第18話 知らなかったモノ

二学期にキチェスから

目出度い知らせが届いた

リエッドが無事に出産し

母子ともに健康であること

 

そして

そして、そして、そしてーー!

待望の妹が生まれましたー!

ヤッホーイ!!


手紙には

「三つ子と同じ10月23日に生まれ

 フォーラらによく似た

 可愛い娘で、父と母の宝がまた増えた」

と書かれていた

名前はクーエラと付けられた


クーエラかぁ、早く会いたい。


「一人しか生まれなかったね」

「うん。僕も三つ子か双子かと思ってたよ」

「いやいや、双子や三つ子だと困る」

「なんんで?」

「双子や三つ子だと、金がかかるだろ」

 

ルクトはゴコーゼッシュ家の台所事情を心配し

今までの商品を開発してきたのである

大変に義理堅いオジサンだ。


――――――――

冬休み

念願だった妹クーエラとの初対面をはたした


クーエラの部屋には

3歳になったトーキスとスイークが

ベッドの両側に立っていた。


クーエラは小さな右手で

1号の指を,左手で2号の指を

ぎゅっと握っている  

  

赤ん坊とは皆、同じ事をするのか

新たな発見をした


1号2号は

「クーエラ可愛いねぇ」

「クーエラいい子だねぇ」

と、すっかり人間らしく言葉を発している


私が居るのに気付いた1号2号が

『ねえタマ、赤ちゃんだよ』

と笑顔で教えてくれた

おい!まだ発展途上か⁉まだ”タマ”なのかよ


私と同じ

藤色の髪と紅い瞳を持つ妹を抱き上げたら

得体の知れない安心感が私の全身を駆け巡った


「クーエラ、元気で大きくなってね

 父様、母様を大切にしてね」

心からそう願い、優しく語りかけると

柔らかくて温かい小さな手で

私の指を力強く握りしめるクーエラ


まとわり付いてくる1号2号を連れて

庭でボール遊びをしていたら

ラテルとルクトもやって来て

四人で追いかけっこを始めた


1号2号は

『キャッキャッ』

と笑い声を上げながら

『兄さま、こっちだよ。兄さま、捕まえたぁ』

と走り回っている

おい!まてよ!

私は”タマ”で

ラテルとルクトは”さま”って何でなん?


視線に気付き振り向くと

キチェスとリエッドが

2階のテラスで寄り添いながら

子供たちに優しい眼差しを注いでいる


庭では、笑い声を上げながら

仲良く遊ぶ四人の弟たち

惜しみなく、愛してくれる父と母・・・


あーーー!なんかイラッてする

何なのだ

この今までに味わった事の無い感覚は⁉


そのまま一人部屋に戻り夕食にも行かず

ベッドで横たわっていた

あーイライラする

一体全体なんなんだよ?


夜になりラテルとルクトがやって来た

「フォーラ、大丈夫?」

「いったい、どうしたんだ?」


「なんだか、幸せそうな家族を見てたら

 とってもイラッてした」

「普通は、仲が悪いとイラッてするんだよ」

「反抗期か⁉家族が仲が良くて幸せなのは

 いいことだろうが」

「そうなの?」 


蝉丸は、平安の世から親兄弟を知らない

過去の21回の転生で

殆どが親と早くに死別れ

兄弟がいても気づけば

いつの間にか独りぼっちだった。


「家族なんて知らない!いくら幸せだって

 朱鷺門領詮ときかどりょうせんを倒す糧には無らないよ!」

「フォーラ。

 お前は家族を知らないで、生きてきたのか?」


「そうだよ、何度も何度も転生したって

 いつも一人だった。

 家族のことなんて、気にもとめた事がない

 優しくされると怖いんだよ!

 親に甘えるってなに⁉」 


私はなにを言っているのだ

まるで支離滅裂じゃないか


ルクトが突然、私を抱きしめて

「蝉丸は長い時を、

 ずっと独りで頑張って生きてきたんだな・・・

 無意識に自分で自分に

 孤独でなければならないと言い聞かせて来た

 だから戸惑っているんだ

 でも、今は違うだろっ

 親に甘えろ、それが親孝行だ

 トーキスもスイークもクーエラの事も

 存分に可愛がればいい

 家族がいて幸せだろうと

 それで蝉丸が消える訳じゃない!」


肩にポツポツと、ルクトの涙が落ちてくる

オジサン、私のために泣いてくれてるの?

でもねっ・・・鼻水は勘弁してくれぇ~!


「でも、転生すれば、また一人だよ・・・」

「蝉丸、君は独りじゃ無い

 僕たちは仲間じゃないか

 君を独りなんかにしないさ

 アーザスを倒し王権復古したらば

 次は一緒に朱鷺門領詮を倒しに行くんだ!」


「どうやって??」

「ルクトと一緒に転生して来たんだろ

 なら行けるさ地球へ

 僕は、初めからそう決めていたんだ!」

「俺もだぞ。何たって前世で

 お前を死なせたのは俺だからな

 共に日本に転生して朱鷺門領詮を倒す!」


「ラテルもルクトも、なんでそんな事を?」

「簡単なことを聞くんだね

 僕たちは仲間だからでしょ」

「そうだ、俺たちは仲間だからな

 もう独りぼっち、なんて言うなよ」

 

土階様が、なんで

《仲間を作りなさい》と言ってたのか・・

何となく分かった気がする

今まで知らなかった、親・兄弟・仲間

フォーラに転生して初めて知った

他者に甘える事が許されるのだと。

  

さて、

ここで素朴な疑問です

「あのさぁ、二人とも呪術を使えないよねぇ?

 どうやって領詮を倒すの?」

「あっ・・・それは・・・」

「応援・・・する、かなぁ・・・」

「そうだよねぇ。後ろから頑張れー、って」


なんじゃぁそりゃ⁉

 

呪術も使えない頼りない二人だけど・・・

まっ、いいっかぁ

仲間がいれば心強いさぁ!

「倒すぞアーザス!」

「行くぞ地球へ!」


「あぁっ!」

「どうした?」

「どうしたの?」

「腹減った!」


―――――――――


翌朝

食事の席に着く私を見て

キチェスもリエッドも使用人たちも

安心していた。

皆様、ご心配をおかけしました。


「良かったわ、フォーラが元気になって

 今朝のスープは私が作ったのよ

 さぁ、召し上がれ」

リエッドのその一言で

一瞬にして皆の顔が曇った

とにかくリエッドの料理は

人間技とは信じ難いほど不味い


恐る恐る口にすると・・・

不味い!絶望的に不味い!!

どうやったら、こんな不味い物が作れるのか⁉


「此れからは、毎日お料理しようかしらぁ」

「えっ!」

「はっ!」

「うっ!」

全員、その場で凍りつく


「それは駄目だ!」 


ゲッ!キチェスが駄目って言っちゃったよ!

 

三つ子、再び凍りつく・・・

それ言っゃうの旦那さん⁉


「私は君に料理をさせるために

 結婚したのでは無い

 覚えているかいプロポーズした時に

 君を一生大切にする絶対に苦労はさせ無い

 と誓ったのを」 


リエッドは頬を赤く染めながら

「ええ、よく覚えていてよ」

「料理をして

 君は手が荒れるなど耐えられない

 だから料理をする事は許したく無い」 


強引だぞキチェス

そんな強引な言葉でリエッドが納得するのかぁ?


「まぁ、貴方・・・」 

リエッドはさらに頬を赤くして

「よく分かりました。

 私、貴方のために、いつまでも美しくいるわ」


いや納得したよ、しちゃったよ

何はともあれ勝利です

キチェスと三つ子たち

テーブルの下に隠れた手で

勝利のガッツポーズ!!


―――――――――


その夜の三つ子集会

ルクトが

「俺は香水を作ろうと考えている」 

「香水って、なに?」 

ラテルが質問した

この星には香水が無いのだ

ルクトは、香水は主に女性が使うもので

使い方や製造方法を説明した。


「これは売れるぞ。

 化粧水フィラ・リエッドは香りがいい

 と評判だったからな。フッフッフッ」

「また、金もうけ?」

「4年なんて、あっという間だぞ」

「4年?」

「トーキスとスイークが

 4年後の春にはレアリカヒ学園に入学する」

 

忘れてた!

1号2号もいずれ学園生となるんだった


「僕も、お金がもっと必要だと思う

 早速プレゼンの打合せだ」


3日後には香水製造販売を

キチェスへプレゼンをした


「これと、これと、これと・・・

 以上の物を

 次の夏休みまでに用意して欲しいのです」 

キチェスは笑いながら、二つ返事で

「よし、わかった。

 お前たちが言うのだから間違いない

 次の夏休みまでに、全て完璧に揃えておこう」


さすがは、オ~モウレツゥ~!

なギャンブラーだと感心しやした


もうすぐ冬休みが終る

それまで少しでも多くの時間を

トーキス・スイーク・クーエラと過ごそう。









 









  



 





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