こんな時は

どんなリアクションを取ればいいのか・・・

ディーゴを騙すのは

ちょつと心苦しいなぁ


――――――――


ラテルがディーゴに下した命は


三つ子と共に王都の別邸に移る事

アーザスの動向を探る事

同志を集う事

である

そして

「くれぐれも自分がニナオイスだと

 誰にも知られてはならない」

「全て、殿下の仰せのままに」


「大きく前進したよねっ

 色んな事が着実に進んでるよねっ」

と、私が嬉しくて、はしゃいでいると


「そうだなフォーラ

 あとはお前が無事に

 王宮特別学問所に入れればだな。

 しっかりやれよ」


いつも通りに一言多いルクトオジサンがっ!

チッィ!


ディーゴが仲間に加わった報告を聞き

養兄シュアスも

「それは心強い」

と喜んでいた


――――――――


写真館を成功へと導くため・・・を口実に

キチェスには大事な役目を負ってもらう


写真館の本来の目的は

写真撮影を通してアーザスと手を組む貴族や

上流階級の内情調査をすることなのだが

キチェス、ごめんよ・・・


12月1月は社交界が多く催される

そこでラテルが

「父様、社交界に写真を持参して

 皆さんに見せてください

 そして来年4月オープンの

 写真館の宣伝をお願いしたいのですが」

「それは良い考えだ

 カンパニーの為だ是非やろう

 但し持参する写真は私に撮らせてくれ」


こりゃキチェスさん本当に写真機が

お気に召しているんだなっ


キチェスはリエッドの写真を何枚も撮り

「これがいい。いや、こちらの方が美しい」

と楽しそうに眺め

持参する写真二枚に決めた


こりゃぁあれだなぁ

写真を見せて皆を驚かすのと同時に

愛する妻の美しさを自慢したいんだんなっ

と養兄シュアスと三つ子の意見は一致した

まぁ、しっかりと宣伝してくれれば

それでいいけどねっ。


――――――――


冬休みも終わりが近づき

王都へ向かう日が来た


今回は初めてディーゴが

王都までの護衛係として同行した

新たな一歩だ!



そして、ババ抜きの絶好のチャーンス!

なのに・・・

カードを紛失

ちっきしょー!































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