第25話  元近衛兵隊長

カイッソウガに帰省してからは

毎晩の三つ子集会・・・

いや、今は四人兄弟の集会で

王都の別邸や写真館のことで

ワイワイガヤガヤである

  

ワイワイガヤガヤにしか聞こえないのは・・・

内容が理解でき無いからではなく

理解する気が無いだけである・・・本当です!


だが、

使用人の誰が王都の別邸に来るのか?

だけは聞こえた

これは重要な案件である

爺や、だけは勘弁して欲しい


"爺や"とは

キチェスが生まれる前からゴコーゼッシュ家に

仕えている執事長で

とにかく怖いジイさんなのだ

あのジイさんは

ちょっと悪戯しただけなのに有無を言わずに

耳を力一杯引っ張り物置部屋に閉じ込めやがる

キチェスでさえ

爺やに𠮟られてアワアワしてるし・・・

爺やはマジで嫌!

との私の意見は満場一致で可決された

よしっよしっ、よぉーし!


「護衛係は、やっぱり二モンかなぁ?

 ディーゴは一度も王都への送り迎えを

 したことが無いもんね。

 王都が嫌いなのかなぁ?」

と私が言ったら

ラテルが

「うっ、うん。そうだね」

と言って

ドヨンドヨンの暗い顔をしだした

ラテル、何か隠してるなぁ

何故に悩み込むとドヨン顔をするのやら


次の日

ラテルが

「三つ子だけで、話しがしたいから宜しく」


これは・・・

シュアスには絶対に秘密の

転生に関する話しがしたいと言うことだ。


私たちは、屋敷裏の森で落ち合った

相変わらずドヨン顔をしたラテルが

爆弾発言をした。


「ディーゴに、僕の正体を明かそうと思うんだ」

「正体って、なにをだ」


そうだ、何のことをだ⁉


「僕は、転生したニナオイスⅢ世なんだと」


えっえーー⁉   


「ラテル。気は確かかっ!」


気は確かですか?ラテルさん⁉

  

本来、転生者であることは

誰にも知られてはならない

私は今まで21回の転生で

それだけは口が裂けても言わなかった

今回は偶然にも

三つ子が共に転生者だと知り・・・


でも、よく考えたら不思議だよなぁ・・・

これまで転生者に遭遇したこと無いのに

なんで三人同時に転生?

なんで、三つ子に転生・・・?


「気は確かだよ。僕はディーゴを知っている」

 

やっぱりラテルが変だよ!

私だってディーゴさんを知ってますがね


「生まれる前から、知っているんだ!」


へっ・・・?

しっかりろラテル!

お気を確かにー!


「ディーゴは僕の父マーツ二キスⅡ世の

 近衛兵隊長だったんだ」


えぇーーマジーー⁉


「本当か?」

「本当なんだ。

 ラテルに転生し

 初めてディーゴを見たときは驚いた

 なんでカイッソウガに居るのかと

 それで僕は密かに

 王都でディーゴの情報を集めた」


おぉ~密かに一人で

そんな事をしてたのかぁ

言ってくれたら手伝ったのにぃ

水臭い奴だなぁ          

はっ!

私に任せると面倒を起こす危険が有り有り

だから言わなかったのだなぁ

うん、間違い無い。


「それで、ディーゴの何が分かり

 何のために

 ディーゴに転生の事実を明かすのか

 俺に、ちゃんと説明してくれ」

   

又しても私は仲間はずれ?

さっきから会話に参加出来てない

させてくれない!


「ルクト!俺じゃ無くて俺達でしょっ

 私が抜けてる」

と言ったら

「今は、そんな事どうでもいい」

 

うっわぁー酷い言い方!

57歳のオジサンがぁ!


「ディーゴは、父上と僕の死に不信を抱き

 独自に調査した。

 しかし、アーザスから圧力が掛かり

 泣寝入りするしかなく

 父上と僕の葬儀を見届けると

 そのまま行方不明になってしまった」


グッオーー!

又してもアーザスの脳ミソ沸騰野郎かよ!!


「なるほど

 そしてカイッソウガに流れ着いた

 という訳か」

「キチェスは

 そんなディーゴの事情を知ってるのかな?」

「知っているだろう

 あの二人は、昔からの顔見知りだからね」


キチェスはディーゴが王都を去った

事情を全て承知の上で受け入れたわけか

つくづくキチェスという奴は懐の深い男だ


「ディーゴの過去は分かった

 それで、なぜ明かすんだ?」

「僕たちだけでアーザス一派を倒し

 王政復古をするのは無理だ」


それは・・・私も思ってたぁ

四人だけじゃ無理だよねぇ


「当時の近衛兵には除隊した者も多い

 今の軍隊は

 アーザスの息のかかった者達を中心に

 編成されている。

 だが、今もなお元兵士、現兵士等の

 ディーゴへの信頼と尊敬は厚い

 ディーゴなら必ず助けになってくれる

 力になってくれる」


それはいい!

ナイスじゃないですか!

三つ子は中身は大人

だが、外見は今12歳の子供

外見も中身も大人で

その上、現役兵士と元兵士からの信頼が厚い

ディーゴったら

めちゃ頼もしい味方ではないですかぁ!

  

しかし、疑問が・・・

「どうやってディーゴに

 自分が転生した王子だと信じてもらうの?」

「ニナオイスⅢ世の証となる印が有る」

   

今までそんな物を

どこに隠してたんだよ⁇

「ラテル、お前がアーザスを倒し

 王政復古を成す司令塔だ

 俺とフォーラは、お前の意志に従おう」


まあぁ、そうだよね

よし、従いましょう!

 

でも・・・

「私とルクトが、転生者だという事は・・・」

「もちろん、ディーゴには言わないさ

 それは三人だけの秘密だ」


そうですよね

安心しましたです

ならば、善は急げだ!


――――――――


「私、ディーゴを呼んで来る!」


この時間ならディーゴは

自分の部屋に居るはずだ


ディーゴの部屋へ向かっていると

執事が二人、血相を変え

「ディーゴさーん!ディーゴさーん!」

と大声を出しながら走って来た

  

部屋から出てきたディーゴの姿を見るなり

「大変です!大変なんです!どうしましょう⁉」

「落ち着け、何があった」

「トーキス様とスイーク様が

 連れ去られたんです!」

    

 噓だろ!なんで二人が⁉ 


「なぜ私を護衛に呼ばなかった」

「それが・・・

 フォーラ様のためにサンドイッチを買いに

 行くだけだからと・・・」

「誰が、お供をしていた?」

「御者だけです

 今、傷を負った御者が戻り・・・

 どうしましよう」

 

何んてことだ

トーキスとスイークが

私を喜ばせたいと出掛け

連れ去られたと言うのか

もし、二人の身に何か有ったら・・・

そう考えると全身から血の気が引いた

  

ディーゴが執事達に向かい

「馬を用意してくれ。直ぐに追いかける」


「私も行く!

 森にラテルとルクトが居るから

 急いで二人に知らせて!

 ディーゴ、私たちの馬も用意させて」 


「フォーラ様、そんな危険な事は・・・」

と言う執事とディーゴに私は

「止めても行くからね!いい、早くして!」

と言い放った

  

武器庫に走り

三つ子たちの剣と弓矢を探していたら

〘緊急用・ルクト〙と書かれた袋を見つけた

何か分からんが

それも一緒に持ち出しルクトに渡した


母リエッドも使用人達も

爺やまでもが心配してオロオロしている

あいにく二モンは父キチェスの護衛で留守だ


「馬車で逃げたなら

 そう遠くへは行けていないはず。

 しかし、山中に逃げ込まれたら

 追跡が難しくなる。

 ラテル様、ルクト様、フォーラ様

 急ぎますよ」

   

ディーゴの掛け声で

剣と弓矢を下げた私達は馬を走らせた

    

私は

〘トーキスとスイークを早く助けねば〙と焦り

呼吸は荒く心臓の動きは早まり

嫌な汗をかいている


だめだ、落ち着け蝉丸

よく考えろ

これは身代金目当ての誘拐だ

犯人はトーキスとスイークを殺したりはしない


落ち着け、落ち着くんだ蝉丸

焦りは失敗の元だ

緊張を、ほぐすのだ


「ねえ、ラテル

 私、乗馬俱楽部に入って良かった」


ラテルは私の顔を見て

笑みを浮かべながら

「そうだろう、良かっただろう」


ルクトは

「ガッハッハッ。

 フォーラ、馬に乗る姿が

 さまになってるぞ」

「そうかなぁ、へッへへ・・・

 トーキスとスイークを必ず」

『助ける!!』 


三人同時に出た言葉、助ける!!

その強い意志のこもった仲間の言葉が

私を落ち着かせてくれた


ディーゴが馬を止め

馬車の車輪跡を確認し

「やはり、北側の山の方へ向かっています

 急ぎましょう」


北側の山が一番、領境に近い

領外へ逃げる手筈なのだろう

馬車は重く、走るのが遅い

こちらは馬だ、追いつける!


待ってろよ、トーキス、スイーク

この兄!じゃなくってぇ

姉が助けてやるからな!


山の麓で馬車に追いついた

馬に乗った男が三人馬車を囲んでいる

御者と合わせて四人か?

 

「待て!!」

静かな山間にディーゴの声が響き渡る

その響き渡る声に反応し馬車は止まった

男達がトーキスとスイークに刃物突き付け

馬車から降りてきた

  

えっーと

馬に跨るのが三人で、御者が一人

馬車から二人だからぁ・・・

あぁ分かった!

全部で五人

いや違うなぁ・・・六人だ!

これ、あれだよなっ

⦅近づくと人質殺すぞ⦆ってやつだよな


「近づいたら、ガキ共を殺すぞー!」

 

ほぉら、言ったよ

お決まり文句

芸がないねぇ

さぁて、こちらは、どうしますかなぁ?

 

ラテルが私に

「フォーラ、あれをやってよ」

       

??何のこと??

「あれだよ、矢を自在に操って当てるやつ」

      

あぁ~曇華風恒うんげふうごうねっ

あれ一年生の夏休み以来やって無いんだよねぇ

あの時は自分でも驚くほど

上手くいったけどぉ・・・

  

いいや、ビビッてる場合じゃ無い!

やるしか無い!

やってやる!


「いいね、フォーラ」

「合点承知だ」

「みんな聞いてフォーラが

 トーキスとスイークを捕まえている

 男達に矢を射るから

 それを合図に切り込もう

 ルクトはトーキスとスイークを連れて

 馬車の中に避難して」

「よし分かった、任せろ」

  

ルクトはそう言うと

〘緊急用・ルクト〙と書かれた袋から

手の平ほどの大きさの木の箱を取り出した

それ、なぁに?気になるぅ

けど今はそれどころじゃない


「矢など射ったら、奴らを刺激し危険です」

「大丈夫だよディーゴ、信じて」

     

そうだ、信じていいんだぞディーゴよ


私はディーゴの後ろに隠れ

呼吸を整え弓を構えた

そして

うんふうごう!」

と唱え天に向かい二本の矢を放った


矢は真っ直ぐに遥か空高く飛び

トーキスとスイークを掴む男達の肩へ

見事に突き刺さり

痛みに耐え兼ねトーキスとスイークを離した


これが合図だ!!


私たちは一斉に剣を抜き攻め込んだ

ディーゴは矢が刺さった男たちを蹴り倒し

ルクトはトーキスとスイークを

馬車の中に放り込んだ


あとは残りの奴らを倒すだけだ

もう私の頭は噴火してるので

止まりませんよぉ!

人を殺すのは初めてじゃ無いですから

お前たち、生きて帰れると思うなよ!!


私は振りかざされた剣を下から払い

そのまま相手の腹を刺してやった


すでにラテルも一人倒している


残りは・・・

ディーゴ一人が、あっという間に倒していた

流石は元近衛兵隊長!


馬車に駆け寄り扉を開け

「トーキス、スイーク。もう大丈夫だよ

 泣かなかったね、強かったね、偉いぞ

 さあ、一緒に帰ろう」


トーキスとスイークは私に抱きついてきた

二人が無事で安心したら

こっちが泣きそうだぜ


『僕たちね、姉様に

 サンドイッチを食べさせてあげたかったの』

   

おぉ本物の双子シンクロお喋り


「そうか・・・。有難う」

『僕達、怖くなかったよ

 だってね、だってね、

 皆が助けに来てくれるって信じていたから』


やべぇー

マジで泣きそうです


「うんうん、頑張ったね」

『はい。1号2号、頑張りました!』


ゲッ!こいつら

私が1号2号と呼んでたの覚えてるんだ


「二人とも、無事でよかった。

 兄様も心配したんだぞ」

『心配かけて、ごめんなさい。ラテル兄様』

「ところで

 1号2号って何のことかなぁ?フォーラ?」

 

やっばぁ

ラテルに怒られる~

「さっ、さあぁ。何のことですかねぇ?」


「ディーゴ殿!」

おぉ、いいところで

治安署員たちが到着した

助かり~


治安署とは

日本の奉行所・・・いや違う、警察である

 

後の始末は治安署員に任せ

全員無事に屋敷へ戻った

めでたしめでたし・・・

んなわきゃぁ無い!


キチェスが帰宅して

この事件を知ったら・・・

いや、絶対に報告されるでしょうねぇ

キチェス怒り捲るぞー!

嵐が起こるぞー!


想像しただけで・・・怖い・・・です。






 

 

  

 



 

  






    


    






   







  


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